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ヒーロー達の青春エピローグ~夏の章~

【第31話】実力行使です!!

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 夏休み――

 雲ひとつない晴天。
 ミンミンと鳴く蝉。
 生暖かい風。
 ギンギラギンと輝く太陽。

 猛暑の中、一人の男がルンルン気分で街を徘徊していた。
 スキップをしながら、徘徊していた。

「今日も収穫があったぞぉー! いやっほぉーい!」

 飛び跳ねるごとに揺れるアフロ。
 そして、鼻の下に装着していた付け髭がポロリと落ちる。

「おっと……年齢詐称の為の変装道具が落ちてしまった。コレが無いと買えないもんなぁー、エロDVD」

 木鋸千草は法律違反を犯していた。
 十八歳未満でありながら、十八禁のDVDを購入したのだ。
 良い子は絶対に真似をしないように。

「そもそも、十八歳未満は購入出来ないって法律からしておかしいんだよなぁー。これ、最高の保健体育の教科書なのになぁー。どうかしてるぜ、日本」

 どうかしているのは、千草の頭の中である。

「太陽も忍も、今どきDVDなんて流行らない、パソコンで充分だ。なーんて言うけど、何やかんやで借りたがるんだよなぁー。よーっし! とりあえず帰って、一発かましてから先ずは太陽へ……」
「あーーっ!! 木鋸先輩だぁー!!」
「……れんらく、を…………」

 千草のスキップが止まった。

「何してるんですかー?」

 近寄って来る声。
 その瞬間、千草は全速力でダッシュを開始する。
 その声から距離を取る為だ。

(よりにもよって、と出会ってしまうだなんて! 最悪だぁ!! とにかく逃げないと!! あそこの角を曲がった瞬間、【透明化】を使って――)

「逃がしませんよぉー! とうっ!!」
「えぇっ!?」

 その人物はいとも容易く、走る千草へ追いつき、ぴょーんと彼の頭を飛び越えたのであった。

「ふふん、私から逃げようなんて、考えが甘いですよー? 木鋸せーんぱいっ」
「ぐぬぬぬぬ……!」

 アクロバティックな着地を決め、千草の前に立ちはだかった者の正体は――――静だった。

 海波 静。
 千草に恋をしている、中学三年生。

「もう! 逃げるだなんて、照れ屋さんですねぇー。ところで、こんな暑い日に外で何してるんですかー?」

 もう逃げられないことを悟った千草は、作戦を変更する事に決めた。
 何とか誤魔化し、エロDVDから目を逸らさせる作戦に出る。

「し……静の方こそ、何してんのー……?」
「私? 私の今を聞いていただけるんですか!? どうしたんですか先輩! 私に興味津々じゃないですかぁ!! 良いでしょう! 答えてあげます! 私はランニングしているんです! 今!」
「ら……ランニング? この暑いのに、ご苦労様だねぇ……」
「暑いからこそランニングをするんですよ! 発送が逆ですよ! 逆! 暑い中でのランニングは、心も鍛えられますから!」
「へ、へぇ……そ、そうなんだぁ……それは……良かったね……」

 目が泳ぎまくる千草。
 嘘が下手すぎである。

「で、木鋸先輩」
「で?」
「一体、何をしてたんですか?」
「い、いやでも! 今日は本当に暑いよねー!」
「はい! 暑いです! で、何をしてたんですか?」
「…………っ!!」
「話を逸らさないでください! 何をしてたんですか?」

 満面の笑みで問い詰めてくる静。
 話を逸らしても意味をなさない圧力だ。しかし、本当の事は話せない。
 年齢詐称してエロDVDを買っていたなんて、静を失望させてしまうかもしれないからだ。

(何とか……何とかしないと!!)

 千草は、足りない脳みそをフル回転させる。
 考えて、考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考え抜いて出た言葉は――――

「さ、散歩」

 もの凄くありきたりな返答だった。
 やはり、脳内真っピンクのアフロが考え抜いた所で、ろくな答えはでないようだ。

「またまたぁー。買い物してたんでしょー? 何買ったんですかー?」

 そして楽々と看破されていた。

「な、何故分かった!?」
「だって明らかに今、買い物してましたよーって袋持ってるじゃないですか。私の目は誤魔化せませんよー」
「や、やられた!! 何て観察眼だ!!」

 観察眼も糞もない、ただの千草のミスである。
 迂闊にも程があった。

「何買ったんですかー? 見せてください」

 まだ見ぬエロDVDに手を伸ばす静。そしてそれを躱す千草。

「む? 何で避けるんですか?」
「………………」
「とりゃっ!!」
「…………」
「とりゃっ! とりゃっ! とりゃっ! とりゃっ!」
「…………………………」

 手を伸ばし続ける静。そしてそれを無言で躱し続ける千草。

「むむむむ! どうして見せてくれないんですか!! もう怒りましたよ! 実力行使です!!」
「い、いや……暴力は……」
「あっ! 見てください! 可愛いギャルが際どい水着を着てM字開脚してますよ!!」
「マジっすかぁ!?」

 隙あり。

「どこ!? どこどこ!? M字開脚の水着可愛いギャルどこ!? ………………って、あぁっ!! しまったぁ!!」
「へっへーんだ。いただいちゃいましたもんねー」
「汚い! 謀ったなぁ!!」

 静が意気揚々と、奪い取ったエロDVDの入った袋を見せつける。

「さぁーて、何を買ったのか拝見させて頂きまーす」
「だ、駄目だってばぁ!! 返せぇー!!」

 そして――エロDVDが、白日の下に晒される事になる。

「え?」

 静はエロDVDを目の当たりにした事で、目が点になる。
 時が止まったように……。
 千草は(終わった……)と、肩を落とす。(流石に引かれた……)と。

 しかし――

「あははっ! なぁーんだ、何を隠し回ってるのかと思ったらコレかぁー。
「へ?」

 予想外の反応に、キョトンとしてしまう。

「引かないの……?」
「何を今更。ツテヤのアダルトビデオコーナーに入っていることを知っている私が、たかだかエロDVDの購入ぐらいで引く訳ないじゃないですか」
「そ……それはそれで複雑だけど……」
「普通の男子高校生らしくて――健全で、良いじゃないですか」
「……普通の…………。普通の女子中学生は、こういうの見たら、引くんだけど……?」
「あははっ、そうかもですね。でも残念!」

 満面の笑顔で、静はこう言い放った。

「私は――――普通じゃないので、引きませんよ!」

 千草には……彼女のその笑顔が、とても眩しく見えて……。

「……そうだな……。確かに静は……普通じゃない、よな……」
「え? 何か言いました?」
「……何も言ってないよ」
「あー! 口が3になってる! 拗ねてる先輩も可愛いー!!」
「う、うるさいなぁ!! もうっ! …………」

 引かれないなら引かれないで悔しいと思ってしまうのが、変態の性である。
 ニヤリ……と千草は笑った。

「ねぇ静……?」
「ん? 何ですか?」
「静はさぁ……普通じゃないから、何があっても引かないんだよねぇ?」
「はい! その通りです!」
「じゃあ……何をお願いしても、引かずに、聞いてくれるのかなぁ?」
「はい! 出来る範囲でならば、何なりと!」
「パンツ見せて」
「っ!?」

 勝った――と、確信する千草。
 (これは流石に引いただろう)と。

「良いですよ」
「へ?」

 だが、彼の思いとは裏腹に、静は二つ返事に頷いて見せた。

「いや……マジ?」
「はい! マジですとも! 千草先輩になら、私はパンツでも裸体でも、幾らでも見せてさしあげます!!」
「いやいやいや!! そんな風に決意籠ってますみたいに言われても困るんですけど!?」
「あ、でも……」

 何かを思いついたかのように、静は口元を千草の耳元へと寄せる。
 そしてこう囁いた。

「見せるのは……後日でも良いですか? 木鋸先輩には、とびっきり可愛い下着を、見て欲しいので……」
「変態だ! 変態がいる!!」
「あははっ! 顔赤くなっちゃって、かーわいいなぁ!」
「静ぅーー!!」

 そんな訳で……。
 この二人はいつも、こんな感じである。
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