16 / 106
ヒーロー達の青春エピローグ~春の章~
【第15話】絶対チクリます
しおりを挟む休日――静と姫の二人は、映画館に足を運んでいた。
『下霧雀は告られたい』という映画を見る為だ。
『下霧雀は告られたい』とは、ヤングシャンプーという漫画雑誌に連載されており。アニメも二クール放送され、映画化を果たした大人気漫画である。
二人は、その完結編となる映画を見に来ていたという訳だ。
視聴を終えた二人は……。
「最っ高だったな!!」
「うん、最高でしたぁー。途中、鴉くんの浮気めいたアレにはちょっとイラッとしたけど、最後はちゃーんと雀ちゃんに土下座してハッピーエンドだったから良かった」
「鴉くんのアレはないよな」
「ないですないですっ! だからスカッともしたよねー」
このように、映画の感想をそれぞれ語り合う二人。
静がふと時計を見ると、時刻は十八時四十五分――夕食を摂るには、丁度いい時間だった。
「なぁ、ご飯にしないか?」
静が提案すると、「そうだね」姫が頷いた。
そして夕食を食べ、映画の感想を更に語り合った後、彼女達は帰路についた。
時刻は二十時を過ぎており、辺りは真っ暗である。そんな中、女子中学生が二名並んで歩いている。
通常ならば、女子二人が夜道を歩くのは少々危険が伴うものなのだが、この二人にそんな心配は全くない。
何故なら彼女達は超能力を使えるからだ。
よしんば変質者やナンパ男に囲まれたとしても、楽々撃退してしまう事だろう。
そんな訳で、二人は意気揚々とした気分でそれぞれの家に向かい歩いていた。
「ん?」
その最中、姫が気付いた。
「あれって……太陽さん達じゃない?」
「え? あ、ホントだ」
静も、彼らの姿を捉えた。
太陽と千草――変態二名の姿を。
変質者やナンパ男には遭遇しなかったものの、変態には遭遇してしまったようだ。
ここで、静の目がキラリと光る。
何故か?
「あ……ああぁあぁぁあーーっ!! 木鋸先輩だ! 木鋸先輩も居るぅー!! か、カッコイイーー!!」
千草の姿を確認したからである。
静は、千草の事が好きなのだ。
だからこそテンションが爆上がりしてしまう。
そんな静の様子を見て、姫は苦笑い。
「本当に、静さんって……木鋸さんの事が好きだよねぇ……」
「大好き大好き! きゃーっ! 木鋸先輩ー!!」
「何で木鋸さんなのかなぁ……?」
「え?」
「いや……静さんって、かなりモテるでしょ? 色んな人から告白されてるみたいだし……なのに何で木鋸さんなの?」
「良くぞ聞いてくれたな、姫よ!!」
ここぞと言わんばかりに、静が声を上げる。
「教えてやろう! 木鋸先輩の良さを……そして素晴らしさを!!」
「えぇ……」
「姫! 先ずは木鋸先輩を見たまえ! 話はそれからだ!」
「…………わ、分かったよ……」
言われるがまま、姫は遠くを歩いている千草を視界に入れた。
「見たか?」
「まぁ……一応……」
「では、木鋸先輩のご尊顔を拝見しながら、あの御方の素晴らしさを解いて行きたいと思う!」
「…………」
先程迄の映画の話とは違って、全然乗り気ではない姫に、静は熱く語り始めた。
「良いか姫! 先ずは見た目からだ!! 見ろ! あの謎のアフロを!! あのモサモサに触れてみたいとは思わないか!? そもそも何故アフロなのか、その理由を知りたくはないか!? その謎を知りたいと思えてしまうのも、あの方の魅力の一つなのだ!!」
「そ、そうなんだ……興味は湧かないけど……」
「そして二つ目! あのいつも眠そうな目を見てみろ!! 抱き締めて差し上げたくならないか!? きっと毎晩、眠るのを惜しみ、深い事を考えておられるに違いない!」
「抱き締めたくならないし……きっと変な動画見て夜更かししてるだけだと思う……」
「三つ目!! あのだらしない口元を見てみろ! アヒル口っぽさもあって、木鋸先輩が何だかアヒルに見えてこないか!?」
「見えて来ないし……アヒルに失礼」
「そして内面! あの所構わず女性を性的な目で見て、エッチな事を妄想出来るという度胸と恥知らずさ! 本能に抗おうともしない、自分に甘過ぎる所は尊敬せざるを得なくないか!?」
「さっきから褒めてる? それ……。貶してるんじゃ……」
「否! 褒めている!」
「そ、そうなんだ……まぁ、静さんが良いなら別に良いけど……」
(いまいち魅力が分からない)と感じた姫だった。
千草の良いとこアピールを終え、ウズウズしている様子で静が提案する。
「なぁ……つけてみないか?」
「え?」
「太陽さんはともかく……木鋸先輩のプライベートは凄く気になるんだ……」
「太陽さんは良いんだ……私はむしろ、太陽さんの方が気になるけどな……でも、後をつけるなんて、それは幾らなんでもあんまり良くないんじゃ……」
「そうと決まれば行くぞ! 着いてこい姫!」
「私の意見は無視なんだ……」
一目散に走り出す静。
こうなってしまった彼女を止められるのは、精々月夜くらいのものだろう。
「何をしているんだ姫! 早く動き出さないと、見失ってしまうぞ!」
「…………はいはい」
姫は渋々、尾行に付き合う事となった。
そして、尾行を開始してから十分後、太陽と千草はTUTEYANというレンタルビデオショップへと入って行った。
店へと入って行く二人のニヤけ面を遠くから眺めながら、姫は(絶対ろくな事しないだろうなぁ……)と、嫌な予感を覚えた。
「私達も入るぞ!」
「う……うん……」
そして、姫の悪い予感は的中してしまう。
静と姫は今、尾行対象である二名が何食わぬ顔で入って行ったとあるコーナーの前で立ち竦んでいる。
彼女達の目の前には……大きく『18禁』と書かれたピンク色のカーテンがあった。
早い話が、アダルトビデオコーナーに太陽と千草は入って行ったのだ。
静と姫は、空いた口が塞がらない。
「あー……この先って……アレだよな? エッチな……」
「静さん……ごめん、それ以上は言わないで……」
「『18禁』ってデカデカと書かれてるけど……あの二人ってまだ……」
「良い子は絶対に真似しないで欲しい……フィクション世界で、尚且つ、あの二人が比較的老け顔だから出来る事よね……」
「木鋸先輩の悪口を言うな!!」
「いや……この状況なら悪口言っても仕方ないと思う……」
「ふむ……」静は何やら考え込んだ。
このままでは尾行が成立しない……ならば――
「よし! 私達も入ろう!!」
「ぜったいっ!! 嫌!! ハレンチにも程がある!!」
姫に断固反対されてしまった。
「何だと!? 甘ったれるな姫!! このままだと尾行が成立しないんだぞ!?」
「この中に入るくらいなら、尾行なんて辞めた方がマシよ!! 不成立上等だもん! むしろ私そもそもあの二人に興味なんてないし!! 最初から乗り気じゃなかったし!!」
「大人になれ! 姫!!」
「これは大人になるとか、そういう問題じゃないもん!! 子供が背伸びしているだけじゃない!! 子供の悪戯みたいなものだもん!!」
「この分からず屋!!」
「そっちこそ!!」
しばらくの間二人は水掛け論を交わした。
結論……アダルトコーナーの入り口前で待つ事になった。
それから一時間後――
「へ? な……何で……お前らがここに?」
入り口前に、仁王立ちの如く立ちはだかっている姫と静の姿を見て、青ざめる太陽と千草。
姫は怒り心頭の様子。
「お二人こそ……こんな所で何をしているんです?」
「そ……それは……えーっと……」
一方、静はと言うと……。
「木鋸先輩ーーっ!!」
「ちょっ! 海波!?」
千草に満面の笑みで飛び掛っていた。
従って……姫に詰め寄られているのは、太陽だけである。
太陽は恐る恐る問い掛けた。
「あの……この事は月夜に……」
「絶対チクリます」
この後、家に帰った太陽が、巨大タンスにぐちゃぐちゃになる程押し潰されたという事は、言うまでもない事である。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
ヤンデレ男に拐われ孕まセックスされるビッチ女の話
イセヤ レキ
恋愛
※こちらは18禁の作品です※
箸休め作品です。
表題の通り、基本的にストーリーなし、エロしかありません。
全編に渡り淫語だらけです、綺麗なエロをご希望の方はUターンして下さい。
地雷要素多めです、ご注意下さい。
快楽堕ちエンドの為、ハピエンで括ってます。
※性的虐待の匂わせ描写あります。
※清廉潔白な人物は皆無です。
汚喘ぎ/♡喘ぎ/監禁/凌辱/アナル/クンニ/放尿/飲尿/クリピアス/ビッチ/ローター/緊縛/手錠/快楽堕ち
隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました
ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら……
という、とんでもないお話を書きました。
ぜひ読んでください。
【R18】もう一度セックスに溺れて
ちゅー
恋愛
--------------------------------------
「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」
過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。
--------------------------------------
結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる