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本編
80:美食家
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バラムは戻って来たばかりなのか、フル装備姿で頭から赤茶色の汚れを被っている。まだ日が高い穏やかな陽射しとのミスマッチ感がとんでもないことになっている。
『……とりあえず、着替えたりした方が良いんじゃないか?』
「ああ、そうだな」
はっきり言って血の匂いがキツいというか……この体だからか猛禽の本能が刺激されていそうな気配もあるので、バラムは着替え、僕は変化を解いた方が良いだろう。
僕はバラムの手から少し飛び上がって変化を解除する。僕の身長くらいで解除するとそのまま丁度良く着地出来るんじゃないかと思ったら出来た。ふふん、思い通りにいって満足だ。
「……うん?」
ところが、変化を解いても血の匂いに対して妙に騒つく感覚が消えなかった。
「ソファで待ってろ。すぐ行く」
「ん……ああ」
首を傾げていると、影が降りてきて唇に啄むような感触があった。バラムとの距離が近づいたことでより一層血の匂いが濃くなって騒つく感覚が増す。
とりあえず、ソファで待とう。このまま立っているとちょっとマズい気がする。
「……ふぅ」
ソファで座って深呼吸してどうにか騒めきが収まらないか試していると、身綺麗にしたバラムが僕の隣に座って僕の様子を窺ってくる。
「どうした?」
「……いや、何か……血の匂いを嗅ぐと胸がザワザワして……」
「……あー……それは俺の影響かもな」
「バラムの影響?」
「盟友の相互影響で俺の力の影響が出だしたんだろ」
「……なるほど」
そういえば盟友契約はそんな仕様だったな。今までバラムがプレイヤー機能を使えるようになることが分かりやすくて、僕の方の変化は全然確認していなかった。
ただまぁ、僕が戦闘職であるバラムの力の一部を使えるようになったところで、宝の持ち腐れも甚だしいが。
「しかし、血の匂いで騒つくのに何の効果が?」
「俺の【鉄銹】の称号効果だろ」
「あー……敵を倒すほど、攻撃力が上がるやつか」
「ああ」
ステータスを確認してみると、僕の貧弱な攻撃力の横に現在プラスされている攻撃力数値が追加されていた。……ん?
「いや、僕は何も倒してないのに、血の匂いだけで攻撃力が増すのはおかしくないか……?」
「俺との繋がりだからな。俺が倒したものなら効果が出るってことじゃねぇのか」
「なるほど?」
となると、自分で倒せば倒すほど攻撃力が増す効果は、もっと早い段階で解放されている可能性がある。発揮される場が無くて気づかなかっただけで。絆レベルがさらに上がった結果、バラムが敵を倒しても効果が発揮されるようになったのが今、ということなのだろう。
……やはり宝の持ち腐れだな。
「あとは嗅覚も強くなってるかもな」
「確かにな」
バラムの特殊な嗅覚も能力の一部というなら、僕に嗅覚関係の影響が出ていても何も不思議ではない。
「……ふぅ。何はともあれ、時間が経てば解消されそうなら良いか」
原因が分かり、そして時間が解決しそうなのでそうとなったらさっき借りてきた本を読んでいこうか。
「ったく、つれねぇよな」
「……ぅ?」
そう言うや否や、僕を抱え上げて自分の腕の中へとおさめる。そして、最早“いつもの”となりつつある首筋で僕の匂いを吸う体勢になっている。
「はぁ……落ち着く」
あ、この声色はこのまま寝落ちコースかもしれない。まぁ、見た感じ戦闘をこなしてきた後のようだし、休養出来るのなら良いことだろう。
「もし本格的に休むのなら寝室に行った方が良いと思うが」
「……ああ」
反応が鈍いので、もう半分夢の中のようだ。まぁ、読書は問題無く出来そうではあるし、好きなようにしてもらうか。
「ん?」
そのままバラムの寝息をBGMに読書をしていると、フレンドからのメッセージ受信の通知があった。どうやら、あぬ丸からのようだ。
――――――――――――
トウのん、やっほー!
今ドゥトワにいるっぽかったから声かけてみたー
良い感じの美味しいお店を見つけたから、イベントが始まる前にそこで駄弁らないー?
もちろんオトモダチと一緒で大丈夫だよー
あ、鍋の蓋もいる!
――――――――――――
なんともあぬ丸らしいフランクなお誘いだった。フィールド探索では無いところは、僕が戦闘がからっきしなのを知っているので気を遣ってくれたのだろう。
「……なんだ?」
メッセージを確認していると、背後から身じろぎする気配と寝起き独特の掠れた声が聞こえてきた。
「あぬ丸と鍋の蓋……防衛戦の時に僕と一緒に情報整理クエストをしていた異人からドゥトワの店で食事しないかという誘いが来ていてな」
「……ああ、あいつらか」
「バラムも一緒で良いらしい」
「当然だろ。どこの店だ」
「それは分からないな。聞いてみるか」
あぬ丸に前向きに考える返事と共に、行く予定の店名を聞く内容のメッセージを返信した。届いてからすぐに返信した為か、あぬ丸からの返信もすぐに届いた。
「店の名前は『ドブネズミの洞穴』……食事をする店なんだよな……?」
衛生面がすごく不安になる名前だ……。
「あそこか。不快な匂いが比較的薄かったから、この町にいた時はよく通ったな。何より飯が美味い」
「そ、そうなのか」
本当に食事処らしい。しかも、バラムは常連だったようだ。まぁ、バラムが言うなら大丈夫そうか? ……いや確か《健啖》や《免疫》という技能を持っていたから大丈夫と判断するのは早計かもしれない。
「あそこなら行ってもいい」
「そうか。じゃあそう返信して……そうだ、ダメ元でシャケ茶漬けも誘ってみるか」
「あ? 何でだ」
「いや、あぬ丸と鍋の蓋以外だとあと僕のフレンドはシャケ茶漬けしかいないからなんとなく……」
「……ま、好きにしろ」
「ああ」
僕はあぬ丸にバラムと一緒に行くこととフレンドを1人誘ってもいいかを聞く内容で返信した。
「っと、返信が早いな。……誘うのは問題無さそうだな」
あぬ丸からの返信は「大歓迎ー!」だったので、シャケ茶漬けにお誘いのメッセージを送った。
「うーん……あまり何も考えず誘ってしまったが、他のフレンドの中に入っていくのは人によっては負担になるだろうか」
「アレなら気にしないだろ」
「そうだろうか? む、返信が来た。皆早いな……」
シャケ茶漬けからの返信は「是非!!!!!!」というものだった。一応、バラムも来ることを伝えたので、それでだろうか。
ということで、あぬ丸にはシャケ茶漬けというプレイヤーも参加することを伝え、シャケ茶漬けへはあぬ丸と鍋の蓋というフレンドのことと、店の名前を伝えた。
シャケ茶漬けからはお礼と共に「食品衛生基準……大丈夫……?」という返信が来た。やっぱり気になる名前だよな、と同意しつつ。バラムも常連になるほど美味しい店らしいと伝えた。
返信は「例え腹を下しても兄貴と同じものを食う」というものだった。心意気がすごい。……いや、あぬ丸達は既に食べている上で勧めているだろうから多分問題無いと思うんだが……。
あとは具体的に集まる日程を色々すり合わせた結果、現実時間の方で明日の夜頃に『ドブネズミの洞穴』に集合することになった。
「ふ、バラムが美味いという食事も楽しみだ」
ローザの宿に泊まっていたことからも、バラムの舌を信頼している……というか、バラムは意外と食事の味を重視していそうなのがこれまでの言動から何となく察せられるので楽しみだ。
「ああ、期待してろ」
「ひぅっ……!?」
バラムの熱い息を耳に感じたと思った瞬間には体の至るところから処理し切れない刺激に同時に襲われる。
「はぁっ、急に……何、だ……?」
「いなかった間の補給だ」
「補給って……んんっ……」
そのままソファにそっと倒されてバラムの気が済むまで僕は熱と刺激に翻弄されるばかりとなった。
────────────
明日からはまた毎日更新に戻せそうです。
よろしくお願いします(*´︶`*)b
『……とりあえず、着替えたりした方が良いんじゃないか?』
「ああ、そうだな」
はっきり言って血の匂いがキツいというか……この体だからか猛禽の本能が刺激されていそうな気配もあるので、バラムは着替え、僕は変化を解いた方が良いだろう。
僕はバラムの手から少し飛び上がって変化を解除する。僕の身長くらいで解除するとそのまま丁度良く着地出来るんじゃないかと思ったら出来た。ふふん、思い通りにいって満足だ。
「……うん?」
ところが、変化を解いても血の匂いに対して妙に騒つく感覚が消えなかった。
「ソファで待ってろ。すぐ行く」
「ん……ああ」
首を傾げていると、影が降りてきて唇に啄むような感触があった。バラムとの距離が近づいたことでより一層血の匂いが濃くなって騒つく感覚が増す。
とりあえず、ソファで待とう。このまま立っているとちょっとマズい気がする。
「……ふぅ」
ソファで座って深呼吸してどうにか騒めきが収まらないか試していると、身綺麗にしたバラムが僕の隣に座って僕の様子を窺ってくる。
「どうした?」
「……いや、何か……血の匂いを嗅ぐと胸がザワザワして……」
「……あー……それは俺の影響かもな」
「バラムの影響?」
「盟友の相互影響で俺の力の影響が出だしたんだろ」
「……なるほど」
そういえば盟友契約はそんな仕様だったな。今までバラムがプレイヤー機能を使えるようになることが分かりやすくて、僕の方の変化は全然確認していなかった。
ただまぁ、僕が戦闘職であるバラムの力の一部を使えるようになったところで、宝の持ち腐れも甚だしいが。
「しかし、血の匂いで騒つくのに何の効果が?」
「俺の【鉄銹】の称号効果だろ」
「あー……敵を倒すほど、攻撃力が上がるやつか」
「ああ」
ステータスを確認してみると、僕の貧弱な攻撃力の横に現在プラスされている攻撃力数値が追加されていた。……ん?
「いや、僕は何も倒してないのに、血の匂いだけで攻撃力が増すのはおかしくないか……?」
「俺との繋がりだからな。俺が倒したものなら効果が出るってことじゃねぇのか」
「なるほど?」
となると、自分で倒せば倒すほど攻撃力が増す効果は、もっと早い段階で解放されている可能性がある。発揮される場が無くて気づかなかっただけで。絆レベルがさらに上がった結果、バラムが敵を倒しても効果が発揮されるようになったのが今、ということなのだろう。
……やはり宝の持ち腐れだな。
「あとは嗅覚も強くなってるかもな」
「確かにな」
バラムの特殊な嗅覚も能力の一部というなら、僕に嗅覚関係の影響が出ていても何も不思議ではない。
「……ふぅ。何はともあれ、時間が経てば解消されそうなら良いか」
原因が分かり、そして時間が解決しそうなのでそうとなったらさっき借りてきた本を読んでいこうか。
「ったく、つれねぇよな」
「……ぅ?」
そう言うや否や、僕を抱え上げて自分の腕の中へとおさめる。そして、最早“いつもの”となりつつある首筋で僕の匂いを吸う体勢になっている。
「はぁ……落ち着く」
あ、この声色はこのまま寝落ちコースかもしれない。まぁ、見た感じ戦闘をこなしてきた後のようだし、休養出来るのなら良いことだろう。
「もし本格的に休むのなら寝室に行った方が良いと思うが」
「……ああ」
反応が鈍いので、もう半分夢の中のようだ。まぁ、読書は問題無く出来そうではあるし、好きなようにしてもらうか。
「ん?」
そのままバラムの寝息をBGMに読書をしていると、フレンドからのメッセージ受信の通知があった。どうやら、あぬ丸からのようだ。
――――――――――――
トウのん、やっほー!
今ドゥトワにいるっぽかったから声かけてみたー
良い感じの美味しいお店を見つけたから、イベントが始まる前にそこで駄弁らないー?
もちろんオトモダチと一緒で大丈夫だよー
あ、鍋の蓋もいる!
――――――――――――
なんともあぬ丸らしいフランクなお誘いだった。フィールド探索では無いところは、僕が戦闘がからっきしなのを知っているので気を遣ってくれたのだろう。
「……なんだ?」
メッセージを確認していると、背後から身じろぎする気配と寝起き独特の掠れた声が聞こえてきた。
「あぬ丸と鍋の蓋……防衛戦の時に僕と一緒に情報整理クエストをしていた異人からドゥトワの店で食事しないかという誘いが来ていてな」
「……ああ、あいつらか」
「バラムも一緒で良いらしい」
「当然だろ。どこの店だ」
「それは分からないな。聞いてみるか」
あぬ丸に前向きに考える返事と共に、行く予定の店名を聞く内容のメッセージを返信した。届いてからすぐに返信した為か、あぬ丸からの返信もすぐに届いた。
「店の名前は『ドブネズミの洞穴』……食事をする店なんだよな……?」
衛生面がすごく不安になる名前だ……。
「あそこか。不快な匂いが比較的薄かったから、この町にいた時はよく通ったな。何より飯が美味い」
「そ、そうなのか」
本当に食事処らしい。しかも、バラムは常連だったようだ。まぁ、バラムが言うなら大丈夫そうか? ……いや確か《健啖》や《免疫》という技能を持っていたから大丈夫と判断するのは早計かもしれない。
「あそこなら行ってもいい」
「そうか。じゃあそう返信して……そうだ、ダメ元でシャケ茶漬けも誘ってみるか」
「あ? 何でだ」
「いや、あぬ丸と鍋の蓋以外だとあと僕のフレンドはシャケ茶漬けしかいないからなんとなく……」
「……ま、好きにしろ」
「ああ」
僕はあぬ丸にバラムと一緒に行くこととフレンドを1人誘ってもいいかを聞く内容で返信した。
「っと、返信が早いな。……誘うのは問題無さそうだな」
あぬ丸からの返信は「大歓迎ー!」だったので、シャケ茶漬けにお誘いのメッセージを送った。
「うーん……あまり何も考えず誘ってしまったが、他のフレンドの中に入っていくのは人によっては負担になるだろうか」
「アレなら気にしないだろ」
「そうだろうか? む、返信が来た。皆早いな……」
シャケ茶漬けからの返信は「是非!!!!!!」というものだった。一応、バラムも来ることを伝えたので、それでだろうか。
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シャケ茶漬けからはお礼と共に「食品衛生基準……大丈夫……?」という返信が来た。やっぱり気になる名前だよな、と同意しつつ。バラムも常連になるほど美味しい店らしいと伝えた。
返信は「例え腹を下しても兄貴と同じものを食う」というものだった。心意気がすごい。……いや、あぬ丸達は既に食べている上で勧めているだろうから多分問題無いと思うんだが……。
あとは具体的に集まる日程を色々すり合わせた結果、現実時間の方で明日の夜頃に『ドブネズミの洞穴』に集合することになった。
「ふ、バラムが美味いという食事も楽しみだ」
ローザの宿に泊まっていたことからも、バラムの舌を信頼している……というか、バラムは意外と食事の味を重視していそうなのがこれまでの言動から何となく察せられるので楽しみだ。
「ああ、期待してろ」
「ひぅっ……!?」
バラムの熱い息を耳に感じたと思った瞬間には体の至るところから処理し切れない刺激に同時に襲われる。
「はぁっ、急に……何、だ……?」
「いなかった間の補給だ」
「補給って……んんっ……」
そのままソファにそっと倒されてバラムの気が済むまで僕は熱と刺激に翻弄されるばかりとなった。
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