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限界電波!あぶくちゃん 1
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キリキリ鳴ってる目覚まし時計がガラスの破片を絨毯に。
蝙蝠の目玉を煮込んで薊蕎麦の漬け汁にしてお立ち合い。僧帽弁閉鎖不全症の特効薬に野次馬集めて万々歳、脂の浮いた漆椀を手に手に総鮫腹(みなさめばら)湾掃討作戦脱出失敗お陀仏ダンス。
小まめに刻んだ落花生、ミキサーかけてバターになるかな。テーマは油、粉、塗って食べよう小麦のブレッド、水着を脱がして小麦色のフレンド、悪露を垂らしてこんにちは。
裏太陽の垂れ流す偽物ウルトラヴァイオレットでタンニング、地下鉄の痰壺地獄でランニング、日焼け中毒の走り方、衣擦れの月明かり浴びた股擦れの栃錦。
限界展開緋桜満開御桜軟骨読み放題、五重塔登って見渡す三千世界、須弥山の向こうに広がる銀の海。青すぎるお空を泳いで行きたいな、目覚まし時計の届かぬ眠りへ。
あらましを話したところで聞かせてよ今度は君のおかしな証言、民話のようだね竹の中から。すべからく生きてる限りは嘘をつく、ホントのことなど作るしかない。
事実さえ知らずに過ごせば嘘はなく、嘘だと知っても信じればいい。
ビタ一文まからぬ地獄の渡し賃、Go Toヘルなら割引適用。
意外にもぬるま湯こそがまことの地獄、生かさず殺さず溶けてく人生。
寒くなって来た。明け方の盛り沢山だが支離滅裂な夢から戻ってきたら目覚まし時計がわりのモバイル端末が画面をバッキリ割られて転がっている。道理で鳴らないわけだ。
いつになく静かなお目覚めに納得したところで部屋の中が妙に明るい。いつも冬場は真っ暗なうちから起き出して仕事に向かうはずなのに。今日は火曜日、フツーに仕事。現在時刻は朝7時。ムィビエン、素晴らしい。この上もなく寝過ごしているが、まだ中途半端に取り返しがつくところが尚のこと憎たらしい。
どうしようか……。
一瞬だけ考えるふりをして歯を磨いて顔を洗って、漸く服を着替える。作業着ではなく普段着、安全靴ではなくビルケンシュトック、そしてクルマのエンジンをかけて出発だ。不敵にも会社の前の混み合う国道を通り抜けて、スカーン! と音がしそうなほど晴れた青空の下をチンタラと。いつもならイラつく大渋滞も、今日は平気。急いで向かうべき場所など、何処にも無いからだ。
端末の画面を粉砕してきたおかげで電話に出ることも出来ないし、もはや出る必要もあるまい。Twitterが見れないのは少々ストレスだが無きゃ無いで抱えないストレスもあるだろう。
アクセルよりブレーキを踏んでる方が長いような朝の渋滞。コレを通勤ラッシュというには無理があるほどのスピード感のなさ。
「おっそいの!」
後部座席から突然、ハスキーでカン高い女の子の声がした。アニメっぽくてよく通る、けど高音の掠れた不思議な声。
「あぶくちゃん!?」
驚きのあまり思わず彼女の名を呼んだ。今朝クルマに乗り込んだ時には、自分以外誰も乗っていなかったはず。魚市場の前を通り越して、助手席側の窓からはこんもりとした鎮守の森が見えてくる頃合いだった。
「もっとスピード出ないの?」
「無茶言うなよ、前も後ろもドン詰まりなのに」
「つまんない!」
「つまんなくないよ、ほら」
ドン詰まりの渋滞はノロノロ動いて、やがて泡沫飛散(あわとび)川を渡る橋に差し掛かった。晴れた空に、川面から浮き立つシャボン玉が煌めく陽射しを浴びて色とりどりの丸いプリズムを描き出す。やがてフワフワと柔らかで青い風に乗って、シャボン玉が開け放った車窓から漂い込んでパチンと弾けた。
「ヴえっ!」
「アハハハ、仕方ないね。その泡は上流で銀色刹那岩を掘削する時に溶け込んだ濃脂系液体重金属が薄まったやつだもん。要するにシャボン玉ってより球体の油膜なんだなあ」
「あーー鉄くっさ! もー」
あぶくちゃんが思わず地声でえづくほど、鉄分の多い酸っぱくて頬の奥をキューンと刺すような臭いが風に乗って飛んで行くころ。漸く待ちに待った信号待ちからも解放されて線路を跨ぐバイパスに入った。
「あっカシオペアだ」
跨線橋の下に敷かれた高規格線路の超電導レールを滑るように走る銀色のボディが眩しい湾岸特急カシオペア。シャーーっと風を切ってゆく後姿をいつまでも追いかけていたくて、山も海も空も越えて走り続けた。
線路は続く、肌も筋肉も静脈も貫いて突き刺さり流れ込む銀色の液体重金属。シャーーっと肉を切ってゆく注射針の音が全身の感覚を伝って響いて来る。底を流れる物質も、その時の音も、皮膚の内側を触れてゆく感触をコマ送りにしたように感じることが出来る。やがてゴオーーっという轟音とともに血管の中を脂混じりの液体重金属が猛烈なスピードで流れゆく血液に抗いながら溶けてゆき、ひと呼吸ごとに空気が冷たく鋭くなってゆく。
鼻の奥がツンと冷たくなり、鼻腔の奥まで冷やされて、肺の奥で血のぬくもりに包まれて全身を駆け巡りオキシジェンは支燃性の人肌。一人じゃ燃えられないけど、燃やす相手がいるならば。血と汗とアセトンのケミカルリアクション。注射針と静脈のマリアージュ。媒介は銀色の液体重金属。耳をつんざくノイズと、ハスキーでカン高い不思議な声。
「ねえ、前! 信号見てる!?」
パーパパパパッ!
「はっ」
蝙蝠の目玉を煮込んで薊蕎麦の漬け汁にしてお立ち合い。僧帽弁閉鎖不全症の特効薬に野次馬集めて万々歳、脂の浮いた漆椀を手に手に総鮫腹(みなさめばら)湾掃討作戦脱出失敗お陀仏ダンス。
小まめに刻んだ落花生、ミキサーかけてバターになるかな。テーマは油、粉、塗って食べよう小麦のブレッド、水着を脱がして小麦色のフレンド、悪露を垂らしてこんにちは。
裏太陽の垂れ流す偽物ウルトラヴァイオレットでタンニング、地下鉄の痰壺地獄でランニング、日焼け中毒の走り方、衣擦れの月明かり浴びた股擦れの栃錦。
限界展開緋桜満開御桜軟骨読み放題、五重塔登って見渡す三千世界、須弥山の向こうに広がる銀の海。青すぎるお空を泳いで行きたいな、目覚まし時計の届かぬ眠りへ。
あらましを話したところで聞かせてよ今度は君のおかしな証言、民話のようだね竹の中から。すべからく生きてる限りは嘘をつく、ホントのことなど作るしかない。
事実さえ知らずに過ごせば嘘はなく、嘘だと知っても信じればいい。
ビタ一文まからぬ地獄の渡し賃、Go Toヘルなら割引適用。
意外にもぬるま湯こそがまことの地獄、生かさず殺さず溶けてく人生。
寒くなって来た。明け方の盛り沢山だが支離滅裂な夢から戻ってきたら目覚まし時計がわりのモバイル端末が画面をバッキリ割られて転がっている。道理で鳴らないわけだ。
いつになく静かなお目覚めに納得したところで部屋の中が妙に明るい。いつも冬場は真っ暗なうちから起き出して仕事に向かうはずなのに。今日は火曜日、フツーに仕事。現在時刻は朝7時。ムィビエン、素晴らしい。この上もなく寝過ごしているが、まだ中途半端に取り返しがつくところが尚のこと憎たらしい。
どうしようか……。
一瞬だけ考えるふりをして歯を磨いて顔を洗って、漸く服を着替える。作業着ではなく普段着、安全靴ではなくビルケンシュトック、そしてクルマのエンジンをかけて出発だ。不敵にも会社の前の混み合う国道を通り抜けて、スカーン! と音がしそうなほど晴れた青空の下をチンタラと。いつもならイラつく大渋滞も、今日は平気。急いで向かうべき場所など、何処にも無いからだ。
端末の画面を粉砕してきたおかげで電話に出ることも出来ないし、もはや出る必要もあるまい。Twitterが見れないのは少々ストレスだが無きゃ無いで抱えないストレスもあるだろう。
アクセルよりブレーキを踏んでる方が長いような朝の渋滞。コレを通勤ラッシュというには無理があるほどのスピード感のなさ。
「おっそいの!」
後部座席から突然、ハスキーでカン高い女の子の声がした。アニメっぽくてよく通る、けど高音の掠れた不思議な声。
「あぶくちゃん!?」
驚きのあまり思わず彼女の名を呼んだ。今朝クルマに乗り込んだ時には、自分以外誰も乗っていなかったはず。魚市場の前を通り越して、助手席側の窓からはこんもりとした鎮守の森が見えてくる頃合いだった。
「もっとスピード出ないの?」
「無茶言うなよ、前も後ろもドン詰まりなのに」
「つまんない!」
「つまんなくないよ、ほら」
ドン詰まりの渋滞はノロノロ動いて、やがて泡沫飛散(あわとび)川を渡る橋に差し掛かった。晴れた空に、川面から浮き立つシャボン玉が煌めく陽射しを浴びて色とりどりの丸いプリズムを描き出す。やがてフワフワと柔らかで青い風に乗って、シャボン玉が開け放った車窓から漂い込んでパチンと弾けた。
「ヴえっ!」
「アハハハ、仕方ないね。その泡は上流で銀色刹那岩を掘削する時に溶け込んだ濃脂系液体重金属が薄まったやつだもん。要するにシャボン玉ってより球体の油膜なんだなあ」
「あーー鉄くっさ! もー」
あぶくちゃんが思わず地声でえづくほど、鉄分の多い酸っぱくて頬の奥をキューンと刺すような臭いが風に乗って飛んで行くころ。漸く待ちに待った信号待ちからも解放されて線路を跨ぐバイパスに入った。
「あっカシオペアだ」
跨線橋の下に敷かれた高規格線路の超電導レールを滑るように走る銀色のボディが眩しい湾岸特急カシオペア。シャーーっと風を切ってゆく後姿をいつまでも追いかけていたくて、山も海も空も越えて走り続けた。
線路は続く、肌も筋肉も静脈も貫いて突き刺さり流れ込む銀色の液体重金属。シャーーっと肉を切ってゆく注射針の音が全身の感覚を伝って響いて来る。底を流れる物質も、その時の音も、皮膚の内側を触れてゆく感触をコマ送りにしたように感じることが出来る。やがてゴオーーっという轟音とともに血管の中を脂混じりの液体重金属が猛烈なスピードで流れゆく血液に抗いながら溶けてゆき、ひと呼吸ごとに空気が冷たく鋭くなってゆく。
鼻の奥がツンと冷たくなり、鼻腔の奥まで冷やされて、肺の奥で血のぬくもりに包まれて全身を駆け巡りオキシジェンは支燃性の人肌。一人じゃ燃えられないけど、燃やす相手がいるならば。血と汗とアセトンのケミカルリアクション。注射針と静脈のマリアージュ。媒介は銀色の液体重金属。耳をつんざくノイズと、ハスキーでカン高い不思議な声。
「ねえ、前! 信号見てる!?」
パーパパパパッ!
「はっ」
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