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エピソード3『万屋太陽と白金愛梨』

【第51話】万屋太陽と白金愛梨⑧

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 太陽の気持ちを百%込めた告白を終え。
 無事恋人同士となった二人は今もまだ、アダンとの最終決戦跡地にいた。
 太陽は今、その場所で土下座をしていた。
 地面に頭がめり込む程の……土下座をしていた。
 対して、愛梨は頬を紅潮させ、少し動揺している表情のまま、現在進行形で土下座をしているから目を逸らしている。

「まさか……付き合ってコンマ数秒でキスされるとは……」
「すみませんでしたぁー!! つい出来心で! 付き合ったから良いかなぁーっとか思っちゃいまして! 身体が勝手に動いてしまいまして! 本能が! 本能が悪いんです!! 本当に、すみませんでしたぁ!!」
「……いや、謝られる事ではないんだけれど……私も……その……嬉しかったし?」
「嬉しかったの!?」
「改めて言わないでよ!! 恥ずかしいんだからぁ!」
「じゃあさ……白金……」
「?」
「もう一回……チューしようか」
「キリッと、真面目な顔してても、底にある下心が隠せてないからダメ」
「ちぇっ……」

 ブー垂れた表情の太陽。
 そんな太陽に向かって、「ほら、いつまでも土下座してないで。ここ座って」とベンチの空いた所をポンポンと叩き、座る事を促す愛梨。

「お、おう……」

 横に並んで座る二人。
 二人の視界に映るのは、激闘の痕跡が残る……何もない景色。
 普通の人ならば……『うわっ、何も無い場所! つまらん!』という感想で終わりな景色なのだが……。
 この二人に限っては違う……。

「あっという間だね……」
「……ああ。……つい最近の事のように思ってしまう……」
「そうだね……」

 どうしても……あの闘いを思い出してしまう。
 あの――を……。

「出会ったばかりの私達に……今の私達を……今の私達の関係を、見せてあげたいね」
「だな! きっと驚くだろうなぁ、昔のオレも、昔のお前も!」

 二ヒヒッ! と笑う太陽。
 愛梨もまた、クスッと笑って頷いた。

「そうね。あの頃の私達じゃ、想像も出来なかったよね……まさか、私達が付き合うだなんて……」
「オレなんて、絶対こんな奴と仲良く出来ない! って思ってたもんな!」
「ははは……私も」

 愛梨は、何も無い地形が遠く広がる景色を見つめながら、声を零す。

「でも――色んな事を乗り越えて……色んな人と出会って……私達は今、結ばれる事が出来た」
「……ああ」
「それってさ……きっと、幸せな事だよね?」
「ああ……間違いなく……幸せだよ。少なくとも……オレはな。お前はどうだ? 白金」
「私も幸せだよ――太陽くん」
「……そっか、なら最高だ」

 顔を見合せ、微笑み合う二人。

「あーあ……でも不公平だよなぁー」

 突然、愛梨が退屈気な芝居を始めた。
 太陽が首を捻る。

「不公平?」
「そ、不公平なんだよ」
「何が不公平なんだよ?」
「晴れて、彼氏彼女って関係になれたのにさぁ、太陽くんってば、相も変わらず……私の事、『白金』って呼ぶんだもんなー」
「げっ!」
「私は、ずーっと前から、『太陽くん』って呼んでるのになぁー。あーあ……不公平不公平」
「ぐぬぬ……」
「あれれー? ひょっとしてぇー。キスまでして来た癖にぃ、彼女の名前も満足に呼べないのかなぁー?」
「ぐっ!」
「それって、腰抜け脱却した事になるのかなぁ?」
「だぁーもうっ!! 分かった! 分かりましたよ!! 名前で呼べば良いんでしょ!? 名前で!!」
「うむ。悪くない提案じゃ、承ろうではないか」
「…………何だよ……その口調は……」
「つべこべ言わず。はい、どうぞ……」
「………………っ!!」

 そして太陽は、少し恥ずかしそうに口を開いた。

「あ……あ、あ…………愛梨……」
「…………」
「こ、これで満足か!? つーか! せっかく名前で呼んだんだから何か反応くらいしろよ!!」
「……もう一度」
「あん?」
「もう一度……呼んで……」
「……? 愛梨……?」
「もう一度……」
「愛梨……」
「『愛梨、好きだ』、はいどうぞ」
「愛梨、好きだ」
「うーん……『愛梨、大好きだ』は、どうかな? はいどうぞ」
「愛梨――――大好きだ」
「えへへっ! 嬉しいなっ!」
「何なのコレ!? マジで何なの!?」
「私も……」
「?」
「私も大好きだよ――――
「………………っ!!」

 顔を真っ赤にする太陽。

「あははっ! 顔、赤くなってるー! 可愛いー!」
「う、うるせぇ! ったく……付き合っても変わらねぇな……お前は……」
「そりゃそうでしょ……私達はこれから、ずーっとこうやって生きていくのよ――――一緒に、ね」
「それって、今後ずーっと……からかわれ続けるって事かな……?」
「いや……?」
「…………んにゃ? 悪くねぇ、かな? 程々なら……」
「程々ね! 利用しました!」

 そう言って、ぴょんと元気よくベンチから立ち上がる愛梨。

「私もー!!」

 太陽は、その言葉を聞き眉を寄せる。
 (頑張る……?)と。

「なぁ……白が……」
「むむ?」
「なぁ……愛梨?」
「何かな? 太陽」
「…………………」
(白……愛梨には、んだろうな……だったら――)

 太陽も立ち上がる。そして一歩二歩進み愛梨の前へ。

「知ってるか……? ここ、辺り一面に桜の木を植えるらしいぞ」
「桜の木……? へぇ、そうなんだ」
「来年の春には、一面真っピンクになってる筈だ」
「それはきっと、さぞかし綺麗だろうね」
「だから来年の春――ここに来よう」
「え?」
「いいや……来年だけじゃない。再来年もそのまた次の年も……はたまた、五年後も……十年後も……ずっと……ずっと……」
「…………っ!! うん、そうだね」
「約束だぞ……? 愛梨」
「うん……約束!」
「むぐっ!」

 すると今度は、愛梨から……。
 互いに目を閉じ合う。

 この場所に――――まだ、桜は咲いていない。

 しかし……いずれ桜は咲く。
 いつか、きっと……。


 長かった夏も終わりを告げ……間もなく、寒い季節がやってこようとしていた。





 エピソード3『万屋太陽と白金愛梨』――〈了〉
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