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本編

62:謎の文字列再び

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 いつの間にかここには、僕1人になってしまったらしい。

 さて、どうしたものか。

 まず“こうなる”直前の状況から整理してみると、バラムに抱えられたまま目を閉じて開けたらこうなっていた。……うーん、いつの間にか寝てしまって夜になったからこんなに暗いんだろうか?

 ゲーム内の時間表示を見ると……グレーアウトしていて現在時刻を確認することが出来なかった。仕方がないので、現実の時間を確認する。
 ……倍率が違うことを鑑みてもあそこから日が落ちるほどの時間が経過したとは思えなかった。

 例え時間経過していたのだとしても、バラムが僕を起こさず、何の伝言も無くここを離れる理由がとくに思い浮かばない。

 あ、そうだ、ウィスパーで声をかけてみれば……使用不可? ……ふぅむ、応答が無いのではなく“使用不可”か。

 あと、さっき無差別に《解析》した時に気になったのだが……確かめる為にこの空間の出入り口に向かう。

 出れない。扉など無いはずなのに、見えない壁に阻まれている。この8年過ごしている仮想空間でもよくある慣れた仕様だ。

 おそらく、この先は何も無いんじゃないだろうか。《解析》した時にこの空間の情報しか手に入らなかったし。というか《解析》結果をよく見たら『追憶の中の廃寺院』とあった。

 ここは先ほどまでいた寺院そのものではなく、隔離された空間で、多分だが僕の意識か何かだけここに移動させられたのだろう。

 何故“意識”だけ来たと感じるかと言えば……ログアウト後の感覚……つまり普通の仮想空間にいる時の感覚と非常に似ているから、としか言えないのだが。

 あとは何故突然こんなことになってしまったのか、だが…………僕はチラッと右手の指輪を見る。

「そういえば、微かとはいえ反応していたな……」

 そしてこの場所は『追憶の中の廃寺院』。この指輪も今でこそ[揺籃の鍵]となっているが元は[追憶の鍵]だった。“鍵”を持っていたことで入れてしまった空間、ということなのだろうか。だったら出るのも自由にさせて欲しいものだが。

「ともかく、ここからどうやって出たものか……」

 まずはやはり……あの台座を調べるべきだろうか。というか、それくらいしか目ぼしい物が無い。

 台座の方へ向かうと……崩れた像があった。

 崩れてはいるが、ここに来る前の廃寺院では跡形も無かったことを思えば、大部分が無事に残っている。

 その像は、何らかの四つ足の動物がお座りの体勢をしているのが分かるのみで、首から上は完全に崩れていてどんな動物なのかが分からない。

「無差別《解析》でこの台座と像の情報は得られなかったんだよな……とりあえず触ってみるか」

 《感知》からの《解析》が通らないなら直に接触する必要があるのかもしれない、と像のお座りしている足に触れる。


〈【レガシークエスト:???を満足させる】が発生しました。受注しますか?〉


 …………なるほど。
 像に触れたのと同時に来た通知に目を通すと、『レガシークエスト』の発生を告げるものだった。

 クエスト名から、何かを満足させないといけないらしい。満足させないと脱出出来ない、とかだと難易度によってはずっと出れない可能性もあるんだろうか? 流石に成功、失敗に関わらず戻されると信じたいが……とりあえず受注可否は保留にして一応詳細を確認してみよう。


【レガシークエスト】
???を満足させる
依頼者:???
期限:3時間
報酬:???
※期限を過ぎた場合、強制的に元の空間に戻されます。
※クエストを失敗した場合、ゲーム内時間で30日経過しないと再挑戦出来ません。


 驚いたことに“-”が1つも無かった。……いや、これが普通か? ここに至るまでが全く普通では無いが。…………深追いはやめよう。

 また、このまま何もせずとも、3時間経過すれば元の空間に戻されるらしい。良かった。これで幾分気が楽になった。

 クエスト失敗になっても再挑戦が出来るようだが、現実時間で1週間強経たないと再挑戦出来ないというのは、難易度によっては達成にとても時間がかかりそうだ。また、ここに来る条件が確定していない為、次もここに確実に来れるという保証はない。

 ……まぁ、来れなかったら来れなかったで別に僕はかまわないが。

 あくまで僕の第一目標は元の空間に戻ることなので、それはここで3時間過ごすだけで達成される。

「その間の暇つぶしとして、時間いっぱいまではクエストに挑戦してみるか」

 保留にしていたレガシークエストを〈受注〉した。

 カタ……ガタ……ガラガラ……

「!」

 クエストを受注した瞬間────周囲に散らばっていた石片が震え出したかと思うと、浮遊し、石像の頭部付近へと向かっていく。

 そのまま、頭部が組み上がるのかと思いきや、頭部付近で不規則に浮遊するだけで、判別出来るような形になることは無さそうだった。

 どういう原理で浮いてるんだ……? と目を凝らすと石片間に僅かな黒いもやと、チラチラと光る何かがあるのが分かった。

「……動いたりしないよな?」

 実は動く石像とかの類で、戦闘で満足させる、とかだったら1分と保たずにLPを全損させる自信しかない。……少し待ってみたが、今のところ動く気配は無かった。

 さて、ここから僕に出来ることと言えば《解析》しか無いのだが、そういうアクションをきっかけに戦闘が始まってしまうとも限らない。……が、まぁ、その時はその時か。

 一か八か、石像に向かって《解析》を発動する。


[8cc382ab976490b88376815b834aの像]
8cc382ab976490b88376815b834a82f096cd82c182bd919c81420d0a8376815b834a82aa8d4482f182c595cf906782b582bd82c682b382ea82e989b28e529772814189b2946e8141986882cc93aa959482aa82a082e98142
耐久力:-
品質:-
分類:石像
効果:-
素材:石
製作技能:-
製作者:-


 ……とりあえず、石像が動き出すことは無かった。良かった。

 そしてこれは……バグ……では無いか。所々普通に読めるし。これは……アレだろうか、僕が《編纂》をしてしまう前のバラムにあったのと同じ謎の文字列だろうか。

 あの時は、この文字列をさらに《解析》したら文字列が僕の中に入ってきて結構キツい思いをしたんだが…………うぅん、でもやってみないことには何も分からないしな…………。

 よし、やってみよう。流石に死ぬとかは無いだろう……多分。

「……う」

 無差別に《解析》した時よりも煩雑でチカチカした情報の奔流が目を閉じても浮かび上がる。しかし、遺跡の時のような身体的な辛さは無い……今は意識だけになっているからだろうか?

 バラムの時のことを思い出しながら、目の前で未だ蠢く文字達を観察する。多分だが、まずこの光る欠片を取り除いた方が良い気がする。

 とりあえず《編纂》でちまちまと細かく散っている光る欠片を除いていく。除いたものはまた自動でインベントリに入っていくようで……。


[秘文字の破片]
秘められし文字の破片。
粉々に砕けており、この状態では読むことが出来ない。


 やはり、バラムを《編纂》してしまった時に手に入れた物と同じアイテムらしい。ほとんど情報を得られないのもそのままだ。なんというか、ここでは遺跡の時と同じようなことばかりしているな……と考えつつ、手は動かす。破片が多いのと細かいのとで、取り除くだけでもひと苦労だ。

 ふぅむ……“この状態では読むことが出来ない”ということは、いつか砕けていないものを見つけることが出来れば読むことが出来る、ということだろうか。

 もしくは、破片をたくさん集めたら少し大きい塊とかになって徐々に読めるようになったりしないだろうか。

 …………少しモチベーションが上がったので、気合を入れて謎の文字列の《編纂》を進めていくとしよう。



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