ドMなんかじゃない

みきてぃー。

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7.過去と取引

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あれからクロは箱を持って急いで藤堂さんの元へと向かった。

私はとゆうと、一人でまた街中をアテもなく歩いた。

客の相手なんてしなければ、夜とはこんなに長いものなんだな、と街歩く楽しそうな人々を見て、ふと思った。

紫音が飛んだことでグループ内は数日間は軽いパニックだったらしく、バタバタと日々が過ぎていった。

バーをどうするか、誰がやるのか。
むしろ存続するのか、閉じるのか。

何も詳しいことは決まらずに、そのまま時間だけが過ぎる。

そんな風にバタバタしていても店は風俗店もキャバクラの方も営業はしていた。

バーが稼働してない今、私は淡々と仕事をして、終われば直帰する日々になった。

バーに行かなくなったので、藤宮とも会わなくなった。

あれから連絡も特にはない。


紫音は…大丈夫だろうか、とふと思い立って電話をかけるも、この携帯電話は現在使われておりません、のアナウンスが鳴るだけで。

ただぼけっとしながら、毎日が過ぎた。

私はなぜこんな仕事をしているのだろうかと思いながら。







ピリリリリリ

ピリリリリリ


今日もそんな仕事が終わり、家に着いた瞬間。

その時、私の携帯が鳴る。


「…!…。……もしもし」

「…人が傷ついてんのに、ずっと一人にされるってどーゆーこと」

…藤宮だった。

「…傷ついてるからこそ、の私の粋な計らいだったんだけど」

「は?そんなわけで、これからMUTOね」

「ええ?」

ブチッと電話が切れる。

「…………勝手な奴」

と、口で言いながらも少しだけ心が躍る自分がいた。

急いでMUTOへと向かう。





いつもの部屋に入った瞬間に、藤宮がシャワールームから出てきた。

「…あ、来たのね」

その黒髪から水滴が落ちる。

藤宮は珍しくガウンを着ていた。
いつも必ず服を着ていたのに。

「……なに?あんた全然元気そうじゃない」

「まあね。誰かさんのおかげで、この数日間怜のこと考える余裕もなかったよ」

「そう」

私は中へと進み、ベッドの端に座った。

藤宮もいつも通りにソファーに座った。


「で?今更になりますが、何をどのようにして、蓮二さんからあの情報を?」

「………そんなこと今更どうでもよくない?」

「よくねーわ。バカ。」

藤宮はタバコに火をつける。

何度も見たその仕草。


「……金庫盗った奴知ってるから、怜さんのこと教えて、って言った」

「…ふーん、紫音を売ったのか」

「……そうなるわね」

「お前を信頼した紫音を、お前は裏切ったわけね。俺のために?」

「………」

なんだ?その言い草は。
その通りで、誰のためにやったと思ってんだが。

まあ私が勝手にやったことには変わりないけれど。


「蓮二さんのその話さ、本当の話なのか
調べてみた。」

「どうやってよ」

「本人に直接聞いた」

「は?」

そんなことしたら私が藤宮の流した、ってバレるじゃないか。

「大丈夫。逆に納得してた。お前がその件を聞きたがってた理由は、俺だったのか、って。俺と怜の関係も明かした。蓮二さん、もう誰に話しても一緒だとかヤケになったみたいで、普通に話してくれた」

「え、じゃあ待って。私とアンタのコレ…」

「あー、もう堂々と言ってきたよ。藤宮旺太郎と夜野まひるは風紀してました~ってね」

「ちょっと!」

私は思わず立ち上がる。

藤宮はクスリと笑った。

「なに、どうしたの」

「どうしたの、じゃないって。じゃあ、どっちか辞めないといけないじゃん。それに罰金とかいろいろ…」

「……そんなん俺が払って辞める。当然じゃん」

「………いや、なんで……」

なんで、と言ってから思い直した。

確かに藤宮にとっては、それが当然のことだ、と。

怜さんのことを調べるために黒服になったのだから、真相が明らかになった今、黒服をする理由はない。

「…あ、でも罰金はその、私も、」

その時、藤宮は立ちつくす私に近づいてきて、突然そっと抱きしめてきた。

優しく、ふわりと。


「……もういいよ。お前のおかげで、怜のことはだいたいわかったから。…この仕事に未練なんてない。」

そう言って、藤宮は優しく私の頭を撫でた。

急にそんな行動をされても、私は戸惑って固まるしかできない。

「…当時、キャバクラの店長だった蓮二さんは元気がない怜を心配してたらしく、あの日、たまたまホストと怜を見かけて尾行してたらしい。」

…藤宮は、蓮二さんから直接聞いたのであろうその話を話し始めた。

「…言い合いして、橋の上から飛び降りるのも目の当たりにしてたらしいんだ。すぐに救急呼んで、そのホストと二人で川に入って助けようとして川原に降りたけど、川の流れが早くて全然ダメで」

「……うん」

「でも結局はそのホストの言動のせいで自殺したわけだから、そのホストの上層部たちが大金使って隠蔽させたってわけ」

ゆっくりと淡々と私を抱きしめながら、藤宮は話す。


「……もうそれがわかったからいい。……結局は俺がハッキリしなかったのが悪いんだ。怜にハッキリと好きだ、と伝えていれば、怜がホストにハマることも自殺することもなかったのに…」

だんだんと声が小さくなる藤宮を私はギュウと抱きしめ返した。

手を伸ばして、今度は私が彼の頭を撫でる。

「……もういいんじゃない?アンタは悪くない。…五年も頑張ったんだし。十分だよ。怜さんもきっとそう言ってる」

「………」

藤宮旺太郎そのものが、私にダイレクトに伝わってくる感じがした。

心臓の鼓動も、体温も、

…その悲しみも。


「…大事な人がじわりじわりと壊れていく姿を隣で見ていることしかできない辛さを、私も知ってる。
そしてその最期がどんなものだったのかわからないままの遣る瀬無い気持ちもよくわかる。
そんなひっかかるような気持ちのせいで自身さえの人生が良くない方向に進んでいることも。…私もそうだから、よくわかるの」

藤宮はキツく抱きしめた私の身体をそっと離して、私を見る。

「……え?」

「…私はまひるなんてふざけた名前だけど、明るい日が差す真昼なんて似合わない。

…でもあんたは合ってるよ。

だからアンタは戻って。
こんな汚い夜の世界じゃなくて、真昼の世界に」

私はそう言って、またそっと抱きしめた。

…昼の世界で生きれる人間は、その世界で生きるべきだ。

怜さんの両親に話した後は、普通の男に戻ればいい。


すると藤宮は優しく抱き返してきて、そして私の唇に優しく軽いキスをした。

「………え、なに…」

「なにが?」

「何気に初めて…?だよね」

こんなことばかりしておいて、キスが初めてなんて笑えるけれど。

急に押し付けられた唇の感覚が、妙に恥ずかしい。

「…ふふ」

藤宮も照れたように少し笑い、またキスをした。

身体が熱くなるのがわかる。


「なあ、最後くらい、普通に優しくしてほしい?それとも…いつもみたいに虐めてほしい?」

「…え、」

最後?

…今日で最後なの?


ああ、そうか。
藤宮は黒服をやめて、故郷へと帰るのか。

怜さんの両親に会って、普通の男に戻る。

でもそんな急に…?
そんな急に黒服は辞めることはできるのか。


「…ねえ、どっち?…正直に答えないと、してあげないからね?」

藤宮が意地悪く笑う。

…私は、この顔に弱い。


どうやらごちゃごちゃと考える時間はないらしい。

明日からのことなど、今はどうでもよくなる。


「…ふ、普通でいいんじゃない!?」

「本当に?」

藤宮が私の耳をパクリと甘噛みした。

「ちゃんと言わなきゃしてあげないよ?」

「……………虐めて…ほしいです」

「……ドMが」

藤宮はそう言い捨てると、そのまま乱暴に私をベットに押し倒した。

「…今日はお前がどんなに謝っても、やめてって言っても、やめねーからな」

「でもいつもじゃん、それ」

「は?何その口の利き方。超生意気。お仕置きね」

藤宮は、私の服を脱がせていく。
乱暴だけど、どこか優しく。

多少抗う私に、意地悪だけど優しく笑いながら。

全部脱がせると、言った。


「…まず四つん這い」

「え?やだ」

「だめ。お仕置きだから。早くして」

私はおとなしくそれに従う。

室内は薄暗いものの、ぼんやりと明るかった。

「もっとお尻高く突き上げて」

私は言われた通りに。
言うことを聞いてしまうようになった。

いつからだろう、
藤宮の言うことに従うことが快感になったのは。


「…うん、いい眺め」

「………そんなまじまじ見ないでよ」 

「奥まで見せろよ。最後だぞ。…ほら自分で指開いてみて」

「やだ…」

「早く。」

私は手を添えて少しだけ秘部を左右に開く。

「………じゃあ次、お尻も」

「え?」

「え、じゃねえ。早くしろ」

藤宮がパシン!とお尻を叩く。

渋々と言われたとおりに尻肉を左右に開く。

「……奥まで見える」

「…やめて……」

「どうしてほしい?触ってほしい?舐める?それともナカに指入れる?」

「………………知らない、好きにしてよ…」

「じゃあ何もしねーわ。そのまま俺に丸見えの状態でそのまま一生いろよ」

「い、いやぁ…」

クスリ、と笑う声がお尻の方から聞こえる。


「…じゃあ何してほしいの?」

「……」

「早く言わないと。3…2…いー、」

「さ、触ってぇ…」

「はいはい、いい子」

藤宮の指が私の秘部に伸びてくる。

触れるか触れないか、の微妙なラインをくすぐってくる。

くすぐったくて、じれったくて、エロい指使いだ。


「ねえ、ヒクつかせてみて」

「………」

「俺のこと誘ってみてよ」

「………」

「おお、いいね。お尻がピクピクしてる。おもしろ」

「……私で遊ばないで」

「…ふふ、」

「ふふ、じゃないから」

藤宮は楽しそうに笑う。


恥ずかしさに耽っていると、四つん這いから仰向けにされた。

上から藤宮が私を見下ろした。


「……ねえ、俺の名前、呼んでみて」

「え……藤宮…?」

「は?そっち?しかも呼び捨てかよ」

「藤宮…さん…」

「ちーがーう。

旺ちゃん、でしょ?」

「………旺、ちゃん……」

「そうだよ。………まひる」

旺ちゃんは、私の頭を撫で、髪を解くように触る。

まひる、と呼ばれた瞬間に私の中に広がる幸福感。


…なんだろう、この感じ。

今のこの瞬間が、永遠に続けばいいのに。

…刹那的に、本能的に、そう思った。




「………お前は、仕事やめないの?」

柔らかな口調で、藤宮は私を見下ろしながらそんなことを問うてきた。

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