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本編

49:転移システム解放、プレイヤー直帰

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 プレイヤーから防衛戦の成功が伝わったのか、ギルド内も徐々に安堵と歓喜の声が広がっていった。

「ふぅいー! 最後は手に汗握ったねぇ! トウのんのオトモダチ大活躍だったじゃん! ていうか素顔! ワイルド系イケメン!」
「なんというか、主人公感がすごいな……!」
「それは……確かに」

 一つ一つの要素とこれまでの戦いっぷりを振り返ると鍋の蓋の『主人公感』という言葉に納得しか無かった。

「そういえば、防衛戦の方のトロル型ってどうなったんだ?」
「あー、最後らへんに変な灰色の風?が吹いたと思ったら滅茶苦茶弱体化して、遺跡の方のボスが倒される直前に倒されてたよー」
「……そうか」

 灰色の風…………“灰”といえばゾーイだろうか。ゾーイがこの町に戻った時点で、町の安全は確保されていたような気がするな。


『【ワールドクエスト:始まりの町『ユヌ』防衛戦】が終結したことで、訪れたことのある町への転移システムが解放されました。転移は各町、都市に設置された[アークトゥリアの石像]から行うことが出来ます』

『[アークトゥリアの石像]から〈追憶の戦い〉を選択することで、個別のインスタンスフィールドで戦ったことのあるボスと再戦することが出来ます。また、他のプレイヤーが倒した不可逆のボスとも戦うことが出来ます』

『条件を満たした為、フィールドに[欠け月の写し]が出現します。フィールドに点在する[欠け月の写し]に触れることで、その場所が転移候補に追加され、そこから他の転移ポイントへ転移することが出来ます』

『詳細はヘルプをご確認ください』


 先程のワールドクエスト達成のアナウンスから微妙な間を置いて、また全体アナウンスがあった。下手をしたらクエスト達成の時よりも大きいんじゃないかという歓声が響き渡る。

「転移システムきたー! これで移動が楽になりますなぁ!」
「一気に来たなー、うわ、ヘルプ長い……」
「アークトゥリアの石像……この町にもあるのか?」
「うん、東門付近が広場みたいになってて、そこに小さな像があるよー。注視すると『アークトゥリアの石像』とだけ出てきて何も出来ないから何かあるんじゃないかって言われてたけど、やっぱりあったねぇ」
「そうだったのか、知らなかった」
「逆にこの小さい町で未だに東門に行ったことが無いってどういう……?」
「トウのんも中々極まってるよねー」
「……まぁ、ほとんど宿と職業ギルドの行き来しかしてないからな」

 この町の行けるところくらいは一度は回ってみても良いかもしれないな。

「なんか、プレイヤーが続々と町に転移してないー?」
「ああ、遺跡付近にも欠け月の写しがあったっぽいから、そこから戻って来てる」

 しばらく目を離していた配信画面を見てみると、僕が観ていた配信プレイヤーもどうやらユヌに転移してきたようだ。
 ……なるほど、これがユヌのアークトゥリア像か。膝ぐらいまでの大きさの石に、像を彫った道祖神のようなイメージで、ディテールが非常に大雑把だ。まぁ、性別も見た目年齢も自在な神らしいから特定のイメージで作りづらかったんだろうか。

「欠け月の写しはどんな見た目をしてるんだ?」
「それならー……あ、この配信で今映ってる!」
「へぇ、綺麗だな」

 あぬ丸の映してくれた画面を観てみると、地面から1メートルほどの高さに30センチほどの大きさの欠け月に良く似たものが浮いていた。周辺に浮遊する欠片やひび割れから、光の塵がキラキラと落ちている。確かにこれは綺麗だな。

「そういえば、住民さんは転移って使えるのかな?」
「基本的には使えないみたいだな」

 ヘルプの該当の部分に目を通す。

「基本的には、ってことは使える場合があるのー?」
「プレイヤーと盟友になって、絆が一定まで深まっていれば使えるらしい」
「へぇー。トウのんのオトモダチは?」
「…………使えるな」
「ヒュー!」

 バラムとの盟友ステータスを確認すると、防衛戦前に確認した時より2段階も上がっていた。あとは『ウィスパー』も使えるようになったらしい。

 ウィスパーとは、フレンド同士やプレイヤー同士でパーティを組んでいる時に、発声せずにボイスチャットが出来る、というもののようだ。……発声のしないボイスチャットとは……? 頭の中で声でも響くんだろうか。
 やったことが無いからどのようになるのか分からない。今、あぬ丸と鍋の蓋もいるし、試させてもらうか?

 と、確認していたら。

『おい、聞こえるか』

 頭の中で低い声が響いた。多分、バラムの声だ。

『ああ、聞こえるが……ウィスパーが使えるようになったってよく分かったな?』
『「うぃすぱー」っていうのか、これ? なんとなくだが、使えるようになったものは使い方が分かる。奇妙だが、深く考えるのは辞めた』
『そうか……さっき派手に吹っ飛ばされていたが、大丈夫か?』
『ああ、問題ない。……ってやっぱり、何処かから見てたか』
『ちゃんと職業ギルドにはいるぞ?』
『ここにいないのは流石に分かってる。……だが、最後何かしただろう』
『…………多分、したと、思う』

 目の前にいるわけでは無いのに、バラムの圧を感じるのは何故だろうか。不思議だ。

『俺が戻ったら説明を……と言いたいところだが、あと数日戻れそうにない』
『そうなのか』
『本当に安全かの調査や崩れた遺跡の確認とか色々な。……職業ギルドが人をつけてくれるから、そいつと宿に戻れ』
『そこまでしなくても……』
『俺が心配なんだ』

 ……そんなシュンとした声を出さなくても……最近初めの頃のバラムの印象と随分違った一面を垣間見ることが多い。

『……まぁ、断る理由も無いし、分かった』
『よし。…………あと…………いい』
『ん? なんだ?』
『……旧倉庫に行っても、いい』
『! 本当か!』
『…………くっ、嬉しそうな声しやがって……』

 バレなきゃ問題無いか、とバラムが戻る前にさっさと行ってしまおうかと思っていたが、これで何の気兼ねも無く読書が出来る。素晴らしい。

『はぁ。戻ったらたっぷり“礼”してやるから、覚悟しとけよ』
『…………ああ』

 覚悟が必要な礼とは。……お礼参り? いや、いつも通りなら多分ハグやキスだと思うんだが。
 などと思考があらぬ方向に行ってしまっている間にウィスパーが切れていた。

「トウのん、さっきから黙ってたけどどしたのー?」
「ああ、すまない。バ……大剣使いからウィスパーが来ていてな」
「へぇ、盟友ってウィスパーも出来るようになるのか」
「それでそれで? オトモダチは何と?」
「この防衛戦の事後処理であと数日は戻れなさそうだから、好きにしていい、的な内容だったな」
「むふー! ちゃんと連絡くれるの良いねー!」
「なんというか、マメだな……。戦ってる時の雰囲気からすると意外なような」
「まぁ……」

 割と最初からマメな印象ではあった気がするが。

「ところで、僕は一度宿に戻ろうかと思うんだが、2人はどうするんだ?」
「んー、そうだなー。どうしよっか?」
「まだ特殊時間加速内だし、夜だし、ちょっとフィールド出るか?」
「オッケー、行こう」
「じゃあここで解散だな」
「うん、今日は楽しかったよー! また遊ぼうねぇ」
「トウノさん、また」
「ああ、また今度」

 こうしてあぬ丸と鍋の蓋と別れた。個室を出ると、いつか裏口の見張りをしていた人に声をかけられ、宿屋まで送ってくれるという。……その後も、バラムが戻るまでは僕についてくれるようだ。

 なんとも申し訳ない気分でいると、「この町や住人が無事だったのも君のおかげだ。そんな人の護衛が出来るなんて光栄だよ」と笑顔で言ってくれた。……大分こそばゆい。

 その後宿に戻り、体感としては2日ぶりくらいの宿での食事だった。やはりここの食事が1番だなと一息つく。

 護衛の人に朝まで〈睡眠〉をしてから旧倉庫に行くことを伝えて、自分の部屋へと戻った。
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