ドMなんかじゃない

みきてぃー。

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7.過去と取引

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それから家に着いてすぐ、私は蓮二さんとクロにメッセージを送る。

まひる『明日、仕事前に話したいことがあります。なにかと忙しいのは十分にわかってますが、15時から時間作ってください。ってか作れ』

送信。


すぐに蓮二さんから返信が来た。

蓮二『わかったよ、社長室で待ってる』

まひる『もし15時にいなかったら次会った時、縛り上げて吊るして金玉蹴り上げて潰すから』

蓮二『え!?じゃあ15時になったらいなくなるわ』

まひる『殺す』

クロ『よし。俺も15時になったらいなくなるね!』

まひる『死ね』


…なんなんだよ、この二人。

大事な話だというのに。

大事な話、とゆうよりかは、これは取引だ。

「…………」


紫音の涙を溜めた顔を思い出す。

藤宮の怜さんのことを話す辛そうな顔を思い出す。

紫音の件も、怜さんの件も、
私が全て終わりにしてやるから。


まだメッセージ内で何故か続いているくだらない二人のやり取りにイラつきながら、私は眠りについた。


蓮二『縛られたいなー』

クロ『叩かれたいなー』

蓮二『蹴られたいなー』

クロ『罵倒されたいなー』

蓮二『これが落ち着いたらまたまーちゃんヤろうね』

クロ『むしろ今しよ』

蓮二『3Pー!』

クロ『よし、まーちゃん今から来て。』

蓮二『明日と言わず今から社長室で!』

クロ『まーちゃん?おーい?クラウンで迎え行く?』

蓮二『縄はあるからね~』

まひる『呪殺』






次の日。15時ジャストに社長室に着いた。

「…ちゃんといるんじゃん」

いつもの整頓された社長室ではなく、書類が山のように積み重なり、グチャグチャになっていたが、二人はその部屋の中にちゃんといた。

「まあねー」

「呪い殺されたくないっしょ」

二人はケラケラと笑っている。

久々に見る二人だが、二人とも5歳くらい老けたように見えた。


「………時間ないから本題入るね」

私はさっそく話し始める。

「私と取引してほしい」

「「 取引?」」

二人の声が重なる。

「うん、そう。取引。」


…紫音が家族のために盗ったお金は3000万。

いつも夢で教えてくれる、
お母さんが染井吉野の桜の大きな樹の下に私のために隠したもの。

藤宮の大切な人だった怜さんの闇に包まれた自殺。

…すべて材料は揃っている。




「…金庫を盗んだ人を私は知ってる…。その情報と引き換えに、五年前に怜さんが自殺した件を教えて」


蓮二さんは驚いたように目を丸くし、クロは「またそれ!?」とでも言いたげに、呆れたような顔をした。

















「……」
「……」
「……」

蓮二さんから怜さんの件を聞き終えた時、そこには何とも言えない気まずい空気が流れていた。

「…で、こっちの話はこれでおしまいだけど」

蓮二さんは重い口ぶりで言う。

「これでいい?満足した?」


「………うん」


「……で。金庫を持ってるのは誰?」

引き続き、重い空気が流れる。

「…それに関しては、私が言うまでもない」

「え?」

蓮二さんはきょとんとする。

「…あと数時間できっとわかる」

「どうゆうこと?」

「…勝手なのはわかってるけど、もう一つお願いがある」

…蓮二さんとクロの視線が私に集まる。

「…その人のことを追わないでほしい」

「「え?」」

「盗んだお金は、私が代わりに払うから。だからどうか…その人を追わないでほしい」

「……まーちゃん、それはできないよ。」

「無理言ってるのはわかってる。でもお願いだから追わないでほしい」

「そんなの…俺たちが許しても藤堂さんたちが、」

「お金は払うって。あの人たちは利益の金さえあれば、誰が飛んだとか他のことはどうだっていいでしょ?」

「……」

お母さんが最後に言っていた、染井吉野の桜の樹の下には、お母さんの財産が眠っている。

困ったら使って、と言って残してくれたあのお金。

前に掘り起こした時、3000万あったことをしっかりと覚えている。

「…誰かを言ったら、その人は追われちゃうでしょ?連れてこられて、殺されて臓器売られるんでしょ?」

「………まーちゃん、でもこのままじゃ俺とクロがそのコースだよ」

「…もうどうしても臓器欲しいって言うのなら、私のあげるから」

「.………。いやそれは、」



「まーちゃん!」

突然、黙っていたクロが大きな声を出す。

「…そもそもね、俺言ったよね?怜の件には首を突っ込むな、って。なのにどうして、まだそんなことするの?
しかもなんでまーちゃんが代わりに殺されなくちゃいけないの?もっと自分を大事にして!女の子でしょ!もっとちゃんと考えなよ!!さすがの俺だってこれは怒るよ!まーちゃん!!」

「………は、はあ~!?」

私はバン!とテーブルを叩く。

「だいたいなんでアンタたちは何でもかんでも、ヤクザの言いなりなワケ!?藤堂さんがどんな権力持ってるとか知らないから!!どうでも良いわ!!
アンタたち自分可愛いのわかるけど、自分のことしか考えてないの!?なんでその人がリスク冒してまでお金盗んだのか、とか考えない!?」

「犯罪者の気持ちを考えろ、とでも言うの!?そんなの俺にはわからないねー」

「言っとくけど、アンタたちやってることだって犯罪に近いからね!!ってゆうか金のおかげで警察が介入してこないだけで、むしろアンタも私も犯罪者だわ!!」

「ちょ、…そんなこと思いながら今まで仕事してたの!?俺が拾ってやんなかったら路頭に迷ってたくせに!」

「はあ??自惚れもいいとこね!アンタが拾わなくても誰かには拾われて、絶対今と同じような売れっ子になってたわ、私が人気者になれたのはアンタのおかげじゃなくて、私のチカラですう~!!」

「ちょっと、今までどれだけ俺がまーちゃんを売り込んできたと思ってんの!?恩知らずだな!!」

「アンタこそ誰のおかげでこんな有名店になったと思ってんのよ!売上金めっちゃ上げてやって、誰のおかげで給料貰えてると思ってんの?私が裸になって身体売ってるからだろーが、この能無し!」

「能無し…!?ちょっと、それは聞き捨てならな、」


「ウルサーーーーーーーーイ!!」


蓮二さんが大きな声を出す。

「………」
「………」


…蓮二さんが一番うるさいじゃん。
舌打ちをすると、蓮二さんは早口で言う。

「…君たちの議論は、今まっっっったく関係ないので。後にしてもらえる?」

「はいすいません」

私も早口で、棒読みで謝る。


ピリリリリリピリリリリリ

その時、蓮二さんの携帯が鳴る。

「………もしもし」

蓮二さんはわたし達を交互に睨みつけながら、電話を出た。

クロは、はあ、とため息ついた後は、なんだかバツの悪そうな顔をしている。


「………え!?紫音がいない!?」

電話をしながら蓮二さんは立ち上がる。

「………わかった、すぐに行く」

蓮二さんは私を見た。
私は蓮二さんに近づいて、その携帯を奪った。

「どこの誰か知らないけど、頼まれてね。染井吉野の海岸にある大きな桜の樹の下をめっちゃ掘り起こすと、大きな黒い箱があるから、それを社長室まで持ってきて。中身見たら殺すわよ、じゃ」

相手が「え?」と言っていたけれど、私は構わず電話を切る。

あっけにとられている蓮二さんとクロ。

「お金はこれでオッケー、これで盗んだ人が誰かもわかったでしょ?」

「…紫音、ってことでいいんだね?」

「………追わないでいてくれるよね?」

「………」

何も答えない蓮二さんはジャケットを着ながら言う。

「…まーちゃんは、紫音がいまどこにいるか知ってるの?」

「…うん、そうだね」

確信はないけれど、もうきっと家族の元へと帰っているだろう。


「…紫音を追うのは、俺たちの仕事じゃなくて、藤堂さんたちの仕事だ。だからそこはなんとも言えない。…けど、もうお金は本人から返ってきた、ってことにしておく」

「…さすがね、蓮二さん」

蓮二さんは、力なく少しだけ笑った。

「クロは清水がその桜の樹の下だかから、金持ってきたら受け取っておいて」

クロは小さく「わかった」と、返事をした。


「……蓮二さんは紫音がなんでお金必要だったか、知ってる?」

「……………さあ、ね」

蓮二さんは静かにそう言って、「一応紫音の部屋に行ってくる」と言って、社長室を後にした。

…あれは絶対に知ってたな。
もしかしたら、紫音だって最初からわかってたんじゃないか、とさえ思う。



「………」

「………」

クロと二人になる。
なんとも言えない気まずい雰囲気が流れる。

いつも私に甘いクロとこんなに言い合いしたのは、初めてのことだった。


「まーちゃん、ごめ、」

「謝らなくていい。私も悪いから。…ただごめん、今日は私休みにして」

私はそれだけ言うと、社長室を静かに後にした。


次の行き先はもう決まっている。
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