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第676回。フルーツインゼリーinオヤイヅ商店

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私キッドの子供のころは、ギリギリ近所のおっちゃんおばちゃんがやっている小さなお店屋さんが「普通に」存在していた最後の時代だったのかもしれない。
今じゃ「昔ながらの」「なつかしい」なんて要素を乗っけられて、お客としてくるそういうなつかし目当ての連中と、今も昔もそこで普通に商いをして暮らしている人たちの大いなる溝が広がるばかりに見えるけれど。
もうジャスコもダイエーもあったし西武百貨店も丸栄デパートもあったしで、その時からすでに負け戦を如何にして続けていくか、みたいな時代ですら終わりかけていたんじゃないかなあ。
借金しないうちに、店主が高齢で、仕入れが高くって、と色んな理由で我が家の近所のお店もひとつ、またひとつと姿を消していった。建物が残ってて今でも普通に朝のゴミ出しんときとかに顔を合わせる人もいれば、息子夫婦の住んでる家に移っていく人もいたし、建物ごと取り壊して駐車場になっちゃったところもある。

お肉屋さん、クリーニング屋さん、塩とか葉書とかジャンプ売ってたポストのあるお店、お好み焼きとか焼きそばとか夏にはかき氷もやってた駄菓子屋さん、おじさんが一人でやってたHONDAのクルマとバイク屋さん、銭湯、お惣菜屋さん、うどん屋さん、夜中から明け方までやってるラーメン屋さん、狭いけど美味しい定食屋さん、小さな八百屋さん兼スーパーマーケット。
みんな閉店してしまった。
その中でも八百屋さん兼スーパーマーケットだったオヤイヅさんの思い出。

オヤイヅさんは我が家からすぐ見えるかどっこにあって、赤と黄色のビニールの庇のある店先は八百屋さんらしく野菜や果物が並んでいて、アイスクリームの冷凍庫もあった。よくあるエスキモーって書いてあるやつ。毎週金曜だったか土曜はアイスクリーム二割引の日で、申し訳程度に置いてあったハーゲンダッツのバニラと抹茶以外のアイスはどれでも二割引だった。
お店に入ると小さな箱のような店内にAMラジオがかかっていて、オバチャンのコンビがレジにいる。少しだけどお肉やベーコン、ウィンナーなんかもあったし、魚の切り身もちょっとあった。
各種のインスタント食品や乾き物、パン、お菓子、一通りのものが置いてあったのでちょっと何か買う時は実に便利だった。
今じゃ当時のオヤイヅさんより広いコンビニや、下手したらドラッグストアの食料品コーナーの方が品ぞろえは良かったかもしれない。まあ20年も前の話だし、あの当時はこれで事足りていたのだ。

夏休みの昼間ヒマな日におばあちゃんからお使いついでに小遣いをもらって家を出て。
日光でちょっと白くなったアスファルト越しにオヤイヅ商店の小さな店が見える。すっかり見慣れた景色をポクポク歩いて庇の下へ入るとヒンヤリとする。
レジのオバチャン二人に挨拶をして、頼まれたものを買い、一旦それをレジに置いてピッピっとオバチャンその1が手打ちで値段を入力し、オバチャンその2が袋詰めをしてくれる。
その間に店の外にあるアイスの冷凍庫から、貰った小遣いの分だけアイスを買う。
よくツイッターでどこぞのノータリンが馬鹿の一つ覚えみてえに
【拡散希望】これ知ってたらRT【今の小学生は知らない】
とか書いてまんまとRTで回って来るメロンの形したアイスとか、ピノのデカい箱に入ったやつとか、雪見だいふくとか買ってたな。
大体あのメロンの形したアイス、食べにくいんだぞ。あんな形してるからスプーンが入りにくいし残るし…。

あと今コレ書いてて思ったけど、小さな古い商店の狭いレジカウンターの雑然としたところに小柄な中年から老人に差し掛かるくらいの女性が二人仲良く並んでる様子、デヴィッド・リンチの映画みてえだな。具体的にどの作品のどこ、ってんじゃなく、なんとなくムードが。

ただひとつ、アイス以外にもお目当ての品があって。
それが表題のフルーツインゼリー。やっと出てきた。
私が子供のころ安達祐実さんがコマーシャルに出演していた商品で、その名の通りゼリーの中にフルーツがゴロっと入っている。
当時は「たらみ」とかあんまなくて、我が家の近所で手に入るフルーツ入りのゼリーはコレだけだった。そしてそれで十二分に満足していた。
何しろ子供はゼリーが大好き。
近所に住んでる福井さんとこのおばあちゃんにゼリーをやる、と言われていわゆる「みすず飴」みてえなのをもらったこともあったけれど、アレはアレで美味しいけれども、それよりも何よりもやはりフルーツインゼリーであった。
特に何故かサクランボのが好きで、いつも妹と取り合いになっていた。
子供はサクランボとか好きよな。オレンジとかもあったと思うんだけどいつも買うのはサクランボ。ホントにしょっちゅう食ってたんで大塚愛が大泉逸郎の果樹園からダース単位で運び出してブン殴られるんじゃねえかってぐらいの量を年間ベースで食っていた。

何しろ近所のお店なので私のこと、それどころか我が家の事までよく知っていてくれる。
とりっぱぐれる心配もないんで(個人情報どころか店出りゃ家が見えるんだから)お金が足りないときは取りに帰らせてくれたり、端数はオマケしてくれたり、そういう有難さもあったな。
御主人が高齢で、市場に行ったり店に出るのが「こんきい(三河弁でシンドイ、みてえな意味)」からというのが主な理由として閉店してしまって早何年になるだろう。

今でも子供のころ、小遣いを握りしめてオヤイヅさんまでダッシュで向かうところを思い出す。お店も、小遣いをくれるおばあちゃんも、今は昔になってしまったけれど。
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