不定期エッセイ キッドさんといっしょ。

ダイナマイト・キッド

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キンちゃん家が火事だ!の巻

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高校の友達にキンちゃんと言う子がいて。
苗字じゃなく、名前がキンジなのでキンちゃん。
もじゃもじゃの天然パーマがトレードマーク。お父さんの影響で音楽ジャズとハードロックが好きでドラムが得意という男。
実家は建築屋さんをやってて、自分の土地にログハウスを建ててそこをスタジオ代わりにしていた。この丸太小屋が河原の近くの、周りになーんもない畑と温室ばかりのところにあるので大音量で練習しても平気なのだとか。

若い男子、隔離された密室、周りなーんもない。
ときたら、あとやる事は一つ。
周りの林や草むらで鬼ごっこ。
バンドの練習。
食い物持ち込んでどんちゃん騒ぎ。これである。

女の子?なんでだろう、居なかったなあ。なんでだろうなー。
泣いてない。

まあキンちゃんや他の連中はモテたと思うので私が知らないだけかもしれないが。…だとしたらあいつら許さん。今すぐ八つ墓村みてえになって追いかけまわしてやりたい。

でね。
キンちゃんの家も丸太小屋も、川を渡って向こう側にあるんですよ。そこは市内でも川に挟まれて交通も少し不便なんで結構な田舎が残ってるんです。
渡し舟なんてのが今でも現役で運行されてるぐらいだもん。自転車も乗れるんで、キンちゃんは毎朝渡し舟に自転車ごと乗って通学するという実に雅な通学をしていたっけ。まあ実際はプラスチックのボートに市に委託されたシルバー人材のお爺ちゃんがギッコギッコ漕いでくれるんだけどね。でもってコレが夏の暑い日なんかは気持ちいいわけ。

でさ。
ウチの高校こと高等学校に一番近い掃き溜めはちょっと高台にあるので、校舎の4階まで登ると北側の窓からキンちゃん家のある方角がすっかり見渡せるのね。
まーなんもない。家とかお店がある辺りを外れると、あとはほとんど田畑と温室。たまに竹藪と神社と、こんもりした森。

ある日、4階の廊下で外を見ながらダベっていると、そのなーんもない辺りから明らかに火の手が上がっているではないか。
「オイオイ、あれキンちゃん家のほうじゃねえ?」
「ほんとだ! おーーいキンちゃん家、燃えてるぜ!」
慌ててやって来たキンちゃん
「マジかよ!? オレん家かアレ!?」
まあ半分冗談というか殆ど勢いで言っているのだが、しかし本当にキンちゃん家の丸太小屋の方角とほぼ一致している。野焼きの大袈裟ななのであってくれ、とも思った。いずれにせよ確かめねばなるまい。
そこで仲間の一人が、毎回やる気のない事で生徒に人気の非常勤講師の中年男性にこう言った。
「せんせー!キンちゃん家が火事なので帰ります!!」

みんなして自転車を飛ばして見に行くと、幸いにもキンちゃん家は無事だった。
が、すぐ近くの家具会社の倉庫がゴーゴー燃えていた。
すぐに消火されたものの焼け跡は残っていて、しばらくのあいだ無残な姿を晒していた。
キンちゃんはその後もバンドを組んだり地域の青年団に入ったりで元気に暮らしているようだ。

最近、久しぶりに丸太小屋の近くを通った。まだあるのかな。
懐かしい細い路地はあの頃とほとんど変わらなかったけど、周りの家がちょっと新しくなったりしてた。
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