上 下
99 / 106
エピソードFINAL『白金愛梨と万屋太陽』

【第98話】白金愛梨と万屋太陽⑥

しおりを挟む

「それでは白金、お前さえ良ければ、すぐにでもカップルツアーを開始するが……良いか?」
「ええ、大丈夫。――――心の準備は出来ているわ」
「ふむ、では行こう! 先ずは――エピソード1の振り返りへ……レッツゴー」

 忍はその掛け声と共に、【瞬間移動】を発動する。

「っ!? ここは……? 遊園地……?」

 移動して来た愛梨の目に、まず映ったのは、大きな観覧車であった。
 聞こえて来る音楽や、周囲の建物の見た目や、数ある遊具……それらを踏まえ、ここが遊園地である事を把握する。

「お、見ろ……白金」
「え?」
「カップルだ」

 忍が指さしたのは、目の前にある噴水のその向こう。
 ベンチに座った男女のカップルがキスをしていた。
 愛梨はすぐに気づいた。
 その……キスをしている男女のカップルが――知り合いだという事に。

 顔が紅くなる愛梨。
 ケロッとした表情で、忍は言う。

「ふむ……ここからでは少し遠いな。近寄る事にしようか」
「はぁ!? いや……きっと私達、お邪魔蟲だか……」

 【瞬間移動】発動。

 その男女カップルの目の前に現れる愛梨。
 現れてしまった……愛梨。

「ご……ごめんっ! 姫ちゃんと大地くん!! これは! その……悪気があった訳じゃないからっ! 別に邪魔しようとか、そういうんじゃないから……!」

 すると……。

「あははっ! 愛梨さん、すっごく顔赤くなってるー!!」
「ドッキリ大成功……ですね。あの時嵌めてくれた借りを返せました」
「……へ?」

 姫と大地が、笑った。
 どうやら愛梨に、見せつける為、キスをしていたようだ。

 愛梨はすかさず心を読む。

「なるほどぉー……ドッキリかぁー……良かったぁー……私てっきり、めちゃくちゃ二人の邪魔をしちゃったのかと思ったよー……」
「せっかく、こういう機会を得たのなら、いっその事驚かしちゃおうって、大ちゃんが提案したんです」
「あはは! どうでした?」

 してやったり顔で、大地が問い掛けてくる。
 愛梨は両手を上げ、参りましたの表情で言う。

「してやられたなぁーって感じかな……」

 二人はクスクスと笑い合った。
 その後、大地が言う。

「これが……今のボク達です」

 と。
 姫が小柄な身体をくるんと翻し、満面の笑顔で言う。

「どうですか? 私達! 幸せそうに見えます?」

 「ええ……」愛梨は頷いた。

「とっても――――幸せそうよ。羨ましいわ」

 そして、羨ましいと、そう言った。

「…………白金さんは、太陽さんと一緒に居て……幸せじゃなかったんですか?」
「ううん……」

 大地のその問い掛けに対し……愛梨は答える。

「幸せだったよ……すっごく」
「そうですか……なら、良かったです」
「え?」
「正直……土門さんや星空さん達が、あなた達二人を復縁させようって言った時、引っ掛かってたんですよ。復縁出来たとしても……二人は本当に幸せなのか? って……」
「…………」

 それは……当たらずとも遠からず、だと愛梨は思った。
 きっと復縁したら、愛莉自身は幸せになる事だろう。しかし、太陽は不幸せになる――――というのが、彼女の考えだからである。

 大地は、そこまで考えているのかいないのかは不明だが……。

「これで思いっきり背中が押せます」

 と、言った。
 愛梨は補足を入れて置いた方が良いと判断。

「あのね……? 大地くん……」
「分かってますよ。愛梨さん」
「え……」
「あなたは――――自分が幸せになっても……太陽さんは幸せになれない……そう考えてますよね?」

 素直に驚いた。
 どうやら彼は、そこまで理解出来ているらしい。

「そこまで分かっているのに……何で……」
「何で――――背中を押すって発想になるのか? もしくは……何故ボクが――良かったと思ったのか? 当然……そんな疑問が浮かんで来ますよね? 分かってます」
「…………!!」

 これまた驚いた。
 大地が天才的頭脳を持っているとは知っていたが、まさかこれ程とは思っていなかったのだ。
 【読心能力】を持つ愛梨に匹敵するスピードで、相手の思考を読んでいる。
 驚かざるを――驚愕せざるを得ない。

「図星でしたか? ふふん、これくらい……心を読めずとも推察出来ます。前回とは、立場が逆になりましたね」
「そ……そうね……」

 驚愕し、少し引き気味の愛梨。
 そんな彼女の精神状態を把握しつつ、大地は続ける。

「白金さん……あなたが考えるのは、あなたの幸せだけで良いんですよ」
「え……」
「だからボクは……良かったと思い、背中を押そうって思ったんです。白金さん……あなた自身が幸せになれば……ボク達にとっては、それで良いんです」
「そんな自分勝手は……」

 「自分勝手で良いじゃないですかっ!」そう口を挟んできたのは、姫だった。

「信じたい人は勝手に信じて、信じたくない人は勝手に信じなかったら良いんですよ! 信じるのが怖いって言うのは――『甘え』ですよ! 愛梨さん!」
「あはは……手厳しい事を言うなぁ……姫ちゃん」
「だってそうですもん! 愛梨さんは、人間は裏切るもの――とか、人の心の闇を知ってる――とか、だから信用出来ない――とかって、言っちゃってますけど! それって何も――【読心能力】者じゃないですからね!?」
「…………っ!」
「私達、【読心能力】が無い人間だって! 他人を信じるのは、怖いものなんです!! 百%裏切られないだろうなって確信して――他人を信じる事なんて! 誰にも出来ませんよ!?」

 姫の強い口調は続く。

「皆……誰しもが、裏切られないかという恐怖を持って他人と付き合うんです! 他人を勝手に信頼して、裏切られたら――それはそんな人を信頼してしまった……自分のせい、なんです!! 愛梨さん! あなたはそれを放棄しちゃってるんです!! 狡いですよ!!」
「……そう、ね……責任の放棄……か……その発想はなかったなぁ……」
「言っておきますけど――」

 姫の言葉は止まらない。

「私――怒ってますからねっ!! とってもとっても――怒ってますから! 太陽さんを苦しめている、あなたに! 私は激怒していますからっ!」
「……ごめんなさい……」

 するとここで、大地が「こら、感情的になるな」と姫を静止する。

「だって大ちゃん……!」
「落ち着け、次はオレの番だから」
「もうっ!!」

 この二人は、本当に仲が良い。
 そんな訳で、大地のターンへと移る。

「少し……懐かしい話をしても良いですか?」
「……うん……もちろん……」
「ボクが、独り善がりに姫を守ろうとして……学校に行かなくなった時……あなたは、ボクの心を読んで……『それは間違ってる』って、言ってくれましたよね……? 覚えてますか……?」
「……うん……」
「今のあなたは……あの時のボクと、同じ事をしています……。独り善がりに――太陽さんを、未来に訪れるかもしれない不幸から、守ろうとしている……はっきり言います。その考えは間違っています――大間違いです。考え直してください」
「でも……私なんかじゃ、太陽くんを……」
「太陽さんは関係ないんです……あなたは、あなたの幸せを、追求するべきなんです」
「それはそれで……独り善がりなんじゃ……」
「この場合は――誰も不幸になってませんよ? あなたの独り善がりが――誰かを幸せにする方向へと向いているならば……それで良いんです」
「独り善がりの、方向性が大切……って事?」
「そうですね。まぁ……ぶっちゃけると――未来の事なんて気にせず、寄りを戻して、今を大切にしてくださいって事です」
「……身も蓋もないね……」

 苦笑いを浮かべる愛梨だった。
 ここでまた姫が言う。

「今の太陽さんは――あの時の私と同じ気持ちだと思います……。だって……――……」
「っ!!」

 大きく目を見開く愛梨。
 何か……考えが纏まりそうな予感がしたが……ここでタイムアップ。

 「時間だ……」と、忍が現れたのだ。

 それを耳にしてか、姫が必死の形相で愛梨に掴みかかる。

「愛梨さん! 間違いなく、太陽さんは今――苦しんでるよ!? この一件全部を――自分のせいだって! 思い詰めてるよ!? 私には分かる! 私も、そうだったから……分かるんだよ!!」
「お……おい、姫っ! 落ち着けって」

 大地の静止にも、姫は止まらない。

「思い出して愛梨さん! 太陽さんは、そんなに信用するに値しない人!? そんな訳ないよね!? あんな良い人他にいないよ!? あの人を信じられないと――金輪際、誰も信じる事なんて出来ないよ!? それでも良いの!?」
「…………っ!!」
「だから愛梨さん! 太陽さんと――」

 しかし姫は……最後まで、自分の想いを続ける事は出来なかった。
 彼女は、言葉の途中で【瞬間移動】させられたのだ。
 強制的に……。

「すまんな大地……時間が押していた為、強制的に送らせて貰った」
「いえいえ……ファインプレーですよ忍さん……助かりました、ありがとうございます」

 そして大地は、今度は愛梨へと向き直り、頭を下げた。

「ボクの彼女が……失礼な事を言って、申し訳ありませんでした……」
「……い、いえ……それは……」
「ですが――」
「っ!」
「姫が何故、ああも取り乱したのか……その理由を、熟考していただきたい……。ボク達は、あなた達に救われたんです……。恩人には……幸せになってもらいたいんです。それだけです……」
「……うん……分かってるよ……。その気持ち……凄くありがたい」
「…………失礼しました」

 忍は、大地を【瞬間移動】させる。
 二人の思い出の遊園地に、忍と愛梨だけが残された。

「はぁー……」

 愛梨が大きく溜息を吐き……項垂れた。

「疲れたか?」
「ええ……想像以上に、メンタルに来るね……コレ……」
「……だろうな……第一ステージを経て……何か、思う所はあるか?」
「……そりゃあるよ……沢山……」
「そうか……では、次に行くとしよう。続いては、エピソード2の振り返りだ」
「……エピソード……2……?」
「名付けて――――、だな」




 その頃――

 太陽と透士郎は……。

「もう、ギブアップか? 透士郎」
「お、おぉ……やっぱ強えな……お前……」
「当たり前だっつーの。伊達にって呼ばれてねぇんだよ。目が良いだけの奴に負けてたまるか」

 仰向けで寝転がる透士郎に跨り、振り上げていた拳を下ろす太陽。

「さ、コレで運動は終わりだ。腹減ったなぁー、帰りラーメンでも食って帰らねぇか?」

 と、呑気に言う太陽に、透士郎は言う。

「いや――

 まだ、お前の運動は終わってねぇよ?」

「はぁ? お前……まだ続ける気なの――――っ!!」

 透士郎ではない何者かに、強襲を受ける太陽。
 一人ではない――だ。
 とはいえ、その不意をつく強襲を、難なく太陽は防いだのだが……。

「へ? ひょっとして……次はお前らって事か?


 !」


 そう、その二人とは――――大地と姫だった。
 姫が言う。

「太陽さん……あなたが今、辛い想いなのは知っています……」
「お……おお……そうか……」
「だから――――ぶちのめさせてもらいますっ!!」
「支離滅裂だなぁ……」

 動き出す、大地と姫。

「――って事は……二対一って事だな!? 何が何だか分かんねぇけど! 【式神使い】と【分身】野郎のタッグか――おもしれぇ!! 受けて立ってやるよ!!」

 太陽が、戦闘態勢に入る。

 大地、姫コンビVS太陽――開戦。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

彼氏の前でどんどんスカートがめくれていく

ヘロディア
恋愛
初めて彼氏をデートに誘った主人公。衣装もバッチリ、メイクもバッチリとしたところだったが、彼女を屈辱的な出来事が襲うー

結構な性欲で

ヘロディア
恋愛
美人の二十代の人妻である会社の先輩の一晩を独占することになった主人公。 執拗に責めまくるのであった。 彼女の喘ぎ声は官能的で…

【R18】今夜、私は義父に抱かれる

umi
恋愛
封じられた初恋が、時を経て三人の男女の運命を狂わせる。メリバ好きさんにおくる、禁断のエロスファンタジー。 一章 初夜:幸せな若妻に迫る義父の魔手。夫が留守のある夜、とうとう義父が牙を剥き──。悲劇の始まりの、ある夜のお話。 二章 接吻:悪夢の一夜が明け、義父は嫁を手元に囲った。が、事の最中に戻ったかに思われた娘の幼少時代の記憶は、夜が明けるとまた元通りに封じられていた。若妻の心が夫に戻ってしまったことを知って絶望した義父は、再び力づくで娘を手に入れようと──。 【共通】 *中世欧州風ファンタジー。 *立派なお屋敷に使用人が何人もいるようなおうちです。旦那様、奥様、若旦那様、若奥様、みたいな。国、服装、髪や目の色などは、お好きな設定で読んでください。 *女性向け。女の子至上主義の切ないエロスを目指してます。 *一章、二章とも、途中で無理矢理→溺愛→に豹変します。二章はその後闇落ち展開。思ってたのとちがう(スン)…な場合はそっ閉じでスルーいただけると幸いです。 *ムーンライトノベルズ様にも旧バージョンで投稿しています。 ※同タイトルの過去作『今夜、私は義父に抱かれる』を改編しました。2021/12/25

隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました

ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら…… という、とんでもないお話を書きました。 ぜひ読んでください。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

【R18】もう一度セックスに溺れて

ちゅー
恋愛
-------------------------------------- 「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」 過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。 -------------------------------------- 結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。

JC💋フェラ

山葵あいす
恋愛
森野 稚菜(もりの わかな)は、中学2年生になる14歳の女の子だ。家では姉夫婦が一緒に暮らしており、稚菜に甘い義兄の真雄(まさお)は、いつも彼女におねだりされるままお小遣いを渡していたのだが……

お父さんのお嫁さんに私はなる

色部耀
恋愛
お父さんのお嫁さんになるという約束……。私は今夜それを叶える――。

処理中です...