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本編
03:ヘルプも熟読
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――――――――――――
名前:トウノ
年齢:18
性別:男
種族:只人族
職業:下級編纂士見習い
技能:《分析》《記録》
――――――――――――
種族は只人族らしい。見慣れない言葉だが、公式サイトの説明によると所謂普通の人間だ。他はファンタジーお馴染みのエルフやドワーフなど色々あった。これはアバターの使用感の変化が少なそうなのでありがたい。
ただ……、「下級編纂士見習い」とは?
まず下級に見習い……。まぁ、ペーペーということなんだろう……。
そして職業の主な内容を示しているのは「編纂士」なのだろうと推測出来るが、ファンタジー職業としては聞き慣れない、気がする。「編纂」の意味から言って、そのうち僕が現存する書物の内容を取捨選択して整理した内容を出版出来るようになるのだろうか?
出版にはそれほど関心は無いのだが(勿論書籍を生み出してくれるので、毎日尊敬と謝意を捧げている)、その過程で様々な読み物に触れられそうな雰囲気を感じるので悪くはない。
「下級編纂士見習い、ですか。この世界にあるのかは分からないですが、司書などをオススメされるのかと思っていました」
「ああ、司書という職業もあるよ! 司書は領主や国に雇われてその図書館の管理は出来るけど、雇われだからあまり融通が効かなくて、トウノの望むプレイスタイルなら編纂士かなって思ってね。編纂士はギルド連盟の領分だし、ギルドに協力する必要はあるけど、強制でも無ければ1つの地域に縛られる必要もない。連盟加入ギルドは世界各地にあるから君にはこちらの方がうってつけだろう?」
「……なるほど。そういうことなら編纂士の方が良いかもですね」
サポートAIの意外にも分かりやすく丁寧な説明に納得した。確かに、その職業の雇用者がどこの誰かというのは重要だ。それがそのまま所属になり、被雇用者の立場ではその場のルールに従うのが義務だ。
公式サイトでも大まかな国や領土の勢力図、ギルド連盟についても説明がされていたが、あまりしがらみに囚われずに冒険したい場合は職業に合ったいずれかのギルドに加入した方が良いと勧められていた。まぁ、プレイヤーは大体自由に冒険がしたいだろうしな。
僕は別に冒険がしたいわけでは無いが、人の生活圏外の場所にも読み物があるだろうから、いくらかは冒険なり探索なりをしないといけないんだろうな。
「ちなみに技能の《分析》と《記録》というのは、職業専門クエストを達成するのに最低限必要な技能になっているよ。たくさん使えば使うほど技能が成長して出来ることが増えるから積極的に使ってね」
……サポートAIに色々察されてしまったのか、次の質問をする前に解説が入った。大変ありがたいが。
「技能は成長もするし、その結果より上位の技能に変化することもある。転職をしたり、技能書を手に入れたり、トウノ自身の行動によって全く新しい技能を手に入れることも出来るから色々試してみると良いよ」
「ふぅむ、現実の経験により習得する技術のようなものに明確に名前がついている、と捉えるといいのでしょうか?」
「そんな感じ!」
プレイヤーの行動さえも全て記録して技能の習熟度を把握して管理できるとは、やはり変態の所業では?……賞賛の意味で。
職業についても、所属の機関などに実績を認められて様々な方法で上位職や変わった職業につけるらしい。
「あと私からのアドバイスとしては、トウノの望むプレイスタイルの追求と君の職業を磨くことをオススメするよ。まぁ、強制では全く無いけどね」
「それは、もちろん。僕のしたいことですし。それに合っていると言われた職業なので、そうします」
読書に関しては、オススメされようがされなかろうが、誰に止められても強行する構えなので安心して欲しい。
「うんうん、素直でよろしい! あとはそうだなぁ、この世界の交流可能な者達とはトウノが知人や友人に接するのと同じように接して欲しいかな。それと、これはゲームだから君達プレイヤーは死んでもチェックポイントで復活出来るけど、君のプレイスタイル的にはあまり死に戻りはしない方が良いかな」
「……はい、分かり、ました。気をつけます」
「うん、でも楽しむのが一番だから、トウノだけの楽しさを追求してみてよ!」
そう言うとサポートAIは口だけしか見えないのにも関わらず、ニッカリと笑って見せた。
……うん、最後のアドバイスは、何かの伏線感がすごい。全員では無いようだが、僕のしたいプレイスタイルではあまり死なない方が良いらしい。死に戻り回数でも何かの分岐が発生することを匂わせられたのだろうか?
いや、ゲーム内のあらゆる行動全てがその後の世界や自分自身の行先に影響し得るということを言いたいのかもしれない。
公式サイトにもその示唆はあったが、プレイヤーが考えているよりもずっと「本気」ということだろう。ちなみに死に戻り回数による分岐の記載は無かったと思う。
「あとは最後に細々としたチェックが残ってるんだけど、私のオススメ設定で良いかな? トウノは18歳以上のようだから、R-18とR-18Gにするのがオススメなんだけど、グロとか平気?」
「グロは平気ですが……、レーティングは上限いっぱいの方が良いんですか?」
「うーん、レーティングを低くすると、どうしても世界への没入感がいくらか損なわれてしまうんだよね。膜を何枚か重ねたみたいになっちゃって。どうしても合わなかったら後でいくらでも変更出来るからさ。一旦私のオススメ設定でやってみない?」
「……なるほど。あとで変更出来るならそれで大丈夫です」
「了解!」
そう言って確認の為にオススメ設定されたウィンドウが出現したので、目を通していく。
表現のレーティングも痛覚設定も上限いっぱいになっていた。……痛覚設定なんてものもあるのか。まぁ、攻撃されたとして、上限いっぱいが本物の痛みなわけでは無いだろうし、これは一回経験してみてから判断しよう。
あとは接触範囲設定は「PC」と「NPC」の項目があり、「PC」は若干制限されていたが、「NPC」は全開放だった。……なぜに?
「はい! これで細かい設定も全部おしまい! あとは世界に飛び込むだけだ! 準備は良いかな?」
「あ、ちょっと待ってください」
「ん?どうしたんだい」
さっきの設定画面の隅のタブにあるものを見つけてしまったのだ。まだ、世界へ飛び込むわけにはいかない。
「ヘルプを一通り読むんで、読み終わったら飛び込みます」
「えっ……、ぶっ、あっはっはっは! っげほ、ゴホ、ひーーーーっ!」
一瞬キョトンとした後、腹を抱えて笑い出したサポートAIの笑い声をBGMに、僕はヘルプを端から端まで読み進めた。いつでも読めるのは分かっているが、世界に飛び込んだらそこにも新たな読み物があるはずだ。それならここで読めるものは読んでしまった方が良い。
「トウノ、君ほんとサイコーーーー!!」
名前:トウノ
年齢:18
性別:男
種族:只人族
職業:下級編纂士見習い
技能:《分析》《記録》
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種族は只人族らしい。見慣れない言葉だが、公式サイトの説明によると所謂普通の人間だ。他はファンタジーお馴染みのエルフやドワーフなど色々あった。これはアバターの使用感の変化が少なそうなのでありがたい。
ただ……、「下級編纂士見習い」とは?
まず下級に見習い……。まぁ、ペーペーということなんだろう……。
そして職業の主な内容を示しているのは「編纂士」なのだろうと推測出来るが、ファンタジー職業としては聞き慣れない、気がする。「編纂」の意味から言って、そのうち僕が現存する書物の内容を取捨選択して整理した内容を出版出来るようになるのだろうか?
出版にはそれほど関心は無いのだが(勿論書籍を生み出してくれるので、毎日尊敬と謝意を捧げている)、その過程で様々な読み物に触れられそうな雰囲気を感じるので悪くはない。
「下級編纂士見習い、ですか。この世界にあるのかは分からないですが、司書などをオススメされるのかと思っていました」
「ああ、司書という職業もあるよ! 司書は領主や国に雇われてその図書館の管理は出来るけど、雇われだからあまり融通が効かなくて、トウノの望むプレイスタイルなら編纂士かなって思ってね。編纂士はギルド連盟の領分だし、ギルドに協力する必要はあるけど、強制でも無ければ1つの地域に縛られる必要もない。連盟加入ギルドは世界各地にあるから君にはこちらの方がうってつけだろう?」
「……なるほど。そういうことなら編纂士の方が良いかもですね」
サポートAIの意外にも分かりやすく丁寧な説明に納得した。確かに、その職業の雇用者がどこの誰かというのは重要だ。それがそのまま所属になり、被雇用者の立場ではその場のルールに従うのが義務だ。
公式サイトでも大まかな国や領土の勢力図、ギルド連盟についても説明がされていたが、あまりしがらみに囚われずに冒険したい場合は職業に合ったいずれかのギルドに加入した方が良いと勧められていた。まぁ、プレイヤーは大体自由に冒険がしたいだろうしな。
僕は別に冒険がしたいわけでは無いが、人の生活圏外の場所にも読み物があるだろうから、いくらかは冒険なり探索なりをしないといけないんだろうな。
「ちなみに技能の《分析》と《記録》というのは、職業専門クエストを達成するのに最低限必要な技能になっているよ。たくさん使えば使うほど技能が成長して出来ることが増えるから積極的に使ってね」
……サポートAIに色々察されてしまったのか、次の質問をする前に解説が入った。大変ありがたいが。
「技能は成長もするし、その結果より上位の技能に変化することもある。転職をしたり、技能書を手に入れたり、トウノ自身の行動によって全く新しい技能を手に入れることも出来るから色々試してみると良いよ」
「ふぅむ、現実の経験により習得する技術のようなものに明確に名前がついている、と捉えるといいのでしょうか?」
「そんな感じ!」
プレイヤーの行動さえも全て記録して技能の習熟度を把握して管理できるとは、やはり変態の所業では?……賞賛の意味で。
職業についても、所属の機関などに実績を認められて様々な方法で上位職や変わった職業につけるらしい。
「あと私からのアドバイスとしては、トウノの望むプレイスタイルの追求と君の職業を磨くことをオススメするよ。まぁ、強制では全く無いけどね」
「それは、もちろん。僕のしたいことですし。それに合っていると言われた職業なので、そうします」
読書に関しては、オススメされようがされなかろうが、誰に止められても強行する構えなので安心して欲しい。
「うんうん、素直でよろしい! あとはそうだなぁ、この世界の交流可能な者達とはトウノが知人や友人に接するのと同じように接して欲しいかな。それと、これはゲームだから君達プレイヤーは死んでもチェックポイントで復活出来るけど、君のプレイスタイル的にはあまり死に戻りはしない方が良いかな」
「……はい、分かり、ました。気をつけます」
「うん、でも楽しむのが一番だから、トウノだけの楽しさを追求してみてよ!」
そう言うとサポートAIは口だけしか見えないのにも関わらず、ニッカリと笑って見せた。
……うん、最後のアドバイスは、何かの伏線感がすごい。全員では無いようだが、僕のしたいプレイスタイルではあまり死なない方が良いらしい。死に戻り回数でも何かの分岐が発生することを匂わせられたのだろうか?
いや、ゲーム内のあらゆる行動全てがその後の世界や自分自身の行先に影響し得るということを言いたいのかもしれない。
公式サイトにもその示唆はあったが、プレイヤーが考えているよりもずっと「本気」ということだろう。ちなみに死に戻り回数による分岐の記載は無かったと思う。
「あとは最後に細々としたチェックが残ってるんだけど、私のオススメ設定で良いかな? トウノは18歳以上のようだから、R-18とR-18Gにするのがオススメなんだけど、グロとか平気?」
「グロは平気ですが……、レーティングは上限いっぱいの方が良いんですか?」
「うーん、レーティングを低くすると、どうしても世界への没入感がいくらか損なわれてしまうんだよね。膜を何枚か重ねたみたいになっちゃって。どうしても合わなかったら後でいくらでも変更出来るからさ。一旦私のオススメ設定でやってみない?」
「……なるほど。あとで変更出来るならそれで大丈夫です」
「了解!」
そう言って確認の為にオススメ設定されたウィンドウが出現したので、目を通していく。
表現のレーティングも痛覚設定も上限いっぱいになっていた。……痛覚設定なんてものもあるのか。まぁ、攻撃されたとして、上限いっぱいが本物の痛みなわけでは無いだろうし、これは一回経験してみてから判断しよう。
あとは接触範囲設定は「PC」と「NPC」の項目があり、「PC」は若干制限されていたが、「NPC」は全開放だった。……なぜに?
「はい! これで細かい設定も全部おしまい! あとは世界に飛び込むだけだ! 準備は良いかな?」
「あ、ちょっと待ってください」
「ん?どうしたんだい」
さっきの設定画面の隅のタブにあるものを見つけてしまったのだ。まだ、世界へ飛び込むわけにはいかない。
「ヘルプを一通り読むんで、読み終わったら飛び込みます」
「えっ……、ぶっ、あっはっはっは! っげほ、ゴホ、ひーーーーっ!」
一瞬キョトンとした後、腹を抱えて笑い出したサポートAIの笑い声をBGMに、僕はヘルプを端から端まで読み進めた。いつでも読めるのは分かっているが、世界に飛び込んだらそこにも新たな読み物があるはずだ。それならここで読めるものは読んでしまった方が良い。
「トウノ、君ほんとサイコーーーー!!」
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