上 下
222 / 273

OSAKA EL.DORADO 20.

しおりを挟む
 顔じゅう血だらけのママの舎利寺が顔じゅうマノの胸板に横顔を押し付け、そのまま胴体を両腕で締めつけながら持ち上げた。岩のような巨体を誇る舎利寺の胸板の上で、まるで縛り付けられたように身動き取れなくなっているマノの全身の骨が軋んで歪む。
 ぐしゅううう……!
 と鉄臭い息を浴びながら、マノはどうにか自分の胴体と舎利寺の腕の間に自分の指先から手のひら、手首、前腕をねじ込んでゆく。舎利寺はそれをさせまいと、尚も締め付ける。
 頸椎から背骨、腰骨、骨盤、足の先まで痺れて来る……とんでもない怪力だ。
「ぐ、ぐあ……がぁは!」
 遂にマノの苦し気な吐息に血が混じって、中空にパッと赤く散った。
 それを微かな風に乗って浴びた舎利寺は満足げな顔をして、さらに両腕に力を籠める。マノは口をつぐんで歯を食いしばって、痛みと苦しみを必死で堪えている。
 決して細くはなく、むしろ筋骨隆々としたマノの脇腹のあたりに、舎利寺の丸太のような腕がガッチリと食い込んでいる。めき、めき、と骨の軋む音がカマボコ板の高性能指向性マイクを通じてボクたちの耳にも届いてしまう。

 が、次の瞬間。マノは自らひと際大きく背中を仰け反らせて、次いで舎利寺の顔面に向かって真っ赤な血しぶきを吹きかけた。マノの口から迸った血しぶきは霧のようになって舎利寺の顔面を包み込み、思わず緩んだ両腕をマノが外側から肘の当たりで抱え込み、胸を合わせてそのまま反り投げた。

「閂スープレックスや!」
「あの兄さん、渋いワザ使(つこ)てはるでぇ」
 オールドタイマーのファンには好評なこの技で舎利寺の両肘が外れ、さらに頭から固い地面に突っ込んだために今度こそ完全に気絶してしまった。
 ぐぅ、と言って突っ伏した舎利寺に向かって、まるでスポーツの試合でもしたかのようにマノが言う。
「オマエ強いな。……友達になれたかも知れないのにな」
 そして次に、まだ何かコソコソしている総統以下生き残りの粛清軍をビシっと指さして吐き捨てる。
「こんな連中となんかツルまなきゃ、な!」

 その時。広場を揺るがすような地響きと共に区役所側の建物と高い柵が同時にブチ壊され、もうもうと立ち込める砂と埃と瓦礫の混じった煙の中から、何か巨大な物体がゆっくりと姿を現した。
「ふぁははははははははあ! そんな口がいつまで叩けるかなぁ!?」
 得意げな総統が拡声器のボリュームを上げながらさらに続ける。
「見るがいいぃ! これぞ我らブリッヂクレインが誇る巨大兵器、巽参轟(たつみ・さんごう)だ!」
「前の二つはぶっ壊れてるってことじゃねえか」
「屁理屈をこねるなぃ! 貴様は生きて帰さん。ここで生野桃谷の土となれぃ!」
「タイルっ敷(ち)きの地べたで土になれってのは無理な注文だな。お前らこそ、そのガラクタごと叩き潰してやる。デカいだけのオモチャなら怖か無いわい!」

 今度はマノが天地を揺るがし、一同を仰天させる番だった。
「う、うう……ぎいぃぃ、い……ああああ!」
「まずい! マノ、本気で殺る気だ!!」
「ちょっとサンガネ、あれってまさか」
「なんやなんや、あの兄さんどないしはったんや」
 見ていればわかる。そしてボクとあぶくちゃんは見ているからわかる。あれは……。

 みるみるうちにマノの全身が膨張し、ぱつんぱつんに張りつめた筋肉が所々で脈動する。巨大かつ強烈なエネルギーが放射され、それを浴びたカマボコ板が空中で姿勢を維持できなくなり映像が乱れた。ボクがそれを必死に調整し、持ち直した頃には……映像の中のすっかり見慣れた青空市場の広場に、まだ見慣れない真っ赤な巨人が仁王立ちしていた。

 全身が深紅の被膜に覆われ、その内側で沸騰した血液を送る血管と表面張力の限界まで張りつめた筋肉が蠢く。黒く長かった髪の毛が銀色に変わって反り返り、ライオンの鬣を模したツノのように点に向かって突き出している。
 あまりに高温の熱エネルギーを放射するため広場が陽炎に包まれて、ひとつの巨大兵器とひとりの大巨人の姿を陽光の元に揺らめかせた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

性転換ウイルス

廣瀬純一
SF
感染すると性転換するウイルスの話

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

古代日本文学ゼミナール  

morituna
SF
 与謝郡伊根町の宇良島神社に着くと、筒川嶼子(つつかわのしまこ)が、海中の嶋の高殿から帰る際に、 龜比賣(かめひめ)からもらったとされる玉手箱を、住職が見せてくれた。  住職は、『玉手箱に触るのは、駄目ですが、写真や動画は、自由に撮って下さい』 と言った。  俺は、1眼レフカメラのレンズをマクロレンズに取り替え、フラッシュを作動させて、玉手箱の外側および内部を、至近距離で撮影した。   すると、突然、玉手箱の内部から白い煙が立ち上り、俺の顔に掛かった。  白い煙を吸って、俺は、気を失った。

性転換タイムマシーン

廣瀬純一
SF
バグで性転換してしまうタイムマシーンの話

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

妻がヌードモデルになる日

矢木羽研
大衆娯楽
男性画家のヌードモデルになりたい。妻にそう切り出された夫の動揺と受容を書いてみました。

処理中です...