不定期エッセイ キッドさんといっしょ。

ダイナマイト・キッド

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たけとよだとよ。

愛知県武豊町。たけとよちょう、と読む。
個性派レスラーの名産地・愛知県でも飛び切りの変わり種、ミスター・デンジャーこと松永光弘さんの故郷でもある。飛び切りどころか飛び降りで一躍有名になった人だ。

私が幼稚園の「ももぐみさん」の頃、武豊のおばあちゃん、という親戚が居た。
名前も、顔も、住まいも、声も、なんにも覚えてないぐらい遠い記憶に居る。
その武豊のおばあちゃんに会いに行くのに、ももぐみさんの時点でもう既に一本スジの通った乗り鉄だった私のために、JR東海道本線と武豊線を乗り継いで行ったことがあった。

今から32年ぐらい前の話だ。私の通ってた幼稚園で「ももぐみさん」は年少クラスで、その時の私は3歳か4歳だったはずだから。

急に思い立って、行ってみようと思った。
別に尋ねるアテもなければ他に用も無い。あるとするなら、私は鉄道が好き。
武豊線に乗ってみよう。
それだけのことだった。

武豊自体は配達の仕事や、知多半島に遊びに行くのによく通っていた。
そのたびに、武豊の市街地を通るたびに、ああココに親戚のバアサンが住んでたんだよな。どこらへんに居たんだっけな、とか、ボンヤリ思っていた。
武豊のおばあちゃんは私が小さい時に一度会ったきりで、その後は会うことも電話とかすることもあまりないまま、私が中学校に上がったぐらいのころ亡くなった。その記憶すら曖昧だし、私はお葬式に行った記憶も無い。
当時の私は人生2度目のどん底シーズンで、遠縁の親戚の葬式に出るなどと言うことすらきっと出来なかったのだろう。詳しく書くと誰も幸せにならないので割愛。

遅い朝の豊橋駅は空いていた。
自動改札機に小さな切符を通して、成城石井でルイボスティーを買う。
豊橋は駅の東口周辺だけ意識の高いマンションとマルシェと複合施設とで白っぽくしているが、成城石井が町ん中で営業できるような土地柄では無いのだ。サンヨネあるし。

折よくやってきた快速に乗ると、最前列車両の乗客は私のほかに数名のみ。
間延びした空気ごと豊川(とよがわ)の鉄橋を渡ってゆく。

ちなみに特別快速だと大府駅に停車しないので注意だ。

降り立った大府駅も、ずいぶん久しぶりなのだろう。なんたって30年ぶりだ。
豊橋から名古屋に向かうなら大抵の場合、名鉄特急パノラマsuperにミューチケットまで買って乗り込み、東岡崎や知立で井上陽水の歌みたくすし詰めになる様を眺めている私にとって大府駅は近くて遠い駅だった。

ホーム変わりましてワンマン運転2両編成の武豊線にお乗り換えです。
こちらも乗客はチラホラ。
少し待って出発。ゴトゴトと走る街並みを眺めていると、途中で学校があるのか、そして試験でもやっているのか学生が大勢乗って来た。
騒がしいのも居て、ひとりムカつくデブが居た。いわゆるオモシロを自覚してる喧しい奴で、どの年代のどの教室にも居るタイプだ。同学年だったら絶対にエンズイギーリぐらいやっているはずである。私は根暗だから、ああいう奴はキライなのだ。
そいつが私の前の座席の同級生と喋るのに座席を行ったり来たり、通路で大声を出し、肘掛けにケツを乗せ、その同級生が降りて行ったあとは4人掛けの対面の座席に靴のママ足を乗せている始末。ブン殴る代わりに何処の学校だか調べてやろうかと思っていると、どんどん意気消沈していくデブ。結局コイツだけ終点まで乗っていて、トボトボと駅の改札にタッチして真昼の街角に消えて行った。

なんか寂しそうだった。

が、あれを改めるには余程の痛い目に遭わないと多分、なおらない。
すなわち暴力か失恋である。
あのデブに幸は無くていいけど、軽傷であれ。

さて。武豊駅である。JR武豊線の終着駅にして、かつては武豊港駅に通じる、武豊町の発展の象徴とも言われる武豊駅である。
愛知県内では最も古い鉄道路線で、そもそも現在の東海道本線を作るための資材を運ぶのに作られたのがこの武豊から熱田までの路線だったのだ。そのぐらいの鉄道マメ知識は、子供の頃からおじいちゃんに聞かせてもらって知っている。駅構内には鉄道少年団のみなさんの習字やマナー啓発ポスターが貼られているほか、こうした武豊トリビアも掲示してある。

が、感傷に浸るほどの思い出もなく。
かと言ってまるっきり無縁の地でもなく。
いつもは通り道の国道257号線を遠巻きに見つめ、早くもやることがなくなってしまった。
まあ急いで帰ることもねえしなー……と思っていたら、いま乗って来た電車がゴトトンといって引き返していった。次の電車まで20分ぐらいだ。
仕方がないのでセブンティーンアイスを買ってモチョモチョ食っていた。駅舎を吹き抜ける風が冷たくて心地よい。
しかしセブンティーンアイス高くなったな。うまいけど。

ボンヤリと晴れた空。白っぽい真昼の陽射しに照らされた小さなロータリー。
そこに鎮座まします高橋煕さんの胸像。通りを行き交うクルマ、トラック、自転車。
ボケタンとアイスを食い終わると、頃合いよく電車がやって来た。またちょこんと座って大府駅へ。今度は学生も大して乗って来なかった。

大府駅で乗り込んだ快速豊橋行きは満車だった。月曜の、こんなどっ昼間(ぴるま)からみんな一体どこへ行こうというのだね?
まあ、夜勤明けにヒマだし電車乗るか、ぐらいでわざわざ来ている奴に言われたくはないだろうが…。

豊橋駅に着いたので、カフェ・デンマルクでサンドイッチを買って帰った。
お風呂して、サンドイッチ食べて、気が付いたら夜中の2時まで爆睡していた。
いい夜勤明けの過ごし方だったと思う。
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