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ヒーロー達の青春エピローグ~秋の章~

【第54話】あんたも幸せになりなさい

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 前回のあらすじ。
 万屋家の食卓が賑わった。

 時計の針が、既に九時半を指している。

「お、もうこんな時間か……そろそろ帰るか? 白金」
「うん、そうだね」
「ご馳走様でした皐月さん。今日も美味しかったです」
「ご馳走様でした」

 透士郎と愛梨がそうお礼をしながら立ち上がる。
 皐月は「良いのよ良いのよ」と送り出す。

「また来てね。いつでもご飯作ってあげるから」
「はい。オレ一人暮らしなんで、正直助かってるんスよね……」
「うんうん! これからも、思う存分助けてあげるから、遠慮なく来てね。愛梨ちゃんも……ね?」
「は、はい。今日は本当に――――」

「愛梨、夜道に一人じゃ危険だ。途中まで送ってくよ」

 と、太陽が外に出る準備をして出て来た。
 愛梨が笑顔になる。

「うーん……いや、良いや」
「へ?」

 しかし、断られた。

「何故に? 最近この辺り物騒だぞ? 何か……火焔先輩の知り合いの暴走族が勢力を拡大しているとか何とかで……」
「うん、知ってる」
「なら一人は危ないだろう。送ってくよ」
「ううん、どうせなら。太陽よりも――月夜ちゃんに、送って貰いたいかなぁー」

 「え!? 私!?」突然白羽の矢が立った月夜が驚く。
 「がーんっ!!」そして太陽がショックを受けている。

「お願いしても良いかな? 月夜ちゃん?」
「え? え? でも……せっかく兄貴が……」
「大丈夫。今日は私――太陽に送って貰いたくない気分だから」
「がーーっん!!」

 太陽は追い打ちをかけられた。

「可哀想な太陽……」

 そんな彼を不憫に思い、ハンカチで涙を拭う皐月。
 迷う月夜に透士郎が声を掛ける。

「まぁ、本人がそう言ってるんだし、送ってやれ月夜」
「でも……」
「いいから」

 そう言って、透士郎は月夜の背中を押した。
 「おっとっと……」と、月夜は愛梨の目の前へ。
 即座に愛梨が月夜の手を取り、引っ張って行く。

「それでは皆さん、さようなら! 月夜ちゃんを少しお借りしまーす!」
「ちょ、ちょっと! 引っ張らないでよぉー!」

 こんな風に、愛梨と月夜は去って行った。
 二人を見送る太陽、透士郎、皐月の三名。

 太陽が薄らと笑みを浮かべている。
 そんな彼の肩を、透士郎が「よっ! 大根役者!」と言って笑いながら叩く。

「皐月さんも、中々の大根っぷりでしたよ」
「そうかしら? 私、役者には向いてないのかも」
「ははっ! かもしれませんね。太陽、これで良かったのか?」
「ああ……。ご飯食べてる間、ずっと愛梨は、月夜と話がしたそうにしていたからな。良い機会になったろ」
「……ああ、そうだな」

 「ねぇねぇ、透士郎くん?」と、ここで皐月が透士郎へ耳打ちする。

「あなたは良かったの?」
「……? 何がです?」
「せっかく、月夜と二人きりで帰れるチャンスだったのに……」
「…………良いんスよ、別に……。白金と帰るこの時間は、月夜にとって、必要な時間だと思うんで」
「…………そっか。大人だなぁ、透士郎くんは」

「何コソコソ二人で話してんだよ?」

 「「別にぃ」」と、白を切る透士郎と皐月なのであった。


 一方……愛梨と月夜サイドは。

「どういうつもりなの……?」
「何が?」
「せっかく、兄貴と二人きりになれるチャンスだったのに……わざわざ、私と……」
「太陽とは、いつでも帰れるからねぇ。月夜ちゃんの方がレアで新鮮だし」
「…………何それ……」
「それに……月夜ちゃんには、言わなくちゃいけない事、があったから」
「言わなくちゃいけない事?」
「うん……」

 足を止め、突然月夜の前に出て頭を下げる愛梨。

「ごめんなさい……。あなたに……寂しい思いをさせてしまって……」
「はぁ? いきなり何を……」
「強がらなくて大丈夫。ちゃんと……分かってるから……今、月夜ちゃんが寂しい思いをしてるって事……分かってるから」
「……ふぅん……また、ズケズケと私の心を読んだ訳だ。ふぅん……」
「それも、ごめんなさい……」
「まったく……兄貴も変人よね? こんな、プライバシー突破女の事を好きになるだなんて……。ドMとしか考えられないわ」
「そうよ。太陽くんはドMよ」
「……知りたくない情報だったわ……」

 頭を抱える月夜。

「けど……そこまで私の心読んだのなら、それに対する私の返答も……当然、読んでいるのでしょう? だったら、あえて謝る必要なくない?」
「そ……それはそう……なんだけど……」
「なんだけど?」
「何か……謝らなくちゃ、いけないような気がして……」
「ぷっ! 何それ」

 月夜が笑った。

「ああもう、分かった分かった。充分、謝罪の気持ちは伝わりましたよー。これでオッケー?」
「ま、まぁ……一応……オッケー、なのかな?」
「まったく……義理堅いと言うか、頭が固いと言うか……よく分かんない人ね。あんた」
「義理堅くはないよ……」
「へ?」
「私は……そんなに良い人間じゃない……もの」
「…………はいはい。分かりました分かりました。とにかく! 私はもう、あんたと兄貴の関係にケチつけるのはやめたの。あんたが私との約束を破らなければ、何の文句もないわよ」

 約束――――


 太陽を、必ず幸せにする事。


「……兄貴の幸せそうな姿見るのが、私にとっても幸せだって――最近……気付けたから……」
「月夜ちゃん……」
「だから必ず、兄貴を幸せにしてあげて」
「……うん! 頑張る!」
「そして……ついでに――」

 月夜は言った。


「あんたも――幸せになりなさい」


 愛梨の表情が固まる。
 照れからなのか、月夜の頬も少し紅くなっている。

 この二人の間には、これまで色々とあった。

 だからこそ、嬉しかったのだ。

 月夜に、そう言って貰えた事が……何よりも。

「ありがとう……月夜ちゃん……。私……頑張るから」
「…………お礼を言われるような事、言ったつもりないから! さっ! 帰るわよ! 兄貴の言ってた暴走族と出会したら面倒くさそうだし!」
「う、うん……」

 そして二人は再び歩き出す。
 早歩き状態で、あっという間に、愛梨宅の近くまで到着。

「ここまでで良いわ。送ってくれて、ありがとう。月夜ちゃん」
「どういたしまして……それじゃ、ばいばーい」

 役目を終え、あっけらかんと去って行く月夜。
 そんな彼女を……。

「ねぇ、月夜ちゃん」

 愛梨は呼び止めた。
 「何?」と、月夜が振り向く。

「私――月夜ちゃんにも、幸せになってもらいたいの」
「…………そ。ありがと」
「そんな月夜ちゃんに、アドバイス」
「アドバイス……?」

 愛梨は、ニコッと笑って……こう言った。

「近い内に必ず――月夜ちゃんの前に、とても良い人が現れるから。その人の事、絶対逃がしちゃ駄目よ」
「……へ?」
「絶対に――――だよ?」
「う……うん……」
「それじゃあね! 月夜ちゃん! ばいばいっ!」
「…………ばいばい……」

 月夜はポカンとしながら、先程愛梨に言われた言葉を、頭の中で反芻する。

(とても良い人が……現れる?)

 反芻した後、首を捻る。

「何かのこっちゃ?」

 今はまだ、その意味が理解出来ない月夜だった。
 そう……。


 今は、まだ。
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