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第三話『幽野怜と裏の世界』

【9】

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 侍――剣一郎は、黒檻の様子を確認し、もうこれ以上黒檻は動けない事を確認すると、再び、御札の扉の中へと消えて行った。

「ばーいばーいっ!!」と、ハイテンションで消えて行った。

 それと同時に、御札の扉も、まるで元々そこに何も無かったかのように……消え去った。


「あははー、やっぱり面白い奴だなー、剣一郎はー」

 と、怜が笑うのも束の間。

「さてー……」と、視線を地面にバラバラになっている黒檻へ向ける。


「ぐ……ぐぐぅ……! くそっ、よもやあんな離れ技を持つ……人間がいたとは……誤算だった……!」

「ふーん……どうするー? どうせ放っておいてもこのまま死ぬと思うけどー、今すぐ楽にしてあげよっかー?」

「助けろ」

 黒檻のその一言に、怜は「へ?」と目を丸くする。

 黒檻は懇願する。

「助けろ助けろ助けろ助けろ助けろ助けろ助けろ助けろ助けろ助けろ助けろ助けろ助けろ助けろ私を助けろ!! 助けてください助けてください助けてください助けてください助けてください助けてください助けてください助けてください助けてください助けてください助けてください助けてください助けてください助けてくださいお願いしますお願いしますお願いします! まだ――


 消えたくない!!」



「何を言ってんのー? バカじゃん」

 怜はバッサリと切り捨てた。

 それはもう侍の剣術ばりの速さで――切り捨てた。


「助ける訳ないじゃーん、ボクの寝床をこんなにしてさー、ボクの友達の家族をぐちゃぐちゃにしてさー……どの口が言うのー?」

「恥を知れよー」と怜は辛辣に述べる。

 怜は、拳を光らせる。

「何かその図々しい感じに腹が立ったからー、今すぐ地獄へおくってあげるよー」

「そ、そんな! ごめんなさい! ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい! これ迄私がして来た事、全部謝るから! どうか私を助けてください! お願いします!!」

「許すかよー消えろー」怜は拳を振り下ろそうとした――



「待ってぇ」

 その時――声が掛かる。

 その声の主は――末代だった。


「末代さんー、起きたんだー、動いたらダメだよー、君の身体の中にちょっと前まで悪霊が入ってたんだからー、安静にしてないとー」

「分かってるわぁ……でも、ちょっと待ってぇ」

 末代はふらつきつつ、怜へと近付いていく。

「どしたのー?」

「ちょっとやりたい事があってぇ……」

「やりたい事ー?」

「うん……」

「もしかしてー、こいつを助かるとか言わないよねー?」

「ないない」末代は笑った。

「じゃあ何がしたいのー?」

 彼女のやりたい事とは――

「イロノにぃ……――


 とどめを刺させてぇ」


 親の仇を――御先祖の仇を――自ら討つことだった。


「ダメ……かなぁ……?」その怜の問い掛けに対して、怜は……


「そっかー……うん、その方がこいつの最期にはピッタリだねー。よし分かったー、末代さん――君がこの物語を終わらせなよー」

 承諾した。

「うん……終わらせるわぁ……」

 怜がありがたい御札を末代に渡す。

 末代は「これをどうするのぉ?」と、首を捻るが、どうやら手に握り込んで殴るだけで良いらしく。

 末代はそのありがたい御札を握り締めた。

 強く強く――握り締めた。


 黒檻は叫ぶ。

「や、やめろ! そいつにだけは! 末代家の人間にだけは殺されたくない! そいつだけはダメ! やめて! お願いだからぁー! 私を、私はもう生きたいとか言わないからぁー! だから、だからどうかゴーストバスター! あなたの手で――」

「うるさいわぁ」

 末代は憎しみの籠った目で、黒檻を睨み付ける。

「よくもイロノのおかぁさんとおとぉさんを――じぃちゃんもばぁちゃんも――皆……皆を殺してくれたわねぇ……許さない……許さなぁい!!」

「や、やめてー!」

「消えろぉ!」

 末代は思い切り拳を振り下ろす。


 そして断末魔と共に……黒檻は消え去った。

 この世から……消え去った。


「良かったねー、これで……長生き出来るねー」

「うん……」末代は、大粒の涙を流し、答える。

 思い浮かぶのは、大好きだった母と父の姿――楽しかったあの頃――二度と戻れないあの頃――


『呪い』で奪われてしまった――大切な人達。


 母や父だけでない……祖母も祖父も……『呪い』で息絶えた全ての人々に、末代彩乃はこの事を伝えたいと思った……

 だから、夜空へ向いて……満天の星空へ向けて彼女は呟いた――


「終わったよ……皆……」


『呪い』は終わったのだ。
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