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ヒーロー達の青春エピローグ~春の章~

【第15話】絶対チクリます

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 休日――静と姫の二人は、映画館に足を運んでいた。
 『下霧雀は告られたい』という映画を見る為だ。
 『下霧雀は告られたい』とは、ヤングシャンプーという漫画雑誌に連載されており。アニメも二クール放送され、映画化を果たした大人気漫画である。
 二人は、その完結編となる映画を見に来ていたという訳だ。
 視聴を終えた二人は……。

「最っ高だったな!!」
「うん、最高でしたぁー。途中、鴉くんの浮気めいたアレにはちょっとイラッとしたけど、最後はちゃーんと雀ちゃんに土下座してハッピーエンドだったから良かった」
「鴉くんのアレはないよな」
「ないですないですっ! だからスカッともしたよねー」

 このように、映画の感想をそれぞれ語り合う二人。
 静がふと時計を見ると、時刻は十八時四十五分――夕食を摂るには、丁度いい時間だった。

「なぁ、ご飯にしないか?」

 静が提案すると、「そうだね」姫が頷いた。
 そして夕食を食べ、映画の感想を更に語り合った後、彼女達は帰路についた。
 時刻は二十時を過ぎており、辺りは真っ暗である。そんな中、女子中学生が二名並んで歩いている。
 通常ならば、女子二人が夜道を歩くのは少々危険が伴うものなのだが、この二人にそんな心配は全くない。
 何故なら彼女達は超能力を使えるからだ。
 よしんば変質者やナンパ男に囲まれたとしても、楽々撃退してしまう事だろう。
 そんな訳で、二人は意気揚々とした気分でそれぞれの家に向かい歩いていた。

「ん?」

 その最中、姫が気付いた。

「あれって……太陽さん達じゃない?」
「え? あ、ホントだ」

 静も、彼らの姿を捉えた。
 太陽と千草――変態二名の姿を。
 変質者やナンパ男には遭遇しなかったものの、変態には遭遇してしまったようだ。

 ここで、静の目がキラリと光る。
 何故か?

「あ……ああぁあぁぁあーーっ!! 木鋸先輩だ! 木鋸先輩も居るぅー!! か、カッコイイーー!!」

 千草の姿を確認したからである。
 静は、千草の事が好きなのだ。
 だからこそテンションが爆上がりしてしまう。
 そんな静の様子を見て、姫は苦笑い。

「本当に、静さんって……木鋸さんの事が好きだよねぇ……」
「大好き大好き! きゃーっ! 木鋸先輩ー!!」
「何で木鋸さんなのかなぁ……?」
「え?」
「いや……静さんって、かなりモテるでしょ? 色んな人から告白されてるみたいだし……なのに何で木鋸さんなの?」
「良くぞ聞いてくれたな、姫よ!!」

 ここぞと言わんばかりに、静が声を上げる。

「教えてやろう! 木鋸先輩の良さを……そして素晴らしさを!!」
「えぇ……」
「姫! 先ずは木鋸先輩を見たまえ! 話はそれからだ!」
「…………わ、分かったよ……」

 言われるがまま、姫は遠くを歩いている千草を視界に入れた。

「見たか?」
「まぁ……一応……」
「では、木鋸先輩のご尊顔を拝見しながら、あの御方の素晴らしさを解いて行きたいと思う!」
「…………」

 先程迄の映画の話とは違って、全然乗り気ではない姫に、静は熱く語り始めた。

「良いか姫! 先ずは見た目からだ!! 見ろ! あの謎のアフロを!! あのモサモサに触れてみたいとは思わないか!? そもそも何故アフロなのか、その理由を知りたくはないか!? その謎を知りたいと思えてしまうのも、あの方の魅力の一つなのだ!!」
「そ、そうなんだ……興味は湧かないけど……」
「そして二つ目! あのいつも眠そうな目を見てみろ!! 抱き締めて差し上げたくならないか!? きっと毎晩、眠るのを惜しみ、深い事を考えておられるに違いない!」
「抱き締めたくならないし……きっと変な動画見て夜更かししてるだけだと思う……」
「三つ目!! あのだらしない口元を見てみろ! アヒル口っぽさもあって、木鋸先輩が何だかアヒルに見えてこないか!?」
「見えて来ないし……アヒルに失礼」
「そして内面! あの所構わず女性を性的な目で見て、エッチな事を妄想出来るという度胸と恥知らずさ! 本能に抗おうともしない、自分に甘過ぎる所は尊敬せざるを得なくないか!?」
「さっきから褒めてる? それ……。貶してるんじゃ……」
「否! 褒めている!」
「そ、そうなんだ……まぁ、静さんが良いなら別に良いけど……」

 (いまいち魅力が分からない)と感じた姫だった。
 千草の良いとこアピールを終え、ウズウズしている様子で静が提案する。

「なぁ……つけてみないか?」
「え?」
「太陽さんはともかく……木鋸先輩のプライベートは凄く気になるんだ……」
「太陽さんは良いんだ……私はむしろ、太陽さんの方が気になるけどな……でも、後をつけるなんて、それは幾らなんでもあんまり良くないんじゃ……」
「そうと決まれば行くぞ! 着いてこい姫!」
「私の意見は無視なんだ……」

 一目散に走り出す静。
 こうなってしまった彼女を止められるのは、精々月夜くらいのものだろう。

「何をしているんだ姫! 早く動き出さないと、見失ってしまうぞ!」
「…………はいはい」

 姫は渋々、尾行に付き合う事となった。

 そして、尾行を開始してから十分後、太陽と千草はTUTEYANというレンタルビデオショップへと入って行った。
 店へと入って行く二人のニヤけ面を遠くから眺めながら、姫は(絶対ろくな事しないだろうなぁ……)と、嫌な予感を覚えた。

「私達も入るぞ!」
「う……うん……」

 そして、姫の悪い予感は的中してしまう。
 静と姫は今、尾行対象である二名が何食わぬ顔で入って行ったとあるコーナーの前で立ち竦んでいる。
 彼女達の目の前には……大きく『18禁』と書かれたピンク色のカーテンがあった。
 早い話が、アダルトビデオコーナーに太陽と千草は入って行ったのだ。

 静と姫は、空いた口が塞がらない。

「あー……この先って……アレだよな? エッチな……」
「静さん……ごめん、それ以上は言わないで……」
「『18禁』ってデカデカと書かれてるけど……あの二人ってまだ……」
「良い子は絶対に真似しないで欲しい……フィクション世界で、尚且つ、あの二人が比較的老け顔だから出来る事よね……」
「木鋸先輩の悪口を言うな!!」
「いや……この状況なら悪口言っても仕方ないと思う……」

 「ふむ……」静は何やら考え込んだ。
 このままでは尾行が成立しない……ならば――

「よし! 私達も入ろう!!」
「ぜったいっ!! 嫌!! ハレンチにも程がある!!」

 姫に断固反対されてしまった。

「何だと!? 甘ったれるな姫!! このままだと尾行が成立しないんだぞ!?」
「この中に入るくらいなら、尾行なんて辞めた方がマシよ!! 不成立上等だもん! むしろ私そもそもあの二人に興味なんてないし!! 最初から乗り気じゃなかったし!!」
「大人になれ! 姫!!」
「これは大人になるとか、そういう問題じゃないもん!! 子供が背伸びしているだけじゃない!! 子供の悪戯みたいなものだもん!!」
「この分からず屋!!」
「そっちこそ!!」

 しばらくの間二人は水掛け論を交わした。
 結論……アダルトコーナーの入り口前で待つ事になった。

 それから一時間後――

「へ? な……何で……お前らがここに?」

 入り口前に、仁王立ちの如く立ちはだかっている姫と静の姿を見て、青ざめる太陽と千草。
 姫は怒り心頭の様子。

「お二人こそ……こんな所で何をしているんです?」
「そ……それは……えーっと……」

 一方、静はと言うと……。

「木鋸先輩ーーっ!!」
「ちょっ! 海波!?」

 千草に満面の笑みで飛び掛っていた。
 従って……姫に詰め寄られているのは、太陽だけである。
 太陽は恐る恐る問い掛けた。

「あの……この事は月夜に……」
「絶対チクリます」

 この後、家に帰った太陽が、巨大タンスにぐちゃぐちゃになる程押し潰されたという事は、言うまでもない事である。
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