不定期エッセイ キッドさんといっしょ。

ダイナマイト・キッド

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第860回。怖い人は可愛い人?

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あーーーるうぇったーーーーーじゅっぴたーるうぇったーーーーーー
あーーーるうぇったーーーじゅっぴたーーるじぇーーーー

ある日、急にこんな歌を口ずさんでいた人がいた。
ココは2007年ごろの豊橋港の片隅にあるスズキ自動車のモータープール。
のさらに休憩所兼事務所のプレハブ小屋の中。
歌っていたのは茶髪にサングラスでごっつい体をした近藤さんという人。
おヒゲも生やしてて低いボイス、見るからにイカツイ人だが実はかなりのプロレスマニアでひょうきんな人だった。なので、よくみんなとバカな話をして盛り上がってたし、こんな歌を急に歌い始めることもあった。
近藤さんをこの現場に紹介した友人のシライさんが
「なんの歌だよそれ」
と言うと二十歳くらいだった私が
「あれでしょ、トムとジェリーの小さいネズミがハム切ってるときの歌」
嬉しそうな近藤さんが
「それそれ!ニブルスだよニブルス」
近藤さんと白井さんは同級生なので当時たぶん三十路半ば前ぐらい。
一回りぐらい年齢差があってもそんな風にくだけた話をしていられたぐらい和気あいあいとした現場だったのだ。

事程左様に見た目ちょっと怖い人ってのは意外と可愛いところがある、というわけで。
プロレスラーとて例外ではなく、意外と可愛いところがある人が多い。
見た目も顔もかなりイカツイといえば大阪のボディガー選手だが、ツイッターにお店で作ってもらったオムライスを持ってニッコリしている写真があったり、お母さんとツーショット写真を撮ってたりとかなり可愛い。ギャップがどれだけあるかってのも大きいかもしれない。
私が覚えている中では、まだ名前がひらがなだった岡田かずちか選手がメキシコ時代、私と一緒にメガマートに買い出しに行ったときのこと。エスカレーターを上ったすぐ隣がお花屋さんで、そこにスタスタスタっと歩いて行って植木鉢をしげしげ見ながら
観葉植物欲しいんすよねー、好きなんですよー
と言っていたのを覚えている。もっともあの頃は怖いというよりは礼儀正しい明るくて朴訥な少年で、しかも先輩としてプロデビューもしているというのでなんとも不思議な感じがした。私は先輩だから当然敬語、でも岡田さんもこちらの方が年上だからと敬語で接してくれていた。
今思えばとんでもなく贅沢な時間だったわけだ。
ちなみにその後、寮のお部屋には観葉植物ではなく何故かハンモックが吊るされることになった。

あっそうだ、豊橋港のモータープールで現場監督をやっていたのは桜井さんという人で、この人は私の母親の親友でもある人でね。一緒にバンドを組んでいるクレイジー松a.k.a松井さん(使い方、コレで合ってる…?慣れないことはするもんじゃないな)も同じ昔ながらの付き合いのある人だった。
港の男は荒っぽくてがらっぱちの人も多いけど桜井さんは物静かな人で、いつもニットキャップをかぶって書類仕事をしたりタバコをふかしたりしていた。ちなみに桜井さんはバンドのベースで松井さんはボーカルだ。そのまんまのタイプだから面白い。松井さんは関係者でもあるけど普段はトレーラーに乗っているので厳密に同じ現場にいたわけじゃないんだけどね。
他にも歌手の故やしきたかじんさんをもう少しイカつくしたような会社の偉い人とか、船積みの現場の中心的存在で私の親分でもあったイズミさんとか、濃いオジサマ方がひしめいていたモータープールにある日、日産から新型GT-Rがやってきたからサア大変。
みんな乗りたくて仕方がない。
工場からトレーラーで厳かに運ばれてきたそれは外の軽自動車や外車、中古車、事故車とは別に特別なスペースを作ってそこに置かれた。
そこに群がる港湾関係者の皆様。
普段はめったに顔を見せない偉い人までやってきてワイワイやっている。
私は別のレーンに運ばれてきた軽自動車を片付けていた。船積みの時間の少し前になったら、これを決められた数だけ岸壁に停めておくのだ。もちろん自分たちで運転して。
さあ、その岸壁までのちょっとの距離、誰がGT-Rを運転するのかで揉める揉める。
延々とブツクサ言っている。
GT-Rは2台だけ。
あの当時で予約しても何年待ちって言われてたんだからそりゃ乗りたいわな。
結局は偉い人と桜井さんが乗った気がする。私も運転席にだけ座らせてもらった。戦闘機のコックピットとかレーシングカーとか、乗ったことないけどこんな感じかな、と思った。
ただあの当時、たぶん体重が100キロ以上あったのでかなり窮屈だった。

顔が怖くて言葉遣いもがらっぱちの男といえば私キッドのお父ちゃん、こと佐藤輝之さん通称輝さんだが、この人も可愛いところが相当あった。
まあ我が家に住み着いたときはアパートに住めなくなってて、入院しちゃったときは
酒と家族どっちを取るんだ!
と詰められた挙句
お・さ・け
と答えてしまうという一世一代のプリティぶりを発揮してしまったりもしたわけだが。

この輝さん、元は板前の修業を京都でみっちりやっただけあって料理上手で、酒飲みだから自分のツマミは自分で素早く何でも作ってしまえたし、私たちの食事も言えば何でも作ってくれた。
この時に禁句なのは実はまずいよりも美味しいで、美味しいといわれると嬉しくて次々にアレもコレも作ってしまうので大変なことになるのだ。
マズイなんて言ったことも思ったこともなかったけど、あの頃に輝さんからもうちょっと料理でも習っておけばよかったかな。
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