幻想プラシーボの治療〜坊主頭の奇妙な校則〜

蜂峰 文助

文字の大きさ
上 下
29 / 42
坊主頭の奇妙な校則

【29】

しおりを挟む

 犯人の特定は、あらかた出来ている。

 とは言っても、それはオレと凛子による捜査の結果導き出した、とりあえずの結論に過ぎない。

 その結論が、的外れだったケースも、十二分に想定できる。

 だからこそ、今回の情報共有では固定観念に囚われず、感染源となり得る可能性のある者を、際限なく炙り出し、慎重に精査していく必要がある訳だ。

 自分たちの結論を、確固たるものにするために、必要な手順である。


 そして、情報共有をこれでもかと交わした結果――――


 オレと凛子の結論に勝る情報を得ることはできなかった。

 正直なところ、コレは的外れであって欲しかった結論だったのだが……。

 何故なら、この結論は……センシティブ過ぎるから。

 少なくとも、殴って解決すれば良いって話ではない。

 そして、情報共有の終盤……倉持学級委員長のこの言葉によって、ほぼ、オレと凛子の説の正当性がほぼ立証されることとなった。

「薄池副担任は、理事長の孫……というのもあって、相当性格には難があると、有名ですわよ。特に…………教員達の間で」

 性格に、難あり。
 理事長の孫――――薄池 次郎。

 我らのクラスの……副担任。

「薄池先生って、歳の割には、髪の毛薄かったよね? 大学生の時とか、それで色々言われたりしなかったのかな? そういうのが原因で、【幻想プラシーボ】が発生したりしないの?」と、赤神さんより質問が飛んできた。

「もちろん発生する。むしろ、【幻想プラシーボ】の発生は、そういったネガティブ思考から生み出されることが多い、劣等感やコンプレックス……本人のこうだったら良かったな、という希望が現実になるケースが大半だ」

 まぁ……一概に、それが全て、という訳ではないが。

 事実――『ポジティブプラシーボ』という種類の【幻想プラシーボ】も存在している訳だし。

「十二分に有り得る話だよ。薄毛だったことをバカにされ続けた結果、それで性格が歪み、コンプレックスとなり……【幻想プラシーボ】が発生した……全ての辻褄が合うほどに、有り得る話だ」

「じゃ、じゃあ! 薄池先生が、【幻想プラシーボ】の犯人なの!?」

「その可能性は……高いな」

 そう……その可能性は高い……。


 だが……――


「兎にも角にも、これで大方……感染源の目星はついた。残り時間は……」

 オレはマイクを手に取った。

「歌を歌うことにしよう!」

 そして、オレたちは残りの時間、歌を歌うことにした。

 このやるせない【幻想プラシーボ】の結論による、少し悲しくなった気持ちを――吹き飛ばすが如く。


 その後、少し遅めの昼食を取った後、帰りは四人一緒に電車に乗って、薄池高校最寄り駅前にて解散となった。

 喜田くんと倉持学級委員長がそれぞれ帰って行く中……。

「赤神さん、ちょっと良いかな……?」

「え……?」

 オレは、赤神さんを引き止めた。

「悪いけど、オレと一緒に帰ってくれないか? 君には……決戦当日――――月曜日のことについて、話しておかなくてはならないことがあるんだ」

「話しておかなくては……ならないこと……?」

 そう……彼女にはすべて、話しておいた方が良いだろう……。

 オレのこの拳が……解決に相応しくない以上――――


 この、悲しき【坊主頭の幻想プラシーボ】を終わらせるのは……彼女なのだから。


「歩きながら話そう」

「う、うん……」

 赤神さん宅への帰り道。

 彼女の歩幅にゆっくりと合わせつつ……オレは話した。


 この、【坊主頭の幻想プラシーボ】についてのすべてを……。


「――――以上がオレの……否、『幻想現象対策部隊』が導き出した……結論だ」

「そんな……」すべてを聞いた赤神さんの声には……悲しさと、僅かな怒気が含まれている。
「そんなことって……」

 分かるよ。

 その気持ち…………とても、分かる。

「【坊主頭の幻想プラシーボ】の解決に至るには、倉持さんを洗脳から解放した時のように、ただただ、オレが殴れば良いって話ではない」

「そもそも……」赤神さんは言う。

「そもそも、何で白宮くんが殴ったから……スイっちの洗脳は解けたんですか?」

 もっともな質問だった。

 むしろ……問われるのが、遅いくらいの質問だった。

「強い衝撃を加えれば、洗脳は解けるってことなんですか?」

 オレは答える。

「少なくとも……オレはそう思ってるけど……。凛子……ああ、オレの相棒ね。相棒曰く……そうではないらしい。半分正解で、半分不正解なのだそうだ」

「……? どういうこと、ですか……?」

「オレが殴れば、そうなるし。君が殴っても、そうはならない。ということだそうだ」

「?」

「そうなる理由は……オレがそうなると思い込んでるから……。君のやり方は、少し違う」

「え……?」
 目を丸くしながら、赤神さんは小さく復唱する。

「私の……やり方……?」

 そう……君にしかできない――――


 赤神 円だけに許された、対【幻想プラシーボ】の方法。


「ようやく……君に、君の持つ才能について、語るべき時が来たってことだよ」

「私の持つ……才能……?」

「ああ、そうだ」

 そしてオレは……すべてを話した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立

水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~ 第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。 ◇◇◇◇ 飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。 仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。 退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。 他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。 おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。 

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~

吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。 結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。 何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

椿の国の後宮のはなし

犬噛 クロ
キャラ文芸
※毎日18時に更新します。 架空の国の後宮物語。 若き皇帝と、彼に囚われた娘の話です。 有力政治家の娘・羽村 雪樹(はねむら せつじゅ)は「男子」だと性別を間違われたまま、自国の皇帝・蓮と固い絆で結ばれていた。 しかしとうとう少女であることを気づかれてしまった雪樹は、蓮に乱暴された挙句、後宮に幽閉されてしまう。 幼なじみとして慕っていた青年からの裏切りに、雪樹は混乱し、蓮に憎しみを抱き、そして……? あまり暗くなり過ぎない後宮物語。 雪樹と蓮、ふたりの関係がどう変化していくのか見守っていただければ嬉しいです。 ※2017年完結作品をタイトルとカテゴリを変更+全面改稿しております。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...