上 下
54 / 106
ヒーロー達の青春エピローグ~秋の章~

【第53話】少し天邪鬼な所もあるのよ

しおりを挟む

 学校を終え、一人下校中の月夜。

 正直な所、彼女はあまり祝福出来ていなかった。
 太陽と愛梨の関係を。

 既に、愛梨との関係は緩和されている。
 事実、太陽が告白を終えた翌日、二人は一緒にクレープを食べに行っているのだ。

 太陽と愛梨はお似合いである――そんな事は知っている。
 以前のように愛梨に腹も立たない――私に怒る権利なんてない。
 にも関わらず……月夜はモヤモヤとしていた。

(何だろう……この気持ちは……。これは一体、何に対するモヤモヤなのだろう……? まったく……本っ当に、自分の事が嫌になる……自分が、こんなにも心の狭い人間だとは思いもしなかった……)

 そんな事を思いながら、夕焼け空を眺める。
 そして大きな溜め息を一回。

「私も……早く、大人にならないとな……」

 ゆっくりと前を向き、歩き出す。

「ただいまー」

 家に辿り着き、玄関のドアを開ける。
 しかし返事は何も返って来ない。
 ただただ沈黙だけが、月夜を迎え入れた。

「………………」

 まだ誰も帰って来ていない事を理解した月夜は、無言でリビングの中へ入る。
 気にする相手もいない為、リビングで堂々と着替えを済ませた後、ソファーに座りテレビの電源を入れる。
 テレビから声が流れた事でようやく、万屋家に活気が溢れた。
 当の月夜は、黙ってテレビを見つめている。

 それから一時間後――

「ただいまー!」

 玄関のドアが開いた音と同じくして、声が聞こえた。
 皐月が帰って来たのだ。

 ソファーから身体を起こし、玄関まで迎えに出る月夜。

「おかえりー。今日は遅かったね……っえ?」
「こ……こんばんは……月夜ちゃん……」

 愛梨が居た。
 またしても、皐月に連れられる形で愛梨が万屋家へとやって来たのだった。
 皐月が満面の笑顔を見せる。

「その辺トコトコ歩いてたから、拾ったの」
「落し物みたいに言うわね……皐月姉……。それと、思考回路が完全なる誘拐犯のそれだ……」
「失礼ねぇ! 人を誘拐犯だなんて! ささ! 愛梨ちゃん、遠慮せずに上がって上がって」
「え……えーっとぉ……」

 オロオロとする愛梨。チラチラと視線を月夜の方へと向けている。
 そんな彼女を見て月夜はため息をつく。

「何オロオロしてんのよ。堂々と入りなさいよ。あなたはこの家の長男の――彼女なんだから」

 その言葉を聞いた瞬間、愛梨の表情が満面の笑みに変わる。

「お邪魔しまーっす」
「はいはい、どうぞ……」

 そんな月夜を見て、ニコニコしている皐月。

「何よ……皐月姉……」
「んー? 別にぃー?」
「もぉー! 皐月姉ぇー!」
「さぁーて、私は夕飯作るからぁ、二人はリビングでゆっくりしててねぇー。フンフフフーン……」

 鼻歌交じりにキッチンへと消えて行く皐月。
 すると、必然的に月夜と愛梨は気付く。


(二人きり……!?)

 そう……この二人、グレープを一緒に食べる仲にはなったものの、あの一件以降、二人きりで何かをしたという実績がないのだ(グレープの時は、まだ周りに人がいた)。

 あの一件以前の二人の関係は、今更語るまでもない。
 即ち、互いにニュートラルなメンタルで、二人きりになるのはこれが始めてなのである。
 従って――――

(気まずい!!)

 互いにそう思ってしまうのも無理のない話なのである。

 沈黙が訪れる万屋家のリビング。
 二人共、冷や汗が滲み出てしまう。

 この空気の中、先に動いたのが月夜だった。

(ず……ずーっと立ってて貰うのは申し訳ないわよね……? ……よしっ!)
「な、何ボーッと突っ立ってんのよ! ソファーがあるんだから座んなさいよ!!」

 ツンデレ発動。

(あーもうっ! 私のバカーっ!! 何で素直に『座ってください』って言えないのよー! もぉー!! これだと私が怒ってるみたいじゃないのー!! 私のアホーっ!)

 やってしまった……嫌な気分にさせてないかな? と、不安な気持ちで愛梨をチラ見する。

「…………」

 そんな愛梨は、何やら顎に手を置き「うーん……」と唸りながら神妙な表情を浮かべていた。
 ソファーに座ろうとする様子はない。

「え? どうしたの? 座らないの?」
「あのね? 月夜ちゃん……」
「何よ」
「私……とんでもない事に気付いてしまったわ……」
「とんでもない事?」
「うん……。あのね? 私、これからはあなたに対して、自然体でいようと思っているの」
「そ、そうなんだ……」
「でね? 実際の私って、かなり腹黒で性格悪いじゃない?」
「いや、それは何となくしか知らないけれど……」
「そんでもって、少し天邪鬼な所もあるのよ」
「……だから?」
「私――――月夜ちゃんの言う事には、従いたくないみたいなの」
「へ?」
「だから私……ソファーには絶対に座らないわ。床で体育座りしてた方がマシだとさえ思う。ごめんなさい」
「何のカミングアウトなのよ、それは!!」

 真面目な顔でそんな事をカミングアウトした愛梨に、月夜が全力でツッコミを入れた。

「座らないの!?」
「ええ」
「絶対に!?」
「うん……死んだ方がマシだとさえ思ってしまう」
「私の言う事聞くのがそんなに嫌なの!?」
「うん……私、あなたより立場が上でいたいって欲求が、かなり強いみたい……ビックリしたわ……」
「性格悪っ!! 私の方がビックリしたわ!! 何なのよそれ! 良いから座んなさいよ!!」
「嫌!」
「座んなさいってば!!」
「嫌っ!」
「絶対に嫌っ!!」
「意地っ張りにも程があるっ!!」

 強情な愛梨を前に溜め息を吐く月夜。
 どうやら、説得しようとするのを諦めたようだ。

「あーもうっ! 分かったわよ! そんなに私の言う事聞くのが嫌なら、床に座ってれば? 別に床に座った所で、何も害はないんだし! 好きにすれば良いわ! ふんだっ!!」
「…………」
「へ?」

 愛梨がソファーの前に移動する。そして…………ストンと、ソファーに腰を下ろした。
 ソファーに座ったのだ。

 月夜が――床に座っていれば? と、言ったからだ。

「めんどくさいわね!! あんた!!」
「そうね……素直になる――というのも、考えものだわ」
「あんたのは極端なのよ!!」

 そんな風にギャーギャー騒ぎ始めた二人の声を聞きながら、皐月はくすっと笑った。

(もう……この二人は、大丈夫そうね……)

 仲睦まじく言葉を交わし合う二人を確認し……皐月は安心したのだった。


 そして、晩ご飯が出来上がった、ちょうどその時――

「たっだいまぁー!! 我が愛しの姉妹達よー!!」

 気持ち悪いただいまの挨拶と共に、太陽が帰って来た。
 そんな彼の声を聞いた瞬間、月夜と愛梨の目が輝き、仲良く同時に立ち上がった。
 二人が迎えに行こうと動き出した……が……。

 太陽とは違う、のだ。

「お前……本当に、姉妹の前だとキャラ変わるよなぁ……ものすごく、気持ち悪くなる」
「うるせぇよ! つべこべ言わずにさっさと中に入れ! 皐月姉ー! 今日、透士郎の分もご飯あるー?」

 二人を玄関で迎えたのは皐月となった。

「あらあら? 透士郎くんまで来ちゃったのね。まさに、飛んで火に入る夏の虫だわ。充分あるから、思う存分食べていってね」
「万屋家は火なのか? それって危ないんじゃ……ま、まぁそれは置いといて、ありがたくいただきます」

 そんな会話を、リビングで耳にしていた愛梨と月夜。
 月夜の顔が嬉しそうに綻んでいた瞬間を、愛梨は見逃さなかった。

 ニヤリと笑って一言。

「良かったね。透士郎くんが来てくれて」
「は、はぁ!? べ、別に、喜んでなんかないし!」
「あーあ、月夜ちゃんは素直じゃないなぁー――私と違って」
「あ、あんたみたいな捻くれ者と一緒にしないでよ!!」

 ここで太陽と透士郎がリビングへと入って来る。

「あれ? 愛梨、来てたのか?」
「うん、ちょっと皐月さんに捕まっちゃってね」
「ふぅーん……そっかそっか。そりゃ逃げられないわな」

 と、会話を交わす太陽と愛梨。
 透士郎は、床に鞄を置きながら月夜へ声を掛けた。

「悪ぃな、飛び入りで」
「…………」
「ん? 何? 怒ってんの?」
「……べっつにぃー」

 そんなこんなで、この五名で夕食を囲む事になった。
 本日の万屋家の食卓は、騒がしくなりそうだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

彼氏の前でどんどんスカートがめくれていく

ヘロディア
恋愛
初めて彼氏をデートに誘った主人公。衣装もバッチリ、メイクもバッチリとしたところだったが、彼女を屈辱的な出来事が襲うー

結構な性欲で

ヘロディア
恋愛
美人の二十代の人妻である会社の先輩の一晩を独占することになった主人公。 執拗に責めまくるのであった。 彼女の喘ぎ声は官能的で…

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

壁の薄いアパートで、隣の部屋から喘ぎ声がする

サドラ
恋愛
最近付き合い始めた彼女とアパートにいる主人公。しかし、隣の部屋からの喘ぎ声が壁が薄いせいで聞こえてくる。そのせいで欲情が刺激された両者はー

初めてなら、本気で喘がせてあげる

ヘロディア
恋愛
美しい彼女の初めてを奪うことになった主人公。 初めての体験に喘いでいく彼女をみて興奮が抑えられず…

隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました

ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら…… という、とんでもないお話を書きました。 ぜひ読んでください。

夜の公園、誰かが喘いでる

ヘロディア
恋愛
塾の居残りに引っかかった主人公。 しかし、帰り道に近道をしたところ、夜の公園から喘ぎ声が聞こえてきて…

美少女幼馴染が火照って喘いでいる

サドラ
恋愛
高校生の主人公。ある日、風でも引いてそうな幼馴染の姿を見るがその後、彼女の家から変な喘ぎ声が聞こえてくるー

処理中です...