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本編

32:“やる側”になってしまった

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 バラムの報告が終わったので、僕は出来るところまで《編纂》で作った資料を人数分生成して並べる。……何故何も無いところから紙を生成出来るのかの原理は今は置いておくものとする。

「トウノ君、今さらっととんでもないことしたね……」
「まぁ、この依頼の間に《編纂》を身につけたり〈見習い〉が取れたりと色々あって……。こういうことが得意な職業のようだ」
「ふむ、これが噂の『編纂士』というやつか。まずは内容を聞こう」
「概要は今まとめた文書に記載したんだが……」

 僕は狂った魔物の《解析》結果や、遺跡の記録に無かった空間の発見、その空間にあった石碑の解読結果を報告した。その後、参考程度にと前置きをしてから、魔物大襲撃に狂った魔物が大量に含まれる可能性と、時期は今から約半月後かもしれないという考察を伝えた。

「ううん……まず、あの手がかりの全く無かった言語を解読した上に未発見の空間の発見かぁ……これは襲撃を乗り切るまでは端に置いとくしかないけど……」
「カッカッカッ! 冒険者でもねぇ奴等が見つけるたぁなぁ! うちのモンにも発破かける良いネタだ!」
「『古ルートムンド』など故郷でも聞いたことがない……」
「…………ふぅん」

 情報量の多さにギルが片手で顔を覆う。まぁ、気持ちは分かる。……何なら出そうと思えばネタはもっとあるんだが……ギルの気苦労を増やしたいわけでは無いので、今回の件に関係無さそうなことは聞かれるまでは省くことにする。


「まずは襲撃の件に集中しようか。そんなに甘く考えていたつもりは無いけど、狂った魔物で構成される可能性があるというのはキツいなぁ。今分かって良かったと言うべきか」
「そうだなぁ。奴(やっこ)さんに効くと言やぁ聖属性だが、教会の奴らはこっちに来たがらねぇからなぁ」

 コノルの言葉に、そう言えばこの町にはRPGでお馴染みの教会が無いなとふと思った。

「時期については星見も大まかには同じ見解だったぞ」
「……いつ、そんなのを聞いて来たんですか……」
「ちょうど奴と茶をしばいてた時の世間話でな」

 ゾーイがなんとも緊張感の無い場面で得たらしい重要証言に、ギルが頭が痛そうにため息をつく。ギルにこそリラックス効果のあるような茶が必要そうだ。……今度何か差し入れをしようか。

「ひとまず、推定襲撃時期の発表とそこに焦点を合わせて準備の続行かなぁ」
「ああ、これで傭兵の手配も進められる。マスターが戻ったので私も戦場に出れる」
「なんだ、お前が出るのかサーリハ。アタシは?」
「マスターは町の最終防衛ラインの堅守を」
「とか言って、久しぶりに愛馬と駆け回りたいんだろう」
「何のことか」
「まぁ、お前にも発散は必要か」

 これで話がまとまって僕はお役御免かなと思い始めた頃、僕が出した資料をじっと見つめていたコノルが呟く。

「てかよぉ、この資料から仄かに聖属性に似た気配がすんだが……」
「えっ」
「あくまで似てるってだけだがなぁ。《鑑定眼》には出てきてねぇし」

 僕は慌てて資料に対して《解析》を発動した。


[南西エリア・遺跡群の調査報告書]
狂った魔物の解析結果や遺跡の未発見の空間について記された報告書。石碑の解読結果についても記されている。
揺籃編纂士トウノの《編纂》によって生み出された紙を使用している為、それ自体が僅かに聖属性を帯びている。


 他項目は今は関係無いので省略するとして…………僕が生み出すと聖属性を帯びるのか……そういえばバラムについていた特殊効果も聖属性が付与されていたような……。

 僕は直ちに《解析》結果をこの場にいる者に伝える。

「ほぉー……トウノお前、何だかおかしなことになっているな。面白いぞ」
「これは……知られると教会が来そうだなぁ」
「何?」

 今まで会話に入って来なかったバラムが反応する。

「光属性使いはまだ在野にもいるけど、聖属性の行使は教会の専売特許……ということに一応なっているからねぇ。使える者は大体彼らが囲い込みに来るんだよねぇ」
「は? 冗談じゃない」
「そこは森碧の意志次第だろう。君は教会への所属に興味があるか?」
「いや、全く」

 聖書などがあるなら機会があれば読みたいが、教義を知識として頭に入れはしても信仰とかそういうものには一切興味が無い。
 あとはまぁ……大分緩和されたらしいとはいえ、せっかく盟友契約を結んだバラムの不快指数を上げるようなことをわざわざする必要は無いだろう。

「コノルの《鑑定眼》で出ないなら問題にならんだろう。トウノ、製作者なんだからその聖属性云々を消したり、隠したり出来ないのか」

 ゾーイが懐から葉巻を取り出しながら問うてくる。
 なるほど?と思ったので、色々試してみると…………割と簡単に出来た。とりあえず出した資料の「聖属性」に関する記載と僅かな聖属性を消しておく。

「ゾーイの言う通り大分おかしな技能だな、こりゃ……」
「ふぅむ………記載を弄れるなら対狂った魔物用のアイテムを作れないかな? 消費アイテムにすれば誤魔化せると思うんだけど」
「……なるほど。少し考えてみる」

 確かに、それが出来れば大分町の安全に繋がりそうだ。僕が生み出す紙だけでは聖属性が僅かすぎて効力が微妙だな……と考えていると────。


「力ある言葉を使え」


 頭に威厳のある声が響く。
 えっ、と顔を上げると紫煙をくゆらせているゾーイと目が合った。暗い灰の目が愉快そうに細められている。

 力ある言葉……《古ルートムンド語》のことだろうか。そういえばこれは技能だったなと思い出す。しかし、これは言語であって言葉では無い、か?

 うーん…………とりあえず《古ルートムンド語》でそれっぽい文章を考えてみるか。
 “狂った魔物退散”…………は何か違うか。“狂った魔物弱体化”…………あまり効力が無い。

 そういえば、石碑では「狂った魔物」は「惑う魂」とか言われていたか。そして、狂った魔物は永劫癒えぬ飢えを抱えているという。では、何に飢えているのか、何故魂は惑ったのか……と考えながら綴ったのは────。


 “惑う魂に慰めを与えん”


[鎮め札]
特別な意味が込められた文字が綴られたお札。
装備やアイテムに使用すると、狂った魔物を少しの間鎮める効果を付与することが出来る。
直接狂った魔物に使っても鎮める効果がある。
使用回数:1/1
耐久力:E
品質:C
分類:効果付与アイテム
効果:狂った魔物の鎮静(小)
素材:羊皮紙
製作技能:-
製作者:-


 それなりに効力のある言葉が出来た後、皆から意見を貰いつつアイテム化出来たものがこちら。汎用性を高める為に付与アイテムにすることになった。

 内容を故意に隠蔽しようとすると、「???」ではなく「-」と表記されてしまうらしい…………心当たりがあるな? 僕が“やる側”になってしまうとは。

 所々嘘が混じっているのが心苦しいが、効果に嘘は無い、と思う。試せていないので分からないが。

「うんうん、後はこれが実際に効けば、対狂った魔物用アイテムとして出せるね」
「効果が確認出来たらお前さんに量産の依頼を出すことになるがかまわんか?」
「ああ」

 このくらいなら少しのAPで大量に出せるから問題ない。


「大分脱線してしまったけど、遺跡調査の依頼は達成だよ。今回も想像以上の結果をもたらしてくれたね」


〈【WQ:ギルド連盟指名クエスト】をクリアしました〉


「成果に見合った追加の報酬はそうだなぁ、申し訳ないんだけど、魔物大襲撃を乗り切ってからでいいかな? 勿論、元々の報酬はこの後すぐに渡そう」
「それは別にかまわないが」

 ギルにしては歯切れが悪いのが珍しい気がしたが、状況が状況だしなと思う。

「そんな空手形だけではな。どれ、アタシから1つ報酬をやろう」

 ゾーイが葉巻の煙を吸い込みながらそう言うと、僕の方へ吹きかけてきた。うっ、けむい。


〈《灰の残り香》が付与されました〉


「ごほっ、ごほっ……《灰の残り香》?」
「虫除けだ。それがついてれば教会やその他の鬱陶しい奴等が嫌がる。大司教クラスまでは効くだろう」

 ええと、大司教はどのくらいの階級だったか…………ほぼ教会関係者全員では?

「また勝手に……」
「解除したければトウノの技能ならいつでも出来るぞ?」
「そういう問題じゃ……ほらぁ、ラスティ君がカンカンですよ」

 ギルの言葉で気づいたが、肩に回ったままだった手の力が痛いくらいに強くなっていたし、なんか顔の左側が妙に熱い。


「まぁ、鉄と錆の匂いも悪くはないがな。精進せよ、番犬」


 そう言うと、ゾーイは艶やかに笑った。
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