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本編
11:扉ドン再び
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クエスト進行度がいつの間にか3倍ほどあがっていた。……技能レベルとAPレベル上昇だけでは説明がつかない。
むしろ手作業まとめを入れた分、最初の方より《分析》と《記録》のペースは落ち気味だったはずだ。
となると、進行度急上昇の原因は間違いなく手作業で行なっていたまとめ作業の方だろう。どこかで技能を介さない作業は評価に入らないと思い込んでいたのだが、そんなことは無かったらしい。
普通により有用なものを生み出せば評価されるということだろうか。
このアルストというゲーム、システムだからとか技能だけで何とかするとか思わずに行動した方が、上手くいくように出来ていそうだ。
ちなみに《筆記》という技能もいつの間にか得ていた。まとめ作業の行動から獲得出来たのだろう。
《筆記》
消費AP:-
書き記すアクションに対して、正確さとスピードが補正される。
常時発動。
新しい技能が出てきてもしばらくクエスト進行に使う技能セットで手いっぱいなんだよなぁと思いながら技能説明を読むと、何と《筆記》は消費APが無く、しかも常時発動のようだ。
ということは、手作業をしていた間のどこからか補正が入っていたんだろうか。全く気づかなかった。レベルが上がればもっと恩恵を感じられるのだろうか?
そんなこんな確認をしていたら、バッドステータスの足音がかなり近くまで近づいてきたので、今度こそギルドを出てローザの宿屋に向かう。
……うん、扉が開かない。
今度は押せば開くのは分かってるし、バッドステータスがついてない状態で体重をかけてるのに開かない。何でだ。
次は少し勢いをつけて体当たり気味に力をかけてみる。……開かない。そして肩が痛い。
でも少し扉が押し込まれた気配はあった。体当たりをあと2回くらい繰り返せば開くだろうと僕が身を引くと────。
バゴンッ
また唐突に、目の前の扉が開いた。
視界の端には先ほどまで無かった逞しい腕が伸びている。
背後を振り返ると、見覚えのある鉄兜が僕を見下ろしていた。
「…………」
無言だし表情も分からないはずなのだが「またかよ」と思われてるのがありありと分かる。不思議なことだ。
「……ありがとう。助かった」
何はともあれ、お礼はちゃんと言おう。そして、今度は速やかに中に入ろうと、そそくさと食堂に向かう。
と、ローザが出迎えてくれた。
「おや、アンタがお帰りだったかい。いつものデカい音だったから、てっきりムサい野郎共の誰かかと思ったよぉ」
「いや……、扉を開けられなくて困っていたらまた偶然この前の人に開けてもらえたんだ……」
「あらまぁ、この男にもそんな気遣い出来たんだねぇ。それにしてもごめんね。直しても直してもすぐイカれちまうもんだからさぁ」
「僕が貧弱だろうから、気にせず……」
僕とローザが言葉を交わしている脇を赤茶けた汚れだらけの鎧の男が通り抜けていく。前回も座っていたあたりに腰を下ろしていた。
「そうだ、今日はアンタもしっかり食えるんだろう?精のつくもん出してあげるから、好きなところに座んな!」
そう言うと、ローザは意気揚々と厨房へ向かったので、僕も何となく前回と同じ席についた。
食事を待っている間、手帳を開いてみる。そこにはさっきまで手書きでまとめていた内容がある、が。
「この世界の文字だなぁ……」
作業中はまとめることに夢中になっていてあまり意識していなかったのだが、手帳の手書きメモは現実の言葉ではなく、しっかりとこの世界の言葉になっていた。
勿論、注視すれば意味が分かる。
「……手書きなら日本語も書けるかな」
ちょっとした好奇心でペンを取り出して書き出してみる。
結果は、「すごく頑張れば書けなくもない」という感じだった。少しでも気を抜くと書きたいことをこの世界の文字で書き出してしまうので、長い文章だと文字がごちゃ混ぜになったりしている。
まぁ、とくに何も意識しなくてもこの世界で通じる文字を書き出せることの方が圧倒的にメリットが大きいので問題は無いのだが。
あとはそうだなぁ、このごちゃ混ぜ文字に《分析》を使ってみたらどうなるんだろうか?
そんな興味本位でごちゃ混ぜ文字を注視しながら《分析》を発動する。
すると、この世界の言語はさっきまで散々見ていた光の文字として浮かび、日本語は赤みがかった光を纏って同じように浮かび上がっていた。
……ここからどうしよう。まぁ、APはあるし手帳に《記録》でもするか。
〈これまでの行動から技能《言語知識》を獲得しました〉
「えっ」
一連の手慣れた動作の後、視界の端に技能入手の通知が来ていた。
《言語知識》
消費AP:-
未習得の言語の理解スピードが補正される。
常時発動。
これは嬉しい。これからもし読めない文字に出会っても、頑張れば読めるようになる可能性が上がりそうだ。
……嬉しいが、これを手に入れた行動がたまたま書いてみた日本語を《分析》したからというのが何とも裏ワザ感がある。
これは成立して良い裏ワザなんだろうか。
「ま、まぁ、行動ログは全て残されてるんだし、不味かったら運営がなんとかしてくれるだろう」
とりあえず運営に丸投げだ。
「お待たせ!ボア肉のトマト煮込みだよ」
「! ありがとう。美味しそうだ」
「さぁ、冷めない内に召し上がれ!」
ちょうど良いタイミングでローザが食事を運んできてくれた。今日は深い大皿に肉がゴロゴロと入った、中々豪快なメニューだった。
「いただきます」
食前の挨拶をしてから、早速ごろっとした肉の塊を口に運ぶ。
強い旨みと僅かな臭みが口の中に広がる。臭みも不味いとかはではなく、むしろ煮込みの味付けと合わさると何ともクセになるような味わいだった。
……そして何より、今日の食事も温かい。
自然と頬が綻ぶ。
「ふふっ、美味しそうに食べてくれるじゃないか。作った甲斐があるってもんだよ」
「味が優しくてすごく美味しい」
「嬉しいことを言ってくれるねぇ。ほら、ホットミルクを飲んだら上で休むんだよ」
「ありがとう、そうする」
食後の絶妙なタイミングで出してくれたホットミルクを飲みながら、少し手帳のメモを流し読みした後、昨日泊まった部屋に戻った。
連続ログイン上限リセットの為に少しだけログアウトもしようと、僕は目を閉じた。
むしろ手作業まとめを入れた分、最初の方より《分析》と《記録》のペースは落ち気味だったはずだ。
となると、進行度急上昇の原因は間違いなく手作業で行なっていたまとめ作業の方だろう。どこかで技能を介さない作業は評価に入らないと思い込んでいたのだが、そんなことは無かったらしい。
普通により有用なものを生み出せば評価されるということだろうか。
このアルストというゲーム、システムだからとか技能だけで何とかするとか思わずに行動した方が、上手くいくように出来ていそうだ。
ちなみに《筆記》という技能もいつの間にか得ていた。まとめ作業の行動から獲得出来たのだろう。
《筆記》
消費AP:-
書き記すアクションに対して、正確さとスピードが補正される。
常時発動。
新しい技能が出てきてもしばらくクエスト進行に使う技能セットで手いっぱいなんだよなぁと思いながら技能説明を読むと、何と《筆記》は消費APが無く、しかも常時発動のようだ。
ということは、手作業をしていた間のどこからか補正が入っていたんだろうか。全く気づかなかった。レベルが上がればもっと恩恵を感じられるのだろうか?
そんなこんな確認をしていたら、バッドステータスの足音がかなり近くまで近づいてきたので、今度こそギルドを出てローザの宿屋に向かう。
……うん、扉が開かない。
今度は押せば開くのは分かってるし、バッドステータスがついてない状態で体重をかけてるのに開かない。何でだ。
次は少し勢いをつけて体当たり気味に力をかけてみる。……開かない。そして肩が痛い。
でも少し扉が押し込まれた気配はあった。体当たりをあと2回くらい繰り返せば開くだろうと僕が身を引くと────。
バゴンッ
また唐突に、目の前の扉が開いた。
視界の端には先ほどまで無かった逞しい腕が伸びている。
背後を振り返ると、見覚えのある鉄兜が僕を見下ろしていた。
「…………」
無言だし表情も分からないはずなのだが「またかよ」と思われてるのがありありと分かる。不思議なことだ。
「……ありがとう。助かった」
何はともあれ、お礼はちゃんと言おう。そして、今度は速やかに中に入ろうと、そそくさと食堂に向かう。
と、ローザが出迎えてくれた。
「おや、アンタがお帰りだったかい。いつものデカい音だったから、てっきりムサい野郎共の誰かかと思ったよぉ」
「いや……、扉を開けられなくて困っていたらまた偶然この前の人に開けてもらえたんだ……」
「あらまぁ、この男にもそんな気遣い出来たんだねぇ。それにしてもごめんね。直しても直してもすぐイカれちまうもんだからさぁ」
「僕が貧弱だろうから、気にせず……」
僕とローザが言葉を交わしている脇を赤茶けた汚れだらけの鎧の男が通り抜けていく。前回も座っていたあたりに腰を下ろしていた。
「そうだ、今日はアンタもしっかり食えるんだろう?精のつくもん出してあげるから、好きなところに座んな!」
そう言うと、ローザは意気揚々と厨房へ向かったので、僕も何となく前回と同じ席についた。
食事を待っている間、手帳を開いてみる。そこにはさっきまで手書きでまとめていた内容がある、が。
「この世界の文字だなぁ……」
作業中はまとめることに夢中になっていてあまり意識していなかったのだが、手帳の手書きメモは現実の言葉ではなく、しっかりとこの世界の言葉になっていた。
勿論、注視すれば意味が分かる。
「……手書きなら日本語も書けるかな」
ちょっとした好奇心でペンを取り出して書き出してみる。
結果は、「すごく頑張れば書けなくもない」という感じだった。少しでも気を抜くと書きたいことをこの世界の文字で書き出してしまうので、長い文章だと文字がごちゃ混ぜになったりしている。
まぁ、とくに何も意識しなくてもこの世界で通じる文字を書き出せることの方が圧倒的にメリットが大きいので問題は無いのだが。
あとはそうだなぁ、このごちゃ混ぜ文字に《分析》を使ってみたらどうなるんだろうか?
そんな興味本位でごちゃ混ぜ文字を注視しながら《分析》を発動する。
すると、この世界の言語はさっきまで散々見ていた光の文字として浮かび、日本語は赤みがかった光を纏って同じように浮かび上がっていた。
……ここからどうしよう。まぁ、APはあるし手帳に《記録》でもするか。
〈これまでの行動から技能《言語知識》を獲得しました〉
「えっ」
一連の手慣れた動作の後、視界の端に技能入手の通知が来ていた。
《言語知識》
消費AP:-
未習得の言語の理解スピードが補正される。
常時発動。
これは嬉しい。これからもし読めない文字に出会っても、頑張れば読めるようになる可能性が上がりそうだ。
……嬉しいが、これを手に入れた行動がたまたま書いてみた日本語を《分析》したからというのが何とも裏ワザ感がある。
これは成立して良い裏ワザなんだろうか。
「ま、まぁ、行動ログは全て残されてるんだし、不味かったら運営がなんとかしてくれるだろう」
とりあえず運営に丸投げだ。
「お待たせ!ボア肉のトマト煮込みだよ」
「! ありがとう。美味しそうだ」
「さぁ、冷めない内に召し上がれ!」
ちょうど良いタイミングでローザが食事を運んできてくれた。今日は深い大皿に肉がゴロゴロと入った、中々豪快なメニューだった。
「いただきます」
食前の挨拶をしてから、早速ごろっとした肉の塊を口に運ぶ。
強い旨みと僅かな臭みが口の中に広がる。臭みも不味いとかはではなく、むしろ煮込みの味付けと合わさると何ともクセになるような味わいだった。
……そして何より、今日の食事も温かい。
自然と頬が綻ぶ。
「ふふっ、美味しそうに食べてくれるじゃないか。作った甲斐があるってもんだよ」
「味が優しくてすごく美味しい」
「嬉しいことを言ってくれるねぇ。ほら、ホットミルクを飲んだら上で休むんだよ」
「ありがとう、そうする」
食後の絶妙なタイミングで出してくれたホットミルクを飲みながら、少し手帳のメモを流し読みした後、昨日泊まった部屋に戻った。
連続ログイン上限リセットの為に少しだけログアウトもしようと、僕は目を閉じた。
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