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本編

13:速やかに慣れて欲しい

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 さて、現実でも寝て起きて、クエストを受けてから4日目。

 クエスト進行度的には今日で達成出来るだろうが、今日のログイン時間分くらいは粘っていこう。と、意気揚々と作業机につく。気分はもはや出勤だ。
 したことないけど。

 そうしてまた黙々と作業していると、昼時にギルド職員の何人かに声をかけられ、「差し入れだ」と串焼きやパンを渡された。
 何でもずっと飲まず食わずで作業していたのを心配してくれていたらしい。

 ……そういえば、いつも満腹度を限界まで減らしてしまってたな。「食べないといけない」という感覚がもう随分と希薄なのでつい忘れてしまう。

 料金を払おうとしたら「サブマスに集るから大丈夫」と朗らかに返された。いや、それは、良いのか……?


 差し入れをありがたくいただきつつ、作業を進める。《筆記》のレベルも大分上がってきていて、手の動きがかなり早くなってきている。早送りみたいに動かしているのに書かれた文字が存外丁寧なのが不思議だ。

 この分だと今日中には紙束全ての処理まではいけるかもしれない。


 *


 ということで、現在ちょうど日が暮れたあたり。
 なんということでしょう。あんなに山と積まれていた紙束が匠の手によって机から綺麗さっぱり消え、美しい木目艶めくデスクへと生まれ変わった……。
 やればいつかは終わるものだな。

 あとは手作業まとめと清書をすれば良いだけだ。ここまで来ると真新しい情報もそんなに無いので、まとめの方もそんなに時間はかからないだろう。

 ちなみにクエスト進行度はとっくに100%になっている。

「うーん、時間が半端だから少し寝るか」

 このまま作業を続けてしまうとまた《不眠》になってしまいそうなので、一旦宿屋に戻って〈睡眠〉をとることにした。
 ついでに夕飯も食べよう。そうしよう。

「なっ……あの編纂士がこんな普通の時間帯に帰る、だと……?」

 ……ギルドを出る時にまた何か聞こえてきた。なんか、僕の動向を観察されている?
 自分で言うのもなんだが、毎日同じ作業をしに来るだけの何の面白味も無い奴でしかないと思うんだが。


 宿屋に行くと、今度こそ渾身の力で体当たりをして自力で扉を開けることが出来た。3度目の正直。やったぜ。
 ……右肩は多少犠牲になったが。

 宿屋は夕食時とあってか、今までで1番賑わっていた。ローザの言っていた通り、客は皆ガタイが良く、人数も相まって中々の圧迫感と熱気がある。

 厨房では今朝の男性が、食堂ではローザが忙しそうに働いていた。大盛りの料理を客へ出したローザが僕に気づき、迎えてくれた。

「おや、この時間に戻るなんて珍しいじゃないか。食べてくかい?」
「ああ、頼む」
「あいよ! ムサイのに潰されないように気をつけんだよ」
「おい、ローザ! こんな色男捕まえて『ムサイの』とは何だ『ムサイの』とは!」
「寝言は寝て言え。テメェなんざトロルと見分けつかねぇよ」
「ああん? やんのかコラ」
「上等だボケ!」
「いいぞー!」
「やっちまえー!」

 ちょっとした一言を皮切りにあっという間に喧嘩が始まってしまった。周りはむしろ面白がって囃し立てたりしていて止める気配がない。

 冗談じゃなく潰されかねなくなったので、喧嘩の輪をなるべく避けながら進み、なんとか奥の1人用の席につくことが出来た。

 今日のメニューはガツンとステーキのようで、食べ切れるか少し不安だったが満腹度が減っていた為か案外ペロッといけた。
 最後にスープを飲んで一息ついたところで、すぐに部屋へと向かう。……まだまだ賑わっていそうなので絡まれない内に。

 ベッドに寝転がり、〈睡眠〉の最短時間である2時間で設定していざ入眠。

 自動で瞼が閉じて暗転――。
 そしてすぐに自動で瞼が開く。

 あまりにあっさり過ぎて不安になったが、時間を確認するとしっかり2時間経っていた。《不眠》までの蓄積値もリセットされている。

 ということでしっかりクエスト追い込みの準備が出来たので、いざ本日2回目のギルドへ!


 いつもの作業机につくと何となく周りの視線が気になる……。

「忘れ物か?」
「いや、あれは作業をやる構えじゃないっすか?」
「え、正気……? さっき出てってから3時間も経ってないよな」
「まぁ、異人の活動時間と行動原理は摩訶不思議っすからねぇ」

 そうそう「異人だからそういうもん」ということで慣れて欲しい。

 あとは手帳にまとめた内容を白紙に清書するだけなので、サクッとやっていこう。

 やはり情報被りが多かったので、作る資料の方は大した量にはならなさそうだ。レベルの上がった《筆記》の力もあり、すごい勢いで清書が進む。


 そして、あっさり資料完成。

 うむ、達成感はそれなりにあるが、少し寂しいようなよく分からない感覚が……。
 ……備考で、完全な僕の私見メモも考察としてつけておくか。

 と、何だかんだ蛇足を加えている内に追加するものも無くなったところで、いよいよ提出する為にカーラかギルを探す。

 カーラが受付カウンターのところにいたので、応対をしていないのを見計らって声をかける。

「カーラ、依頼の資料が出来たから提出したいんだが」
「えっ、もうですか?!」
「ああ、なんとかもう少し出来ることが無いか考えたんだが、思いつかなくなったから一旦これで提出したい」
「あっ、むしろ先延ばしにされてたんですね……。はい、それではこちら預からせてください。ギルさんはまだ残ってると思うのですぐ確認してもらいますね」
「よろしく頼む」

 カーラに資料を預けると、確認に少し時間が欲しいとのことでその間どうしているか聞かれた。
 そうとなったら資料室のまだ読んでいない残りを読みに行くしかないな!

 資料室にいるから終わったら声をかけて欲しいと伝えると苦笑いで「不調になられる前には声かけますね」と言われてしまった。もう忘れて欲しい……。


 *


 感覚的にやや久しぶりの資料室!古い紙や本の匂いが美味いなぁ。

 丸2日飲まず食わずで資料室に籠っていた分とカウンター内にあった写本分を含めると、そう広くない資料室の資料は9割方読破している。

 あとは神話や寓話関連の資料と、誰かの備忘録だったり、日記のようなものだけだ。

 僕は本棚から数冊の資料を抜き取り適当なものを1冊開くと、ほどなくして読書に没頭したのだった。
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