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エピソード2『星空宇宙と土門忍』
【第39話】星空宇宙と土門忍①
しおりを挟む「はぁ!? どういう事だよ!?」
忍から、宇宙と別れた事を聞いた太陽は叫んだ。
「別れたって……お前ら上手くいってたんじゃねぇのかよ!!」
「いや……そうなんだがな? 急に『別れましょう』って言われて、拙者も何が何だか分からなくて……」
苦笑いで飄々と、そんな風に答える忍に、太陽は違和感を覚える。
「おい忍……お前何で――――宇宙と別れたってのに、そんな飄々としてられんだ?」
「え?」
その指摘を受けて初めて、「確かに……」と忍はそこに疑問を持った様子だった。
つまりそれまでは、気にもしてなかった、という証拠である。
「お前! 宇宙と別れて悲しくねぇのかよ! お前の宇宙へ対する気持ちはそんなもんだったのか!?」
「………分からない。何故かは分からないが、何とも思えないんだ……好きだった筈なのに……」
「筈なのにって……ふざけんな! そりゃそんな気持ちなら振られて当ぜ――」
「太陽」
「ああ!? 何だよ透士郎!!」
その場に居合わせた、透士郎が太陽へ耳打ちする。
忍には聞こえないように。
「忍は今――宇宙の奴に【催眠】をかけられてる」
「はぁ!? マジか!?」
「間違いねぇよ、オレの【透視】で確かめた……忍は今――催眠で心を書き換えられてる。だから、宇宙と別れても『寂しい』と、思えないんだ」
「な……何でそんな事……」
「何をコソコソ話してんだ?」
キョトンとしている忍。首を傾げている。
「い、いや……何でもねぇよ」と、透士郎が答える。
太陽が耳打ちで問う。
「その事……忍には伝えねぇ方が良いのか?」
「ああ……もし、そんな事をされていると知ったら、透士郎はショックを受けるかもしれない……今はまだ、伝えないのが得策だと思う……」
「…………分かった」
太陽は忍の方へ向き直り、頭を下げた。
「ごめん……何も分かってねぇのに厳しい事言っちまって……お前だって本当は辛いよな……」
「お、おう……どうしたんだ急に汐らしくなって? うーん……でもまぁ……不思議な気分なんだ」
「……不思議な、気分?」
「ああ、何と言うか……宇宙と別れて、悲しい筈なのに、悲しくないんだよな……太陽が怒るのも無理もない。自分が嫌になる……」
忍が悲しそうな笑顔を浮かべながら、言う。
「宇宙に告白されて……嬉しかった筈なのに……。付き合ってた日々は楽しかったのに……。拙者の好きは……この程度のものだったのか、と、嫌になる……。なぁ……? 太陽、透士郎――――
拙者は……こんなに冷たい人間だったのか?」
「…………っ!!」
ここで太陽の怒りが最高潮に達する。
咄嗟にスマホを取り出し、触り始めた。
透士郎が問い掛ける。
「お、おい太陽! 何する気なんだよ!!」
「決まってんだろ!? 宇宙の奴に電話すんだよ!! 汚い手を使いやがって……許せねぇ! 問い詰めてやる!!」
「おい!」
呼び出し音が鳴り響く中……太陽が忍に言う。
「おい忍! お前そんなに気に病むな! お前はそんな冷たい奴じゃねぇから!! かといって、今のお前じゃどうしようもねぇ! オレらが話聞くから、ちょっと待ってろ!!」
「お……おう……?」
忍が、キョトンとしながら、頷いた。
すると、『……もしもし?』と呼び出し音が止まり、宇宙が電話に出た。
「おい……宇宙……。今から会えるか……?」
『ええ、……可能よ』
「だったら今から駅前の公園へ来い! 話がある!!」
『…………了解したわ』
そんな訳で、宇宙と会う約束を取り付けた太陽は、透士郎と共に約束した場所へと向かう。
忍は一緒ではない。
今の忍を宇宙の合わすのは危険だと感じたからだ。
「なぁ……透士郎」
「何だ?」
「もしオレが、宇宙に向かって殴り掛かりそうになったら、全力で止めてくれよ?」
「……そうはならねぇよ……お前は。そういう奴じゃねぇからな」
「……分かんねぇだろ……そんな事……」
そして――
公園にて向かい合う、太陽、透士郎と宇宙。
「急に呼び出して、何の用かしら? 告白でもされるのかしら?」
「惚けんなよ……分かってんだろ? オレに呼び出された理由ぐらい……何で、忍を洗脳してんだよ!」
「…………」
「汚い手を使いやがって! 忍の好きって気持ちを弄んでんのか!? ふざけんなよ!?」
「……仕方がなかったのよ……別れを持ち出した際、嫌だと言われたから……コレが唯一の、円満に別れる為の方法だったのよ。それしか方法がなかったの」
「……はぁ?」
太陽の身体が、怒りに震える。
握りしめる両拳に、力が入る。
「円満に……別れるだと? 忍は嫌って言ったんだろ? それなのにお前は――――洗脳して、無理やり別れたってのか?」
「だからそう言って……」
「ふざけんな!! お前は! 忍の気持ちを何だと思ってんだ!!」
「…………」
「別れるにしたって……理由をちゃんと説明して!! 忍に納得して貰ってからにしろよ!! それが筋ってもんだろうが!! 何だよそれ!! 忍が今どんな気持ちでいると思ってんだ!! アイツの気持ちも、少しは考えてやれよ!!」
「……理解出来なかった? 想像力が不足してるわね……理由を話しても納得して貰えなかったから、洗脳に至ったのよ」
「それでも!!」
太陽は声を荒らげる。
「それでも!! 納得するまで話せよ!! 会話をしろよ!! 一方的に、自分の気持ちを押し付けてんじゃねぇよ!!」
「…………」
「忍は嫌だって言ったんだろ!? だったら! お前と別れるのが嫌だったんだよ!! その理由を! お前はちゃんと聞いたのか!?」
「……っ!!」
「どうせ聞いてないんだろ!? 相手の気持ちも知らねぇ癖に、他に手がなかっただぁ!? 想像力が不足してるのはお前の……――」
「……るさい……」
今度は、宇宙の身体が震え出す。
「うるさい!!」
そして、叫ぶ。
「あんたに何が分かるのよ!! 私達の事を……そして、私の事を何も知らないあんたに!! そんな事言われる筋合いないでしょ!!」
「っ!!」
「そもそもあんた! 恋愛について何も知らないじゃない!! 両思いと分かっていながら――愛梨に告白出来ない!! 腰抜けじゃないのよ!!」
「っ!! そ……それは今、関係ねぇだろうが!!」
「関係あるわよ!! 私は勇気を出した!! 球乃くんだって、学校に行き始めた!! 姫さんだって! 静さんだって! 木鋸だって!! それなのにあんたは――――あんたは何もしていない!!」
「………っ!!」
太陽は、何も言い返せない。
「そんな腰抜けが! 私に講釈たれるんじゃないわよ!!」
その言葉は……その叫びは……深く、太陽の心へ突き刺さる。
深く深く、突き刺さる。
(腰抜け……か……。確かに……全くもって、その通りだな……)
「お、おい……太陽……大丈夫か?」
透士郎が心配する程、太陽は落ち込んだ表情をしていた、
片や――散々叫んだ結果、少し宇宙は落ち着いたのか、大きく一回深呼吸をした後、「ごめんなさい」と頭を下げた。
「少し言い過ぎた……いくら本当の事とはいえ、少し言い過ぎたわね……面と向かって言う事では無かったわ……。でも、これだけは言わせて……。万屋……」
「……?」
「あなたより恋愛経験のある先輩として、一つアドバイスをしてあげるわ」
「……アドバイス……?」
「告白なんて……やめておきなさい。相手に自分が相応しくなかった場合……いつの日か絶対に自分の事が嫌いになるだけだから」
「自分の事が……嫌いに……?」
「今の……私みたいにね」
「え? それって……」
「あーあ……」と、宇宙は太陽と透士郎に背を向けながら、嘆くようにこう言い残し、去って行った。
「何で私……告白なんて、しちゃったんだろう……」
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