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本編

07:バッドステータスと異人の眠り

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 食事を済ませた後は、女将さんに案内されて空き部屋に通された。

 中は意外と広いが、デカいベッドが部屋の半分くらいを占めていて、残りは小ぢんまりとした机と椅子が置いてあるだけの簡素な部屋だった。
 パッと見ても掃除はされているし、布団も清潔そうでこの宿屋に流れる何処か安心する空気感のある部屋だな、と思った。

 女将さんは「狭くてごめんねぇ」などと笑っていたが、充分な広さだと思う。というか、ベッドはもう半分くらい小さくても充分なくらいだ。

 ……まぁ、あの鎧の男くらい大きかったらこのベッドで寝返りも打てるピッタリくらいなのだろう。

 流石にこの体の体力の限界と現実の強制入眠時間が迫っている為、さっさと布団に潜ってログアウトをした。

 こうして、僕のアルストプレイ1日目は幕を閉じた────。


 *


 次の日、僕はゲームにログインする前にサーチエンジンでアルストについて調べてみることにした。

 既に、大手攻略サイトのいくつかが我先にと攻略情報をアップしていた。僕がギルドの資料室で行き倒れる寸前まで読書に没頭している間に、次の町へ進出したプレイヤーもいるようだ。

 それが、早いことなのか普通のことなのかはよく分からないのだが。

 現在判明している職業一覧も見てみた。予想はしていたが、僕の職業は記載されていなかった。まぁ、こういうものは自己申告だろうから、まだまだ網羅はこれからなのだろう。

 技能一覧の方は《分析》だけ載っていた。どうやら「◯◯学者見習い」という職業に就くと、デフォルトで付く技能のようだ。「◯◯学」は植物学に鉱物学、動物学など色々あるらしい。その職業の人には是非それぞれの分野を究めてもらって、研究成果を文書に残した暁には僕に読ませて欲しい。

 《記録》も学者系の職業に付きそうなものだが、無かったのだろうか?まぁ、その内プレイ行動から嫌でも習得出来そうだし、些細なことだろう。

 そして、昨日僕についたバッドステータスの《空腹》と《不眠》についても調べてみた。

 《空腹》はスタミナ回復量が減り、徐々にライフポイント、LPを侵食し始める、まではヘルプにもあったと記憶している。
 どうやら放っておくとそのままLPがゼロになってお亡くなりになるらしい。体の操作も重りがついたように鈍くなるようだ。

 ……死ぬまで待ってみたのか。経験した身からすれば、もしレーティングや設定周りを全解放していてあの飢餓感を味わうのは中々ツラいものがあると思う。これがライトノベルでもよく見る検証班の執念か……。頭が下がる。

 《空腹》の解消方法は単純で満腹度の数値がプラスになるまで食べ物を食べることだ。

 次に《不眠》だが、こちらはゲーム時間内で15時間以上眠らずにいると蓄積が始まり、LPの回復量が減り、時間経過に従って視界の歪みや狭まりといった症状が出始める。やがて体のコントロールが効かなくなり、最終的には《錯乱》や《幻覚》などの状態異常がランダムで発生し始める。
 解除しても《不眠》を解消しない限りすぐに発生してしまうようだ。

 解消方法はログアウトで寝るか、〈睡眠〉コマンドでこの世界で2時間ほど眠ったことにすることで解消するらしい。意外とお手軽だ。
 ただ、ログアウトでは無い為、1日の連続ログイン上限まで使い切った後には必ず現実で6時間空けないと再度ログイン出来ない。

 プレイヤーの連続ログイン上限的に3日の徹夜が限界でこれ以上《不眠》を続けるとどうなるのかは、今のところ検証する術が無いそうだ。

 ……普通に死ぬんじゃないだろうか?状態異常の内容が妙にリアルだし。

 ちなみに、バッドステータスと状態異常は別物のようだ。バッドステータスは他には《欠損》などがあるらしく、こうして見ると体の不調の状態を表しているように思える。

 僕の《不眠》は状態異常が発生するほどでは無かったようだが、流石にこれからは集中しすぎてしまいそうな時はアラームをかけるようにしようと思う。サポートAIにもなるべく死なない方が良いって言われてるし。

 何より、この仮想空間でも容易に味わえなかった、食事の美味しさ、温かさをもっと得てみたい。

 さて、一通り攻略サイト巡りも終えたので、そろそろログインしよう。


 *


 昨夜泊まった宿屋の一室で目を覚ます。
 ログアウト前のダルさや視界不良が嘘のようにクリアな視界と身体感覚。
 気分爽快とはこのことだろう。現在はログアウトから1日半をやや過ぎた頃だろうか。昼と夕方の間の所謂おやつ時のような時間帯だ。

 僕はまず行動ログを確認してみた。……《空腹》によって、LPが半分くらい減っていた。本当に気をつけよう。また、宿屋での宿泊と食事のチュートリアルクエストをクリアしていたので、さらっと内容と報酬を確認してログを閉じた。

 ほとんど必要の無い身支度をして1階の食堂に降りると、女将さんが食堂内の清掃をしているところだった。

「おはようございます」
「おはよう! よく寝てたねぇ、しっかり休めたかい?」
「はい、お陰様で」
「今は夕食の仕込み時でパンとミルクくらいしか出せないんだけど、どうする?」
「それで充分です。いただきます」
「はいよ、好きなところ座ってちょっと待ってな」

 女将さんは夜明け前でもおやつ時でも変わらず朗らかに対応してくれた。1番困る時間帯だろうに、嫌な顔ひとつせずに食事を用意してくれるなんてとても良い人だ。

「はい、パンとホットミルク。アンタが1日経っても起きて来ないもんだから随分心配したんだけど、大通りで異人を泊めてる仲間に聞いたら、異人の眠りってのはそんなもんなんだってねぇ。慣れてないから慌てちまったよぉ!」
「ご心配おかけしました……。そうですね、2日ほどはほとんど休まず活動出来ますが、その後一度深く眠ると1,2日かそれ以上起きないこともあるかもしれません」
「はぁー、同じ人種族に見えてやっぱり色々違うんだねぇ」

 こちらの世界と現実の時差のせいで、女将さんにいらぬ心配をかけてしまっていたようで申し訳ない。だが、プレイヤーを相手に商売をしている人は早くも「そういうもん」扱いで順応しているようだ。逞しい。

 清掃に戻った女将さんを見送りながら、パンを齧ってホットミルクで喉を潤す。


 うん、今日の食事も温かくて美味しい。
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