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第二話『幽野怜と表の世界』

【4】

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 放課後ーー例のバカ不良二名が怜の前に現れた。

「怜さん!」
「怜の旦那!」

 善通寺と風呂敷だった。

「頼むからあっち行ってくれないー? ボクもう帰るんだけどー……」

「ま! 待ってください!」
「そんな寂しい事やめてっすよ! 一目、一目会ってあげてくだせい!!」

「一目……会うー……?」

 怜は、まさかと思った。

 そして当然、そのまさかだった。


「幽野組に新たなメンバーが加わりましたー!!」
「いえーい!!」


 怜は頭を抱え、大きな……それはもう大きな溜め息を吐いた。

「ほーんと、ボクのお願いは聞いてくれないよねー……二人共ー……」

 ほんの少しだが、怒っている怜。

 しかし、連れて来てしまったものは仕方がない。

「で? どんな子なのー?」

「おーい来ていいぞー」
「そのナイスバディを怜の旦那へ見せてやれい」

「ナイスバディ?」

 2人の背後から現れるその人物は女性だった。

 整った顔をしており、ガングロの肌、真っ赤な髪の毛、短いスカートの下から伸びる綺麗な足、そして1番目を引くのはーー


 豊富な胸部。


 それは尋常じゃなく豊富だった。

 ついつい、怜の目もそちらへ向いてしまう。

「あらぁ? あらあらあらぁー、怜っちったら、今、私のここを見なかったー?」と、言いつつその女の子は自分の胸に手を当てる。豊富な胸部に。

「怜っちって……えー……」

「凄いでしょー? これ、何カップか知りたい? んん?」

「いいえー、興味ないけどー」

「これだけ胸が大きいとね? 肩がこっちゃうんだよねー、ああ、肩がだるいわぁ」

 腕を回すその女の子の姿は、酷く艶かしいものであった。

 善通寺と風呂敷は目がハートになっており、鼻の下が地面につくんじゃないかと思う程に伸びていた。

「えーっと……君は確かー、2組の末代さんだよねー? 何で君みたいな人気者が、こんなバカみたいなチームに入っちゃったのー? 君もバカなのー?」

「あらあらあらぁー、イロノの事知ってくれてるんだぁ、嬉しいわー」

 そう言って、その女の子ーー末代彩乃《まつだいいろの》は、怜の肩に手を回す。

「何で私が幽野組に入ったのかってぇ? ふふふ、そんなの決まってるじゃなぁいーーあ、な、た、に、興味があるからよー。当たり前の事聞くのねぇ、あ、な、た。ふふふ」

「まーた、キャラの濃いのが来たねー、ん?」

 その時、怜は気付いた。


 末代の肩に、十体程の霊が取り憑いている事を。


「なるほどねー……」

「んん? 何がー?」

「ううん、何でもないよー末代さん。てゆーか簡単に女の子が男の人に体を預けちゃダメだよー? 男は狼なんだからさー」

 そう言いながら、怜はポケットから縦2cm、横4cm程である小型の御札をバレないように取り出した。

「ねー? 体は大切にしないとー」

 と、怜は言いつつ、バレないようにその御札を末代の左肩に当てた。

 すると、取り憑いていた霊が全て悲鳴を上げて消滅していったのだった。


「あれ?」と、末代が方を回す。

「んー? どうかしたのー?」怜は白々しく惚ける。

「何かぁ、肩が軽くなっちゃったぁ、あはは、怜っちのおかげかもぉー」

 末代の肩こりは、胸の豊富さが原因ではなかった。
 数多く取り憑いていた幽霊達の仕業だったという事だろう。

「そっか、それなら良かったねー、じゃ、幽野組は解散って事でー、さようならー」


「それは嫌っす! 認められないっす!」
「まだ人が足りなくて不服なら、オレ達頑張って集めるっすよ!?」

「いや、ボクそんな所に不服とかしてないからー。もう人集めなくてもいいよー……」

 これ以上増えたら困る。

 バカは二人で手に負えないのに、これ以上は怜にとって死活問題となってしまう。

 表の世界が地獄になる。

 本物の地獄に行った事がある怜が、学校で地獄を味合わなくてはならなくなる。


 表の世界は天国であってくれ。


 それが怜の叶わない願いであった。

「まぁまぁ、そんな事言わずにさぁー、せっかくイロノが入ってあげたんだからさぁ、祝ってよー」

「えー……」

「いいすっね!」
「やろうやろう!!」

 怜は面倒くさそうだったが、バカ二人は乗り気であった。

「おーい……ボク抜きで勝手に……」


「じゃあさじゃあさ! 何するー?」

「うーん……シンプルにご飯っすかね?」
「普通過ぎじゃね?」

「普通は嫌なんだぁー! あ、そ、れ、な、らぁー?」と、末代はニヤつきつつ、怜を見ながら言う。


「肝試しなんかどうかしらぁ? イロノ、肝試し好きなんだぁ」


「肝試しっすか!? 良いっすねぇ!」
「でも……この辺に肝試し出来そうな所なんてあるっすか?」

「あるじゃなーい? あ、そ、こ、に」

 末代が指差したのは山の上。

 怜は、まさか……と苦笑い。

「確か山のあの辺にねぇー、もう随分昔に廃校になった小学校があるんだってさぁー、そこには何やら……ごーすとばすたーって人がいるんだってさー」

 怜は冷や汗ダラダラである。

「ちょ、待ってー、肝試しなんかやめと」

「いいっすねぇ!」
「決まりっす!!」

「よーっし! なら今日の夜11時に、山の入り口の所に集合ねぇ? もちろん、怜っちもねー」

「えぇー……」

 こうして、自分勝手な三人組と共に……

 自分が根城としている廃校舎へ、まさかの宿主が直々に肝試しに行くという、面白イベントが確定したのであった。
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