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Choque

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 夜。暗い部屋。灯りは消したまま。家の外の、街灯のエルイーディが窓から入り込んで来て消したままの丸い蛍光灯カバーを落ちものパズルの玉粒のようにぷよぷよ揺れるさまを照らし出す
 揺らぐ蛍光灯カバー、白く差す人工的な光、天井一杯に広がって脳裏に直結した記憶が映し出されるニューシネマ・パラダイス

 なんにも上手くいかなくて寝転がったマットレスがすっかりヘタって寝心地すら悪い。いいなあ、みんなは楽しそうで。制度や仕組みを上手く使いこなせて。お金があって休みがあって仕事があって、いいなあみんなは
 まるでゆっくりと墜落しながら、周りの人々を眺めてはぼんやり羨むような毎日。みんなだって浮き沈みはあるだろうに、こちらは沈むばっかりなので自分だけが落っこちていくように見えている。水車や坂道を色のついた油が粒々になって流れてく水時計のように自分だけが坂道を転がり続けて浮かび上がることがない
 どんどん落ちて、どんどん地獄の深みに足を取られて、このままぬるま湯が冷え切って氷のように冷たくなるのか。それとも干上がって枯れてゆくのか
 いずれにしてもロクなことにはならないだろう。どうしてこんなことになっちゃったのかなあ、って、そりゃまあそうか
 中に居るうちはわからないことも、外に出て見ると身に染みる。ロクでもないと思っていても、そのさらに下を行く会社なんて幾らでもある。給料、休日、社会保障
 あの会社に戻りたいとは思わないけど、あの仕事はまたしたいと思ってる。今じゃ自分の目標や念願がそんなことになっていることに愕然としつつも身の程を知り諦めがつけば、きっと流れも変わるのかなと思いながらも
 まだどこかで愕然としたまま膝をつき、自らの蔑み嘲る鏡の中の自分に許しを請うのか開き直るのか

Xの海で虹色のCandy Pop
オススメ品の海に販促のPop
虹色の海に踊り狂う老婆の顔したカイテイガガン
何処にもない、そんな海なんて
だけどいいさ、どんな海だって

 もうどこの誰にも相手にされない気がして、今ある何かにしがみついていなければいけない気がしてならないのに、この期に及んでもまだ何もかも放り出して何処かに消えてしまいたい。だけどそのためのお金もないし、預金通帳なんて洒落たモノすら今じゃ心もとなくて。なんのツケなのか自分でもわからないぐらい、善意や優しさというものを貪っていた。そのうえでの怠惰、そのうえでの半端、そのツケは何よりも大きく透明で無味無臭のうちに自分が自分である根幹を蝕んでいた
 5年6年と耐えたものが半年持たなくなり、2か月で嫌になる。シロアリに食い荒らされた柱と壁のように軽く脆く、真っすぐ立ち続けることすら覚束なくなる
 もうどこの誰にも必要とされない気がして、今から何かにしがみついてしまいそうな気がしてならないのに、この期に及んでもまだ何かを掴んで生き返ることを望んでいる。水を得た魚のように、ハネてハネて生きてゆきたい
 飛び上がって空を自由に。だけど実際は泥水の中を転がりながら坂道の先へ流れ着くだけ。せめて墜落でも出来れば、空を飛んでた記憶と事実は残るだろうに
 飛び上がるつもりで、単に滑空してずるりと不時着したのを
 美化して
 美化して
 理由を付けて美化して
 理由を探して美化して
 美化で塗り固めた張りぼての楼閣から飛び降りようとして、また不時着して

 空を飛んだことも無い癖に墜落の恐怖だけは身に染みている落伍者の一丁上がり

 いつか自分も、は、いつの間にか自分は、に変わり果ててしまった。これからまだ何か始めることは出来るんだろうか。すっかり足取りの重たくなった季節。あっという間に1年が終わる。曲がりなりにも上がってたことに気付くことも出来ず飛び出して墜落し続けた1年だった。まだ飛べるかな、また飛べるかな。でも、助走を付けて頑張るのがしんどいな
 落ちながら回りながら上を見上げていることだけは確かだけど、見上げるばかりじゃ疲れてしまう。下を向いたって地面しかない
 あの石くれと泥沼だらけの地びたに潜り込むまえに、何とかしなくっちゃ──
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