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本編

01:プロローグ

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 柔らかな日差しが降り注ぐアンティークな部屋で僕は買い溜めてあった本を暇つぶしに読んでいる。

 ここは“実際に存在したはず”の部屋ではあるが、僕の記憶にある部屋を憶えている限り再現した仮想空間のプライベートルームだ。

 仮想空間にプライベートルームを持っていること自体は、何も特別なことではない。社会生活のほとんどを仮想空間で行うようになっていくらか経った現在、プライベートルームを2つも3つも持っていたり、あるいは現実では到底再現出来ないような内装にしている人も多い。

 そんな世間の流れからすれば、僕のプライベートルームの何の変哲も無い、現実世界に探せばまだありそうなこの内装の方が珍しいかもしれない。
 だが、考えてみて欲しい。四六時中過ごす部屋に奇抜さや無駄に発光したり浮遊するインテリアが必要か?と。
 じゃあ、疲れたら現実に戻ればいいと言われるかもしれないが、僕の場合、それはとても、絶望的に難しい。

 
 僕、遠野嗣治は10歳の頃から約8年もの間、この“仮想空間のみ”で過ごしている。

 
 もしかしたら誰にでも降りかかりうる不運と、そんな不運の中のとんでもない幸運の巡り合わせによって、現実の僕はこの8年間、意識が認められている昏睡状態、と看做され、生命維持機能付きVRベッドに横たわっている。

 だが既に起きてしまったことを、いつまで嘆いていても仕方がない。

 もう一つ幸いな事だったのは、僕は読書と最低限の生活が出来ていれば健全な精神を保てる質であったらしいことだ。
 生まれた時には既に様々な分野が仮想空間に進出しており、とくに電子化が進んでいた書籍関係は仮想空間の方が充実しているほどだった。

 この世界には読みきれない程の本がある。それを片っ端から読めるだけで僕は満足だ。

 しかし、最近周りが少々騒がしくなった。
 僕があまりに読書と最低限の生活(学業と睡眠)、時々依頼されるバイトのようなものしかせず、学校の同級生との交流もほぼしていない為、思春期の精神面の生育的にいかがなものか?と。

 僕は「今更では? もう18になったんだが?」と思わないでもなかったが、読書時間を削られ過ぎなければそれ以外はあまり拘りが無いので、提示されたいくつかの交流プランの中からあるものを選んだ。

 それが、新作VRMMORPG『ArcaStoria(アルカストーリア)』通称アルスト、またはASだ。
 この作品は世に出したゲームは必ず各賞を総なめにするというゲーム開発の雄である企業とワールドシミュレーター開発の企業が共同開発し、ついでに何やら僕の身体の面倒を見てくれている企業も関わっているらしい、この数年世界中から注目の的だった。

 何と言っても注目を集めたのは、ワールドシミュレーターの技術が注入されたことによって、世界中のゲーマーやファンタジー好きが夢に見た「本物のような異世界」が作られ、圧倒的リアリティのプレイ体験を実現したとのことだ。
 僕はゲームはあまりしないのだが、こういうものがSF感覚で描かれたライトノベルは読んだことあるので、ある程度想像自体は出来ている……はず。

 そしてふと、作品情報を収集していた僕は気づいてしまったのだ……。
 そこまでリアリティのある世界なら独自の歴史、文化から生まれた本が山のように存在し、読みまくれるのでは?と。

 何なら僕はゲームプレイを推奨されただけなので、交流の方は相手の意志や都合など相手依存の要素が多いことだし、とりあえず努力目標ということにしておいて、ゲームプレイとして読書しまくれるのでは?と。

 そんなこんなで僕のモチベーションが俄然上がった今日がそのゲームのサービスリリース日だ。

 思ったよりインストールに時間がかかるようで、積み本を消化しながら待っていたのだが、そろそろインストールが終わりそうだ。

 僕は本を閉じて、宙に浮かぶゲームのサムネイルとインストール進捗ゲージに目をやる。

 この世界とは全く違う観念から生まれた本を読めるのかと思うと、普段ほとんど感じる事のない胸の高鳴りを感じた気がして、自然と口角が上がった。
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