上 下
73 / 178
本編

72:かわいい ※大剣使い視点

しおりを挟む
 もどかしい犬の体を〈解除〉して、トウノの唇を貪る。昨日まで3日こいつに会ってなかったからか、道中でいつの間にか意識が連れ去られていたからか、こいつの無自覚で不用意な煽りからか……いや、全部だな。自制がかなり緩くなっている自覚はある。

 が、あまり戒めずに衝動のまま強引に口を割りひらいて己の舌でトウノの薄い舌を絡めとる。犬の姿の俺に油断していたこいつは驚きで固まったままだ。

 こいつに息つぎと自覚を持たせる為に、一旦口を離す。困惑した表情だが、目と頬を見れば確実に熱は灯っている。その様と遺跡調査の頃より甘さを増した匂いに、自然と舌なめずりしてしまう。


 “かわいい”


 さっきこいつが俺に向けて言いやがった言葉だが……普段、表情が乏しいこいつが時折見せた色んな表情が浮かぶ。
 本が読めない時に拗ねる顔、酒に酔った顔、普段は鈍臭いくせに指を器用に動かして楽しそうに楽器を演奏する顔、キスはそうでも無さそうなのに手を繋ぐと気恥ずかしそうにする顔、温かく美味い食事をとって嬉しそうな顔……今日の俺を瞳に映してホッとしたような顔……どれも見る度に胸から湧き上がるものがあって貪りたくなったが、そいつをあえて言葉にするなら────。

「は、かわいいな」
「……え? ……んあっ、っんん!」

 服の上からではあるが、太ももの内側を撫でると驚きから声をあげた瞬間に再び口の中に舌を滑りこませる。初めの頃は息つぎもままならなかったが、多少慣れてきたのか鼻にかかった吐息を漏らしながらも時々俺の動きを真似してくる。……それで前は少し我を忘れたが、あれはこいつも悪い。

 より口づけを深める為にトウノの後頭部に手を回しつつ、もう一方を太もも裏に回して一気に抱え上げる。

「んぅ!?」

 急な浮遊感に動揺したのが全身から伝わってくる。落とさねぇから安心しろと宥めるように上顎をくすぐると、すぐに体から力が抜けた。そのままこいつを味わいながら家の中へ戻ると、真っ直ぐ2階へとあがり、手近な俺の部屋、ということになった寝室へと入る。

 ベッドに勢いを殺しつつトウノを寝かせて、先ほどと同じように押し倒す体勢になる。……まだこいつの“準備”が出来ていないから大丈夫なはずだが、一線だけは越えないようにしなければ。

 と、頭の片隅で思いつつも腰やその下まで手を伸ばして感触を堪能する。

「ぁ……ふ……はぁ、う……」

 感じやすいのか、ただ素直なだけなのか、与えた刺激には必ず反応が返ってくる。

 トウノは肉は薄いが、肌が柔らかくて触り心地がいい。今はこの“ユニーク装備”とやらの上から撫で回すだけだが、いつかこいつの素肌を……と少し考えるだけで、もう誤魔化せないほど自分の中心が窮屈になっているのが分かった。

「っ…………はぁ……」
「うぅ? あ…………」
「……」

 無意識に押しつけていたのか、トウノが気づいた。固まって下の方を見ていたが、やがて俺の方を見るとそろりと手を伸ばしたので、とっさにその手を掴む。

「っ、待て」
「……前みたいにしなくていいのか?」
「…………してくれるのか……?」

 大分誘惑に負けた感があるが、これは仕方ないだろと誰にするでもない言い訳が浮かぶ。

「……まぁ、バラムがして欲しいなら」

 少し目をふせて気恥ずかしそうに言うこいつにまた理性が大きくぐらつく。気のせいかこいつの匂いの蠱惑的な部分が強くなった気がする。……こんなものに抗うなんて無理だし、したくない。

「……今日は手じゃなくて、こっちで気持ち良くさせてもらおうか」

 そう言って俺はトウノの腹のあたりを撫でる。

「?」

 ピンと来て無さそうな顔に再び口づけを再開しながら、前を寛げて固くなったものを取り出し、覆い被さっていた己の体をこいつが潰れない程度まで体重をかけて密着させる。片方の腕を腰に回してもう一方は胸の辺り、下に突起があるだろう場所を強めに捏ねる。

「ふっ、……ぁんん……!」

 こいつにはまだ早いだろう強めの刺激に体が大きく跳ねる。その拍子に密着した体がさらに密着し、その間にある俺の中心にも刺激がもたらされた。

「……ん、ん……んん」
「…………くっ」

 ぐっ、ぐっ、ぐっ……

 密着した服越しのトウノの腹に、いつか現実にしてみせる光景を、感触を、夢想しながら一定の間隔で押しつけ続ける。

 ちゅ、ちゅるっ、じゅっ、じゅっ……

 次第に密着した体ごと大きく強く揺するのに合わせて口づけも激しく深くしていく。こいつも腹にくる刺激が多少は良いのか、強く押し付ける度に体を震わせている。そしてそれにまた煽られて高まっていった。

 ぐっ、ぐっ、ぐ、ぐ、ぐ、ぐ……

「っ、はぁ、出すぞっ」
「ぷはっ、う…………んん」
「…………くっ……」

 ドクンッ

 俺の欲望が勢いよく弾け、こいつの服を白く汚す。出した瞬間から少しずつ冷めていく頭で、服を汚したことに罪悪感よりも高揚感を感じている己に我ながら呆れる。

「ん……ぅあ? ……はぁ……きもち、いい……?」
「っはぁ……どうした?」

 トウノの譫言のような声と緩慢な身じろぎに少し体を起こして様子を伺う。

 すると、白く汚したはずのものは薄っすらと残るのみで湿り気すらほとんど残っていない。しかも、今見ている間にも痕跡が消えていっていた。確かこの装備は破壊不可だとか何とか言っていたから、汚れを無くすことが出来ても不思議では無いが……これは吸収しているのか? 
 直感だが、そう思った。

「ぅんん……」

 トウノが腹を中心に緩く抱えるようにして身悶え続けている。まだ、そこまで強く快楽を感じることは出来ないはずだが……いや、そのせいで発散が出来ないのか。

 俺はトウノの顎を掴んで口を吸う。ユヌで魅入られかけていたトウノを落ち着かせた時のように、こいつの中の余分な熱を吸い取る。何故俺にこんなことが出来るのか、“出来る”と分かるのかは謎だが、俺がこいつを苛むものを取り除くことが出来る、それだけで十分だ。

 ……まぁ、今回のはさっき吸収されたものが原因の気がするが。

「ん……ふぅ……」

 あらかた熱を吸い取ってから口を離すと、トウノも落ち着いたようだった。

「…………はぁ、よく分からないが、楽になった。ありがとう」
「……ああ」

 少し蕩けた目で見上げられ、下半身にまた熱が集まりだしそうになるのをぐっと堪えて、トウノの隣に寝転がる。こいつの匂いの落ち着く方に集中すればそのうち治まるだろう。

「あ、そろそろ《不眠》がついてしまいそうだから寝る。ついでに“長い方の眠り”もとるが、朝には目覚めるようにする」
「ああ。言っておくが、図書館には俺も行くからな」
「ふ、分かってる」

 そう言ってトウノは俺に向かって柔らかく微笑んだ。ローザの食事や馬ばかりに向けていた微笑みを俺にも……。

「ん」

 気づいたら、触れるだけの柔らかいキスをトウノにしていた。

「さっさと寝ろ」
「? ああ、おやすみ」

 少しキョトンとした後、とくに余韻も何も無くトウノは“異人の眠り”についた。



 ────こいつを構成する決定的なものがこの世界から無くなったのを感じる。

 この喪失感は慣れそうにない。まだ不快な匂いを感じ続けていた頃は、この体だけでもと思っていたが……まるで足りない。

 シャケなんとかいう異人と、異人の事情などの情報と引き換えに多少俺達と関わることを許容した奴だが、そいつが言うには異人達も根本の感情なんかは俺たちとそんなに変わらないだろうと言っていた。

 だが、こいつには他の異人と少し違う何かがまだあるはずだと俺の直感……嗅覚が告げている。

 それを探り当てて、こいつの微笑みも苦悶も涙もそれを生み出す心も体も何かも手に入れてやる。

 その為にはまだ力が足りないと痛感した。俺は寝ているトウノの右手をとって、人差し指にハマっている指輪を睨みつける。ふざけたことに、こいつらは意識だけのトウノを連れ去ることも出来る。しかも、俺はそれを感知出来なかった。

 それにユヌの東に出た途端、遠巻きにだがエレメント共の声もうるさかった。奴等は俺とあの灰色の力で近寄ることすら出来ないだろうが、どんな搦め手を講じてくるか分からない。

 エレメントと言えば、この家の敷地内は不自然なほど奴等の気配がしない。しかも、ここに来るまでの靄は資格が無い者は迷って辿り着けないようになっている。

 どうやらこの家はトウノにとって相当安全なものになっているらしい。どうやってかは分からないが、あの胡散臭いギルドマスターの計らいというやつだろう。

 ……今度何か“頼み事”をされそうだな。借りをすぐに返せるならその方が良いが。

 ともかく、トウノを横から掠め取ろうとする奴がいるなら、それを叩き潰すだけの力を手に入れなければ。


 こいつは俺のものだ。
 
しおりを挟む
感想 147

あなたにおすすめの小説

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

【完結】別れ……ますよね?

325号室の住人
BL
☆全3話、完結済 僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。 ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~

朱童章絵
BL
「僕はリスでもウサギでもないし、ましてやプリンセスなんかじゃ絶対にない!」 普通よりちょっと可愛くて、人に好かれやすいという以外、まったく普通の男子高校生・瑠佳(ルカ)には、秘密がある。小さな頃からずっと、別な世界で日々を送り、成長していく夢を見続けているのだ。 史上最強の呼び声も高い、大魔法使いである祖母・ベリンダ。 その弟子であり、物腰柔らか、ルカのトラウマを刺激しまくる、超絶美形・ユージーン。 外見も内面も、強くて男らしくて頼りになる、寡黙で優しい、薬屋の跡取り・ジェイク。 いつも笑顔で温厚だけど、ルカ以外にまったく価値を見出さない、ヤンデレ系神父・ネイト。 領主の息子なのに気さくで誠実、親友のイケメン貴公子・フィンレー。 彼らの過剰なスキンシップに狼狽えながらも、ルカは日々を楽しく過ごしていたが、ある時を境に、現実世界での急激な体力の衰えを感じ始める。夢から覚めるたびに強まる倦怠感に加えて、祖母や仲間達の言動にも不可解な点が。更には魔王の復活も重なって、瑠佳は次第に世界全体に疑問を感じるようになっていく。 やがて現実の自分の不調の原因が夢にあるのではないかと考えた瑠佳は、「夢の世界」そのものを否定するようになるが――。 無自覚小悪魔ちゃん、総受系愛され主人公による、保護者同伴RPG(?)。 (この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています)

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

兄たちが弟を可愛がりすぎです~こんなに大きくなりました~

クロユキ
BL
ベルスタ王国に第五王子として転生した坂田春人は第五ウィル王子として城での生活をしていた。 いつものようにメイドのマリアに足のマッサージをして貰い、いつものように寝たはずなのに……目が覚めたら大きく成っていた。 本編の兄たちのお話しが違いますが、短編集として読んで下さい。 誤字に脱字が多い作品ですが、読んで貰えたら嬉しいです。

処理中です...