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エピローグorプロローグ
【最終話】万屋家と桜と宝物
しおりを挟む数年後――
三月五日。
万屋太陽――二十八回目の誕生日。
時刻――九時十分。
場所――万屋家。
「おーい! 準備出来たかぁー?」
太陽が、家の中へ向かって声を掛ける。
「はいはーい! 今行きまーす」
家の中からパタパタという足音が聞こえ、慌てて女性が出て来た。
愛梨だ。
その手には、バスケット籠をぶら下げている。
家の前に駐車された車の助手席に乗りこんだ。
「ごめんごめん! 遅くなっちゃった!」
「時間には余裕あるから大丈夫。出発するぞー」
「はーい!」
運転席に座っている太陽がアクセルを踏む事で、車が走り出す。
目的地へ向かって。
数十分後――辿り着いた場所は……。
かつてアダンと最終決戦を行った場所。
二人の恋人としての関係が始まった場所。
二人が、再び結ばれた場所。
そして――
二人が、更に深く結ばれた場所。
約束の……場所。
「お、まだ満開とはいかねぇけど、結構咲いてんな」
「そうね。何度来ても、綺麗……」
今日は、万屋一家の年間行事となっている、お花見だ。
「仕事、休み取れて良かったね」
「それな! 『看板泥棒』の一件にかなり手こずってヒヤヒヤしちまったよ……!」
「私も、流石に今年は駄目かも、とか思っちゃった」
「……この日は大切にしたいからなぁ。出来れば、毎年来たいもんだ」
「ふふっ、そうだね」
軽く笑って、愛梨はバスケット籠の中から、とある瓶を取り出し、コップへと中身を移す。
「はい、桜を見ながら呑むお酒は最高なんでしょ?」
「お! 分かってるねぇ、流石はオレの相棒だ」
「帰りの運転はお任せくださいませ」
「かぁーっ! 美味い! 最高だっ!」
お酒を一杯飲み干した太陽。
愛梨が次の一杯を注ぎながら言う。
「でも、飲み過ぎはダメだからね」
「おうよ! 分かってんよ」
「本当かなぁ?」
風に揺れる桜を見ながら……物思いにふける愛梨。
「分からないものよね……」
「……? 何がだ?」
「元ヒーローの皆……何だかんだで全員、『日本超能力研究室』に就職しちゃったんだもんね」
「……だな。静くらいは、女子野球選手になると思ってたんだが……『甲子園に出れたから、もう野球は良い』だもんな! 驚いたぜ」
「私も……皆、幸せそうで何よりね……」
「驚いたと言えば、他の奴らの子供は、全員超能力もギフトもねぇんだろ? それが一番の衝撃だったぜ、てっきり、オレらの『次の世代』も……そういう星の元で産まれると、思ってたんだがなぁ……?」
「平和になったって事でしょ? 【超能力】なんて……無い方が良いのよ……。世界の為にも……子供達の為にも……ね……」
「……まぁ……そうだな……」
そう納得しつつ、太陽は更にもう一杯のお酒を飲み干した。
「おかわりっ!」
「はいはい……飲むペース早くない?」
「そうか? こんなもんだろ?」
「まったくもう……あ、そうそう、コレコレ」
思い出したかのように、愛梨がバスケット籠とは別の鞄から、何やら大きな物を取り出した。
綺麗な袋に包まれた、少し大型の物体だ。
それを「はい」と、太陽に手渡す。
「お誕生日、おめでとう」
愛梨からの誕生日プレゼントだった。
「お、サンキュー! 結構デカイな……何なんだ? コレ」
「うふふっ、何だと思う?」
「何だろうなぁ? 抱き枕とか? ちょっと固めの」
「ブッブー! 残念、外れー。正解は――――
『消火器』でしたぁ!」
大切な人の誕生日に、消火器をプレゼントする女が……そこにいた。
「…………」
沈黙が……数分間流れる。
そして……。
「ぷっ! あははっ! 今年はそう来たか! 相変わらず、愛梨の誕プレは、何を贈られるのか予想出来ないから面白いな!!」
「面白いって何よー……それでも、真剣に選んだんだからねぇ……」
「真剣? 真剣に考えた結果が、消火器って! 面白い!! あははっ!!」
「もぉー! 笑うなら返してよ!」
「それは嫌だ」
即答する太陽。満面の笑みで言った。
「ありがとう! ありがたく、頂戴させてもらうよ」
「……うん。どういたしまして」
返答する愛梨もまた……満面の笑顔だった。
「ねぇ……太陽」
「何だ?」
「こんな変なプレゼント渡す、私の事…………嫌い?」
「んにゃ? ――――大好きだよ」
「うふふっ、私もよ」
太陽の肩に頭を乗せる愛梨。
そんな可愛らしい彼女の肩を、優しく包む太陽。
「オレ達三人は……ずーっと、一緒だ」
「…………うん」
そう……現在の万屋一家は――――『三人家族』なのである。
万屋太陽と。
万屋愛梨。
そして――
「あぁーっ!! ママとパパ、またいちゃいちゃしてるー!! わたしが一人で遊んでるすきにー! ずるい!!」
太陽と愛梨の娘――万屋 人愛《トア》。
二人が愛する――今年四歳になる、宝物だ。
「わたしも二人とくっつくー! やーっ!!」
「あっ! こらっ、危ないでしょう!?」
仲良くくっ付いている、二人の間に飛び乗る人愛。
動きが、三歳とは思えない程の身軽さだった。
「ねぇ太陽……? やっぱり人愛って……」
「ああ……これは恐らく……ギフトだよなぁ……」
「はぁ……この子はこの子で……」
「あぁーっ!! またパパとママだけでおしゃべりしてるー!! ずるい! 私もいれてー!!」
仕方ないなぁ、と太陽が話し掛ける。
「じゃあ、人愛、何か面白い話あるか?」
「おもしろい話ー? うーんとねぇーあるよー!」
「お、あるのかー! 教えてくれるか?」
「いいよー。えっとねー……昨日、ゆめを見たのー」
「夢……? どんな夢なんだ?」
「んーとねー、さくらの木がいまみたいに、ぶわぁーってさいててねー」
「ふむふむ、美しい夢だなぁー」
「きいろいかみの女の人がその中で立ってるのー」
「へ? 黄色い……髪……?」
「その女の人がねー、わたしにいうの。『さがして』って……」
「さがして? 何を?」
「わかんない」
ここまで聞いて、太陽と愛梨は顔を見合わせる。
そして二人して思う事は同じだった。
この子の人生も……前途多難なんだろうなぁー……と。
太陽は人愛の頭を優しく撫でながら言う。
「人愛……頑張れよ」
「がんばれ? 何を……がんばるのー?」
「さぁ? 何を頑張るんだろうな? パパにも分からない」
「なにそれー! パパ変なのー!」
「本当に……パパって変よねぇ」
三人揃って、笑った。
その瞬間、暖かい風が吹く。
風に乗って、桜の花弁が激しく舞い上がる……。
人生は……良いことばかりではない。
悪いことも、辛いことも、苦しいことも、きっと沢山ある。
けれど、決して、悪いこと辛いこと苦しいこと、ばかりでもない。
太陽が必ず昇ってくるように、良いことも、必ず訪れるものだ。
夜があるからこそ、太陽はより眩しく見える。
人生も同じで――――
悪く辛く、苦しい時期があるからこそ、幸せは、より光り輝くものである。
大切なのは、わずかにでも輝く、その光を見失わないこと。
良いも悪いも……その積み重ねが、人生なのだ。
だからこそ、夜にばかり目を向けず、わずかな光へと目を向けるべきなのである。
そうすれば、その光は少しずつ大きくなり、いつか煌々と輝く道標になるはずだ。
道標? 何の? 決まっている――――
幸せへの、道標だ。
「人愛の、これからの人生に! 乾杯!! ガハハハハハッ!!」
「……ママー、パパすっごく酔ってるよー? お酒、いつもみたいに止めなくても良いのー?」
「うーん……良いのよ、今日は。ちょっとくらい、許してあげましょう」
「なんでー?」
冬が終わり……また、春が来る。
「桜が……満開だから、かな?」
「……えー? どういうことー?」
「私もわかんないや」
「なにそれー、ママもパパも変なのー」
「ガハハハッ! 今日は飲むぞ飲むぞー!!」
こんな風に、幸せな日々はこれからも続いていく。
これからも――――ずっと。
ヒーロー達の青春エピローグ――――〈完〉
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