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本編

20:妖精の悪戯

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「それでは私たちはこれで失礼する」
「興味があったら冒険者ギルドにも顔を出してくれよな!」

 依頼関連の大体の話はまとまった為、サーリハとコノルは退室していった。
 大剣使いは残っているが……まぁ、いいか。

「ギル、さっき早速旧倉庫に行ってみてたんだがその……いつの間にかこの指輪がはまってしまってて、しかも外せなくてな……。あそこの物は持ち出し不可と言われていたのにすまない」
「ん、指輪かい? あそこにそんなのあったかなぁ」

 ギルに指輪を見せつつ、《分析》で見た結果も大まかに伝える。

「外せないんじゃあしょうがないねぇ。というか備品記録にも載ってないから、その指輪の持ち出しについてはどちらにしろ不問だよ」
「こういう装備を外す方法はあるのか?」
「呪いなら解呪で外せるけど、それは呪い由来では無さそうだからねぇ。あとはたまにある『妖精の悪戯』の一種だけど、それこそその『悪戯』をした妖精が満足するなり飽きるなりしないと取れないね」
「……ある意味呪いより質が悪いな」
「ははは、それが妖精というものだよ」

 この世界にも外せなくなる類の呪いの装備が存在するらしい。それにしても妖精か……僕には縁が無いと思ってたんだが。


「それじゃあこのあとの仕切りはラスティ君に任せようかな。必要経費は連盟につけてくれてかまわないから。トウノ君を頼んだよ」
「……依頼だからな」

 そう言うとギルも去っていった。
 広い応接室に残ったのは僕と大剣使い。

「『気をつける』と言っておいてこの様か」
「え、うわっ」

 不意に強く右手を引かれてバランスを崩し、大剣使いの方へ倒れかかってしまう。

「次は妖精に絡まれているとはな」
「これは不可抗力だろう……」

 あの状況で予測と回避が出来たなら教えて欲しい。何が要因だったのかは……あの鼻歌が良くなかったのかもしれないが。

「……そろそろ離して欲しいんだが」

 体勢が辛くなってきたのでそう言うと、さらに指輪を掴むように指を絡められた。何故に。

 ……すごい圧力が指輪にかけられている気配がする。それつるっと滑ったら僕の指が大変なことになるやつ。

「壊れんな」
「見た目詐欺だからな」

 何と言っても耐久力の表記が無いからな。直前のクエスト表記のことを考えると、厳密には耐久力無限というわけでは無さそうだが見せる気が無いのだろう。

「……ふん」

 やっと右手が解放された。

「それで、これからどうするんだ?」
「お前は宿に行ってろ。俺が戻るまで待て」
「……分かった」

 せめていつまで待てばいいか教えて欲しいが、聞いても無視されそうな雰囲気だ。ログイン時間もまだ余裕があるからいいけども。

「寄り道するなよ」

 そう言うとさっさと部屋を出て行ってしまった。

 寄り道は……旧倉庫には寄るな、と。くっ、時間が少し空くならあそこの本の解読を進めたかったが仕方がない。現地調査以外はほとんど彼に頼り切りになるだろうから、流石にあまり余計な手間を取らせたくない。
 指示通りに宿に行くとしよう。


 *


 宿屋に戻ると時間は真夜中を回ったあたりで、食堂の客も大分疎らになっていてまったりとした静かな空気が漂っていた。

 深夜のこういう空気の中で読書をしてみたいと常々思っていたものだ。今は自分所有の本が無いが、いつか手に入れたらこの時間帯の食堂で読もう。そうしよう。

 とりあえず今は温かい食事をとり、大剣使いがいつ戻るか分からないのでローザがいれてくれたホットミルクを飲みながら、食堂の隅の方に移動して時間を潰す。

 まずはゲーム内掲示板に「ユヌの他エリアへの行き方はギルド連盟からの発表を待つように」と流す。

 投稿後、目についた質問や疑問のいくつかに返信し、適当なところでウィンドウを閉じた。

 ……まさか2階の資料室も場所を聞かないと入れないとは……。誰でも閲覧出来ると言っていたはずだから、受付で場所さえ聞けば入れるようになるだろう。どうりで資料室で誰も見かけなかったわけだ。

 どうやら皆フィールドや素材、職業情報を聞いていた為資料室の紹介に至らなかったようだ。
 まぁ、それらの情報はよく使うからってカウンター内に写本がたくさんあったからなぁ。


 大剣使いはまだ戻る気配が無かったので、南西エリアや遺跡情報を思い出しがてら、手帳に情報を整理することにした。

 異変が起きている現在の魔物の分布と種類などを書いていく。……動植物や鉱物は過去の記録に無かったんだよなぁ。一応、出来るだけ《分析》と《記録》だけしておくか? あとは住民でもプレイヤーでもどちらでも良いが学者職の皆さんに研究してもらおう。

 遺跡群も文章の特徴だけじゃイマイチ外観を想像しづらいからスケッチでも残せればいいんだが……残念ながら僕に絵心は無い。絵を描く技能もあるのだろうか? ゲームとしての使いどころはよく分からないが。
 まぁ、最終手段はスクリーンショットだな。


 うーん、南西エリアの情報整理も終わってしまったな。唯一《記録》出来た謎言語でも書き写してみるか。

 …………うぐ、難しい。でも《筆記》レベルがすごく上がっている。美味しい。

 ドサッ

「っっ!? ビックリした……」

 突如目の前に何かが降ってきて、驚きすぎて体が飛び上がった。書き途中だった文字もあらぬ方向にインクが飛び散っている。
 目の前に降ってきたのは、そこそこ大きく中身の詰まった皮袋だった。

「気づかない方が悪い」

 顔を上げると、相変わらず不機嫌そうな顔をした大剣使いが立っていた。
 先ほど会った時と同じようなラフな格好に片手剣を帯剣していて、いつもの重装備ではない。

 ……初めて真正面から素顔を見る。無造作なダークブラウンの髪に『鉄銹』の由来だろう鈍く光る赤茶の目をしていて、精悍な顔つきだ。年は20代前半くらいだろうか。

 大剣使いはテーブルを挟んで向かいの椅子にドカッと腰を下ろすと、皮袋の中から大きな布を取り出してこちらに放り投げてきた。

「これをやる。外ではマントをつけろ。野営ではそれが寝具だ」

 言われて広げてみると厚手の生地にフードと留め具がついていた。とてもシンプルな作りだ。


[ムートンのマント]
羊の皮から作られた丈夫なマント。寒さや雨を防ぐことが出来る。
丁寧に作られており、品質が良い。
耐久力:D
品質:B
分類:アウター装備
効果:防御力+5、防寒、防水、防塵
素材:羊の皮、ボアの牙
製作技能:《仕立て》
製作者:ベイヴィル


 出てくる情報が少し多くなっている気がするが《分析》レベルが上がっているからだろうか。それよりも。

「とても良いマントだな。大切に使わせてもらう」
「……勝手にしろ。こっちがお前の分のライフポーションと携帯食料だ」
「あー、それらは使ってないのがまだあるんだが……」

 あまりに外に出なさすぎて最初から所持しているライフポーションと携帯食料がまるっと残っている。

「お前らはいくらあっても困らないだろう」
「それは、まぁ」

 プレイヤーにはインベントリというアイテム格納機能があるが、これはこちらの住民には使えないものらしい。アルスト世界に限っては意外なことだ。

 アルストのインベントリは初期は枠が15個とやや少ないが、同じアイテムならそれぞれに設けられた個数上限まで1枠で重ねて持てる。
 そして、レベルに応じて少しずつ枠が増える仕組みだ。


「それでこれが技能書だ。さっさと覚えろ」

 そう言うと、こちらへ丸められた紙を3つ投げよこしてきた。ファンタジーものでよく見かける巻物(スクロール)まんまな感じだ。

 ……そういえば、これも読み物だな!

「初めて見たな。使い終わったら後で読もう」

 と、ホクホクしていると────。


「何言ってんだ。技能書は使うと消えるだろう」


 …………なん、だと……。
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