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第902回。犬に噛まれた

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よくモノの言い回しで
「まあ犬に噛まれたと思って…」
なんて言うことがありますが。
今日、ひっさしぶりに犬に噛まれましてね。ミニチュアダックスフンド。
お客さんの事務所に、いつも犬が居るんですよ。家から連れてきてるっぽいんだけど、そこに
「こんにちわーー」
って顔を出したら
ワンワンワンワンワンギャンギャンギャン!!
もうね、敵意とか悪意とか、キッチリこもってたね。あの目つき。あいつらやっぱりミニチュアダックスフンドとか可愛いけどフツーにケダモノだったよ。大したもんだ。猛然とダッシュして何の躊躇もなく私の左足のスネに食らいついて、ちょっと鯉のぼりみてえにぶら下がったもん。
幸い作業服の上から噛まれたんでそこまで怪我したりはしなかったけど、まあーその客先の奥様がビックリしちゃって…結構若くて美人さんなんだよね。長年、鉄工場の現場で働いてるんでちょいとくたびれたところがまた…。
あーーーーーーー痛いの血が出たの膿んできたの、なんか騒げばよかったかな…しまったなあ。ついつい平静を装ってしまった。というかホントに別に大した怪我もしなかった。けど家に帰って噛まれたところを見たら、ちゃんと内出血程度のことにはなってたので、ミニチュアダックスフンドとはいえ侮ってはいけないな。有事で餌がなくなったりしたら、あんな小さな犬でも結局はケダモノだと思わなくちゃならない…平和がいちばん。

でまあ犬に噛まれたと思って諦めろ、ちうのは結構なダメージを感じても諦めろってことなんだなとことわざの勉強を体を張った形で行ってきました。

あとそうねー、また別の日のことなんだけど。
私の客には病院もあるんだよ。配達先っていうのかな。
それでね、伝票を事務室に出すんでロビーを通って。自販機コーナーで飲み物買おうと思ったんだよ。したらそこに、車いすのおじいちゃんが居て、ごみ箱に空き缶を捨てようとしてたんだけど、こう、車いすとごみ箱の角度が合わなくて手が届かないんだ。だけど向きを直すのもしんどそうだったんで
「おじいちゃん、捨てておくよ」
とそのブラックコーヒーの空き缶を受け取って、代わりにぽいと捨てたのね。そしたらおじいちゃんが
「ああー。オヤイヅさんか、オヤイヅさんだよね?」
と言うんで、いやボクはオヤイヅさんじゃないよー、と言うと
「じゃあココの人?」
多分、宮前真樹さんとか羽田恵理香さんのことじゃないよなーと思いつつ
「いやあ出入りの業者で」
と言うとやっとこの男が単なる親切な肥満児だということがわかってもらえたらしく。しきりにお礼を言いながら車いすで去っていった。私はおじいちゃん子でありおばあちゃん子なので基本的にはお年寄りは大切にしたいし、そのおじいちゃんをよく見ると車いすに座った片方の足の、パジャマの裾が縛ってあった。それに気が付いたのはおじいちゃんが去っていく寸前くらいだったけど、やっぱりちょっとしたことだったけどやって良かったなと思った。

そういえばこの会社に入って2年ぐらいした時にも、コンビニを出ようとしたら私の後に出る人が片手に手帳、片手にコーヒーのカップを持ってたのでドアを開けて待っててあげたらその出てきた人が本社の偉い人だったこともあった。植木等さんのサラリーマン映画みたいな展開だ。なんにせよ親切はしておくものだ。

私だって運転中やお店の中でもイライラすることは多々あるし、気が短いことで損ばかりしている…というかいらない騒ぎを起こしたり、モノを壊したり、人を傷つけたり怖がらせたり迷惑をかけてきている。日々の小さな親切や信頼の積み重ねというのは、こういう一瞬の短気で全部吹っ飛んでしまう。カズヤ君は良いところもあるから、優しいとこもあるから、と言い続けてくれた人を何度も裏切ったし迷惑をかけた。小学校の時のトクシマ先生とかヤスムラ先生とか、期待にこたえられなかったことや申し訳ないと思うことで今でも
わーーーーーーーーー
ってなりそうなときがある。意外とプッチンと行くまで冷静なつもりで、自分にもそれなりの理由があると思っているのだが、暴れた瞬間にそれらはすべて言い訳でありオジャンなのだ。やりきれないことも沢山あったし、逆にその積み重ねで理不尽な目にも遭った。全部が全部、自分が悪いとか悪かったということではないと思いたいし、結局は報いを受けないように上手く立ち回る奴が小憎らしくて癪に障るのだろう。そういう自分の小ささを受け止めて身の程を知ろう、と思っているうちは良いけど、ウツワの小ささや視野の狭さが許せなくなり、周囲に嫉妬したり疑心暗鬼の目で見るようになったら、それはまあ疲れているサインでもあるし、ちょいといい子ちゃんが過ぎたのかも知れない。
ほどよく発散する、ということが昔から下手糞な子供だった。
そのまま大人になってしまったので、たまには見ず知らずのおじいちゃんの空き缶を代わりに捨ててあげるくらいでは足りないだろうが、バチが当たることもあるまい。
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