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エピソードFINAL『白金愛梨と万屋太陽』

【第102話】白金愛梨と万屋太陽⑩

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 『恋愛振り返りツアー』最終ステージ。

 担当の万屋月夜は激怒していた。
 大激怒だ。
 比喩表現ではなく、事実として鬼の様な形相をしていた。

 落ち着いてもらう為、愛梨は声を掛ける。

「お……落ち着いて、月夜ちゃん……! 太陽くんの事なら……」
「死ね」
「死ねとか……そんな野蛮な――」
「死ね」
「じょ、冗談キツいなぁー月……」
「死ね」

 取り付く島がなかった。
 まるでロボットのように、愛梨の声に反応して「死ね」と口にする月夜。

「何で……私との約束を破ったの?」

 ようやく、「死ね」以外の言葉を発したと思いきや、彼女の背後にあった三棟の巨大なビルが轟音を立てながら浮き上がった。
 月夜の【念動力】は、例えスカイツリーであろうと自由自在に操れるのだ。
 自由自在に。
 例えば――その浮かせた三棟の巨大なビルを、ミサイルのように放つ事も可能なのである。

 当然――その破壊力は凄まじい。

 直撃すれば、圧死は確実。

「ちょっ! 月夜ちゃん!? 私まだ質問に答えてないよ!?」
「死ね」

 月夜が、巨大なビルミサイルを三発発射。

 着弾の際の衝撃を受けるのを覚悟で、何としても直撃だけは避けなくてはならない。
 愛梨はギフトを有した身体能力で、咄嗟に回避行動を取った。
 地面に接触し、爆発崩壊する三棟のビルの間へと移動、直撃は免れる。

「がはっ!」

 しかし、その衝撃は凄まじく、吹き飛ばされた愛梨は瓦礫へと激突した。
 受け身も取れず、一瞬呼吸が出来なくなる愛梨。

 今は砂煙が蔓延している。今の内に身を隠さないとと思い、動く。
 近くのビルと建物の間に身を隠した。

(本気だ……! 月夜ちゃん……本気で私を殺しに来てる……!)

 ゾッとする愛梨。
 背筋が凍る、とは正にこの事だ。

 この『市街戦闘訓練場』は、文字通り、市街内での戦闘を訓練する場だ。『日本超能力研究室』が、所有している街一個分の広さがあり、ここぞと言わんばかりにビルなどの建物や、電信柱が立ち並んでいる。

 月夜の――得意フィールドである。

(ど……どうしよう……! 本気で月夜ちゃんに、殺しに来られたら……私一人じゃ、太刀打ち出来ない……!)

 砂煙が徐々に晴れていく。

「ねぇー? 死んでくれたー?」

 月夜の声が聞こえる。
 普段とは声質が違う……今の愛梨には、その声がまるで、死神の声のように聞こえた。

「あんたがこれくらいで死ぬ訳ないよねー?」
「っ!?」
「どこかに身を隠してるのー? 返事をしなさいよー」

(ば、バレてる!? 何て勘の鋭い子なの……!?)

 愛梨の心臓が跳ねる。
 月夜は言う……「ま、どこに隠れていようと関係ないけどねー」と。

 次の瞬間――

 大地が揺れた。
 轟音を立てながら、大地が動く。

(ちょっ! 本気……っ!?)

 訓練場の大地の一部を等間隔に盛り上がらせ、崖のような地形を何ヶ所も作り出した。

 【念動力】で地形を変えたのだ。

 その大地の揺れに愛梨は耐え切れずに転倒。
 頭を打ち、血が流れる。

 幸いにも、愛梨が立っていた場所に変化は無かった為、これだけの怪我ですんだ。
 もし、盛り上がった大地に立っていたら、落下し、そのまま死亡してしまっていたかもしれない。
 戦慄する。

 愛梨はまだ――死にたくないのだから。

(こ……これで、私が死んだ――とか思ってくれてたら……一矢報えるチャンスがあるん……だけど……)

「これでもあんたは死んでないよねぇー? そんなヤワな奴じゃないしー。これはどうかなぁ?」

 更に轟音。
 愛梨は、先程の地形変動で出来上がった崖を見て驚愕する。

「う……嘘でしょ!?」

 崖が……こちらへ向かって動いているのだ。
 愛梨から見て、左右の壁が。
 このままだと、サンドイッチされてしまう。

 咄嗟に動き出す愛梨。

 大ジャンプで建物の屋根に登り、確認しえる中で一番高い高層ビルへと飛び移ろうと試みる。
 二階建ての建物から、三階建ての建物へ。そして、四階建てのビルから、七階建てのビルへ……と、素早くジャンプ移動して行く。

 そして――迫り来る崖の上へとジャンプ。

 サンドイッチされる直前で、何とかその上に辿り着くことが出来たのだった。
 正に、九死に一生を得た――という言葉が相応しい。
 目の前の大地のサンドイッチされた光景――大地と大地がくっ付いた光景を見て、ゴクリ……吐息を飲む。

(お……恐ろしい力……)

 しかし――これで終わりではない。

「見つけた……」
「っ!?」

 その移動の際に――月夜にその姿を視認されてしまったのだ。
 居場所の特定。

 何とか崖の上に逃げ切った愛梨よりも、その上に月夜はいた。
 フワフワと浮いている。

 【念動力】で、自らを浮かせているのだ。

 目と目が会った瞬間――またしても、大地が揺れる。

 今度は……二十棟もの巨大なビルが、浮き上がり、発射を待っている。

「月夜ちゃん! もうやめて!! こんな事をしても意味ないよ!?」
「死ね」
「月夜ちゃん!!」

 愛梨の声は届く事なく、二十棟の巨大なビルが発射される。
 再び愛梨は【読心能力】を駆使し、針の穴を通すかのように、ビルとビルの隙間へと移動。
 直撃を避ける。
 しかし、巨大なビル二十棟の高速地面落下の衝撃は先程のものとは比べ物にならない。
 吹き飛ばされ、あちこちの瓦礫へ身体をぶつけた挙句、巨大な瓦礫にぶつかり止まった。

「がはっ!!」

 あちこち傷だらけの上……ぶつかった際の衝撃で、胃液がこみ上がって来る。
 嘔吐する愛梨。
 全身傷だらけで、出血が多い故に頭がクラクラとしてきた。

 断言出来る――ギフトがなければ、今の攻撃で死んでいた。

 だが――今はチャンスだ。またしても砂煙で、月夜からは自分の姿は見えない筈、今度こそ――死んだフリ作戦を……。
 そうは問屋が卸さない。

「そ……そんな……」

 愛梨は絶望した。
 充満していた砂煙が、一気に晴れたのだ。
 【念動力】で、月夜が砂煙を操作した事が要因である。

 即座に生きている事を視認されてしまった。

 月夜が口を開く。

「へぇー……まだ生きてたんだぁー。悪運の強い女だこと……その運の良さに免じて、私と会話する権利を上げるわ」
「…………な、何で……こんな事するの?」

 フラフラの頭と身体で、愛梨は必死に立ち上がりながら、問い掛ける。

「決まってるでしょ? あんたが、約束を破って――兄貴と別れたからよ」
「太陽を……幸せに、ってやつ? それを守れなかった事は、ごめんなさい……でも……私は……」
「それだけじゃないわよ!!」
「っ!!」

 猛スピードで接近して来た月夜に胸ぐらを掴まれ、勢い良く背後の瓦礫へ叩き付けられる愛梨。
 その状態のまま、月夜は叫んだ。

「私は――って言ったでしょ!? なのに何で別れたのよ!?」
「月夜……ちゃん……」
「兄貴が幸せになれないから振った!? 兄貴がいつかあんたに失望する!? 失望されるのが嫌だから別れる!? ふざけないでよ!!」
「がふっ!」

 月夜が愛梨の顔を殴り付ける。

「兄貴が! 誕生日プレゼントを選べなかった程度であんたに失望するような糞みたいな男だと! あんたは思っているの!? ふざけないで!! 兄貴をバカにするな!!」

 月夜の両拳は止まらない。
 左右の拳で何度も何度も、愛梨の顔を殴打する。

「兄貴なら……例え、あんたから貰ったプレゼントが泥団子であっても喜んだわよ! 例え、あんたから一生誕生日プレゼントを貰えなかったとしても! あんたに失望なんてしないわよ!! 何故それが分からない!!」
「がはっ! ぐっ……ご、ごめんな……さいっ……」
「私は……私は、あんたなら兄貴を任せられると思って!! あんたなら――兄貴を幸せにしてくれると――思ってたのに!!」
「月夜……ちゃ……がふっ!」
「誰でも良かった訳じゃない!! 兄貴を渡す人は――あんただから私は譲ったんだ!! それなのに――ふざけんな!! 死を持って償え!! 償えぇーー!!」
「嫌……だ……」
「っ!!」

 ここで月夜の手が止まる。
 愛梨が、腫れた顔でなんとか口を動かす。

「私は……まだ……死なない……死にたく、ない……」
「だったら!! だったら今すぐ言え!! 兄貴と復縁する――って! 今すぐに!!」
「それは……言わ、ない……」
「言わなきゃ殺す!!」
は……言わ、ない……」
「言えっ!!」
「だって……それ、を……言うべき、なのは――……でしょ……?」
「!」
「私は……それを……本人に直接……言いたい、もの……」
「あんた…………もしかして……」
「うん……そのつもり……だよ……」
「…………今度こそ……信じて良いの……?」
「……うん……私を……信じて…………」
「…………」

 月夜は、愛梨の目を見る。
 愛梨の目は……目の奥には、光が宿っているのが見えた。
 嘘は言っていないという――証だ。

「分かった……信じる。あんたを殺すのは、やめにするわ」
「あ……ありがと、う……月夜、ちゃん……」

 こんな状況下でも笑う愛梨に、月夜は溜め息を吐いた。

「やっぱり……あんた達はお似合いのカップルよ。つべこべ要らない事考えず、早く寄り戻しなさい……」
「うん……」

 そして月夜は、戦闘服のポケットからある物を取り出し、愛梨へと手渡した。
 飲み薬の入った――ビンだ。

「はい……これ飲みなさい。『研究室』が造った、自慢の『回復ドリンク』よ。すぐに楽になるわ」
「あ……ありがとう……」

 『回復ドリンク』を受け取る愛梨。

「…………」
「……? どうしたの? さっさと飲みなさいよ」
「……えーっと……楽になるって……死ぬって意味じゃ、ない、よね?」
「はぁ?」
「コレ……毒、入ってたり……」
「するか!! さっさと飲め! このあんぽんたん!!」
「あぼぼぼっ!!」

 疑った結果――
 『回復ドリンク』を奪われ、月夜に強引にビンを口に突っ込まれた愛梨だった。

 数分後――

「うわっ! 凄い! 何これ!? アレだけの大怪我が、あっという間に回復してる!? すっごーい!!」
「だから言ったでしょ? 『研究室』自慢の回復ドリンクだって……」
「疑っちゃってごめんね」
「…………」

 ポリポリと頭を搔く月夜。

「言っとくけど……謝らないからね……」
「…………何を?」
「あんたを殺そうとした事。謝らないから……だって、悪いのは全部あんただし? その……兄貴を傷付けたのも……事実だから……」
「うん、良いよー」
「……軽いな……ノリが……」

 丁度その時――「時間だ」と、忍が現れた。
 周辺の景色を見て、当然……ドン引きしている。
 加えて……愛梨のボロボロの戦闘服と、手に持っている回復ドリンクを見て、一言。

「随分と派手にやったみたいだな……よく、生き残れたものだ……」
「うん……私自身も……良く生き残れたなって、思ってる」
「…………さて、そろそろ、火焔さんと皐月さんの足止めも限界だ。行くぞ――ゴールへ」
「……うん!」
「――と、その前に……」
「? どうしたの?」
「一つ聞いておきたい」
「何?」
「答えは出たか?」

 その質問に対して……愛梨はチラッと、月夜を見た後、満面の笑顔で答えた。

「お陰様で」

 と。


 かくして――いよいよ、このエピソードもクライマックスを迎える。

 愛梨の出した答えとは……?
 二人の結末は……?

 舞台は『最後の場所』へと移る。

 ――――へと……。
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