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エピソード4『木鋸千草と海波静』

【第63話】木鋸千草と海波静③

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 静と千草の破局。

 こうなった要因は、市川冬夜の存在。
 静の無責任なデートの安請け合い。
 等が上げられるが……根本的な要因は違う。

 この話は――静の彼氏である木鋸千草が、本来の精神状態であった場合……先日の静の事情説明時に誤解が解け、和解出来ていた。
 静が少々咎められはするが、現在のように、拗れる事などなかった筈なのである。

 しかし――事実現状、激しく拗れてしまっている。

 その主たる要因は――千草の精神状態にあった。

 市川冬夜は、狙ってその言葉を放った訳では無い。
 けれど、偶然放った『その言葉』が、千草のトラウマを深く抉った。
 深く……激しく……抉った。

 その言葉――『醜い』

 かつて千草は、自らの【透明化】能力を満足に扱う事が出来なかった。
 時に暴走し……消える事はなけれど、彼は時折、人前で
 フルカラーである現実世界で、彼一人がモノクロに存在しているが如く……。

 静や愛梨の過去から分かる通り――人間というものは、変わっている者を排除しようとする傾向にある。
 従って――千草もその被害者の一人であった。

 見難《みにく》い――という言葉を――醜《みにく》い、と変換され。
 彼は『醜い奴』と罵倒されていたのだ。

 醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い……醜い。

 何度も何度も言われたその言葉に――まだ小学二年生であった彼の心は酷く傷付いた。
 それはもう……トラウマになる程に。
 その単語を聞いてしまっただけで、身体が震えてしまう程には……。
 それが故に、彼は人と関わる事に脅える人間に育った。
 いつもビクビクオドオドしており……今のどエロ元気な彼の姿など、想像もつかなかった。
 当時の彼を知る人物が、今の彼を見たら間違いなく目を剥く事だろう。

 それ程までに、彼の人格すらも変える程の変化をもたらした人物がいたのだ。
 それが――

『なぁ……木鋸お前、何でいつもそんなオドオドしてんの……?』
『えっ……いや……あのっ……その……』
『見難いって言葉に、エラく反応するよな? お前』
『ひっ!』
『……ひっ! って……お前なぁ……。ビビり過ぎだし、自分に自信無さすぎだろ……』
『だって……だって……醜いって言われるの……嫌、何だもん……』
『……あ、なる程。見難いと醜いか……なる程、面白い言葉遊びじゃねぇか。イジメっ子ってのは……どうしてこうも、変な所に頭が回るんだろうなぁ? その頭脳を、別の所に活かした方が良い気がするんだけどなぁ?』
『…………どうして……?』
『? 何が?』
『……が……イジメられていたって……分かるん、ですか……?』
『あー……それは、【変な力】を持った奴なら、誰でも通る道、だからなぁ……』
『……誰でも……?』
『そ、誰でもな』
『ひょっとして……君も?』
『おう! オレなんて【ゾンビ】なんて呼ばれてたぜ! ゾンビが来たぞーっ!! ってな? 笑えるだろ?』
『ゾンビ……』
『ま、オレの場合、そう言って笑った奴ら全員ぶん殴って来たんだけどな』
『怖いっ!』
『でも……オレも一歩間違えたら、今のお前みたいになっちまってたかもしれねぇ……だからさ――分かるよ、お前の気持ち』
『っ!』
『怖いよな……スゲェ分かる……。けどな木鋸……オレも含めて、んだよ』
『…………』
『【何でも見通す目を持つ奴】も、【瞬間移動出来る奴】も、【人を洗脳出来ちまう奴】も……皆――変われたんだ。まぁ……お前を含めて、んだけどな? いつかそいつも……。だって人は――変わる事が出来るって――教えて貰ったから』
『教えて……貰った……?』
『ああ……いつもメラメラ熱い人にな……』
『……メラメラ……? ……僕も……変われる、かな……?』
『変われるさ……だってお前――

 醜くなんてねぇもん』

『え……』
『だから変われるさ――お前は……だからさ、頑張ろうぜ』
『…………うんっ……』
『先ずは手始めに……そうだな、オレと友達になろう』
『友達……?』
『ああ、だから、オレの事を名前で呼んでくれ』
『名前……?』
『そ、名前で』
『………………』
『どうした? 恥ずかしいのか?』
『……えーっと……そうじゃなくて……その……』
『? 何だよ?』
『名前……何だっけ……?』
『はぁー!? お前! 一番最初会った時名乗っただろうがよ!! 失礼な奴だな!!』
『ご……ごめんなさい……』
『はぁ……良いか? もう一度しか言わねぇから、よーく聞いとけよ? オレの名前は――――』

 万屋太陽――

 それが、千草を変えた男の名前だった。

 千草を変え……。
 千草が今も尚――尊敬している男の名前。


「太陽……やっぱりオイラ……変われてなかったよ……」

 見た目と一人称を変え。
 変われたと思っていた千草は今……真っ暗な部屋の中で一人……そんな事を、呟いていた。

 全力で……落ち込んでしまっていた。

 そんな千草の様子を――


 約十五キロ離れた場所から、見ている男が一人……。

「千草の奴……めちゃくちゃ落ち込んでるみたいだぞ……」

 【透視能力】及び【】能力者である泡水透士郎だった。
 透士郎のその言葉に……「当たり前だろ? 彼女と別れたんだから」と返答するのは、太陽だった。

「うむ……心中察するに値する……」
「そういや忍、お前は経験者だもんなぁ? の思い込みが激しかったせいでな」
「あら? 万屋、それは嫌味なのかしら? 私に対する」

 静が笑いながらそう言った。

「相変わらず嫌らしいなぁー、太陽くんは。一番背中を押して貰った、恩人相手にさ」
「はいはい! すいませんでした星空様!」
「うん! よろしい」

 愛梨と太陽のそのやり取りで笑いに包まれる一同。

 「さて――」と、ここで太陽が本題に入ろうと動く。

「意外だったぜ。今回は、だなんて、百人力だよ。受験勉強は大丈夫なんスか? ――――


 

 その言葉に、この部屋の主である火焔剛士が反応した。

「余計な心配をするな太陽。そんなの、大丈夫じゃないに決まっているだろう」
「大丈夫じゃないのか……」
「ま、それは冗談として、今回の一件においては、流石のオレも大切な受験勉強を差し置いてでも……動かざるを得ない、と思ってな……」

 剛士がそう言うのと同じく。
 皐月が全員分用意したお茶を、手際良く配り始めた。

 太陽が話を進めようとする。

「動かざるを得ないって……忍と星空の時は動かなかったのに、今回は何故動かざるを得ないんスか?」
「今回はが居るだろう……? 市川冬夜という第三者が――――
「厄介……? アイツが?」
「ああ……どうやら、泡水と月夜は気付いていたみたいだがな……それと、心の読める白金……お前ももう、理解している事だろう?」
「はい……もちろんです」

 愛梨が、神妙な表情で頷いた。

「詳しい話は、揃ってからだ」
「全員……?」
「……ああ」

 その時、「お邪魔します!」と勢い良く玄関の扉が開かれた。
 現れたのは――

「大地! 天宮! お前らまで……」
「オレが呼んだんだ」
「え?」
「集められる戦力は集めておきたかったからな」
「戦力……?」
「ああ……この問題は既に――――海波と木鋸だけの問題じゃない……」
「第三者に……市川冬夜って奴がいるからか?」
「それもあるが……問題は、そのだ」
「背後……?」

 剛士は、静かに頷いた。
 そして……ヒーロー達を集めた理由の、説明を始める。

「お前らは……最近、異常な程勢力を拡大させている――――


 暴走族の噂を耳にした事があるか?」
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