【本編完結】おそらく、僕だけ違うゲームをしている。

鵩 ジェフロイ

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本編

36:トウノという異人 ※大剣使い視点

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 いつものように依頼をこなしていたある日。
 何となく、今日あたりまた“あの異人”と出くわしそうだ、と俺の直感が囁く。

 俺のこういうのはよく当たる。


 討伐依頼をこなして町へ戻ると、大通りが異人達で賑わっていた。

 こいつらが来た日より多いんじゃないか?

 人数が多ければ、それだけ匂いの元も多くなるということで、不快感が強まる。
 さっさと大通りを抜けようと足を速めるが、進めば進むほど異人が増え、思うように抜けられず苛立ちが募る。

 やっと、宿へ続く路地へ辿り着こうかと言う時に、その先にあった職業ギルドから“あの異人”が出て来るのが見えた。

 直後、周りの異人達があいつに一斉に目を向けだす。あいつに目を引くようなものなんて無いはずだが、奇異の目でジロジロ見る奴らに、そして無警戒にもその視線に全く気づかないあいつに、元々募っていた苛立ちがさらに膨らんでいった。

 その内、おそらく異人だろうエルフの男に肩を掴まれ、何やら絡まれだした。あいつは多少迷惑そうな顔をしてるくらいで、相手を振り払う素振りもない。


 ────苛立ちが限界に達した。


 周りの異人にぶつかるのも構わずに、素早くあいつの元へ向かい、軽くエルフの男に肩を当てながら、片腕でこの危機感の欠片も無い男を抱え上げる。

 そして、さっさと宿屋へ繋がる路地へと入った。これで他の異人はついて来れないはずだ。というか、ことここに至っても抵抗らしい抵抗をしないこいつは本当に何なんだ。

 最初の角を曲がった後、苛立ちをほんの少しだけ乗せて、抱えていた男を壁に押しつける。やはりこいつには力が強かったのか、少し苦しそうに咳き込む。
 危機感が無いからこういう目に合うんだ。

 まだ少し息苦しそうにしながらこちらを見上げる表情に、初めてコイツに会った時の“あの表情”を思い出す。…………何故か、言い知れない満足感が広がり、多少溜飲が下がる。

 だが、まだあれほどでは無いなと考えていると、自然とあの時頬を伝った滴を追うように指で撫でていた。

 苛立ちも大分落ち着いたので、これくらいにしといてやろうと壁に押しつけていた腕を外して解放してやる。「気をつける」とか何とか言っていたが、どうだかな。


 *


「鉄銹。お前、職業ギルドが目をかけている異人を路地に連れ込んだというのは本当か」
「……あ?」

 適当な依頼を受ける為に、傭兵ギルドへ顔を出すと、珍しくこのギルドのサブマスター、サーリハから声をかけてきたかと思えば人聞きの悪いことを吐かした。

 何でも昨日の一部始終を見ていた異人達が、俺があいつを無理矢理拐ったとギルドに報告したとかなんとか。どうしてそうなる。
 どう見ても絡まれてるあいつを助けてやったんだろうが。

 そうサーリハに返すと、一言「そうか」と返された。
 このことに関してさして興味は無かったようで、本題はその異人に関して俺に持ちかけたい話がある、と。最初から本題だけを話せよ。

 話を聞くと、あいつを遺跡調査に向かわせる為の護衛依頼だと言う。なんでも、ずっと職業ギルドに詰めてこなしていた依頼を達成しただけでなく、魔物大襲撃の予兆を察知して報告してきたという。これまでの素行、信頼度や適性から、ギルド連盟指名で遺跡調査を依頼するつもりなのだという。

 遺跡といえば、連盟が指名した者だけで管理している特殊なエリアだ。俺もたまに野盗狩りに駆り出される時くらいしか入ったことがない。勿論、異人には解放していない。

 この短期間で職業ギルドからここまでの信頼を得るとは、ぼんやりしているように見えて、仕事の方は中々やるらしい。

「嫌なら他の異人との同道に慣れている者に回すが」
「…………」

 他の奴にあいつの護衛を任せる?


 俺の知らないところであいつが死に戻りなんかして、あの不快な匂いを纏うようになるのを想像して────吐き気がした。


「受ける」
「そうか。あの異人が起きたらすぐに依頼をする手筈だ。お前も来るか?」
「ああ」

 こうして、あの異人の護衛依頼を引き受けた。


 *


 アイツが応接室に入ってきた時、俺を知らない奴のように見て来ることに少し苛ついたが、そういえば会った時はいつも兜を被っていた為、俺の素顔を知らないのだと気づく。

 どことなく遠慮がちに俺の隣に座る。変わらず匂いはしない。

 が、何か違和感が。

 よく見ると、前見た時は何も無かった指にボロい指輪をはめていた。あの後からそう時間も経っていないはずなのにいつの間に……? そのことに胸が少しざわつく。

 こいつは「トウノ」という名前で編纂士なんていう見たことも聞いたこともない職業なんだという。事前に読んだ資料も、俺でも分かるくらいには分かりやすく詳しくまとめられていて、頭の出来は悪くないようだ。


 その後ボロい指輪の話になり、こいつが言うには、ギルドの旧倉庫とやらで本を読んでいて気づいたらはまっていた、と。しかも外れないときた。

 呪いではないなら『妖精の悪戯』、か…………こいつは、また、少し目を離した隙に得体の知れない存在に絡まれやがって……!

 見た目がボロいので壊せるかと思ったがビクともしなかった。くそ。


 その後解散し、さっさと依頼の準備をする。必要経費は連盟持ちということなので、遠慮なくいった。とくに技能書はBランクの俺の稼ぎでも3つ買うのはしんどい。買うより習得するまで粘るのが普通だが、今は時間が無く、買う金がある。

 あとは行きつけの店で防寒具を買う。ギルドがあるような町や都市には色々な仕掛けが施されていて町の中はある程度快適なようになっている。そのことをあいつは知らないだろう。
 他にも呼子笛、消耗品を仕入れて宿へ戻る。

 あいつは大体無表情だから、何を考えてるのか分からず、同じような表情をしている都市の文官連中のように冷めているのかと思いきや、起伏が薄いだけで存外素直なのが短いやり取りでなんとなく分かった。


 夜明けと共に町の外へ出て遺跡のある南西へ向かう。道中バーバルボアを倒してから、そういえば異人はあまりこういうのに耐性が無かったなとアイツを確認すると、多少白かったが戦闘職でも戦ったこともない奴にしては上出来だろう。

 とくに何事もなく関所に着くと、傭兵仲間が力加減も考えずにあいつの背をぶっ叩きやがり、体力が少し減ったのを感じる。ムカついたので、割と本気で蹴りに行ったが、回避が得意な奴なので避けられた。くそが。

 こいつは素直というよりくそ真面目と評するべきだったのか、確認したい遺跡を事前に考えていたり、俺が戻るまで何も食わずに待っていたり、口を滑らせて昔婆さんから聞いた話をした時は、案外面白そうにしながら手帳に書き記していたり。

 ……匂いを感じないのがあまりに快適すぎて、俺も話しすぎてしまった気がする。


 *


 それから関所で一晩休息をとり、遺跡群へと足を踏み入れた。

 最初は野盗の痕跡があり、舌打ちしたい気分だったが、痕跡から分かる人数的にはむしろ向かって来てくれさえすれば《威圧》で無力化出来るだろう。だが……妙に嫌な予感がする。

 こういう場合はすぐに引き返すに限るのに、“引き返す”という選択もあまり良いように思えない。こんな八方塞がりな感覚は初めてだ。

 案の定、奥の遺跡に向かおうとしたところで野盗共が魔物に食い荒らされていた。普通、この辺りに出る魔物で、この人数の野盗が負けることは無い。

 すぐに引き返そうとすると、生き残っていた野盗がまさに魔物に襲われて食われるところだった。そして、それを食らう魔物は────。

「狂った、魔物……」

 後ろからついて来ていた男が呟いた魔物の正体。こいつらは何処からどう湧いてくるのか全く分からないが、自分が死ぬまで命という命を喰らい尽くす、厄介極まりない魔物だ。

 普通、ランクC以上の傭兵パーティで討伐する。1体なら俺1人でもギリギリ対処出来るが果たして……。

 とにかく庇いながら戦う余裕は奴相手には無い為、護衛対象を後ろに下がらせて逃がす。
 “死に戻り”が出来るからと言って囮になろうとしなかったのは上出来だ。

 徐々に距離を離して行くのを確認してから、野盗を食うのに夢中な魔物に一太刀浴びせる。会心の抜刀攻撃が入ったはずだが、魔物はまだピンピンしている。

 このままいけば倒せる、そう思った直後―――もう1体の狂った魔物が飛びかかってきた。


 俺もここまでか、と頭の片隅で思う。あいつは慎重に後退していたが、2体目を確認した瞬間、脇目も振らずに走り出したようだ。

 それでいい。

 こんな稼業をしていれば、いつかあっさりと命を落とすことくらい覚悟をしていたが、最後に一時でも匂いのない世界を知れて良かった。
 そして、それを教えてくれたあいつを守れるのならここで果てても悔いはない。何故かそう思えた。

 勿論、最後まで足掻きはするが、と減っていく体力を感じながら大剣を構え直す。


 直後、微かな笛の音が後方から響いた。
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