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7.過去と取引
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あれからコトを終えて、急いで家に帰った。
準備をしていたら、あっとゆうまに17時30分になった。
私は今日もマンション前でクラウンを待つ。
「……」
怜さんが亡くなった時が五年前。
その頃、クロはフリーのスカウトマンだった。
このグループにいなかったにせよ、この件に関して何か知ってるかもしれない。
何か聞き出せるかもしれない。
…31分になったけれど、クロはまだ来ない。
でも何やら今はクロたちは大変そうなので、しばらくは遅刻しても許してやろうと思う。
…………
…33分あたりになったところで、クロのクラウンはやっときた。
すぐに助手席に乗り込むも、運転席に座るクロが、幽霊のような青白い顔をしていたので、少しビクッとしてしまった。
「……ビックリした…クロ、何その顔。大丈夫?寝てないの?」
「うん。寝てないけど…まーちゃんの顔見たら、元気になったよ!」
「いやいや、こんな時まで痩せ我慢しないでよ」
クロは力なく、ははっと笑った。
「参るね~ほんと。手かがりなんもない。防犯カメラも指紋とかも全部だめ。見た人もいない。藤堂さんがもう激おこプンプン丸だよ」
…藤堂さん。
彼は染井吉野で最も大きなヤクザの組の若頭らしい。
うちのケツモチもやってるらしいので、何度か会ったことがある。
寡黙でクールな人で、威圧感が半端ない、とゆう印象だ。
しかし、蓮二さんたちと彼らとの関係性は私には未だによくわからない。
「…激おこプンプン丸、とかそんな可愛いもんじゃないでしょ」
「そのとーり!あの人キレたらヤバイからね!ははっ、そのうちマジで消されるわ~、あはっ、消される前に臓器売れとか言われるんだよ、あははっ!」
「…全然笑えないんだけど」
クロは頭がおかしくなったのか、変な笑い方で笑い出す。
…まあ頭がおかしいのは、いつものことか。
「ねえ。なんかこんな時に聞くのも悪いんだけど、一つ聞いてもいい?」
「ん?まーちゃんだから特別ね。…何?どうしたの?」
「五年前に、うちのグループの店のキャバ嬢が自殺した件、何か知ってる?」
「!」
クロが織り出す空気感が明らかに変わった。
「…まーちゃん、それ誰から聞いたの?」
「別に?ただ…聞いただけ」
「誰から?」
「え?」
「誰から聞いたの」
いつものクロの雰囲気と違った。
「…なに、そんなに殺気立ってんの。怖いよ」
「………質問に答えて。誰から聞いたの?」
口調は穏やかなものの、クロの心中は穏やかではなさそうだ。
「……客、だけど」
クロの殺気に圧倒されて、適当に誤魔化すように、そう答えるのが精一杯だった。
「誰?どの客?」
「……それは言えないけど。…何、どうしたの。怖い顔して」
「…本当に客から聞いたなら、もうその客は付けれないから教えて」
「え?」
誤魔化しは一切聞かないようだ。
あんなにもいつもヘラヘラしていて、適当でガサツなはずのクロの目がギロリと鋭く光っている。
通常では考えられない空気感に、私は戸惑いを隠せなかった。
「…もし、まーちゃんがただの好奇心で俺に聞いてきただけなら…もうその件に関しては何も知らないことにして。全部忘れて。二度と聞かないほうがいい」
「なんで?」
「俺らの間では禁句の話題なんだよ。だから、その件について触れちゃだめ」
「だから、なんで…禁句なの?」
「…………まーちゃん。…お願いだからわかって。」
クロは、車を停めると、こちらを見やる。
その目はいつもの適当大雑把なクロではない。
「……」
クロの目を睨むようにして、私は見返す。
いつもだったらすぐにヘラヘラと笑い出すクロが、今回は決して目を逸らさずに私を真っ直ぐな眼差しで見つめてきた。
…やはり、どこかで大きな力が働いているのだ。
きっとこの件は、この街の"闇"の一つだ。
藤宮が調べても真相がわからないのは、大きなチカラが働いているからだ。
…そっと、クロから目をそらす。
窓から辺りを見回すと、クロが車を停めた場所は、すでにラブホの入り口。
すでに客が待つラブホに着いていたらしい。
私は後部座席のカバンに無理やり手を伸ばして取ると、まだ私のことを見ているクロをひと睨みしてから車を降りた。
「………あれ?」
…2~3歩、歩いてからすぐに車に引き返した。
助手席のドアを開ける。
「ねえ、何号室?」
「ああ、…ごめん、306」
何一つとして客のことを聞いていなかった。
「…ってか今日の客、誰?」
「緊縛の佐藤」
「うっわ、最悪」
そう言って、私はドアを閉めようとするが、一度動きを止めた。
「……クロ。いろいろと落ち着くまで私の送迎しなくていいよ」
「え?」
「別に家からこの辺まで、歩けない距離じゃないし?場所だけ伝えてくれれば勝手に行って、勝手に帰るから」
「…危ないからそれはだめ」
「…そんな青白い顔で運転して送迎される方が危ない。そんな時間あるなら少しでも寝て」
私はそう言って、勢いよくドアを閉めた。
もうだいたいのことは細かく聞かなくてもわかる。
今日の佐藤はいつも12時間コース。
人によって時間も金額も違うけれど、もうだいたい頭に入ってるから大丈夫。
…まあ、今日に関して言えば緊縛は好きじゃないし、面倒臭いけど。
…憂鬱な気分を払拭するように、私は早歩きでヒールを鳴らして歩く。
コツコツ、とゆう音が静かなホテルの廊下に響く。
…クロがあんな風に殺気立ってんのは滅多にない。
寝不足のせいもあるかもしれないけれど。
一体、みんな必死に何を隠してるんだろうか。
何が表沙汰になったらマズイとゆうのだろう。
五年前の藤宮は、
大切な人がじわりじわりとゆっくりと壊れていく姿を、ただ見ていることしかできなくて。
それなのに、その壊れ果てた最期の姿は見ることができなかった。
…七年前の私と一緒じゃないか。
お母さんが壊れていく姿を何もできない幼い私はずっと見ていることしかできなかった。
けれど、刑務所で自殺した時は当然一緒にいることはできなかったのだ。
…ふぅ~
深呼吸してから、私は306号室のインターホンを押した。
この瞬間から、私は風俗嬢の夜野まひるになる。
準備をしていたら、あっとゆうまに17時30分になった。
私は今日もマンション前でクラウンを待つ。
「……」
怜さんが亡くなった時が五年前。
その頃、クロはフリーのスカウトマンだった。
このグループにいなかったにせよ、この件に関して何か知ってるかもしれない。
何か聞き出せるかもしれない。
…31分になったけれど、クロはまだ来ない。
でも何やら今はクロたちは大変そうなので、しばらくは遅刻しても許してやろうと思う。
…………
…33分あたりになったところで、クロのクラウンはやっときた。
すぐに助手席に乗り込むも、運転席に座るクロが、幽霊のような青白い顔をしていたので、少しビクッとしてしまった。
「……ビックリした…クロ、何その顔。大丈夫?寝てないの?」
「うん。寝てないけど…まーちゃんの顔見たら、元気になったよ!」
「いやいや、こんな時まで痩せ我慢しないでよ」
クロは力なく、ははっと笑った。
「参るね~ほんと。手かがりなんもない。防犯カメラも指紋とかも全部だめ。見た人もいない。藤堂さんがもう激おこプンプン丸だよ」
…藤堂さん。
彼は染井吉野で最も大きなヤクザの組の若頭らしい。
うちのケツモチもやってるらしいので、何度か会ったことがある。
寡黙でクールな人で、威圧感が半端ない、とゆう印象だ。
しかし、蓮二さんたちと彼らとの関係性は私には未だによくわからない。
「…激おこプンプン丸、とかそんな可愛いもんじゃないでしょ」
「そのとーり!あの人キレたらヤバイからね!ははっ、そのうちマジで消されるわ~、あはっ、消される前に臓器売れとか言われるんだよ、あははっ!」
「…全然笑えないんだけど」
クロは頭がおかしくなったのか、変な笑い方で笑い出す。
…まあ頭がおかしいのは、いつものことか。
「ねえ。なんかこんな時に聞くのも悪いんだけど、一つ聞いてもいい?」
「ん?まーちゃんだから特別ね。…何?どうしたの?」
「五年前に、うちのグループの店のキャバ嬢が自殺した件、何か知ってる?」
「!」
クロが織り出す空気感が明らかに変わった。
「…まーちゃん、それ誰から聞いたの?」
「別に?ただ…聞いただけ」
「誰から?」
「え?」
「誰から聞いたの」
いつものクロの雰囲気と違った。
「…なに、そんなに殺気立ってんの。怖いよ」
「………質問に答えて。誰から聞いたの?」
口調は穏やかなものの、クロの心中は穏やかではなさそうだ。
「……客、だけど」
クロの殺気に圧倒されて、適当に誤魔化すように、そう答えるのが精一杯だった。
「誰?どの客?」
「……それは言えないけど。…何、どうしたの。怖い顔して」
「…本当に客から聞いたなら、もうその客は付けれないから教えて」
「え?」
誤魔化しは一切聞かないようだ。
あんなにもいつもヘラヘラしていて、適当でガサツなはずのクロの目がギロリと鋭く光っている。
通常では考えられない空気感に、私は戸惑いを隠せなかった。
「…もし、まーちゃんがただの好奇心で俺に聞いてきただけなら…もうその件に関しては何も知らないことにして。全部忘れて。二度と聞かないほうがいい」
「なんで?」
「俺らの間では禁句の話題なんだよ。だから、その件について触れちゃだめ」
「だから、なんで…禁句なの?」
「…………まーちゃん。…お願いだからわかって。」
クロは、車を停めると、こちらを見やる。
その目はいつもの適当大雑把なクロではない。
「……」
クロの目を睨むようにして、私は見返す。
いつもだったらすぐにヘラヘラと笑い出すクロが、今回は決して目を逸らさずに私を真っ直ぐな眼差しで見つめてきた。
…やはり、どこかで大きな力が働いているのだ。
きっとこの件は、この街の"闇"の一つだ。
藤宮が調べても真相がわからないのは、大きなチカラが働いているからだ。
…そっと、クロから目をそらす。
窓から辺りを見回すと、クロが車を停めた場所は、すでにラブホの入り口。
すでに客が待つラブホに着いていたらしい。
私は後部座席のカバンに無理やり手を伸ばして取ると、まだ私のことを見ているクロをひと睨みしてから車を降りた。
「………あれ?」
…2~3歩、歩いてからすぐに車に引き返した。
助手席のドアを開ける。
「ねえ、何号室?」
「ああ、…ごめん、306」
何一つとして客のことを聞いていなかった。
「…ってか今日の客、誰?」
「緊縛の佐藤」
「うっわ、最悪」
そう言って、私はドアを閉めようとするが、一度動きを止めた。
「……クロ。いろいろと落ち着くまで私の送迎しなくていいよ」
「え?」
「別に家からこの辺まで、歩けない距離じゃないし?場所だけ伝えてくれれば勝手に行って、勝手に帰るから」
「…危ないからそれはだめ」
「…そんな青白い顔で運転して送迎される方が危ない。そんな時間あるなら少しでも寝て」
私はそう言って、勢いよくドアを閉めた。
もうだいたいのことは細かく聞かなくてもわかる。
今日の佐藤はいつも12時間コース。
人によって時間も金額も違うけれど、もうだいたい頭に入ってるから大丈夫。
…まあ、今日に関して言えば緊縛は好きじゃないし、面倒臭いけど。
…憂鬱な気分を払拭するように、私は早歩きでヒールを鳴らして歩く。
コツコツ、とゆう音が静かなホテルの廊下に響く。
…クロがあんな風に殺気立ってんのは滅多にない。
寝不足のせいもあるかもしれないけれど。
一体、みんな必死に何を隠してるんだろうか。
何が表沙汰になったらマズイとゆうのだろう。
五年前の藤宮は、
大切な人がじわりじわりとゆっくりと壊れていく姿を、ただ見ていることしかできなくて。
それなのに、その壊れ果てた最期の姿は見ることができなかった。
…七年前の私と一緒じゃないか。
お母さんが壊れていく姿を何もできない幼い私はずっと見ていることしかできなかった。
けれど、刑務所で自殺した時は当然一緒にいることはできなかったのだ。
…ふぅ~
深呼吸してから、私は306号室のインターホンを押した。
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