不定期エッセイ キッドさんといっしょ。

ダイナマイト・キッド

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2025.5.4 それでも尚、未来に媚びる。

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この日から遡ること2週間ぐらい前。名古屋でライブがあると聞いてチケットを取った。世間は春の連休。そんなときに、ただでさえ人の多い名古屋に行くなんて普段なら考えられない。ただ、それでも見たかった。人混みも連休も大嫌いだ。それでも見たかった。

私に〝それ媚び〟を教えてくれた人(のんちゃん)と会場のクラブロックンロールの前の路地で待つ。年季の入ったステッカー、いつのだかわからないポスター、色褪せて引きちぎれたフライヤー、年季の入った禁止事項の張り紙。古びてきている建物が明るい夕暮れにほだされて、無機質な街角になんとなく馴染んでいるように見える。

整理番号で呼ばれ、順に入場する。呼びかける人もまばらになった頃に中へ。
コインロッカーにトートバッグを預けて開演を待つ。
手がベタベタして気持ち悪かったので洗面所でチャプチャプして、出てきたところにボーカルのがーこさんが居た。顔を見るなり思い出してくれてうれしかった。

時間が来て、3組の出演者のうち先陣を切る我らが〝それ媚び〟が円陣を組み挑みかかる。
「今日のバンド、音デケエぞお!?」
の言葉通り、音量というよりは質量を持つ直前ぐらいまで音圧のかかった空間。
バンドといっても色んな形があるけど、それ媚びに関しては見た限りそれ自体が一つの生命体で、高等生物ゴケミドロみたいに輪郭を持たない生命力そのものみたいなものが激しく蠢きながら叫んでいる感じ。
昨年7月に同じ会場で行われたライブにはサポートメンバーとして参加していたギターの中谷龍太郎さん、ベースのノスケさん、ドラムけんてぃさんの三名が晴れて正式に仲間入りしての今回。
いきなりノスケさんのストラップが切れる。
なんとか応急処置をしたが、あの激しい演奏では持ちこたえるわけもなく、ネックを引っ掴むようにしたり太ももにボディを乗せたり、しまいにビリー・シーンみたいな肘の角度で抱え込み式の演奏を見せたり。何気に見ていて飽きなかった。

この一連のアクシデントを「絆」と呼んで面白がっていたら、がーこさんのマイクスタンドもへし折れていた。矢沢永吉さんのモノマネする人が持ってる小ちゃいマイクスタンドみたいになったのを振り回し、お構いなしに歌い叫ぶ。
私の大好きな曲、秋日、也子が2曲続けざまに出て嬉しかった。
去年はじめて秋日を聞いて、でもセットリスト見ても何がなんだかだったので聞ける音源を片っ端から聞いて見つけた、あのイントロ。他の曲がもっと叫んだり叩きつけたりするような言葉なぶん、この二つはより音楽っぽい曲な気がする。
あれは体に傷をつけて(アキアカネの軌道)、その跡を羽織ったシャツを長くして隠しているのかなあ。とか思っている。
圧倒されているうちに、あっという間に終わってしまった。しかしコレを浴びに行ったので先ず大満足。45分間の凝縮された時空と音圧。音と声と全身と表情を媒体にしたエネルギーの交換、受信、共鳴のようなものがあった。
ライブ後に物販でタオルを買った。さっきまで挑みかかるような目つきで(それがまたカッコいいのだが)ギターを弾きまくっていたろくさんがちょこんと座っていたのがなんとも印象深かった。

続いてANABANTFULLS(アナバントフルズ)。
略称アナバン。
この人たちも去年みた。そのとき一緒にライブを見たちゃんちかさんの言い草が良かった。
「アナバンは踊っとったらええんです」
その声音を思い出し、足腰にグイグイ迫るリズムに身を任せる。
気がついたらがーこさんも来て踊っていた。
世の中には俺達みたいなバンドが必要だ!
と、ボーカルの安田さん。私もそう思うし、私も私みたいなお話を書く小説家が必要だと思いたい。みんなが形通りの、売れる話じゃなくていいし曲調やマーケティングに乗らなくてもいい、そうして自分たちの力で先ずのしあがり、仲間やお客さんも一緒に、
自分たちの意思
を大きなベクトルで一つにして世の中をまかり通る。それってすごくカッコいいし、本来こっちが推したくなる人ってそういうもんなんじゃないのか。

ハイどうぞ推してください、推さなきゃこの人たちの未来はありません!!
ってやり方は、どうも好きになれないし、自分だって推してほしいけど、推され方でみっともないことは中々出来ないなと思う。

大トリ。Large House Satisfactionなるバンド。初見。
知らないバンドには不安もあるが、この二つを差し置いての登場なら心配あるまい。
そしてこの日の出演者でジャケットを着て出てきたのはボーカルの小林さんだけだった。
みんないい意味で普段着というか、衣装に関しては肩の力が抜けてるけど腹に力がこもってる人たち。まあ、それ媚びのがーこさんは普段着どころか部屋着みたいな軽装だけど、むしろあれで客席との密着度が増しているまである。整体を受けるのにできるだけ薄着になるのと似ている。

Large House Satisfactionは、歌詞や音色は尖っているけど、どっか垢抜けてて、爆音なのにずっと聞いてられる。
これが多分、私が欲していたもので……この日の3組のバンド、もとい生命力の集合体に求めていた感覚なんだと思う。舞台から放出される爆裂的なエネルギーは、しかし余計なストレスが限りなく少ない。あれだけ縦横無尽に叫び歌い奏でまくっているのに、余計なことやつまらないことが殆ど無いのだ。

それ媚びは胸に刺さる。
アナバンは足腰にクる。
Large House Satisfactionは頭を直接、掴まれる。

これの倍近い数のバンドが出て数時間かけて、なーんにも刺さらないで独りよがりの
かかってこいやー!
とか
ハーイここでフロアをぐるぐる走りましょ~、ハーイここは頭を振りましょ~
みたいなのを延々浴びてると嫌にもなるし、つまらないプロレスラーの試合でわざわざサードロープにもたれて背中出して待っててもらってるのに悠長に
ハーイ!ハーイ!ハーイ!ハーイ!
って手拍子させて、顔面蹴った振りして、それを見たまばらな客が
オーイ!
ってやってるプロレスとか。ああいうやつがイヤなわけで。

なーんか、通り一遍のことして、それ見てるだけだったんじゃねえか。
と自覚するきっかけが去年の〝それ媚び〟だった。
自分が今まで見てきたものが如何に恵まれていて、それらがどれほど泥臭い努力の末に表出した氷山の一角であったか。
そして、その努力が実らないか怠ってるか、カタチだけやってる奴を見抜けなかったか。

ああホンモノって絶対こうだよな…!
と思わせてくれる。信じさせてくれる。それが私にとって2024年7月13日だった。

そうして自分もお店の片隅に並ぶようになり、辛酸を舐め、舐めた真似をされ、その倍近くの有り難みを感じ、今でも悪戦苦闘している。
そうこうしているうちに、無性に〝それ媚び〟を欲している自分が居た。

早くまた見に行きたいな、と思ってたら、のんちゃんが5月4日に去年と同じ場所でライブがあると教えてくれた。
迷うことは無かった。いや、GWの名古屋って聞いたときはためらった。でも、それ媚び見たさが圧し勝った。
行ってよかった見てよかった浴びてよかったみんなよかった。

のんちゃん、ありがとう。
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