上 下
620 / 1,301

第618回。キッドさんはダイナマイト・キッドが好き。

しおりを挟む
皆様こんばんは!
ダイナマイト・キッドです。

最近、おんなじフリーダイヤルから何度も電話がかかってきます。
その都度着信拒否登録をするのに毎回かかってきます。
設定が間違ってる…?なんでこっちがそんな気をもまなくちゃならねえんだ!誰だ!!
でも出てやらねえ!どうせあれだろ、楽天でウッカリ申し込んだしじみのサプリとかだろ。
鬱陶しい、高速ブレーンバスターからのストンピング乱れ撃ちでぐったりしたところをダイビングヘッドバッドで仕留めてやろうか。
このフルコースでピンと来た方はダイナマイト・キッドのファン。私じゃなく元祖、オリジナル、というか世間一般で言う伝説のプロレスラー、ダイナマイト・キッドのこと。

私もその一人で、もうずっと小さなころから大好きだ。たぶん生まれて初めて見たプロレスラーだし、生まれて初めてファンになったプロレスラーだ。
あれは、まだ幼稚園ぐらいの頃だった。当時の私は鉄道と仮面ライダーBLACK RXとウルトラマンが好きで、当時衛星放送のBS11でウルトラマンタロウの再放送をやってたんでそれを欠かさず見ていた。けどその放送は予告編も流れず、しまいには終盤のドルズ星人&うろこ怪獣メモール辺りでパタっと放送が停まってしまった。んで、そんなときにレンタルビデオ店で一本のビデオテープを見つけた。
そこには沢山の名前と数字がズラっと並び、その中に
ウルトラマン
と確かに書かれていた。ので、それを借りてみたらコレがビックリ。
確かにウルトラマンなのだが、それはメキシコからやってきたプロレスラーのウルトラマン。
実際のウルトラマンには似ても似つかないデザインだが、対戦相手のタイガーマスクとの好勝負も相まって中々の見ごたえがあった。
要するにパッケージにズラっと書かれた名前や数字は、リングネームと年号と会場と60分1本勝負、とかそういうのだったわけだ。

が、私の運命はこのすぐあとに決まった。
タイガーマスクVSウルトラマンのほかにも沢山収録されていた試合のうちのひとつ。
それが、タイガーマスクVSダイナマイト・キッドだった。
背丈はそんなに大きくない、特にあの頃のプロレスラーからしたら相当小柄な部類にはいるのに、筋肉はモリモリを通り越して
表面張力の限界
などと言われるほどの発達ぶり。髪型は坊主刈りだったりロン毛だったり、始終しかめっ面だが端正な顔をしている。幼稚園児でもイギリス人だとわかるユニオンジャックのロングタイツ。
そして何より良かったのが、その胸板や背中が凄く綺麗だったこと。胸毛や腋毛が全然ない。
私は女性の、特に可愛いと思うひとの腋毛は大歓迎だが男のムダ毛は割と嫌いで、自分のでも嫌なぐらいだ。だからプロレスラーでも力士でも出来れば毛むくじゃらじゃない方がイイ。
80年代の筋肉レスラーはみんな綺麗な肌をしていて、ダイナマイト・キッドもそのご多分に漏れずといった感じだった。

この戦う貴公子とも言われるほどの美しい肉体とハンサムフェイスの持ち主はしかし、下手な怪獣や悪役レスラーより凶暴で手が付けられない暴れん坊だった。
しつこい反則を繰り返す如何にも悪党といったレスラーよりもよっぽど乱暴だし、その激しい打撃でタイガーマスクをボッコボコにしてしまった様を見て私はすっかり魅了されてしまったのだ。

一般的なプロレスの試合とは、やはりレスリングの興行であるという名残からお互いに組んで始まることが多い。もちろん打撃もタックルも関節技も何でもありだから飛びかかろうが腕を掴もうが蹴飛ばそうがなんでもいい。
ダイナマイト・キッドもそんなレスリングの本場イギリスでみっちり修行した実力派でありながら、試合ではそういうところを滅多に見せなかった。
ゴングが鳴るや否や飛び出して取っ組み合って、あとはこめかみや二の腕の血管がメロンみたいになったまま暴れまわる。時々、高度なサブミッションや返し技を見せたり、本人の著作によれば試合中にコッソリと裏技を仕掛けられたが返り討ちにした、とある。能ある鷹は爪を隠すというわけだ。
場外乱闘でも容赦はしない。マットも何も敷いていない体育館のただの床の上に脳天から相手(主にタイガーマスク)を突き刺してしまうこともあれば、観客席とリング周辺を仕切るフェンスがぐにゃりとひん曲がるぐらい叩き付けたり、椅子でもカサでも使えるものは何でも使って相手(主にタイガーマスク)をブン殴る。
ウルトラマンに釣られてレンタルしたら怪獣より恐ろしい男がいた…!

しかし悲しいかな、コレは84年ごろ、ダイナマイト・キッドの絶頂期の姿であった。
私が彼に気付き、そして物心ついたときには、すでに彼はピークを過ぎていた。
あの表面張力の限界と謳われ、血管がメロンみたいになった筋肉には多量のステロイドが使用されていたという。本人の著作によれば常用していたどころか他の巨漢レスラーと真っ向から勝負するため通常の何倍もの量を使用し、しまいには競走馬用のステロイドまで使った(流石に死にかけたらしい)という。

では、あの肉体も、素晴らしいファイトも、全ては偽りのまがい物だったのか。
私はそうは思えない。
少なくとも、そこにダイナマイト・キッドとなった一人の男がいた。
そして彼は強く、美しく、カッコよかった。
ダイナマイト・キッドはその後、長年の激闘がたたって体が不自由になってしまった。
そして現在では恐らく、もう話すことも立ち上がることも出来ないのではないだろうか。

しかしキッドの伝説は永遠にマットの歴史に刻まれたのだ。
もう彼の事はそっとしておいてほしい。
しかし語り継いでほしい。
私は私なりの理由が合ってダイナマイト・キッドを名乗った。なぜこの名前を選んだかと言えば、あの
ダイナマイト・キッド
という男に、結局のところ今でも夢中だからだ。

私は私で、エッセイでも文学でも文芸でもイケ好かねえ連中を蹴りまわして、言いたい放題暴れてやろうと思っている。
くすぶったこともあるけれど、私の心のPURE DYNAMITEの導火線には今でも火がついているのだ。

それでは、またあした。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

パンツを拾わされた男の子の災難?

ミクリ21
恋愛
パンツを拾わされた男の子の話。

カクヨムでアカウント抹消されました。

たかつき
エッセイ・ノンフィクション
カクヨムでアカウント抹消された話。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

男性向け(女声)シチュエーションボイス台本

しましまのしっぽ
恋愛
男性向け(女声)シチュエーションボイス台本です。 関西弁彼女の台本を標準語に変えたものもあります。ご了承ください ご自由にお使いください。 イラストはノーコピーライトガールさんからお借りしました

処理中です...