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本編

23:星の伝承

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 日没直前に、関所のような建造物が建っている開けた場所に出た。傭兵や冒険者がそれなりの人数いるのが見える。
 《感知》のマーカーを見ると全員住民のようだ。

「この関所を抜けると遺跡群だ。夜が明けるまでここで休む」
「分かった」

 そのまま関所前の広場に入ると、大剣使いが馬を降りたので僕もそれに倣って馬を降りる。
 すると、1人の傭兵風の男がこちらに近づいて来た。

「よぉ、ラスティ! 連絡通りだな。お、そっちが噂の編纂士殿か」
「下級で見習いだが。よろしく頼む」
「ああ、こっちこそ調査頼むぜ!」

 バンッ!

「ぐっ!?」

 突然背中にかなりの衝撃が走り、体が前につんのめる。地面に倒れる前に腕が差し込まれ、どうにか倒れずに済んだ。
 どうやら大剣使いが受け止めてくれたらしい。

「おわっ、大丈夫か!? 悪い、つい仲間内のノリでやっちまった……」
「……大丈夫だ。気にしないでくれ」

 少しLPが減っているが問題ない。うーん、もう少し防御力にもポイントを振った方が良いんだろうか。

「いやーホントごめんな……って危なっ!? だから悪かったって! そんな怒んなよ!」

 すまなそうにしている傭兵の男を大剣使いの鋭い前蹴りが襲う。なんとか間一髪で避けられたようだ。戯れか本気だったのかは……ちょっと分からないな。

 それにしても怒る? と、見上げてみる。うーん……まぁ、多少、イラついてそうか?

「ふん。行くぞ」
「ああ。受け止めてくれて助かった。もう離してくれて大丈夫だ」
「……」
「……」

 …………無視。抱きとめられた体勢から多少歩きやすいようにポジションを変えただけで、体に腕を回されたまま引きずられるように誘導されていく。

 しばらく引きずられるに身を任せていると、既に火の点いた焚き火台を囲むように並べられている丸太ベンチの上に腰かけさせられた。

「ここで野営をする。ポーションを出せ」
「ん? これか?」
「飲め」
「……ああ」

 LPが減っていたのがしっかりバレていたらしい。あ、あー……パーティを組んでいるから分かったのかもしれない。今気づいたが、僕も大剣使いのLPが見えるようになっている。

 プレイヤーと同じように視界にUIがあるとは思わないが、察知出来るようにはなっているのだろう。

 とりあえず、手にしたポーションを飲んでみる。何気にポーションを飲むのも初めてだな、と考えながら味わう。
 うーん……これは……。

「微かにりんご味のする経口補水液」

 独特なのどごしがとても。

「は?」
「いや、何でも。ん、全快した」
「俺はあいつらと明日の確認をしてくるから、ここで待ってろ」
「分かった。これ、優先して確認したい遺跡のリストだ。行けなさそうならそっちの判断に従う」

 昨晩、時間潰しにまとめていたものを手帳から切り離して大剣使いに渡す。
 リストを受け取った大剣使いは一つ頷くと、関所の方へ向かった。


 日はすっかり沈み、光源は目の前の焚き火だけで、あたりは暗闇に包まれている。
 そんな通常であれば視界が制限される中、《暗視》が大活躍中だ。

 また待ち時間になってしまったので、暇潰しに道中《分析》と《記録》をした植物や動物の情報を眺めていたのだが、暗い所で読めば読むほどくっきりと文字が読めるようになってくる。
 現実では、暗いところで本を読むと目が悪くなるとよく言われたものだが、こちらの世界では逆のようだ。

 うん、大変読書が捗りそうだな!
 と、ホクホクしていると、大剣使いが戻って来た。

「このルートで回る」

 そう言って差し出されたメモには遺跡群の簡単な手書きの地図とルートが書き込まれていた。僕が確認したかった所は大体網羅されていた。

「分かった」
「飯は」
「まだだが……」
「食え」

 ということで、今朝ローザから受け取った弁当を広げる。貰った時と変わらず温かいままだった。

「いただきます」

 宿で食べているものよりも味が濃く、一緒につけてくれているパンが進む。スープでもないのに、体が芯から温かくなってくる。

 チラッと斜め前のベンチに座る大剣使いの方を見ると、焚き火台に鍋をかけて沸かした湯に携帯食料を入れて飲んでいた。……そういう食べ方もあるのか。

「僕も飲んでみていいだろうか」
「好きにしろ」

 気になったのと最後に汁物が飲みたかったので、大剣使いに聞いてみると、予備のものなのか空いたカップを投げよこしてきた。……今のキャッチは大分危なかったな。

 礼を言ってから、貰ったカップに湯を注ぐ。少し考えてから携帯食料の3分の1ほどを入れて飲んでみた。うん、飲み物としてなら、これくらいがちょうど良さそうだ。

 携帯食スープにほぅっと息をついて自然と視線が上に向く。


 その先には、息を呑むような満天の星があった。

 仮想空間で見ることが出来る星空では感じられない、冷たいが澄んだ空気の匂いや夜の森のさざめきなども相まって胸に迫るものがある。

 今にも降ってきそうな、という表現はこういうことを言うのかと納得しながら星空に見惚れていると、低い声が問いかけてきた。

「何を考えてる」
「…………星が綺麗だな、とか、こっちにも星座があったりするのか、とか」

 考えていたことをうまくまとめられなかったので、何となく誤魔化すような返答をしてしまった。

「星座……?」
「僕達の世界では星の配置から人とか動物の形を連想して、そこから神話と紐づけたり、占いに使ったりするものなんだが」
「そんなことをして何の意味が?」
「僕に言われてもな」

 大昔の人間に聞かないとなんとも。
 まだあまりピンと来て無さそうだったので、星座絡みの神話でトップクラスに有名だろう、オリオン座とさそり座の話をすると「なんだその間抜け」という感想だった。手厳しい。

「ということはこっちには星座のような考え方は無いのか」
「……占いはある。星の位置なんぞ雲と一緒でよく変わる。それに意味を見出せるのは星見占い師くらいだ」
「そんなにすぐ変わるものなのか……」

 ということはこちらの星は、何光年も先にある恒星とは根本的に違うのかもしれないな。


 資料室で読んだ神話や寓話はほとんどがこの世界唯一の神『光神アークトゥリア』に纏わるもので、イメージとしては現実で言う主神や太陽神といった感じだ。大きな権能としては秩序、繁栄、勝利、豊穣などがある。あとは愛と美の女神のような側面もあるらしい。

 ちなみに伝えられている見た目の情報は「この世のものとは思えない美しさ」を持つこと以外は性別も年齢もよく変わるようだ。


 そんな感じなので、今思えば太陽や昼の話が圧倒的に多く、星や夜に関する記述がほとんど無かったように思う。なので、少し興味が湧いた。

「面白いな。星の神話や寓話は無いのか?」
「……昔、星は魂の揺籠だという話は聞いた」
「ほぅ」
「そして、星が堕ちるのはその魂が休息を終えて地上で生を受ける時だとかなんとか」

 どこで聞いたのかも気になるが、普通に伝承として面白いと思ったので、自然と手帳を広げてメモをとっていた。

「その話だと星になる前の魂はどういう扱いなんだろうか」
「さあな、そこまでは知らん」
「むぅ」

 一瞬、輪廻転生的なシステムなのかもしれないと思ったが、決めつけるには流石にまだ情報が足りないな。
 そのあたりもこの世界の本を読んでいく内に分かったりするんだろうか。今後の楽しみにしよう。


 それにしても星が堕ちると生を受ける、か────。

「そういえば、僕も落ちて来たな」

 と、アバター作成を終えて初めてこの世界に来た時の演出を思い出していた。もしかして、プレイヤーのバックボーンに関連する何かなのだろうか。


「そろそろ寝ろ。夜明け前に出る」
「分かった」

 今日はここまでのようだ。
 諸々の片付けをして、マントに包まったところで僕は〈睡眠〉コマンドを発動した。
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