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 銀色の鬣に似たツノを生やした頭部、深紅の被膜に覆われた全身に筋肉とエネルギーが漲り、胸部のプロテクターからはち切れんばかりの大胸筋が脈打っている。
力強く相手を見据える黄金の相貌。
 全身からは超高温のエネルギーが放出されている……筈なのだが、カマボコ板に反応していない。いや、エネルギーそのものは確かに出ているのだが、以前ほどの迸りが無い。パッションに欠ける、とでもいうべきだろうか。
「ちょっと、マノどうしちゃったのよ!?」
「なんだか元気ないみたい」
「きっと、深手を負っているんだ……!」
 マノはクリス大佐との死闘、そして今の撃墜によって深刻なダメージを負っているのだ。モニターに表示された彼のエネルギーレベルのグラフィックが、もう殆ど赤に近いくらい濃いオレンジ色をしている。
 しかし、そんなことで戦うのをやめるくらいなら、彼は変身もしなかっただろう。躊躇うこと無く、魔王の巨体に向かっていった。

 クラーケンの全長……胴体からテンペラの部分までが約50メートルほどか。それにあの触手と触腕だ。全部合わせたら100メートルを超すかもしれない。途轍もない大きさだ。
 炎とスパークを乱反射したぎらつく水面の揺れるオーサカ湾に、勇躍マノが飛び込んだ。待ち構えていたクラーケンも応戦し、早速その長く柔軟な凶器を蠢かせてマノの太い腕に白い触手が巻き付いてゆく。頭上から、肩口から、二の腕、手首、胸板に至るまで圧し掛かり締め付ける。魔王の不気味な目玉が冷たい眼差しでマノを刺す。
 マノはそれでも両腕を振り上げ、前腕や拳でクラーケンの巨体を打ち付ける。しかし分厚く柔軟な体が衝撃をものともせず、ダメージを吸収してしまう。ならば、と膝蹴りを突き刺すがこれも効果はいまひとつのようだ。

 反面、怒れる魔王は触手の締め付けを強めていき、マノの動きを封じ込めにかかる。
 もがきながらもだんだんと水面下に引きずり込まれ、伸ばした指先が、腕から肩、頭の鬣に似たツノ……やがて彼の全身が遂に波濤の奥へと沈んでゆくと、魔王は無言のまま勝ち誇ったかのように悠然と燃え上がるオーサカ湾に揺蕩って見せた。
 一瞬の静寂がどす黒い炎とともにゆらめいた。
「Emerald Seord!!」
 クラーケンの巨体が前後左右に揺さぶられ、水面から真っすぐに伸びた緑柱石の色をした光が長い触手をひとつ、ふたつと切り裂いた。ズバッ、バシュッと鋭い音が画面を通して司令室に響いたかと思うと、ぷかり、ぷかりと触手が浮かぶ。
 痛みにもだえ苦しみ始めたクラーケンを押しのけて、猛烈な勢いでマノが蘇って来た。
 水面からクラーケンを持ち上げて空高く投げ飛ばし、そのまま真っ逆さまに落っことす。巨体の重量がまともにアダとなり、流石の魔王も漏斗や砕けたテンペラからおぞましい内臓を飛び散らせてビグビグと痙攣している。
「クリス……早く、サメちゃんを!」
「よし、頼む!!」
 クリスはサメちゃんの手を取って、残ったジェミニに向かって走り出そうとした。
 しかし──
「待てい!」
「アマタノフカシサザレヒメ! 走るんだ!!」
「何を申す! 儂のために命を懸けて……馬鹿じゃのう。まっこと、お主は戦うことしか知らんのかえ」
 そう言いつつも、先ほどまでの呆れた険のある声色ではなく、うっとりと柔らかな声でアマタノフカシサザレヒメがマノに語り掛ける。
「お主の気持ちは、しかと受け取ったぞえ。儂からの返礼じゃ……受け取るがよいぞ!」
 サメちゃんの額と胸元の宝珠が、眩しく輝き始めた。
「まんじゅかんじゅあまたのふかしのあずみのいそら……!!」
 その呪文は、この日に見せたもののなかで最も強く、最も濃密な緑柱光瀑(エメラルドフロウジョン)となってマノに降り注ぎ……それを浴びた彼の全身からみるみるうちに力がみなぎっていった。
 画面に表示されたエネルギーレベルが濃い橙から黄色、黄緑、青、そして白く点滅するまでに至り、遂にボクらの歩く宇宙兵器、無敵の超人マノはオーサカ湾に仁王立ちして復活を遂げた。

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