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本編

43:陣中見舞い ※大剣使い視点

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 防衛拠点でしばらく休息をとっていると、職業ギルドのサブマスターに呼び出された。

「休憩中に来てもらって悪いね、ラスティ君」
「用件は」
「うん、実は……」

 サブマスターの話では、昨日の内に狂った魔物共がどこから来るのか探っていたようで、今日から防衛組と攻勢組に分かれて、出現の根源を見極めたい、と。

「それで?」
「実は方角的に君とトウノ君が見つけた空間がある遺跡付近のようでねぇ、君は正確な道のりを知っていて実力も申し分ない。だから、攻勢組に主戦力として入ってもらいたいんだ」
「……」

 トウノのいる町から離れたくはない、が……。

「まぁ、渋るの分かるけどね。この戦いで大きな戦果を上げれば、ギルドランクを上げられるんだ。受けてくれるかい?」
「特Aの方に、だな」
「うん、その通り」

 遺跡から町に戻った日、トウノが宿に戻った後、連盟の幹部共からある条件を出された。

 それは、防衛戦で大きな戦果を上げれば俺のギルドランクを“特A”に昇格させるというものだった。
 ただのランクAと特Aでは大きく意味が異なる。

 ランクA以上になると、大商人や貴族からの指名依頼が増え、覚えがめでたくなると専属契約が出来ることもあり、大きな富を得ることが出来る。上手くすれば権力すらも。

 ランクSともなると、高位貴族や王家の方から請われるほどとかなんとか。ランクSを抱えることは軍事的にも政治的にも力の誇示の1つとなっている、らしい。

 そして特Aとは、実力はA以上だが、どんな勢力にも所属したくない、煩わされたくない者達の為に自由意志を重んじるギルド連盟が作った特殊なランクだ。

 A以上の実力がある者が本気で抵抗すると、戦闘職、非戦闘職問わず止められる者が極端に少なくなる。なので機嫌を損ねない為というなんとも情けない理由もあるらしい。

 そして、俺はAに上げないわけにはいかないレベルになっているとかなんとか言われ、ある条件を達成すれば特Aにすることが出来ると持ちかけられた。


『特Aになれば、誰の顔色を伺わなくても良い。思う存分トウノのそばにいられるぞ?』


 あの気に障る灰色のギルドマスターの言葉を思い出す。

 ────そう、常にあいつのそばにいられるように、今回は攻勢組に入れというなら断るわけにはいかない。

「心配しなくても、町にいれば安全だよ。最終防衛ラインにはうちのギルドマスターがいるからね」
「……チッ」

 何が気に障るって、あの灰色の実力が俺よりも遥かに高いと俺の全感覚で分かってしまうからだ。
 《灰の残り香》とか言うものをあいつに勝手につけておいて、今の俺の嗅覚でも何も感じないのは、あまりに異様過ぎる。

 悔しいが、今は連盟のお膳立てに乗るしかない。


 ところで────。


「お前からトウノの匂いがしているのはどういうことだ……?」

 理由によっては胴を2つに分けるぞ?

「うわぁ、本当にすごい鼻が利くんだねぇ。トウノ君から君への陣中見舞いを預かってるだけだよ」
「何?」
「だからそのすごい圧力はしまってねぇ……あと気の利くカーラ君に感謝するように」

 苦笑を浮かべながら小包を俺の方に差し出す。間違いない、この包みからあいつの匂いがする。

 俺は包みを受け取ると目の前の男を見る。

「うん、用件はこれで全部だから、招集をかけるまで自由にするといい」

 さらに苦笑しながら言うのを半分ほど聞くか聞かないかというところで、踵を返す。

「ああ、そうそう大事にするのは良いことだけど、あんまり縛りつけるのはやめときなさい。年上からのアドバイスだよ」
「…………」

 聞こえた言葉に足を止める。
 ……あいつを旧倉庫に行かせないことについての苦言か。…………確かに、あいつはあそこにだけは隙を見ては行きたがっている。それをあまり押し込めても、あいつを手に入れるどころか、離れていってしまっては意味が無い。

 ……チッ、気に入らないが……アドバイスとやらを聞くしかないか。

 今度こそ足を踏み出し、サブマスターの元を去った。


 人の少ない場所に移動してから小包を開ける。

 入っていたのは、いくつかの薬包と小さなナイフ、そして手紙だった。手紙の方を開いてみると、読みやすい字で陣中見舞いを手持ちのアイテムで作ったことと、そしてそのアイテムの効果や性能が記されていた。


[強壮活性の飴玉]
揺籃編纂士トウノの《編纂》によって生み出された飴玉。
使用すると、一定時間体力とスタミナが回復し続け、攻撃力と聖属性が少し上昇する。
効果が切れると少しだけ怠くなる。
状態:良
品質:C
分類:食品
効果:満腹度+30%、一定時間体力回復(小)、一定時間スタミナ回復(小)、一定時間攻撃力上昇(小)、一定時間聖属性威力上昇(小)、効果終了後《倦怠感》付与(小)
素材:ライフポーション、携帯食料、異人の初期ナイフの攻撃力
製作技能:《編纂》
製作者:トウノ


 ……アイツ、俺しか読まないだろうとたかを括って、好き勝手してる上に《解析》結果をいじってもいないな。
 しかしまぁ、信頼されていると思えば悪くない気分だ。それに、これはこれからの戦いの切り札としてとても有用だ。

 もう一方のナイフの《解析》結果にも目を通す。


[除災の守りナイフ]
揺籃編纂士トウノの《編纂》によって生み出されたナイフ。
1度だけ、装備者に降りかかる災いを退けることが出来る。効果が発動すると砕け散る。
攻撃力は全く無く、何も傷つけることが出来ない。
製作者が装備しても効果は発揮されない。
耐久力:破壊不可
品質:F
分類:アクセサリー
効果:『破壊不可』の耐久力と引き換えに1度だけ装備者の命に関わる攻撃を無効化する
素材:異人の初期ナイフ
製作技能:《編纂》
製作者:トウノ


 ……もっと好き勝手滅茶苦茶してやがる。
 というか、これは《解析》結果を多少いじってないか? こんなもんアイツが持っていた方がいいだろうと思ったら、製作者が装備しても効果が出ないってなんなんだ。

「ん?」

 《解析》結果の少し下に手書きの文字がある。


『ナイフの《解析》結果の製作者が装備しても云々はとくにいじっていない。なので返却不可。』


 ……チッ。
 これも嘘の可能性はあるが、アイツはこういう嘘はつかない気がする。

 手紙にはまだ少し続きがあったので読み進めると────。


『命大事に。気をつけて。   
          トウノ』


 …………くそ。今すぐアイツの元に行きたい。そして、宿屋の娘には大きな借りが出来た。

 手紙を畳んで、匂いを嗅ぐ。とても落ち着くあの匂いがする。おそらくこの紙自体もアイツが生み出したものだろう。

 俺は手紙と薬包を、あいつと盟友契約を結んでから使えるようになったインベントリに入れ、ナイフを脇のホルダーに収めた。

「おぉい、ラスティ! なんだなんだぁ、“いい人”からの手紙かぁ? 匂いなんか嗅いだりして、スケベだなぁ!」
「ああ」

 傭兵仲間が揶揄ってくるが、俺にとっては全てその通りなので、普通に応える。今ここにトウノがいたなら色々…………色々していただろう。

 まぁ、アイツはそこらの小娘の方がまだ理解があるんじゃないかと思うほど、そういうことに慣れていない……というか意識していない節があるので、そこのところは焦らずに徐々に教え込んでいくつもりだが。

「うへぇ、惚気かよ! ……何も否定して来ないのが1番効く……」
「俺にも効く……」
「アタシにも効く……」
「俺も……」

 揶揄ってきたくせに勝手に落ち込むアホに何故か異人達も同調する。


 ────ともかく。
 さっさとこの戦いを終わらせて、特Aももぎ取って、心置きなくあいつを腕の中に収めるとしよう。
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