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本編
10:ギルドでバイト(注:クエスト)
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「追加の白紙はその辺りにいる職員に聞けば出してくれるから。提出はカーラか私に声をかけてくれ」
「分かった」
「じゃあ、よろしくね。んあーーー! トウノ君のおかげでやっと寝れるよーーー!」
その他、必要な消耗品や相談先を僕に伝え終わったギルは、細長い体をさらに細長くするように伸びをした。ちょっとナナフシみたいと思ったのはここだけの話として……。
発言から少なくとも1日は徹夜をしていることが窺える。ステータスが見れたならギルも《不眠》がついている状態だったのかもしれない。
僕は先程までギルが座っていた椅子に腰掛け、まずは紙束の山が崩れないように軽く整理をし始める。
「あ、サブマス。仮眠明けたらこっち手伝って欲しいっす」
「…………うん、分かったぁ……」
遠くの方でそんな会話が聞こえた。ギルの仮眠明けの予定は速やかに埋まったらしい。カーラ以外にも鮮やかな手腕の職員がいるようだ。
……正社員の過労姿を見ているだけで、何もできない居心地の悪いバイトとはこのような気分なのだろうか。
ギルの哀れな馬車馬感は一旦横に置いておいて、そういえば技能を使うのに何らかのゲージを消費するんだろうか?
色々視線操作で試行錯誤した結果、各技能をさらに注視するとその技能の詳細が分かった。
《分析》
消費AP:2
そのものの事柄、性質、構成要素などを明らかにする
《記録》
消費AP:2
明らかになった事柄、性質、構成要素などを書き記す
この説明を読む限り、《記録》は《分析》で出た結果を残す専用の技能のように思える。
AP(アクションポイント)は、技能を発動するのに必要なステータスだ。魔法はMP(マジックポイント)を必要とする。
視界の隅にあるゲージがそれぞれLP、スタミナ、MP、APのようだ。
その他折り畳まれていたが、空腹度や連続活動時間など、健康管理アプリか?というほどの機能があった。
……空腹と連続活動時間は表に出しておこう。
確認に手間取ったが、早速初バイト……ではなく、クエストをこなしていこうと、ある程度整理した紙束の一つを掴んだ。
進行度:13%
これが半日取り組んだ成果である。
もっとサクサク余裕を持って進められるかと思ったのだが、思わぬ落とし穴があった。それは────。
圧倒的AP不足。そして、現状のAP回復手段が時間経過しか無いことだった。
回復手段が乏しいこともあって、回復速度はスタミナの次くらいに早く、普通はそう困らないのだろうが……。
期限は7日。ログイン調整をして実質5日でこれを達成出来るかは中々ギリギリのラインだ。
技能レベルアップとその際の成長ポイントを全てAPの上限アップに注ぎ込めば何とかなるだろうか。
ちなみに、サクサク技能レベルは上がっているし、成長ポイントは得た端からAP上限アップに使っている。
「レベルアップによる作業速度上限に期待すべきか、他に効率的な方法が無いか模索すべきか……」
今はちょうどAP回復の待ち時間なので、他に効率的な方法が無いかと考えていたところで、ふと、自分の手が持ち上がり《記録》使用済みの資料へ伸びる。
………………ああ、手持ち無沙汰な時はほとんど読書をしているので、体が勝手に……。確かにこの作業中は文字に囲まれてはいたが、腰を据えてちゃんと読書はしていなかった。
自分の体の動きに抗わずに、作成した資料にさらっと目を通す。資料を作成する過程で文書を目にはしていたが、何だかんだ技能を使うことに気を取られてあまり読むという行為をしている感覚は無かった。
それに、何だかんだで不特定多数から上がってきた情報が煩雑に集まっているだけなので、結構被っている情報があるのだ。被っているものを統合して記載するだけでも大分スッキリと読みやすくなるだろうに。
「というか、そうした方がいいのか?」
《分析》は《記録》しないと残らない為、作業は続けないといけないが、被っている情報をまとめるくらいは紙とペンさえあれば技能など使わずに手作業でやればいい。
紙は《記録》用の紙があるから、ペンは……ギルドの人に聞いて借りるか?
……いや、持ってたわ。何か無いかと自分の持ち物一覧を眺めていたら、あった。何なら装備されていた。胸元の専用っぽいホルダーに羽根ペンが収まってたし、腰にインク壺と革のカバーがかかった大きめの手帳もあった。
ずっとそこにいたのかお前たち……。
おそらく絶対、下級編纂士見習いの初期装備だ。ちなみに申し訳程度にナイフも持っている。ロープを切ったり、木を削る用だろうか。戦闘に使うイメージは全く出来ない。
とにかく、必要な道具が全て揃っていたのであれば話は早い。早速とりかかろうと手帳を開く。
なんとなく、手帳を持ってるのにギルドの備品を消費するのは何となく抵抗があった為、白紙を使うのは清書をする時だけにした。
情報の取り扱いに問題があるならば、メモは使ったあと処分すれば良いだろう。
「ふーむ、町近郊の魔物情報がかなり多くて被り倒してるな。まぁ、RPGの醍醐味と言えば魔物とのバトルか」
魔物情報は被りが多いが、まとめていくと方角によって特色が出ているのが分かる。資料室に篭っている時に読んだ、ユヌ近郊の分布情報と重なる部分が多い。
魔物情報に比べると少ないが、町内部の生産関連やトラブル解決の情報もあって町で起こった出来事を知ることが出来て中々面白い。
僕がギルド内で本の虫になったり、行き倒れそうになったりしていたように、他のプレイヤーにも色んなことが起きていたようだ。
そんなことをぼんやり考えながら、僕は時々溜まったAPを消費しつつ、ゲームをやっているとは思えない地道なまとめ作業に没頭したのだった。
それからさらに半日が経とうとした頃、また夜明け前の時間帯になっていた。まだ大丈夫だが、あといくらかすればバッドステータスも付いてしまいそうなので一旦作業は中断して宿に戻ることにしよう。
最後に今どのくらいの進行度になっただろうかとクエストページを開く。
進行度:48%
…………んん?
「分かった」
「じゃあ、よろしくね。んあーーー! トウノ君のおかげでやっと寝れるよーーー!」
その他、必要な消耗品や相談先を僕に伝え終わったギルは、細長い体をさらに細長くするように伸びをした。ちょっとナナフシみたいと思ったのはここだけの話として……。
発言から少なくとも1日は徹夜をしていることが窺える。ステータスが見れたならギルも《不眠》がついている状態だったのかもしれない。
僕は先程までギルが座っていた椅子に腰掛け、まずは紙束の山が崩れないように軽く整理をし始める。
「あ、サブマス。仮眠明けたらこっち手伝って欲しいっす」
「…………うん、分かったぁ……」
遠くの方でそんな会話が聞こえた。ギルの仮眠明けの予定は速やかに埋まったらしい。カーラ以外にも鮮やかな手腕の職員がいるようだ。
……正社員の過労姿を見ているだけで、何もできない居心地の悪いバイトとはこのような気分なのだろうか。
ギルの哀れな馬車馬感は一旦横に置いておいて、そういえば技能を使うのに何らかのゲージを消費するんだろうか?
色々視線操作で試行錯誤した結果、各技能をさらに注視するとその技能の詳細が分かった。
《分析》
消費AP:2
そのものの事柄、性質、構成要素などを明らかにする
《記録》
消費AP:2
明らかになった事柄、性質、構成要素などを書き記す
この説明を読む限り、《記録》は《分析》で出た結果を残す専用の技能のように思える。
AP(アクションポイント)は、技能を発動するのに必要なステータスだ。魔法はMP(マジックポイント)を必要とする。
視界の隅にあるゲージがそれぞれLP、スタミナ、MP、APのようだ。
その他折り畳まれていたが、空腹度や連続活動時間など、健康管理アプリか?というほどの機能があった。
……空腹と連続活動時間は表に出しておこう。
確認に手間取ったが、早速初バイト……ではなく、クエストをこなしていこうと、ある程度整理した紙束の一つを掴んだ。
進行度:13%
これが半日取り組んだ成果である。
もっとサクサク余裕を持って進められるかと思ったのだが、思わぬ落とし穴があった。それは────。
圧倒的AP不足。そして、現状のAP回復手段が時間経過しか無いことだった。
回復手段が乏しいこともあって、回復速度はスタミナの次くらいに早く、普通はそう困らないのだろうが……。
期限は7日。ログイン調整をして実質5日でこれを達成出来るかは中々ギリギリのラインだ。
技能レベルアップとその際の成長ポイントを全てAPの上限アップに注ぎ込めば何とかなるだろうか。
ちなみに、サクサク技能レベルは上がっているし、成長ポイントは得た端からAP上限アップに使っている。
「レベルアップによる作業速度上限に期待すべきか、他に効率的な方法が無いか模索すべきか……」
今はちょうどAP回復の待ち時間なので、他に効率的な方法が無いかと考えていたところで、ふと、自分の手が持ち上がり《記録》使用済みの資料へ伸びる。
………………ああ、手持ち無沙汰な時はほとんど読書をしているので、体が勝手に……。確かにこの作業中は文字に囲まれてはいたが、腰を据えてちゃんと読書はしていなかった。
自分の体の動きに抗わずに、作成した資料にさらっと目を通す。資料を作成する過程で文書を目にはしていたが、何だかんだ技能を使うことに気を取られてあまり読むという行為をしている感覚は無かった。
それに、何だかんだで不特定多数から上がってきた情報が煩雑に集まっているだけなので、結構被っている情報があるのだ。被っているものを統合して記載するだけでも大分スッキリと読みやすくなるだろうに。
「というか、そうした方がいいのか?」
《分析》は《記録》しないと残らない為、作業は続けないといけないが、被っている情報をまとめるくらいは紙とペンさえあれば技能など使わずに手作業でやればいい。
紙は《記録》用の紙があるから、ペンは……ギルドの人に聞いて借りるか?
……いや、持ってたわ。何か無いかと自分の持ち物一覧を眺めていたら、あった。何なら装備されていた。胸元の専用っぽいホルダーに羽根ペンが収まってたし、腰にインク壺と革のカバーがかかった大きめの手帳もあった。
ずっとそこにいたのかお前たち……。
おそらく絶対、下級編纂士見習いの初期装備だ。ちなみに申し訳程度にナイフも持っている。ロープを切ったり、木を削る用だろうか。戦闘に使うイメージは全く出来ない。
とにかく、必要な道具が全て揃っていたのであれば話は早い。早速とりかかろうと手帳を開く。
なんとなく、手帳を持ってるのにギルドの備品を消費するのは何となく抵抗があった為、白紙を使うのは清書をする時だけにした。
情報の取り扱いに問題があるならば、メモは使ったあと処分すれば良いだろう。
「ふーむ、町近郊の魔物情報がかなり多くて被り倒してるな。まぁ、RPGの醍醐味と言えば魔物とのバトルか」
魔物情報は被りが多いが、まとめていくと方角によって特色が出ているのが分かる。資料室に篭っている時に読んだ、ユヌ近郊の分布情報と重なる部分が多い。
魔物情報に比べると少ないが、町内部の生産関連やトラブル解決の情報もあって町で起こった出来事を知ることが出来て中々面白い。
僕がギルド内で本の虫になったり、行き倒れそうになったりしていたように、他のプレイヤーにも色んなことが起きていたようだ。
そんなことをぼんやり考えながら、僕は時々溜まったAPを消費しつつ、ゲームをやっているとは思えない地道なまとめ作業に没頭したのだった。
それからさらに半日が経とうとした頃、また夜明け前の時間帯になっていた。まだ大丈夫だが、あといくらかすればバッドステータスも付いてしまいそうなので一旦作業は中断して宿に戻ることにしよう。
最後に今どのくらいの進行度になっただろうかとクエストページを開く。
進行度:48%
…………んん?
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