215 / 273
粘膜EL.DORADO 13.
しおりを挟む
谷町スリーナイン、谷町スリーナイン、谷町スリーナイン……!
連呼されるそのフレーズが空虚についた名前。具現化された空っぽの虚像。空に浮かんだ虚無の泡沫。そう、オーサカ・シチー・プレヂデントこと谷町スリーナイン。
彼のことを知ろうと思って、普通にオーサカ市(=独立オーサカ一心会)の発行している公式資料に目を通してみると、きっと驚くことになるだろう。とにかく具体的なことが何一つ書かれていない。輝かしい経歴や積み重ねてきた業績がひとつひとつ、彼の生きた道をなぞるように羅列してあるだけなのだ。
まるで売れてないアイドルやプロレスラーのウィキペディアみたいに。
つまりそれはナメクジの這ったあとをなぞっているようなもので、乾いたルチン質が鈍く光るだけ。
ナメクジの這ったあとを幾ら煌びやかに飾り立てても、乾いたルチン質は鈍く光るだけ。
だから、本当のことを知っている人たちが生き残っているのが不都合で仕方がない。派手なわりに中身のない殻を背負ったカタツムリのはずが、殻すら持たないナメクジだと知っているから。
アマリージョ博士は、どうもブラウン知事とスリーナインの関係を知っているようだ。
あの権力と政治力のアスファルトを這い廻るクズ社会のナメクジがどんな道を這いずって来たのか、いずれ聞いてみることにしよう。
何時の間にかニュース番組が終わり、端末からは青空市場のコマーシャルが流れていた。
「へえ、メルカードがあるんだ」
「なんだいメルカード、って」
「市場って言葉だよ、オーサカでもやってるんだな。それ、どこ?」
「ああ、これは旧桃谷駅商店街の方だね。ここから近いや。でも、毎日どっかしらでやってるよ。非公認のだけど」
「メルカードに公認や非公認なんてのがあるのか」
「そりゃあね。このオーサカで市民が勝手に寄り集まって何かすることなんて、基本的には一心会が認めるわけないもの。だからオーサカシティ主催の市民マーケットというやつが、いわゆる公認の市場ってことになる。それ以外が非公認の青空市場だけど……多くの場合は黙認されているんだ。何でもかんでも表立ってそこまで取り締まれないからね。……ただ」
「ただ?」
「客や店の中に一心会の連中が紛れ込んでるし、一心会の息のかかった店も出てる。組織からの横流しや、幹部たちの密会を警戒してね」
「ホンットに邪魔くさい連中だな。スパイごっこなんかヨソでやりゃあいいんだ」
「まあまあ。それでも色んなものが手に入るし、それこそ騒ぎなんか起こしたらただじゃ済まないのはみんなわかっているから、基本的には平和で楽しいものだよ」
「ほー」
「ボクのよく行く青空市場はコーヒーとか紅茶にちょっとした軽食なんかも出すワゴンが来てくれてね。天気のいい日なんか実に快適だよ」
「ほーー」
「水タバコとチャイもある」
「ほぉー」
「仔羊堂ってお店屋さんでね。そこを切り盛りしてるミロクちゃんて子がいい子で、彼女のシーシャやチャイは美味しくってさ」
「ほぉーー……!」
「クール系の美人で映画や文学にも詳しいんだ、きっとマノも」「そんないい子が居るのか、じゃあ行かなくっちゃあな! 何時に行く? どこでやってるんだ??」
翌朝。
結局、マノが青空市場(に出ているミロクちゃん)に興味津々なため近くでやってるところへ出掛けることになった。正直ちゃんと来るか半信半疑だったけど、本当に朝から起き出して身支度を始めた……美人が居ると思うと来るもんだなあ。
ちょうどボクも博士に部品や資材の買い出しを頼まれていたし、何か目ぼしいものがあれば買って来よう。ただ、あのあと出前の食器を取りに来たあぶくちゃんにそのことを話すと、彼女も行ってみたいという。ただ朝は多分、起きられないから、あとで合流するってさ。
と、マノに伝えてみようかと思ったけど、そんなことを聞いたらきっと気が気じゃなくなって市場どころでもなくなっちゃうから、黙っておいた。
連呼されるそのフレーズが空虚についた名前。具現化された空っぽの虚像。空に浮かんだ虚無の泡沫。そう、オーサカ・シチー・プレヂデントこと谷町スリーナイン。
彼のことを知ろうと思って、普通にオーサカ市(=独立オーサカ一心会)の発行している公式資料に目を通してみると、きっと驚くことになるだろう。とにかく具体的なことが何一つ書かれていない。輝かしい経歴や積み重ねてきた業績がひとつひとつ、彼の生きた道をなぞるように羅列してあるだけなのだ。
まるで売れてないアイドルやプロレスラーのウィキペディアみたいに。
つまりそれはナメクジの這ったあとをなぞっているようなもので、乾いたルチン質が鈍く光るだけ。
ナメクジの這ったあとを幾ら煌びやかに飾り立てても、乾いたルチン質は鈍く光るだけ。
だから、本当のことを知っている人たちが生き残っているのが不都合で仕方がない。派手なわりに中身のない殻を背負ったカタツムリのはずが、殻すら持たないナメクジだと知っているから。
アマリージョ博士は、どうもブラウン知事とスリーナインの関係を知っているようだ。
あの権力と政治力のアスファルトを這い廻るクズ社会のナメクジがどんな道を這いずって来たのか、いずれ聞いてみることにしよう。
何時の間にかニュース番組が終わり、端末からは青空市場のコマーシャルが流れていた。
「へえ、メルカードがあるんだ」
「なんだいメルカード、って」
「市場って言葉だよ、オーサカでもやってるんだな。それ、どこ?」
「ああ、これは旧桃谷駅商店街の方だね。ここから近いや。でも、毎日どっかしらでやってるよ。非公認のだけど」
「メルカードに公認や非公認なんてのがあるのか」
「そりゃあね。このオーサカで市民が勝手に寄り集まって何かすることなんて、基本的には一心会が認めるわけないもの。だからオーサカシティ主催の市民マーケットというやつが、いわゆる公認の市場ってことになる。それ以外が非公認の青空市場だけど……多くの場合は黙認されているんだ。何でもかんでも表立ってそこまで取り締まれないからね。……ただ」
「ただ?」
「客や店の中に一心会の連中が紛れ込んでるし、一心会の息のかかった店も出てる。組織からの横流しや、幹部たちの密会を警戒してね」
「ホンットに邪魔くさい連中だな。スパイごっこなんかヨソでやりゃあいいんだ」
「まあまあ。それでも色んなものが手に入るし、それこそ騒ぎなんか起こしたらただじゃ済まないのはみんなわかっているから、基本的には平和で楽しいものだよ」
「ほー」
「ボクのよく行く青空市場はコーヒーとか紅茶にちょっとした軽食なんかも出すワゴンが来てくれてね。天気のいい日なんか実に快適だよ」
「ほーー」
「水タバコとチャイもある」
「ほぉー」
「仔羊堂ってお店屋さんでね。そこを切り盛りしてるミロクちゃんて子がいい子で、彼女のシーシャやチャイは美味しくってさ」
「ほぉーー……!」
「クール系の美人で映画や文学にも詳しいんだ、きっとマノも」「そんないい子が居るのか、じゃあ行かなくっちゃあな! 何時に行く? どこでやってるんだ??」
翌朝。
結局、マノが青空市場(に出ているミロクちゃん)に興味津々なため近くでやってるところへ出掛けることになった。正直ちゃんと来るか半信半疑だったけど、本当に朝から起き出して身支度を始めた……美人が居ると思うと来るもんだなあ。
ちょうどボクも博士に部品や資材の買い出しを頼まれていたし、何か目ぼしいものがあれば買って来よう。ただ、あのあと出前の食器を取りに来たあぶくちゃんにそのことを話すと、彼女も行ってみたいという。ただ朝は多分、起きられないから、あとで合流するってさ。
と、マノに伝えてみようかと思ったけど、そんなことを聞いたらきっと気が気じゃなくなって市場どころでもなくなっちゃうから、黙っておいた。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
古代日本文学ゼミナール
morituna
SF
与謝郡伊根町の宇良島神社に着くと、筒川嶼子(つつかわのしまこ)が、海中の嶋の高殿から帰る際に、
龜比賣(かめひめ)からもらったとされる玉手箱を、住職が見せてくれた。
住職は、『玉手箱に触るのは、駄目ですが、写真や動画は、自由に撮って下さい』
と言った。
俺は、1眼レフカメラのレンズをマクロレンズに取り替え、フラッシュを作動させて、玉手箱の外側および内部を、至近距離で撮影した。
すると、突然、玉手箱の内部から白い煙が立ち上り、俺の顔に掛かった。
白い煙を吸って、俺は、気を失った。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる