不定期エッセイ キッドさんといっしょ。

ダイナマイト・キッド

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おばあちゃんに会いに行こう

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おばあちゃんに会いに行こう

お盆も終わったけれど、私は2019年末以来転職を繰り返し
もはや自分が、いま、何を、どうして、どんな風に過ごしたいのか
自分で自分の感情や行動がコントロール出来なくなっていた
ただひたすらに疲れて、自分の中で渦巻いた不平不満や不安、焦燥、自分で自分に向けた根拠のない諦めと意味のない励ましが自分で自分を埋め尽くしているけれど
その生ぬるく、この夏のクソみてえな気温でどんどんあったまってきている水の中で
水面から顔も出せずもがいていた

そこで、ふっと
おばあちゃんに会いに行こう
と思った。お盆の時期は墓場が混むうえ年寄りや里帰り中で運転の下手な奴が多いので、いつも敬遠していた。家の仏壇には手を合わせていたし、そこでもブツブツと思ったことを頭の中で述べていた。けど、疲労と倦怠で今ひとつまとまらないままだった

ので、日曜の朝、早起きしてお墓に向かった。最初は母方の祖父母と伯父、曾祖父母のお墓に行く。涼しいけど、意外に朝早くからお墓に来る人って多いんだな
結構にこやかに、なんか身内同士なのか楽しそうに来ている人も居た
ちょいと伸びた草を抜き、お水をかけて、墓石の前にしゃがんで話す

物静かで物知りでオートバイ屋さんから学校の先生になった祖父と
豪快で明るく、ザ・三河の女傑といった感じの祖母
全く正反対で真逆の生活と性格だった二人だが不思議とうまく行っていたようだ。私は、この祖母が精神的な支柱だった
心の拠り所、とでもいうべきか
最終的に何でも正直にゲロってしまえる、最後の砦だった

だから、いま頭ん中で渦巻いているものを、すべて吐き出してきた
迷っていることは、迷ったまま
悩んでいることは、悩んだまま
自分が如何したらいいか、どうしたいと思っているのか
わからない、と

散々ぱら話して気が済んだのか、少し気分が楽になった…感じがする
その足で今度は父方の祖母のお墓に向かう。ちょっと離れた小高い山の上につくられた狭くて古い墓苑にある
この父方、という表現が自分で勝手にしっくりこない。実の父親の、そのまた親だから別にニホンゴ的にはそれで正しいのだけれど
その実の父親とやらとは絶縁して十五年ぐらい会ってないし、死ぬまで顔を見るつもりもない
きっと光より早くブン殴ってしまうので、もう二度と顔も見たくない
祖母の葬儀で泣いているのを見て心の底から軽蔑し、お前が散々暴力と暴言で痛めつけてお金までむしって、何度も何度も殺そうとしてきたじゃねえか、と喉まで、舌の先、前歯の裏まで出ていたけど飲み込んでしまった
けど何も知らないバカな親戚どもに
お父さんに似てきたわねえ
と善意のボディブローを頂いたときには死ぬほど嫌な顔をして、そのまま席を立って帰って来た。そのぐらい。生まれて物心ついたころから、何か気に食わないと散々な目に遭わされた。団地の下でアスファルトのうえを引きずり回されたこともあるし、ジャスコの鮮魚コーナーで背中を思い切り蹴飛ばされて顔面をグリグリ踏まれ床の埃っぽいにおいと、棚の下に溜まった綿埃を見ながらあまりの苦痛で頭が呆然としたこともあった

そんな奴ではあるが、絶縁したのはソイツだけなので、祖父母や伯父との付き合いは今も続いている。都合よく縁を切り、存在を消している
だからこんな時、父方の、ということに酷く違和感がある

けど事情を知らない人にイチイチ説明するのもアレなので、まあいいか、と最近では思っている。けど今後また自分が新しい職場や何処かのグループに属するときは死別したことにしよう、と思っている

父方の祖母は私を溺愛してくれたし、いい思い出も、悲しい思い出も沢山ある
晩年はアルコール依存症や癌の恐怖からアガリクスを愛飲しせん妄を起こすなど、心身を蝕まれていった。その原因の大半は、さっきの暴力暴言だったと間違いなく思う
祖母を守れなかったことの忸怩たる思いと、まだまだ甘えたいと思う心とが
今でもケツの座りが悪いまま頭の片隅でさびついている

祖母の好きだったキリンラガービールの500ml缶を買う。早朝のコンビニにやってきて、そんなものをポンと買って行く30過ぎのオッサン。こと私
それを見た若いバイトの茶髪で色が白い、川谷絵音とヒカキンのイケ好かないところを煮〆た馬糞みてえな胸毛の濃そうなお兄ちゃんが何かを思うとしたら、きっとロクでもない感想であろう
が、きっと何も思わず、淡々と缶ビールを売ってくれたのだろう

祖母のお墓の前に、缶ビールを置いてしゃがんで手を合わせる。こっちも結構な人が居る。朝早くのお墓なんて、もっとがらんとしてると思った。狭いので車が通ると音が響く
落ち着かないけど、この雰囲気、空気に溶けてしまおうと
そのまま手を合わせる

何を思って、何を話して、何を伝えたかったのか
いまコレを書いている時には正直もうあんまり思い出せない

だけど迷いや悩みや不満が、少し軽くなった
仕事をするのに、楽しむ余裕がほんのちょっと生まれた
そんな気がするのも事実だ

その後は気分が上向いてきたので、母方の親戚の喫茶店
モンキーポッド
でモーニング。アイスティーに分厚いトースト、モンキーポッド名物うずらの茹で卵。サラダには独特の芥子しょうゆドレッシング。これが暑い時期には特にさっぱりと刺激的で美味しいんだな
実に健康的かつ愛知県的な朝食を頂いた後はゲンキーでお買い物
午後からは豊橋市美術博物館で展示を見て来ました
日本画を拓く作家たち~トリエンナーレ豊橋 受賞作品展~

吉田城と三河吉田藩
の二本立て。詳しくは是非展示をご覧いただくとして、吉田城と三河吉田藩、は大変に興味深い展示が数多くありました
武具や具足、兜に鎧といったわかりやすいものから
馳走帳、日誌、日記など当時の生活が色濃く残った貴重な品物まで
連綿と続く歴史というものは日々の事実の積み重なりで、その延長線上に我々も生きていて、また日々の積み重なりを繰り返す
ほんの数百年前の出来事が、今でも残されて目に触れる
こんな面白いことはない

早起きしたので充実した日曜日を過ごしました
朝活、なんて言葉はイケ好かないけど、早起きして活動するのはいいもんだ
早起きは十六文キック、と昔の偉い人は言ってたもんな

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