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第545回。恐怖の口が目女!

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クチガメー!

というわけで今回は、リイド社さんから発売中の崇山祟(たかやまたたり)先生のモダンホラーコミック
「恐怖の口が目女」
の感想を書かせて頂きます。
ネタバレもありますので、そんなの許せないわよ、しゃべんなスカポンタン!という方は、是非まず作品をご覧になってからお越しいただければ幸いです。

さて。
これもおおかみ書房さんで取り上げられた作品で、独特の絵柄と強烈なキャラクターの画像が流れてくるたびにドンドン興味をそそられておりました。
この作品が出版された時、他にも読みたい作品や欲しいものが多くて、毎回迷うんだけど中々買えなくって。

手元に届いた冊子は結構分厚い。
レトロなホラーマンガを彷彿させる表紙をめくった先の一枚絵がまた素敵で。
物語はたった二人の新聞部、美空すずめ部長と部員の吉永百合子との会話から始まる。
整った顔たちとキラキラお目々にベレー帽がトレードマークの美空すずめ部長。
小林亜星さんばりの団子鼻に丸眼鏡でぽっちゃり系の吉永百合子さん。
ちなみに巻頭カラーではすずめ部長によるものと思われる新聞も掲載されているが、かなりのオカルト・超常現象マニアであることが伺える。

この作品、コマとコマの連なり、間合いがまた独特でそこがまた心地よい。
開始早々、何故か拳を交わす二人。さらに吉永さんをノックアウトし、保健の先生を写真で脅し、アンモニアの瓶を放置して帰るすずめ部長。
ここまで全然序の口、まったく物語が動き出していない…すずめ部長が繰り返し見るというデヴィッド・リンチ作品ばりの悪夢を堪能したら、その次の日。
いよいよ物語は動き出す。そしてここからが怒涛の展開となる。

吉永さんが下校時に口が目女を目撃したという告白の真偽を確かめるため夜道に繰り出す新聞部のふたり。この時のオートクチュールを着こなすすずめ部長のポーズが可愛い(ポテトチップスとの対比もあいまって)
そして本当に口が目女を目撃し、吉永さんを突き飛ばして逃亡するすずめ部長。この走り方も独特で、何をするにもイチイチ個性が溢れていてとても可愛い。すずめ部長と吉永さんに、どんどん愛着がわいてくるのがこの頃で、平和な世界もここまで。
ちなみに表題にもある口が目女というのは当初の作中では口裂け女などの都市伝説的なものであったが、この目撃事件から昭和テイスト溢れる学園ホラーマンガとして始まったこの作品が急に太古にルーツを持つSFホラーに展開してゆく。考古学者の石原裕一郎が加わり、彼からクチガメに関する伝承を聞く新聞部の二人。でも、すずめ部長は途中でまた変な世界の夢を見て全然聞いていなかった。

石原によればクチガメとは古代に墜落した隕石を見に行った男が帰ってきたときに別人のようになり、そのときに口の中に目玉があったことによるものらしい。
やがてこの口が目男は神となり万能ぶりを発揮する。この時の踊る女性に腋毛が生えているのが素晴らしい。
さらに男は後継者として優秀なシャーマンの娘を選び、この娘こそが元祖口が目女であるという。
元祖口が目女は石窟に眠っていたはず。それが現代に蘇った、その理由は、目的は…!?

三人は改めて口が目女の正体を突き止めに向かう。
とある邸宅に入って行ったのを確かめたのち、後を追って侵入する三人。
すずめ部長のベレー帽は万能ポケットのようで、ジャーナリズムに欠かせないピッキング道具や木槌まで入っている。
そして忍び込んだ先で見たものは…!?

石原の見事なバックドロップや研究の成果、クチガメ伝承などを積み重ねたうえで、ここからさらにお話は壮大になって行く。

そしてそれから三年後。
クチガメ陣営に捕まり、ずっと洗脳と解析を受け続けたすずめ部長。
しかし彼女の脳内はどこまでいっても虚無が広がるばかり(あと両親と好物のゆでたまごのこと)
それを助けに来たのは…すっかり美しくなりナース姿の眩しい吉永さんだった!

ここまで独特の口調とキャラで散々吉永さんを罵倒して来たすずめ部長の
スカポンタン!
という言葉を浴びてきた読者には涙なしでは見られない別れの時。
そしてその棺を前に、すずめ部長の決意が固まる。

クチガメとの全面戦争に突入し、最後は宇宙にまで広がって行く。

最初は古典的で典型的であるがゆえにみんなが最近やらなくなった路線をあえて行く、その潔さと勢いが魅力だったのが、最終的には怒涛の展開に飲まれて物語に引きずり込まれてしまった。
独特なセリフ回し、SFも都市伝説も古代文明も化学兵器もレジスタンスと支配者層も全部混ぜこぜになって、混沌のクライマックスを迎える様は巻末の天久聖一さんとの対談で語られているとおり、AKRAのような感じ。政治家、マスコミ、財界も官憲も巻き込んでの一大計画に対抗する主人公たち。

そしてすずめ部長が宇宙空間で見たものは。
最後に棺の中に吐き出された個体は生きているのか、死んだのか。

変な夢の世界で再会した吉永さんを容赦なく張り飛ばしたすずめ部長。
七色いんこの最終回みたいな読後感を残して物語は終わる。

またしても一気読み、いやこれは止まってはいけない。
これまた巻末の天久聖一さんと崇山祟先生の対談で語られているとおり、色んな要素を書きながら積み上げて、最後は昇華する。
この作品自体が一つのギャグだという天久聖一さんの言葉を少しお借りすると、この作品そのものが崇山祟先生の、そして読者にとってもカタルシスだったのだと思いました。
ああ、終わった。と最後ちゃんと思えたのは、物語を終えるだけのパワーをしっかり持った作品であり、またその説得力を失わないだけの魅力を秘めた作品であったということに他ならないわけです。

最後の天久聖一さんの言葉、アマチュア作家でウダウダ言ってる人には耳が痛いと思う。
自分で決めた締め切り、自分がやめるかやめないかでしょ、というのがまさにそうで。
やめずに描き続けた結果が、今こうして具現化して手元にやってきている。
その素晴らしさ。やっぱりマンガって、出版ってすごいことだし素晴らしいな。と思います。

モモモグラさんで劇画狼さんにお会い出来たら、このことをちゃんとひとまとめにしてお伝え出来るかしら…あ、あの、ぼボクも格闘技やってました!とかいうのが関の山かなあ…。

書きたいことが物凄いあって、でも全部書いちゃうと面白くなくて。
すずめ部長も吉永さんも大好きだけど、最後に部長たちと乗り込む仲間たちも頼もしくてカッコよかったなあ。






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