幻想プラシーボの治療〜坊主頭の奇妙な校則〜

蜂峰 文助

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坊主頭の奇妙な校則

【39】

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 遠野池公園。

 潜入捜査初日に、喜田くんへオレの正体を明かした場所であり。
 土曜日には、喜田くん、赤神さん、そして倉持学級委員長との情報交換のために待ち合わせた場所。

 薄池高校へ潜入して以降……思い出深い公園でもある。

 よく活用させてもらった。

 ここに来るのも、もう最後かなぁ? ……なんて、思いつつ、三度目となる遠野池公園へと足を運び、東屋の椅子に座る。

 先にその場にいた、倉持 水地学級委員長の目の前の席に。

「わざわざ、こんなところにまで足を運んでいただき、誠にありがとうございます」

 そう言って、倉持学級委員長は頭を下げた。

 坊主頭の、その頭を。

「円から聞きましたわ……。薄池高校を去るのですってね?」

「……ああ……」

「薄池高校全生徒、全教師及び関係者を代表して、お礼を申し上げますわ……。この度は、本当に、ありがとうごさいま……――――」

「嘘は良いよ、倉持学級委員長」

 オレは言う。

 嘘はやめろと――――そう、言った。

 そう言った瞬間……時が止まったようだった。

 えらく、風の音や、公園の近くを車が通り過ぎる音が、やけに鮮明に聞こえたように思えた。

 こうなった時のオレは、神経が研ぎ澄まされている証拠だ。

 交感神経が暴走している。

 戦闘態勢だということだ。

 誰に対して? そんなもの決まっているだろう?

 目の前にいる――――倉持 水地学級委員長に対してだ。

 否――――


 この、得体の知れない女子高生に対してだ。


「単刀直入に聞くぞ? お前…………?」

 オレは言う。

「思い返すと……最初から、君は不自然だった。当初オレは……オレたちは、【坊主頭の幻想プラシーボ】を君は念入りに掛けられたから、他の人たちとは違う……オレの行動を、さも監視員のような動きをさせられていたのかと思っていた。だけど違った……」

 続ける。

。オレや凛子が、一時的にでも騙される程には……。だけど、深く深く調べれば調べるほど……狩野先生や鶴見先生が、君を要注意人物として見ている様子などはなく……他の人たちと同じように、洗脳にかかった一生徒と同様にしか思っていなかったんだ。だとすれば……君の、監視員的な動きはおかしい……」

「そして……」オレは続ける。

「その不自然さが、確信に変わったのは……君の洗脳が解けた……否、。君ももう分かっているんだろう……? 。それを理解しているから、こうやって、オレをこの場に読んだんだろ?」

 すると……彼女は顔を上げた。

 ゆっくりと顔を上げて……ニヤリ、と気味の悪い笑みを浮かべた。

「やはり、バレてましたか」

 あっけらかんと……そして、あっさりと彼女はそう言い放った。

「まぁ……それもそのはずですよねぇ? 円の飴玉が、【幻想プラシーボ】の特効薬になり得たのならば……?」

「その通り。すなわち……倉持 水地学級委員長、君は――――


 ――――【


 そう……彼女は、だったのだ。


「ご名答」倉持学級委員長は、笑顔でパチパチと手を叩いている。

 白々しい。

「どういう気持ちだったんだ? 洗脳されたフリをして……お前のことを信頼していた――――赤神さんが大切にしていた赤い髪を剃ろうとしたあの時は……。赤神さんの髪を切ってしまった――――あの時は……!! どんな気持ちだったんだ!?」

「どんな気持ちも何も……やってしまったなぁって感じですわ。よもや、円にそんな【力】があっただなんて……。データにありませんでしたので……。あなたに殴られて、上手いこと洗脳が解かれたフリが出来たと思ったのですが……まさか、親友の【秘めたる力】に足元をすくわれるだなんて、誤算でしたわ」

「オレの質問に答えろ!!」

 倉持学級委員長の胸ぐらを掴むオレ。

 しかし、当の本人は、ケロッとした表情でオレを見つめている。

「まぁまぁ……そんなに熱くならず。また、ぶん投げられたいのですか?」

「同じミスを……オレがするとでも思っているのか?」

 彼女の護身術については、既に対応済みである。

 同じ手は――――もう二度とくらわない。

「フフッ……ですわね。さすがは、『幻想現象対策部隊』の隊長様。武道の心得があるようで……」

「オレの質問に答えろ!!」

「分かりました答えましょう……その問いに対する答えは『何とも思わなかった』です。それ以上でも、それ以下でもありませんわ。どんぴしゃりで、その言葉が私の答えです」

 何とも思わなかった……あの親友の想いを……。

 あの健気で、苦しんだ、赤神さんの想いを――――


 何とも思わなかった、だとぉ……?

「じゃあ! 昼休み! 君が赤神さんに対して向けた優しい声は! 優しい笑みは! アレもこれも全部! 演技だったってことか!?」

「その通りですわ……。アレもコレも全て演技。名演技でしたでしょう……? 何せ、プロであるあなたを騙せた程の演技でしたのだから……。我ながら……自己採点で百点満点の演技でした」

「…………!! 赤神さんに……! あの優しい親友に対して! 申し訳ないとか! 何か……思わないのか!?」

「別に……? ただ、上手いこと立ち回ってくれてありがとう、と感謝はしていますわ。私の手の平の上でね?」

 その言葉を聞いた瞬間――――

 オレは、胸ぐらを掴んでいたのとは逆の手を、彼女の顔面を殴りつけようと振るった。

 全力で。

 しかしそのパンチは空を切り。

 それでだけでなく、またしても、オレの視界がぐるんっと回転した。

 早い話が、オレはまた、投げられたのである。

 倉持 水地学級委員長――――彼女の、護身術によって。

 だけどオレは前回のように、無様に背中から叩きつけられることもなく、くるんと空中で回転し、足の裏で衝撃を緩和しつつ着地することができた。

 言っただろ? その護身術は心得てるって。

「……全力で投げたつもりでしたのに……。お見事ですわ」

 またしても、白々しい笑みのまま、パチパチパチと手を叩く倉持学級委員長。

 苛つくなぁ……その乾いた笑み。

 倉持学級委員長は、手を叩くのを止め、こう言った。

「『お前は何者だ?』と……最初にあなた、そう質問されましたわよね……?」

「ああ……めちゃくちゃ気になるよ。お前の正体――――只者じゃねぇだろう? お前……」

「うふふ……。そうですわね。円同様……才能ある者、と思っていただいたら、分かりやすいでしょうか?」

「…………」

 赤神 円と同様の才能……。

 すなわち――――『折れない心』を持つ者……。

 え? ということは――――


「お前……まさか……!!」

「そのまさか、ですわ……」

 そして彼女は言った。

 自身の正体を。

 いや、違う……。

 確かにオレはこの時――――を知ることができた。

 しかしそれは――――


 第三者の……そして、によって、その答えは明かされた。



 ……


 絶対に聞き間違えない――――忘れることのできない――声。


「彼女の正体はね? 龍正。我らが『幻想教会』が誇る、……【七曜座しちようざ】が一人――――倉持 水地なんだよ」

 その声は、オレの真後ろから聞こえた。

 ドクンッ!! と、オレの心臓が跳ねたのが分かった。

 この、とてつもなく……尋常ではない威圧感。

 間違いなく――――本物だ。


 オレは……振り向くことができない。

 いや、振り向く必要などなかった。

 何故ならその男は、自分の足で、オレの視界の中へと入ってきたのだから。

 コツコツコツと、足音を鳴らして……。

『幻想教会』大幹部――【七曜座】の倉持 水地の横に並んだのだから。


 全国津々浦々……数多いる【幻想プラシーボ】患者の、

 そして――――


 最も、――――


 黒曜こくよう 義虎よしとらの姿が……そこに、あったのだから。

「義虎……!」

「久しぶりだね、龍正。昨日の夢で会って以来かな?」

 数年前と変わらぬ笑顔を浮かべながら……義虎は、そう言った。
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