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坊主頭の奇妙な校則
【29】
しおりを挟む犯人の特定は、あらかた出来ている。
とは言っても、それはオレと凛子による捜査の結果導き出した、とりあえずの結論に過ぎない。
その結論が、的外れだったケースも、十二分に想定できる。
だからこそ、今回の情報共有では固定観念に囚われず、感染源となり得る可能性のある者を、際限なく炙り出し、慎重に精査していく必要がある訳だ。
自分たちの結論を、確固たるものにするために、必要な手順である。
そして、情報共有をこれでもかと交わした結果――――
オレと凛子の結論に勝る情報を得ることはできなかった。
正直なところ、コレは的外れであって欲しかった結論だったのだが……。
何故なら、この結論は……センシティブ過ぎるから。
少なくとも、殴って解決すれば良いって話ではない。
そして、情報共有の終盤……倉持学級委員長のこの言葉によって、ほぼ、オレと凛子の説の正当性がほぼ立証されることとなった。
「薄池副担任は、理事長の孫……というのもあって、相当性格には難があると、有名ですわよ。特に…………教員達の間で」
性格に、難あり。
理事長の孫――――薄池 次郎。
我らのクラスの……副担任。
「薄池先生って、歳の割には、髪の毛薄かったよね? 大学生の時とか、それで色々言われたりしなかったのかな? そういうのが原因で、【幻想プラシーボ】が発生したりしないの?」と、赤神さんより質問が飛んできた。
「もちろん発生する。むしろ、【幻想プラシーボ】の発生は、そういったネガティブ思考から生み出されることが多い、劣等感やコンプレックス……本人のこうだったら良かったな、という希望が現実になるケースが大半だ」
まぁ……一概に、それが全て、という訳ではないが。
事実――『ポジティブプラシーボ』という種類の【幻想プラシーボ】も存在している訳だし。
「十二分に有り得る話だよ。薄毛だったことをバカにされ続けた結果、それで性格が歪み、コンプレックスとなり……【幻想プラシーボ】が発生した……全ての辻褄が合うほどに、有り得る話だ」
「じゃ、じゃあ! 薄池先生が、【幻想プラシーボ】の犯人なの!?」
「その可能性は……高いな」
そう……その可能性は高い……。
だが……――
「兎にも角にも、これで大方……感染源の目星はついた。残り時間は……」
オレはマイクを手に取った。
「歌を歌うことにしよう!」
そして、オレたちは残りの時間、歌を歌うことにした。
このやるせない【幻想プラシーボ】の結論による、少し悲しくなった気持ちを――吹き飛ばすが如く。
その後、少し遅めの昼食を取った後、帰りは四人一緒に電車に乗って、薄池高校最寄り駅前にて解散となった。
喜田くんと倉持学級委員長がそれぞれ帰って行く中……。
「赤神さん、ちょっと良いかな……?」
「え……?」
オレは、赤神さんを引き止めた。
「悪いけど、オレと一緒に帰ってくれないか? 君には……決戦当日――――月曜日のことについて、話しておかなくてはならないことがあるんだ」
「話しておかなくては……ならないこと……?」
そう……彼女にはすべて、話しておいた方が良いだろう……。
オレのこの拳が……解決に相応しくない以上――――
この、悲しき【坊主頭の幻想プラシーボ】を終わらせるのは……彼女なのだから。
「歩きながら話そう」
「う、うん……」
赤神さん宅への帰り道。
彼女の歩幅にゆっくりと合わせつつ……オレは話した。
この、【坊主頭の幻想プラシーボ】についてのすべてを……。
「――――以上がオレの……否、『幻想現象対策部隊』が導き出した……結論だ」
「そんな……」すべてを聞いた赤神さんの声には……悲しさと、僅かな怒気が含まれている。
「そんなことって……」
分かるよ。
その気持ち…………とても、分かる。
「【坊主頭の幻想プラシーボ】の解決に至るには、倉持さんを洗脳から解放した時のように、ただただ、オレが殴れば良いって話ではない」
「そもそも……」赤神さんは言う。
「そもそも、何で白宮くんが殴ったから……スイっちの洗脳は解けたんですか?」
もっともな質問だった。
むしろ……問われるのが、遅いくらいの質問だった。
「強い衝撃を加えれば、洗脳は解けるってことなんですか?」
オレは答える。
「少なくとも……オレはそう思ってるけど……。凛子……ああ、オレの相棒ね。相棒曰く……そうではないらしい。半分正解で、半分不正解なのだそうだ」
「……? どういうこと、ですか……?」
「オレが殴れば、そうなるし。君が殴っても、そうはならない。ということだそうだ」
「?」
「そうなる理由は……オレがそうなると思い込んでるから……。君のやり方は、少し違う」
「え……?」
目を丸くしながら、赤神さんは小さく復唱する。
「私の……やり方……?」
そう……君にしかできない――――
赤神 円だけに許された、対【幻想プラシーボ】の方法。
「ようやく……君に、君の持つ才能について、語るべき時が来たってことだよ」
「私の持つ……才能……?」
「ああ、そうだ」
そしてオレは……すべてを話した。
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