162 / 273
Stay Air Way
しおりを挟む
見慣れた町見慣れた道の、見慣れた曇天、見慣れた陸橋に雲の切れ目から金色の光が差して。降り積もる毎日の些細なことに乱反射してキラキラ光る。
辛いことは些細であるほど心に残るし、忘れることも出来ない。
追いかけて追いかけて振り切りたくて走って走って、それでも殴られた頬も折れた心もそのままで。結局自分で自分の脚がもつれて。転んで、転がって、空を見上げて、また立ち上がって。だけどもう走り出すような気持ちも力も残って居なくって。それが今。
透明な箱を積み上げて、空気の詰まった階段を登ってゆく。
ひとつ、ふたつ、みっつ数える前に天国に向かう階段をひとつ、ふたつ、みっつ数えて登ってゆく。
息苦しいガスマスク、張り裂ける肺気胸、巡りの悪い血液、濁った目玉、皺の増えた心臓、冷たい脳味噌。
新しい祭、新しい死刑、新しい祀り、新しい声。
木端微塵の色んな時間。好きだと言われたりごめんなさいと言われたり。期待をせずに生きていることと、諦めきれずに生きているのは全然違ってちょっと似てる。
どうせ、やっぱり、どうせ、やっぱり、どうせ、どうせ、やっぱり。
諦めきれずに生きているけど、期待をしてないんだと言い聞かせてる。
洗濯脱水乾燥収納。洗って乾かして畳んで仕舞って。記憶想像追憶妄想、笑って泣かせて傷つけてしまって。紫の寄せては返す波打ち際に青い陽光燦燦、黄色い白昼夢を見ておやすみ、僕の真っ赤な血潮と脳髄。
僕の体が膝から崩れて、僕の目線はフワリと浮かんで、高く高く昇って行く。明滅を繰り返す眩しい世界へ。遥かな世界へ。伸びては消える虹は繰り返す、振り返る、そこにいつもある。ただ意味も無く、なんとなく。
拾い集め、積み上がった憂鬱と退屈のフレーズなんて要らないさ、全ての爪を違う色で塗ったって手足を虹の手枷足枷で縛るだけ。銀の指環で鍵をして12時の鐘が封をする。
冬の知多半島を、何の心配もせずクルマで走りたい。
海の見える田舎道、スコーンと水平線の底が抜けたような青空と海。窓を開けて流れ込む冷たい潮風が肺の中を満たしてゆく。田んぼ、コンビニ、ソーラーパネル、鉄工所、スターチ工場、自販機、標識、民家、喫茶店、バス停、氏神様の幟。
全部冬だ。冬の知多半島は冷たい風が躍る陽射しの中できっと僕をずっと待ってる。
だけど僕は今、ココに居るべきじゃないんだ。
I don’t belong here.
僕は今ココに居るべきじゃない。ホントはもっと、やらなくちゃいけないことが山ほどある。めんどくさくてかったるい、やらなきゃいけないことばかり。
誰かと同じに生きるために、デカいテレビでクイズショーを見て、保険に入り、日曜大工とオシャレを楽しみながら寿命を数えて生きるために、やらなきゃいけないことばかり。
だから僕は今、ココに居るべきじゃないんだ。
I don’t belong here.
僕は今ココに居るべきじゃない。ホントはもっと色んなことをして過ごしたいし、疲れも不安も憂鬱も、いつもここから退きゃしない。だから全てが収まるまで、行き着くべきところで終わるまで何処かに隠れて、自分の思いを書き出したい。心の奥から掻き出したい。
悲しいくらいに凡庸で、平凡で、のうのうと生きて来た恥じらいだけを塗り潰してきた文字列の連なりと重なり。
こんなはずじゃなかった。どうしてこうなった。
透明な箱を積み上げて、空気の詰まった階段を登ってゆく。
ひとつ、ふたつ、みっつ数える前に天国に向かう階段をひとつ、ふたつ、みっつ数えたら、天国旅行に行くんだよ。
空の下、雲の上、この世の何処でもない景色の中で会いましょう。
空の果て、雲のなか、何処でもない景色の中で会いましょう。
また会いましょう、透明な箱を積み上げた、空気の詰まった階段のうえで。
辛いことは些細であるほど心に残るし、忘れることも出来ない。
追いかけて追いかけて振り切りたくて走って走って、それでも殴られた頬も折れた心もそのままで。結局自分で自分の脚がもつれて。転んで、転がって、空を見上げて、また立ち上がって。だけどもう走り出すような気持ちも力も残って居なくって。それが今。
透明な箱を積み上げて、空気の詰まった階段を登ってゆく。
ひとつ、ふたつ、みっつ数える前に天国に向かう階段をひとつ、ふたつ、みっつ数えて登ってゆく。
息苦しいガスマスク、張り裂ける肺気胸、巡りの悪い血液、濁った目玉、皺の増えた心臓、冷たい脳味噌。
新しい祭、新しい死刑、新しい祀り、新しい声。
木端微塵の色んな時間。好きだと言われたりごめんなさいと言われたり。期待をせずに生きていることと、諦めきれずに生きているのは全然違ってちょっと似てる。
どうせ、やっぱり、どうせ、やっぱり、どうせ、どうせ、やっぱり。
諦めきれずに生きているけど、期待をしてないんだと言い聞かせてる。
洗濯脱水乾燥収納。洗って乾かして畳んで仕舞って。記憶想像追憶妄想、笑って泣かせて傷つけてしまって。紫の寄せては返す波打ち際に青い陽光燦燦、黄色い白昼夢を見ておやすみ、僕の真っ赤な血潮と脳髄。
僕の体が膝から崩れて、僕の目線はフワリと浮かんで、高く高く昇って行く。明滅を繰り返す眩しい世界へ。遥かな世界へ。伸びては消える虹は繰り返す、振り返る、そこにいつもある。ただ意味も無く、なんとなく。
拾い集め、積み上がった憂鬱と退屈のフレーズなんて要らないさ、全ての爪を違う色で塗ったって手足を虹の手枷足枷で縛るだけ。銀の指環で鍵をして12時の鐘が封をする。
冬の知多半島を、何の心配もせずクルマで走りたい。
海の見える田舎道、スコーンと水平線の底が抜けたような青空と海。窓を開けて流れ込む冷たい潮風が肺の中を満たしてゆく。田んぼ、コンビニ、ソーラーパネル、鉄工所、スターチ工場、自販機、標識、民家、喫茶店、バス停、氏神様の幟。
全部冬だ。冬の知多半島は冷たい風が躍る陽射しの中できっと僕をずっと待ってる。
だけど僕は今、ココに居るべきじゃないんだ。
I don’t belong here.
僕は今ココに居るべきじゃない。ホントはもっと、やらなくちゃいけないことが山ほどある。めんどくさくてかったるい、やらなきゃいけないことばかり。
誰かと同じに生きるために、デカいテレビでクイズショーを見て、保険に入り、日曜大工とオシャレを楽しみながら寿命を数えて生きるために、やらなきゃいけないことばかり。
だから僕は今、ココに居るべきじゃないんだ。
I don’t belong here.
僕は今ココに居るべきじゃない。ホントはもっと色んなことをして過ごしたいし、疲れも不安も憂鬱も、いつもここから退きゃしない。だから全てが収まるまで、行き着くべきところで終わるまで何処かに隠れて、自分の思いを書き出したい。心の奥から掻き出したい。
悲しいくらいに凡庸で、平凡で、のうのうと生きて来た恥じらいだけを塗り潰してきた文字列の連なりと重なり。
こんなはずじゃなかった。どうしてこうなった。
透明な箱を積み上げて、空気の詰まった階段を登ってゆく。
ひとつ、ふたつ、みっつ数える前に天国に向かう階段をひとつ、ふたつ、みっつ数えたら、天国旅行に行くんだよ。
空の下、雲の上、この世の何処でもない景色の中で会いましょう。
空の果て、雲のなか、何処でもない景色の中で会いましょう。
また会いましょう、透明な箱を積み上げた、空気の詰まった階段のうえで。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
古代日本文学ゼミナール
morituna
SF
与謝郡伊根町の宇良島神社に着くと、筒川嶼子(つつかわのしまこ)が、海中の嶋の高殿から帰る際に、
龜比賣(かめひめ)からもらったとされる玉手箱を、住職が見せてくれた。
住職は、『玉手箱に触るのは、駄目ですが、写真や動画は、自由に撮って下さい』
と言った。
俺は、1眼レフカメラのレンズをマクロレンズに取り替え、フラッシュを作動させて、玉手箱の外側および内部を、至近距離で撮影した。
すると、突然、玉手箱の内部から白い煙が立ち上り、俺の顔に掛かった。
白い煙を吸って、俺は、気を失った。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる