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ヒーロー達の青春エピローグ~夏の章~

【第30話】その悩みに光を当てるのは……

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「……もうすぐ、夏休みだなぁ……ズルルルルッ」
「……ああ……ズルルルッ」

 太陽は今、透士郎と共にラーメンを食べていた。
 ラーメンとは言っても、お湯を入れて三分のカップラーメンだ。
 場所は透士郎宅。
 例の如く、皐月が剛士の家に夕飯を作りに出掛けたので、太陽は夕食を求めて透士郎宅へと突撃したのである。
 そして、今に至る。

「……そういや、月夜は? ズルルルッ」

 と、透士郎がラーメンをすすりながら問い掛ける。

「あいつも確か、ご飯作れねぇタイプの人間だろ?」
「作れねぇなんてレベルじゃねぇよ……月夜のは……。ありゃ、錬金術だ……」
「錬金術?」
「ああ……だってよ、食材が月夜の調理という過程を経ると、人の胃に穴を開けるクラスの毒になるんだぜ? 錬金術だろ?」
「何だそりゃ? フィクションの話か?」
「いいや? 信じ難い事に、ノンフィクションの話だ。オレが【自己再生】能力持ちだったから良かったものの……そうじゃなかったら今頃…………あー……怖っ……考えるのやめとこ……ズルルルッ」
「……オレも、そっから先の話は聞きたくねぇな……ズルルルルッ」

 ラーメンをすする二人。
 気を取り直して、本来の質問への解答を口にする。

「月夜なら今頃、静ん家で夕飯食ってるよ」
「ふぅーん……。一緒に食いに行くって選択肢はなかったのか? わざわざウチに来て、安いカップラーメンを食べる事もないだろうに……ズルルルッ」
「当然それは提案したさ! けど、『あんたにはこの前騙されたから信用出来ない』って言われてさ……ズルルルッ」
「この前?」
「……前に皐月姉がいなかった時、月夜と一緒にファミレスへ食べに行ったんだよ」
「ふぅん……。それの何が月夜の気に触ったんだ?」
「白金も誘って、三人でな」
「うわぁ……」

 顔を真っ青にして、月夜を怒らした理由を察した透士郎。(そりゃ怒るわな……)と、心底納得したようだ。

「白金と月夜……あいつら、何であんなに仲悪いんだろ? ズルルルッ」

 (原因はお前だよ)とは、口が裂けても言えない透士郎。これ以上この話を続けると、頭が痛くなる事待ったなしであるため、「さあな」と適当に返答し、話を変える事にした。

「ところで……最近ちょっと気になってんだけど。忍と星空さんって…………」
 ピロンッ!
 ここで、メールの受信音が鳴り響いた。

「あ、オレだ」

 どうやら、太陽のスマホのようだ。
 画面を開き、メッセージの内容を確認する。
 確認した瞬間――――

「マジか!?」

 大声を上げて驚いた。
 その声に驚いてしまう透士郎。

「うるせぇな……いきなり大声出すんじゃねぇよ……誰からのメールだったんだ?」
「だ、大地から……なんだけど、さ……」
「大地から? 珍しいな。何て書いてあったんだ?」
「コレ……」

 太陽がスマホを掲げ、その内容を透士郎に見せる。
 メールにはこう書かれていた。

『お疲れ様です。
 とりあえず速報だけ。
 姫とお付き合いする事になりました。
 太陽さん達のおかげです。詳しい事はまた後日。
 色々と本当にありがとうございました』

「う……うおおおおぉおおおっ!! マジか!?」
「だろ!? そうなるだろう!?」

 透士郎も同じく叫び声を上げた。

「そっか……あいつも、遂に一歩踏み出したんだな……」
「だな! 強気な事言ってたけど、いざその時に日和るって可能性も考えてたけど、マジでやりやがったよ……あの野郎……」
「…………。ハハ……嬉しそうだな。太陽」
「当たり前だろ。仲間が幸せになったんだぞ? 普通に嬉しいに……」
 ピロン!
「ん? もう一件のメール? 大地からだ、何々……」


『太陽さんも早く、白金さんに告白したらどうです?笑』

 そのメッセージの内容を見て、ワナワナと震え出す太陽。
 片や透士郎は大笑い。

「あははっ! 言われてんぞ太陽、告白したらどうですかー?」
「……! くそっ……やっぱ可愛くねぇ奴、喜んで損した!」
「まぁまぁ、不貞腐れんなって。大地も大地なりに背中押そうとしてくれてんだよ」
「いーや! これは告白終えた後のハイテンション悪ノリでオレを弄ってきただけだよ!! あの野郎……姫ちゃんに次会った時、ある事ない事吹き込んでやる……」
「やめとけ、そんな事しても負け犬の遠吠えには変わりねぇから」
「どうしてそんな酷い事言うんだよ!!」
「ま、ともかく――大地の言ってる事ももっともだ」
「あん?」

 ここで透士郎が切り込む。

「お前は、いつまで白金を待たせるつもりなんだ?」
「え……?」
「結果なんて、分かりきってるだろう。後は、お前が勇気を出すだけだ」
「……勇気……」
「大地も勇気を出したんだ。そして、星空もな。お前もそろそろ……」
「オレが勇気を出すだけじゃ……ダメな気がするんだよ……」
「あん?」

 太陽は、意味ありげにそう言った。
 何かが足りない――――と、そう言った。
 「どういう事だ?」と、透士郎は首を捻る。

「いや……どういう事だと聞かれたら、上手くは答えられねぇんだけど……例えば、以前、お前に唆されて、白金に告白しそうになった時あっただろ?」
「ああ! あの、だな。お前が怖気付いて頓挫したやつ。それがどうかしたのか……?」
「……気の所為かもしれねぇけど、あの時の白金……オレの告白を聞く事を――怖がっていた、ような気がするんだよなぁ……」
「……怖がっていた?」
「ああ……少なくとも、好きな人から告白受けそうな時に見せる顔ではなかったんだよなぁ……」
「ひょっとして、それで『白金は自分のこと好きじゃないかもしれない』と考えてて、なかなか勇気が出ないって事なのか?」
「……うーん……そう、なのかなぁ? 白金からは時々、そういう顔が垣間見える時があるんだよな……暗い――というか、何考えてんだろ? って表情が……」
「ふむ……」

 透士郎は思考する。

(きっと……当事者同士でしか分からないものがある、のだろう……。特に白金の方は、持っている【能力】の特性ゆえに、色々と苦労をしてきたらしいから……今も尚、オレ達には分からないような悩みがあるのかもしれない……。そして恐らく――)

「ん? どうしたんだ? 透士郎。急に黙りこくって」

(いつか、その悩みに光を当てるのは……太陽《この男》なんだろうな……)
 そうであって欲しいな、と透士郎は思った。

「何でもねぇよ。よしっ! そんな疑惑は一旦、杞憂だと考えて置いておくとして、明日告ってみるか! 一回、当たって砕けてみようぜ!!」
「話聞いてたか? そんな、とりあえず一発ジャブ打っとこうみたいなノリで失恋できるか!!」
「……それもそうか」

 そして万が一、告白が成功しても
 太陽が危惧しているのはそこなのだろう。

 太陽と愛梨――この二人の関係は単純そうに見えて、根が深い。

 まだまだ先は長そうだった。

「あ、そう言えば透士郎」
「何だ?」
「大地からのメールが届く直前に、何か言いかけてなかったか?」
「ん? そうだったか? 忘れちまったよ」
「そっか、なら仕方ねぇな」
「ああ、仕方ねぇ」

 そんなこんなで、夜は更けていく。
 カップラーメンも、のびてゆく。
 時は過ぎていく。

 舞台は――――激動の夏休みへと突入する。
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