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本編

18:旧倉庫とかいうビックリ箱

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 もしかして、これは楽譜かもしれない。

 物は試しと早速、点の羅列を音階と捉えてみる。ヴァイオリンかピアノがあれば、弾いて確かめられるんだが、無いものは無い。
 ……探せば似たような楽器はあるだろうか?

 仕方がないので音程の怪しい鼻歌でメロディを確認してみる。

「ン、ンー、ンーーー、ン、ンーー……」

 ちゃんとしたメロディにはなってそうなので、楽譜説が濃厚かもしれない。

 半分ほど歌ったところで、どうも聴き覚えがある気がしてくる。何処でだっただろうか。

「うーん……あっ! アルストのオープニングか!」

 そうだ、ゲーム開始時のあらすじにかかっていた壮大な音楽の一部をすごくシンプルにするとこんな感じだ、多分。

 一度噛み合うと、後半の音階もあらすじで流れた方のオーケストラバージョンで脳内再生される。

 少なくとも、このページは楽譜だと確定して良さそうだ。となると、このページの1番上に書かれている文字は曲のタイトルだろうか。

「……もしかしてあのオープニングの実際のタイトルとか? 確か……」

 半分そんなことは流石に無いよなと考えつつ、公式サイトにあったオープニングの曲名を思い出す。

「『世界をこいねがう調べ』だったかな。……あ」

 曲名を口に出しながら、楽譜のタイトルと思われる部分を見ると、微かに文字の意味が浮かんできた。


 『セカ**コ***ウ**ベ』


 ……少し読めてしまった。というかこの一文に限って言えばもう読み方が分かったようなものなのだが。

 このゲーム、言語関係は難易度に対する温情なのか、ゲーム外の知識の活用や公式のヒントが結構あるな……。

 とはいえ習得判定には至っていないようで、まだまだ読めない文字が多いし、読めている部分もカタコトだ。一応読み方が分かる一文なので、今度は《分析》が発動し《記録》で手帳に転写しておいた。

 む、理解が少し進んだ感覚が。
 読める文字が増えたらたまに《分析》してみると良いのかもしれない。


「ン、ンー、ンーーー、ン、ンーーンンーンンンーー、フーンン、ンーンンンーーー………?」

 何となくオープニング曲を口ずさみながら、未だ読めない言語を眺めていると、ふと右手の違和感に気づいた。

 目を向けると、いつの間にか人差し指に指輪がはまっていた。


「!?」


 いやいや、もうお腹いっぱいなんだが? 旧倉庫色々起こりすぎではないだろうか!
 通知も何も無かったので、割と本気でビックリした。

 慌ててほとんど開いてこなかったステータスの装備欄を開くと……見事にアクセサリースロットが1枠埋まっていた。


[追憶の鍵]
いつの時代のものかも分からない古ぼけた指輪。
もう戻ることのない在りし日のよすが
朽ちても尚消えぬ郷愁が所縁ゆかりのあるものと共鳴する。
装備解除不可。
耐久力:-
分類:アクセサリー
素材:???
製作技能:???


 そして《分析》結果がこちら。……ツッコミ所満載である。

 まず「鍵」という名前なのに形も装備的にも指輪なこと。とても古い指輪であることと何か関連する物があると共鳴すること以外はとくによく分からない。

 追憶とか郷愁云々は……うん、言いたいことは分かるがまだゲームを開始して1週間も経っていない人間には何のことだかさっぱりだ。

 そして「古ぼけた」とある通り、見た目も結構ボロボロなのだが……耐久力の記載が無いのはひとまずは「壊れない」と見て良いのだろうか。見た目詐欺だな?

「それでもって装備解除不可とは……」

 超有名RPGにも出てくる呪いの装備か何かだろうか?

 まぁ、ひとまず見た目にも分析内容からもとくに害があるわけでは無さそうなので放置で良いだろう。「共鳴」がどんなものかはまだ分からないが。

 そうして《分析》結果を手帳に《記録》したところでギルドへ向かう時間を告げるアラームが鳴った。

 ある意味キリが良いところかと倉庫を出ようとしてはたと気づく。


「倉庫の物は持ち出し不可なのに、どうするんだこれ……」


 早速問題が発生したのでやはり呪いの装備かもしれない。


 *


 外れないものは仕方がないので、事情を話して納得してもらおうと一旦ギルドに向かった。

 昨日のこともあるので、しっかり裏口から入る。

「あ、トウノさん! お待ちしてました。こちらへどうぞ」

 今回、お互いに時間を合わせている為、中に入るとすぐにカーラが迎えてくれた。

 案内されたのは昨日とは違う、もう少し広めの部屋だった。中心にある一枚板テーブルの左右に長めのソファや1人掛けのソファが複数配置されていたので、多人数用の応接室といったところだろうか。

 中には既に何人かおり、ギルと……他は全員知らない顔だ。

「やぁ、トウノ君。時間通りだね。さ、こっちに掛けてくれ」
「ああ」

 ギルに座るように示されたのはギルが座っている方とは反対側、ラフな格好をしているが戦闘職っぽい雰囲気のある男の隣だった。ガタイが良く、目つきも鋭いので中々威圧感があるが、指示されたので大人しく隣に腰を下ろす。

「これで全員揃ったね。まずは本題の前にトウノ君に紹介しておこう。こっちにいるのがそれぞれユヌの冒険者ギルドのギルドマスターと傭兵ギルドのサブマスターだ」
「よろしくな!」
「よろしく」

 そう言って紹介されたのはギル側のソファに座った男女だった。冒険者ギルドのギルドマスターは、背が子どもくらいだが見た目はしっかりオジサンで少し困惑した。ドワーフか何かだろうか?

 傭兵ギルドのサブマスターは姿勢がすごく良い凛とした佇まいの女性だった。

「カッカッカッ! 俺の種族に困惑中か? 俺は小人こびと族なんだ、ドワーフとよく間違えられるけどな! 違う種族なんでそこんとこよろしく」
「……勉強不足で失礼した」
「まぁ、俺たちは中々里から出ねぇからなぁ。異人にもあまりいねぇみたいだし、気にすんな! 俺のことはコノルって呼びな」
「分かった」

 冒険者ギルドのギルドマスター、コノルは小人族でドワーフとはまた違う人系種族のようだ。確かに背が低いこと以外のドワーフを象徴するような逞しさや立派なヒゲといった要素は無い。

 見た目のイメージとしては、只人族の大人を子どもサイズにデフォルメしたような感じだろうか。

「私は傭兵ギルドのサブマスターを務めている。ギルドマスターは職業ギルドのギルドマスターと兼任しているが今は不在の為、代理の責任者だ。サーリハでいい」

 続いて傭兵ギルドのサブマスターはサーリハと名乗った。只人族だが黒髪褐色肌でアバター作成時のテンプレートの1つにあった「砂の民」の特徴を持っていた。

「じゃあ最後に、君の隣に座っているのはユヌを拠点にしている傭兵で『鉄銹てっしゅうの大剣使い』で通っている。『鉄銹』『大剣使い』『ラスティ』好きな呼び方をすると良い」

 銹……錆か。それでラスティだろうか。
 これが本名を隠したい場合に通り名を利用するということなのだろう。うーん……とりあえず『大剣使い』で。


「ちなみに、一昨日うちのギルド脇で異人達の前から君を連れ去ったのがこのラスティ君だよ」


 …………はい?
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