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坊主頭の奇妙な校則

【3】

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『転校生を紹介します』担任となる女性教師(年齢は三十代後半ぐらいの人。もちろん坊主頭)から、その言葉が聞こえたら教室へ入ってきてほしいとの指示を受けた。

 その担任の女性教師――狩野かりの 紙子かみこ先生の後ろを歩き、オレは職員室から教室へと歩いていく。

 これから、問題解決までの間、お世話になる『2年A組』の教室へ。

 手筈の通り、先に狩野先生が教室内に入り、オレは廊下で待つ。
 そして、扉越しに、先生の明るい声に耳を傾ける。

『転校生を紹介します』と聞こえたら中に入るんだよな? 『転校生を紹介します』ね。よし。

「おはようございまーす! はい、号令よろしく!」

 お、先生が喋り出したぞ。

「起立! 礼! ……着席!」

 恐らく学級委員長か? 女子生徒であろう声が響き渡り、ガタガタと生徒達が椅子から立ち上がり、礼をし、座る音が聞こえてくる。
 その後、先生が話し始める。

「朝も肌寒くなってきましたね。冬が近付いてきています。とは言っても、昼頃からは温度が上がってくるらしいので、皆さん、体調管理には気を付けてください。三年生は、受験を控えてるので、今、とても、体調管理に気を張っています。皆さんも来年、同じ立場となりますので、油断をせず、体調管理に励んでください」

 ふむ……そろそろか……。
 うわ……ちょっと緊張してきた……。

「さて、今月末には、文化祭があります」

 ん?

「薄池高校の文化祭の出し物を何にするか、今日決定したいと思います。文化祭実行委員の皆さんを中心に、放課後、皆で話し合いをしたいと思います。言っておきますけど、決まるまで……帰しませんよ?」

「えぇ~!? 今日バイトあるのに~!!」
「マジ最悪~!!」
「だっるぅー!!」

 …………それって、転校生オレの紹介終わってから、する話じゃね?

「元々、出し物の締め切りは昨日までだったんです。皆が真面目に取り組まなかったから、いけないんですよ? これはその罰です」

「先生だって、この間の話し合いの時寝てたじゃん!!」

「何のことかしら?」

「惚けんなぁー!!」

 アハハハハハハ!! と、教室内が湧いている。

 いやいや……仲の良いクラスなのは良いことだけれど、早く紹介して。

 早く自己紹介をさせてくれぇ。

 でもまぁ、そろそろだろう。
 よもや、忘れてる訳ではあるまいし……。

「それでは、今日の朝のホームルームを……」

 あ……これは忘れられてるな……。

 あの先生、転校生がいること、すっかりぽっきり忘れてやがる。

 仕方ない……。

「ゴホンッ!!」

「あ……」

 あ、って言ったな?
 忘れていたの確定だ。

「み、皆! 実はもう一つ、サプライズがあります! 忘れてました!!」

 明言した!!

 転校生の存在を忘れていたことを、堂々と言葉にしやがった!!

「白宮くん、どうぞ!」

 しかも……打ち合わせの言葉と違うし……。

 まぁ良いか、入ろう。

 扉に手を掛け、ゆっくりと開ける。

 クラスメイトの視線が一斉に、こちらへ向く。

 異様な光景だった。

 廊下から話し声を聞く限りにおいては、どこにでもある普通の教室のような談笑だったのに……教室の中に入ると、空気が一変する。

 視覚による情報とは、恐ろしい。

 教壇から見渡す限り、坊主頭、坊主頭、坊主頭、坊主頭、坊主頭、坊主頭、坊主頭、坊主頭、坊主頭、坊主頭、坊主頭…………。

 ゴクリ……と、唾を飲み込み、平常心を保ちつつ、オレはゆっくりとお辞儀した。

 それを見て、狩野先生が「はい、今日からこのクラスの仲間入りとなります、白宮くんです。自己紹介お願いできる?」と話を振ってくる。

「白宮 龍正です。白黒つけるの白に、伊勢神宮の宮、難しい方のドラゴンの龍に、正義の正で、白宮 龍正です。よろしくお願いします」

 こんな感じで、オレの人生で五度目となる、高等学校への潜入捜査の幕が上がったのであった。
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